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112:精霊の企みと解毒薬

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 不意に身体の中で何かがぞくりと蠢き、そこから湧き出た良くないものが広がる感覚がした。
 体が熱い……まるで、幼い頃に塔に閉じ込められたときみたいだ。
 これは一体何?
 安全確認のために団長を見ると、無事にスティンガースコーピオンから逃げていた。
 彼の傍に精霊のエミーリアが飛んでいる。
 彼女は具合の悪い私を見て、悪意のある笑みを浮かべた。
 なんだろう? でも、今は魔物を倒すのが先だ。
 
「ヘドロ!」
 
 なんとか持ちこたえて再び攻撃すると、魔物は悲鳴を上げてその場に倒れた。
 同時に体の不調は収まったけれど、そちらに気を取られたせいで、スティンガースコーピオンの最後のあがきによる攻撃を避け損ねてしまう。
 
「きゃあっ!」
 
 猛毒を持つ尾の先が腕をかすめた。
 もうスティンガースコーピオンも他の魔物もいないみたいだけれど、毒をもらってしまったようで、切り裂かれた皮膚が黒ずんでいる。
 
「アメリー!!」
 
 慌てて駆け寄ってきたカマルに抱えられ、私は彼のボードに乗せられた。
 
「先に、彼女を救護室へ運んでくる」
 
 団長と副団長は心配そうな表情を浮かべながらも黙って頷いた。
 彼らにはまだ、現場に残ってやることがある。
「ごめんね、カマル。油断しちゃった」
「アメリーが魔物に傷つけられる前後に、変な感覚がした。急に体が重く、熱くなって……」
「私と同じだ」
「他の人はなんともないみたいだけど。どういうわけなんだろう」
 
 カマルの言葉を聞いた私は、あることを思い出す。
 
「そうだ。怪我をする直前、団長の精霊が笑ってた。私の体調が悪くなったのを見抜いたみたいな笑い方だった」
「もともと僕たちに敵意を抱いていたみたいだし、精霊が何かをしたのかな?」
「わからない、けれど……」
 
 時間が経つにつれて毒が広がってきた。息が苦しい……
 
「アメリー、もうすぐ騎士団の本拠地に着くよ」

 ボードを下降させたカマルは、私を抱えたまま建物に駆け込んだ。

「誰か、魔法治療のできる人はいる? アメリーが、スティンガースコーピオンの毒を受けた!」

 医務室では、カディンとシュクレ、他の怪我人たちがたくさん寝ていた。
 そして、魔法医療を施す騎士が、慌ただしく部屋の中を駆け回っている。

「スタンピードとはいえ、なんだってそんな魔物が来たんだ!! 砂漠とか、暑い場所にいる種類だろ!? くそっ、他の騎士や学生も何人か毒にやられている!! 早く薬を用意しなくては!!」
 
 医療担当の騎士たちが、悔しげな表情を浮かべる。そういえば、団長もスティンガースコーピオンは普段いないって話していたっけ。

「日常的に使う解毒薬ならあるが、スティンガースコーピオンの毒は強く特殊だ。薬の材料も取り寄せになるから、今すぐには対応できない!! 他の奴らにも解毒薬を試したが、毒の進行を遅らせるだけで、完全な解毒ができないんだ。このままでは……」
 
 どうしよう、知識があっても材料がないなら解毒薬を作るのは不可能だ。
 はらはらしていると、私をベッドに降ろしたカマルが声を上げた。

「僕が、僕が薬を作る……!!」
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