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102:インターンのオファーが来ました

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 というわけで、早くも一週間が過ぎて週末になった。
 授業終わりに、ソワソワと落ち着かない生徒たちへ、それぞれ封筒が配られる。
 中にオファーのあった現場からの案内が入っているのだ。
 私の封筒は結構分厚く、クラスの中で一番多いかもしれない。

(嬉しいな)

 早速部屋に帰って中身を見てみると……

 ・王立魔法研究所 条件:被験体許可証へのサイン、卒業時には就職すること
 ・公爵家私兵団  条件:公爵家へ忠誠を誓い、卒業後に就職すること
 ・伯爵家魔法教師 条件:次男との婚約
 ・王宮魔法メイド 条件:卒業後の就職および、以下の貴族との婚約……
 ・伯爵家魔獣係  条件:卒業後に前当主の後妻になること

「ナニコレ」

 封筒に入っているほとんどが条件付きだ。
 就職やら婚約やら、割と酷い内容が多い。

「条件なしのものは……」

 三枚だけあった。

 ・魔法飛行船案内係 条件:なし
 ・魔法都市新聞記者 条件:なし
 ・北部辺境騎士団  条件:なし

 少なくない? ショックだ……
 とりあえず、一番相談しやすいカマルの部屋に押しかける。
 扉を開けた彼は、私の顔を見てうろたえた。

「わっ、どうしたの、アメリー!? 元気がなさ過ぎるよ……中へ入って」

 どんより暗い気分の私は、カマルに案内されるがまま椅子に腰掛け、封筒の中身を彼に見せる。

「普通の依頼が、三件しかなかったの」

 カマルはオファーの紙を眺めて、難しい顔になった。

「皆、貴族たちに遠慮したんだろうな。本来なら、もっと多いはずだよ」
「そんなぁ……」
「それで、アメリーはどこにするの?」
「迷ってる」

 そう告げると、カマルが三枚の紙を見比べ始める。

「飛行船の案内係は、あまり魔法に関係がなさそうだね。アメリーを客寄せにでも使う気かな。魔法都市新聞も、インターンに訪れたアメリーの記事を書くことが目的な気がする」

 現実が悲し過ぎる。

「最後の北部辺境騎士団は、シント魔法学校の近くだね」

 カマルの話を聞いて、私は前にシュクレが話していた内容を思い出した。
 交流会の時、彼は「アメリーさんは、辺境に来た方が安全だと思うんです」と言っていたのだ。
 
「なるほど、こういうことだったのか」

 もはや、選択肢は北部辺境騎士団のみである。
 観念した私は、カディンやシュクレのもとへ行こうと決めた。すると……

「僕も、アメリーと同じ場所にするよ。こっちにも、北部辺境騎士団のオファーがあったし」
「私と違って、カマルはまともなオファーが多いんじゃないの? 向こうには知り合いもいるし、気を遣ってくれなくても大丈夫だよ?」
「アメリーと一緒がいいんだ! ……一人で男だらけの騎士団に放り込めるわけないじゃん」

 声が小さくて後半が聞き取れない。

(時々、カマルの言葉って聞こえないんだよね。まあ、いいか)

 私はカマルの手を取って「よろしくね」と告げる。
 無理をさせていないか心配だったけれど、柔らかい笑みを浮かべる彼は嬉しそうに頷いた。

 二人で談話室へ下りると、他のクラスメイトが集まっていた。

「皆はどこに行くか決めたの?」

 尋ねると全員が首を縦に振り、ノアが口を開いた。

「俺はオリオンのボード屋、ミスティが魔獣保護施設、ハイネとガロはレルクの魔法道具工房だ。お前らは?」
「僕とアメリーは、北部辺境騎士団だよ」
「なんでまた、そんな辺境に? もしかして、アメリーか?」

 全員がドン引きしているが、情報通のノアは事情を察してくれたようだ。

「うん。貴族からの変なオファーばっかりで、他のも魔法に関係なさそうな依頼だったから……消去法なんだ」
「有名人も考えものだな」

 皆は可哀想な人を見る眼差しで、私を見つめるのだった。
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