継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは

文字の大きさ
上 下
66 / 108
連載

101:巨大キノコの上で

しおりを挟む
 その後、リフォルナ魔法学校の双子と話したり、分校長に声をかけられたりした私は、思ったより交流会を楽しむことができた。

(入学時のアウェイな空気の代わりに、面識のない貴族からやたら婚約を迫られたけれど……カマルが通訳してくれたから助かったな)
 
 ミシュピ魔法学院の生徒に、直接絡まれたりもした。
 アーサーたちと戯れるサリーを扇で指しながら、目をつり上げた令嬢が……
「ちょっと! アレをなんとかしてくださらない? あなたの妹でしょ!?」なんて言ってきたのだ。
 彼女たちが、あまりにも切羽詰まった形相で迫って来るものだから、「いつもの風景ですが?」なんて言えない。
 とりあえず、「サリーは、私の話なんて聞きませんので!」と叫んで逃げた。
 キッパリ断ったことや、背後で控えるカマルの牽制もあってか、それ以上は絡まれなくて良かった。
 
 無事に他校交流会もお開きとなり、私とカマルは二人で魔法都市に出る。
 着飾った姿だけれど、ヨーカー魔法学園が他校交流会を開いていたことは街の人も知っている。
 私たち以外にも、そのまま魔法都市へ出かけ、二次会、三次会に出席する生徒は多い。
 羽目を外しすぎず、門限までに帰れば問題ないのだ。
 スカートなので、ボードではなく、カマルがトールさんの協力のもと作ったという転移の魔法玉を使って移動する。
 向かう先は、『飴玉と刺繍のエリア』のはずれ。巨大キノコの群生地だ。
 
 他校対抗試合に参加していない生徒は交流会には出られないが、各自魔法都市に下りて休日を満喫している。
 集団行動を重んじる青桔梗などは、試合に参加していない生徒も交じっての二次会を開くそうだ。
 
(予想では、『石壁と竈のエリア』と『車輪と桟橋のエリア』が混雑しそう)
 
 あのあたりは、広い店や高級飲食店が多いのである。
 
 逆に、カジュアルな雰囲気の『飴玉と刺繍のエリア』は、わざわざこの日に来なくてもいいため、穴場なのでは……と思った。
 もう、貴族の生徒の「婚約しろ攻撃」にはうんざりだ。

 到着した『飴玉と刺繍のエリア』のはずれには、パステルカラーの巨大キノコがたくさん生えている。
 背の高いものや低いものなど様々だが、どれも傘は大きい。
 以前、ボードで上空を飛んでいたとき、気になっていた場所だった。

「交流会で散々食べたから、お腹も減っていないし、ゆっくりできてちょうどいいね。アメリー、その格好でキノコによじ登ったら……スカートが」
「そんなに高いところには行かないよ」

 私たちは、二階ほどの高さのキノコの上に落ち着いた。
 パステルピンクの平らな傘の上に並んで座る。安定感も抜群だ。

「……エメランディアは綺麗な場所だよねえ。僕の国とは違う」
「砂漠大国も綺麗だよ。建物が芸術って感じだし」
「正直、エメランディアからアメリーを連れ出す選択が良かったのか、悩み始めてる……連れ帰りたい気持ちは今でもあるけれど。全部僕の私情だし」
「もしかして、貴族の生徒に言われたことを気にしていたの? 私は自分でハリールさんの養女になる道を選んだし、この国の貴族と婚約するつもりはないよ」

 貴族の養女となり平民特別枠を外れたので、学費もハリールさんにお世話になっている。
 それなのに、勝手にエメランディアの貴族と婚約などしない。
 
「おそらく、卒業後は砂漠大国へ行くことになるだろうけれど、アメリーはエメランディアに未練はない?」
「所属する場所がエメランディアじゃなくなっても、魔法都市で散歩はできるもの。今の情勢だと両国の行き来は自由だしね」

 それに、言うほどエメランディアに未練はない。
 魔法都市は好きだけれど、それはカマルやクラスメイトの存在があってこそだと思うから。

「いろいろな場所を見るのが楽しいんだ。私はグロッタとフィーユしか知らなかったから。魔法学校へ入学できたのは偶然だけれど、本当に運が良かったと思っているよ。カマルにも会えたし」
「アメリー……」
「私、カマルのおかげで、こうしていられるんだよ。だから、感謝しているの。この先、あなたに困ったことが起これば、なんでも力になりたい」

 安心してくれればと思い、カマルの手をきゅっと握ってみる。
 少し驚いた彼だけれど、照れくさそうに手を握り返してくれた。

「僕、アメリーに伝えたいことがあるんだ。言わないほうがいいのかなって、今までずっと迷っていたけれど、気ばかりが焦ってしまって」
「ん、何?」
「えっと、その、ね……」

 頬を染めたカマルがモジモジしている。
 重大なことのようなので、私は黙って続きを待った。
 しかし、彼が何か話し出す前に上空から聞き慣れた声が降ってくる。

「アメリー、カマル! 今夜は黒撫子寮でパーティーだってよ!」
「寮生たちが好成績をおさめたお祝いだってさ!」

 着替えてボードに乗ったノアとミスティが、頭上で叫んでいる。
 彼らの後ろにはハイネとガロもいた。
 学園を出る際、行き先を皆に告げていたのだ。

「わかったー! ありがとう!!」

 返事をしてから、カマルを振り返る。

「それで、カマル。話の続きは?」
「…………また今度言うよ」
 
 どことなくシュンとした様子のカマルは、疲れた風にそう答えた。
しおりを挟む
感想 171

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 「番外編 相変わらずな日常」 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。