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101:巨大キノコの上で
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その後、リフォルナ魔法学校の双子と話したり、分校長に声をかけられたりした私は、思ったより交流会を楽しむことができた。
(入学時のアウェイな空気の代わりに、面識のない貴族からやたら婚約を迫られたけれど……カマルが通訳してくれたから助かったな)
ミシュピ魔法学院の生徒に、直接絡まれたりもした。
アーサーたちと戯れるサリーを扇で指しながら、目をつり上げた令嬢が……
「ちょっと! アレをなんとかしてくださらない? あなたの妹でしょ!?」なんて言ってきたのだ。
彼女たちが、あまりにも切羽詰まった形相で迫って来るものだから、「いつもの風景ですが?」なんて言えない。
とりあえず、「サリーは、私の話なんて聞きませんので!」と叫んで逃げた。
キッパリ断ったことや、背後で控えるカマルの牽制もあってか、それ以上は絡まれなくて良かった。
無事に他校交流会もお開きとなり、私とカマルは二人で魔法都市に出る。
着飾った姿だけれど、ヨーカー魔法学園が他校交流会を開いていたことは街の人も知っている。
私たち以外にも、そのまま魔法都市へ出かけ、二次会、三次会に出席する生徒は多い。
羽目を外しすぎず、門限までに帰れば問題ないのだ。
スカートなので、ボードではなく、カマルがトールさんの協力のもと作ったという転移の魔法玉を使って移動する。
向かう先は、『飴玉と刺繍のエリア』のはずれ。巨大キノコの群生地だ。
他校対抗試合に参加していない生徒は交流会には出られないが、各自魔法都市に下りて休日を満喫している。
集団行動を重んじる青桔梗などは、試合に参加していない生徒も交じっての二次会を開くそうだ。
(予想では、『石壁と竈のエリア』と『車輪と桟橋のエリア』が混雑しそう)
あのあたりは、広い店や高級飲食店が多いのである。
逆に、カジュアルな雰囲気の『飴玉と刺繍のエリア』は、わざわざこの日に来なくてもいいため、穴場なのでは……と思った。
もう、貴族の生徒の「婚約しろ攻撃」にはうんざりだ。
到着した『飴玉と刺繍のエリア』のはずれには、パステルカラーの巨大キノコがたくさん生えている。
背の高いものや低いものなど様々だが、どれも傘は大きい。
以前、ボードで上空を飛んでいたとき、気になっていた場所だった。
「交流会で散々食べたから、お腹も減っていないし、ゆっくりできてちょうどいいね。アメリー、その格好でキノコによじ登ったら……スカートが」
「そんなに高いところには行かないよ」
私たちは、二階ほどの高さのキノコの上に落ち着いた。
パステルピンクの平らな傘の上に並んで座る。安定感も抜群だ。
「……エメランディアは綺麗な場所だよねえ。僕の国とは違う」
「砂漠大国も綺麗だよ。建物が芸術って感じだし」
「正直、エメランディアからアメリーを連れ出す選択が良かったのか、悩み始めてる……連れ帰りたい気持ちは今でもあるけれど。全部僕の私情だし」
「もしかして、貴族の生徒に言われたことを気にしていたの? 私は自分でハリールさんの養女になる道を選んだし、この国の貴族と婚約するつもりはないよ」
貴族の養女となり平民特別枠を外れたので、学費もハリールさんにお世話になっている。
それなのに、勝手にエメランディアの貴族と婚約などしない。
「おそらく、卒業後は砂漠大国へ行くことになるだろうけれど、アメリーはエメランディアに未練はない?」
「所属する場所がエメランディアじゃなくなっても、魔法都市で散歩はできるもの。今の情勢だと両国の行き来は自由だしね」
それに、言うほどエメランディアに未練はない。
魔法都市は好きだけれど、それはカマルやクラスメイトの存在があってこそだと思うから。
「いろいろな場所を見るのが楽しいんだ。私はグロッタとフィーユしか知らなかったから。魔法学校へ入学できたのは偶然だけれど、本当に運が良かったと思っているよ。カマルにも会えたし」
「アメリー……」
「私、カマルのおかげで、こうしていられるんだよ。だから、感謝しているの。この先、あなたに困ったことが起これば、なんでも力になりたい」
安心してくれればと思い、カマルの手をきゅっと握ってみる。
少し驚いた彼だけれど、照れくさそうに手を握り返してくれた。
「僕、アメリーに伝えたいことがあるんだ。言わないほうがいいのかなって、今までずっと迷っていたけれど、気ばかりが焦ってしまって」
「ん、何?」
「えっと、その、ね……」
頬を染めたカマルがモジモジしている。
重大なことのようなので、私は黙って続きを待った。
しかし、彼が何か話し出す前に上空から聞き慣れた声が降ってくる。
「アメリー、カマル! 今夜は黒撫子寮でパーティーだってよ!」
「寮生たちが好成績をおさめたお祝いだってさ!」
着替えてボードに乗ったノアとミスティが、頭上で叫んでいる。
彼らの後ろにはハイネとガロもいた。
学園を出る際、行き先を皆に告げていたのだ。
「わかったー! ありがとう!!」
返事をしてから、カマルを振り返る。
「それで、カマル。話の続きは?」
「…………また今度言うよ」
どことなくシュンとした様子のカマルは、疲れた風にそう答えた。
(入学時のアウェイな空気の代わりに、面識のない貴族からやたら婚約を迫られたけれど……カマルが通訳してくれたから助かったな)
ミシュピ魔法学院の生徒に、直接絡まれたりもした。
アーサーたちと戯れるサリーを扇で指しながら、目をつり上げた令嬢が……
「ちょっと! アレをなんとかしてくださらない? あなたの妹でしょ!?」なんて言ってきたのだ。
彼女たちが、あまりにも切羽詰まった形相で迫って来るものだから、「いつもの風景ですが?」なんて言えない。
とりあえず、「サリーは、私の話なんて聞きませんので!」と叫んで逃げた。
キッパリ断ったことや、背後で控えるカマルの牽制もあってか、それ以上は絡まれなくて良かった。
無事に他校交流会もお開きとなり、私とカマルは二人で魔法都市に出る。
着飾った姿だけれど、ヨーカー魔法学園が他校交流会を開いていたことは街の人も知っている。
私たち以外にも、そのまま魔法都市へ出かけ、二次会、三次会に出席する生徒は多い。
羽目を外しすぎず、門限までに帰れば問題ないのだ。
スカートなので、ボードではなく、カマルがトールさんの協力のもと作ったという転移の魔法玉を使って移動する。
向かう先は、『飴玉と刺繍のエリア』のはずれ。巨大キノコの群生地だ。
他校対抗試合に参加していない生徒は交流会には出られないが、各自魔法都市に下りて休日を満喫している。
集団行動を重んじる青桔梗などは、試合に参加していない生徒も交じっての二次会を開くそうだ。
(予想では、『石壁と竈のエリア』と『車輪と桟橋のエリア』が混雑しそう)
あのあたりは、広い店や高級飲食店が多いのである。
逆に、カジュアルな雰囲気の『飴玉と刺繍のエリア』は、わざわざこの日に来なくてもいいため、穴場なのでは……と思った。
もう、貴族の生徒の「婚約しろ攻撃」にはうんざりだ。
到着した『飴玉と刺繍のエリア』のはずれには、パステルカラーの巨大キノコがたくさん生えている。
背の高いものや低いものなど様々だが、どれも傘は大きい。
以前、ボードで上空を飛んでいたとき、気になっていた場所だった。
「交流会で散々食べたから、お腹も減っていないし、ゆっくりできてちょうどいいね。アメリー、その格好でキノコによじ登ったら……スカートが」
「そんなに高いところには行かないよ」
私たちは、二階ほどの高さのキノコの上に落ち着いた。
パステルピンクの平らな傘の上に並んで座る。安定感も抜群だ。
「……エメランディアは綺麗な場所だよねえ。僕の国とは違う」
「砂漠大国も綺麗だよ。建物が芸術って感じだし」
「正直、エメランディアからアメリーを連れ出す選択が良かったのか、悩み始めてる……連れ帰りたい気持ちは今でもあるけれど。全部僕の私情だし」
「もしかして、貴族の生徒に言われたことを気にしていたの? 私は自分でハリールさんの養女になる道を選んだし、この国の貴族と婚約するつもりはないよ」
貴族の養女となり平民特別枠を外れたので、学費もハリールさんにお世話になっている。
それなのに、勝手にエメランディアの貴族と婚約などしない。
「おそらく、卒業後は砂漠大国へ行くことになるだろうけれど、アメリーはエメランディアに未練はない?」
「所属する場所がエメランディアじゃなくなっても、魔法都市で散歩はできるもの。今の情勢だと両国の行き来は自由だしね」
それに、言うほどエメランディアに未練はない。
魔法都市は好きだけれど、それはカマルやクラスメイトの存在があってこそだと思うから。
「いろいろな場所を見るのが楽しいんだ。私はグロッタとフィーユしか知らなかったから。魔法学校へ入学できたのは偶然だけれど、本当に運が良かったと思っているよ。カマルにも会えたし」
「アメリー……」
「私、カマルのおかげで、こうしていられるんだよ。だから、感謝しているの。この先、あなたに困ったことが起これば、なんでも力になりたい」
安心してくれればと思い、カマルの手をきゅっと握ってみる。
少し驚いた彼だけれど、照れくさそうに手を握り返してくれた。
「僕、アメリーに伝えたいことがあるんだ。言わないほうがいいのかなって、今までずっと迷っていたけれど、気ばかりが焦ってしまって」
「ん、何?」
「えっと、その、ね……」
頬を染めたカマルがモジモジしている。
重大なことのようなので、私は黙って続きを待った。
しかし、彼が何か話し出す前に上空から聞き慣れた声が降ってくる。
「アメリー、カマル! 今夜は黒撫子寮でパーティーだってよ!」
「寮生たちが好成績をおさめたお祝いだってさ!」
着替えてボードに乗ったノアとミスティが、頭上で叫んでいる。
彼らの後ろにはハイネとガロもいた。
学園を出る際、行き先を皆に告げていたのだ。
「わかったー! ありがとう!!」
返事をしてから、カマルを振り返る。
「それで、カマル。話の続きは?」
「…………また今度言うよ」
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