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90:続出するリタイア者!?

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 試合が始まり、ある程度時間が進んで昼になった。
 私――アメリーは、合計十枚のメダルを持っている。
 ちなみに、メダルは試合前に支給されたポシェットに入れる決まりだ。
 
(上手い具合に、メダルの密集地でヘドロを使って回収できたね。ヘドロバキューム、意外と便利)
 
 とはいえ、ここからが正念場。そろそろ、他人のメダルを奪う生徒が出る頃だ。
 魔法アイテムの地図上でも、固まったメダルが動いている。複数のメダルを集めた生徒が移動しているのだろう。
 隠されたメダルは、あらかた探し出されているようだ。
 今のメダルを守り、どこかに籠城するか、新しいメダルを求めて、他の生徒を攻撃するか。判断が難しいところ。
 地図の右上にリタイアした生徒の数が表示されている。
 
「もう、四人……!? あ、六人に増えた!!」
 
 すごい勢いで、リタイアの生徒が出ている。まだ昼なのに、早すぎだ。

(狙われたら怖いなぁ。ヘドロの壁で防御しながら歩こう)
 
 杖を構えた私は、自分の周囲に薄くヘドロの壁を出した。
 これで、何かあってもヘドロが衝撃を吸収してくれるので安心だ。
 
 迷いつつ移動していると、不意にヘドロに何かが当たった感覚がした。
 
(誰かが、攻撃したんだ)
 
 素早く空間魔法で索敵すると、後ろの木陰に一人発見!
 ハリールと練習した、水の魔法をお見舞いする。これだと、致命傷にならないし……
 すると、木の後ろにいた人物は、魔法の壁で水を防御した。すぐさま次の魔法が飛んで来る。
 相手に衝撃を与える風の魔法みたいだけれど、ヘドロの前では無力!
 痺れを切らしたのか、木陰からボードに乗った生徒が飛び出して来る。

「くらえ!」

 ベージュの制服……リフォルナ魔法学校の男子生徒だが、双子とは違う。
 小ぶりな杖を構えた彼は、ヘドロを突破しようと、先ほどより威力を込めた攻撃を飛ばしてくる。
 でも、ヘドロには通じない。

「くっ……! なんなんだ、こいつ!」

 私は例の毒薬本に載っていた、体の痺れる魔法をお見舞いする。

「そぉ~れっ!」
「……っ!?」

 成功したようで、男子生徒はボードから落下。仰向けに地面に転がった。
 低い位置から落ちたので、怪我はなさそうだけれど……

「ごめんね。メダル、もらうね。痺れは、たぶん一時間ほどで解消されるよ」

 ごそごそと男子生徒のポシェットを漁った私は、四枚のメダルを手に入れた。
 ここで、相手の魔法アイテムの石を壊せば、リタイアに追いやることができる。けれど……あまり気が進まない。
 
(同じ試合に出ている者同士、最後まで戦い抜きたい)

 そう思っていると、背後から別の魔法攻撃が飛んできた。
 私はヘドロで防いだけれど、リフォルナ魔法学校の生徒のアイテムが、魔法の衝撃で割れてしまった。

「あっ……」
 
 男子生徒は、リタイアになってしまった。すぐに、教師が回収に訪れるだろう。
 私は攻撃の来た方向を見つめる。
 すると、上空からグレーの制服を着た、シント魔法学校の生徒が現れた。知っている顔だ。
 
(カフェで出会った、シュクレ・レオハントという人。カディンのペアだ)

 ヘドロの防御を継続しつつ、相手を警戒する。
 生徒たちの行動は、メダル探しから、奪い合いの段階へ移行したみたいだ。
 シュクレはゆっくり降下し、私の前でボードを制止させた。
 
「心配しないで、今はあなたを狙いません。時間の無駄でしょうし……」
「じゃあ、どうしてここへ?」
「敵に手心を加えているところが見えたから。ああいうの、やめた方がいいですよ? 相手を倒すチャンスは有効活用すべきです。いつ、反撃されるかもわからないのに」
「忠告しに来てくれたの?」
「リフォルナの生徒は知りませんが、シントの生徒なら回復後に必ず反撃します。それに、ここからは、生徒同士の潰し合いですよ。メダルの有無にかかわらず、邪魔者はリタイアさせなければ、自分のメダルが危うい」
 
 地図に目を落とすと、シュクレも十一枚のメダルを持っていた。
 リタイアした生徒の数は……

(えっ!? 十二人!?)

 急激に増えている。いったいどういうことだろう……
 私の様子に気づいたシュクレが、笑みを深めた。
 穏やかだけれど、彼の中身は見た目と違う気がする。

「シント魔法学校の生徒が動き始めたのでしょう。対人戦、対魔物戦において、厳しい訓練を繰り返したシント魔法学校は、他校に負けたりしません」

 そこには、確かな自信があった。

「うちの学校には、かなり好戦的な奴もいますので。お気をつけて」
「どうして、そんなに親切なの?」
「親切? まさか。カディンがあなたと魔法の打ち合いがしたいと言っていたので。それまでに、リタイアしないよう釘を刺しに来ただけですよ。それでは」
 
 くるりと体を反転させたシュクレは、ボードのスピードを上げて木々をすり抜けていく。

(反応が早い。あの人も、実戦慣れしているんだ)

 ここへ来て、地図上に表示されるメダルの獲得差が顕著になってきた。
 リタイア数は……

「嘘っ!? 十七人!? てことは、残り十五人!!」

 短時間に減りすぎだ。
 
(もう少しメダルを集めたら、どこかに閉じこもろう)
 
 そう考えた私は、地図上でメダルの多い渓流の方へ向かった。
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