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85:裏山がはげ山になった日

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 あれからも、私は魔法の練習に精を出した。
 学生課へ行く機会が多いので、ついでにトールに彼の毒薬本「毒魔法大全(普通編)」を教えてもらい、麻痺や催眠の魔法も覚える。

(私のヘドロと毒って……相性がいいみたい)

 練習は裏山でしたのだけれど、毒を含んだヘドロが通り過ぎたあとは、雑草一本生えない大地が……! 
 これにより、裏山の一部は、はげ山になってしまった。
 麻痺や催眠はともかく、毒は人に使わないようにしようと思う。
 そのほか、ジュリアスに薦められた本を図書室に借りに行った。

 ヨーカー魔法学園の図書室は広くて天井が高い、校舎の最上階にある施設だ。
 壁一面に、ずらりと魔法の本が並んでいる。
 透き通った円い天井には昼でも、エメランディア各地の星の位置が魔法で表示されていた。占いで使用するようだ。
 中はとても静かで、隅に設置された書き物机で勉強している生徒もいる。
 本は種類別、難易度別にわかりやすく配置されていた。
 上の棚に手が届かないときは、足下の魔方陣が浮上する。その上に乗れば、高い位置の本も手に取ることができた。

「ええと、『誰でも簡単罠魔法(入門編)』、『ワンランク上のボード飛行』、『音と香りの幻影魔法』か」

 魔法の勉強は好きだ。新しい内容を覚えるのが面白い。
 目当ての本はすぐに見つかり、図書室で手続きして借りられた。

「よし、部屋で読もうっと!」

 本を抱えて、校舎の廊下を戻る。
 誰の使い魔なのか、たくさんの鳥が飛んでいた。
 種類はわからないけれど、定番のフクロウやオウム系、カラスやワシ系もいる。
 隅っこには、モフモフしたモルモットやウサギ系もいて癒やされた。
 歩いていると、廊下の反対側から見覚えのある人がやって来る。
 
(赤薔薇寮長のアーサーさんだ。三年生の予選一位通過者だって新聞に載っていたな)

 優秀だという赤薔薇寮の寮長は、実力者でないとなれないに違いない。
 予選二位通過の黒撫子寮長は、ものすごく悔しがっていた。
 すれ違うので、彼に挨拶する。

「こんにちは」
「やあ、奇遇だね。アメリー・メルヴィーン……いや、アメリー・リシェニ嬢と呼ぶべきかな?」
「どちらでも大丈夫ですよ。エメランディアでは、アメリー・メルヴィーンの方を使っています」
「そうなのか。それにしても、予選一位通過おめでとう。断トツの成績だったと、学園中の噂になっている」
「ペアで競う内容だったので、カマルの活躍もあります」
「カマル・マラキーアか……彼にはしてやられたね」

 アーサーは苦笑いを浮かべている。

「あの、カマルが何か?」
「いや、こちらの話だよ。何か困ったことがあれば、いつでも君の助けになるからね。エメランディア国内の事情には、私の方が精通しているから」
「はぁ……ありがとうございます」

 お礼を言って、私は校舎をあとにした。

 ※

 そうして、いよいよ「他校対抗試合」の日が迫って来た。
 一年生の会場は、ヨーカー魔法学園だ。
 他校の生徒は、私が魔法学園へ来たとき使用していた客室の棟に泊まる。
 彼らは開催日よりも早めに到着し、一日休んでから試合に臨むようだ。
 
 移動不要のメンバーは、いつも通り過ごしている。
 私はカマルと一緒にカフェ中だ。
 カマルが、ものすごく一緒にカフェに行きたそうにしていたので、誘ってみたのだ。
 カフェには、ランチやディナーメニューのほかに、お茶の時間用のデザートやドリンクが充実している。
 私は、期間限定のレインボー閃光シフォンケーキを、カマルは芋栗南瓜爆弾チーズケーキを食べている。

「アメリー、僕のケーキが気になる?」
「秋の味覚だね。まん丸でおいしそう……」
「味見してみる?」

 カマルが小さく笑いながら、口元にフォークを差し出してくる。

「いいの?」
「どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
 
 口を開ければ、カマルがケーキを手ずから食べさせてくれた。

「おいひい~。カマルも私のケーキ、いる?」
「えっ……うん……!」
 
 私も彼と同じようにフォークにケーキをすくい、彼の口へ運んであげた。

「どうかな?」
「すごくおいしい」
 
 よほど気に入ったのか、カマルがとても嬉しそうだ。
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