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66:神殿に到着しました
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砂漠大国の正式名称はトパゾセリア、国王が替わった際に国名も変更されたらしい。
ちなみに、エメランディアは国外では森林小国と呼ばれている。
自然が豊かというか、それしか特徴のない国なので。
砂漠大国は活気に満ちた街で、城下町は魔法都市『石壁と竈のエリア』よりもさらに雑多で賑やかなエリアだった。
この国にも『闇黒街』のような場所があるらしく、「迷い混むと駄目なので外出時は一人で出歩かないように」とカマルに言われた。
「カマルは外出できるの? 王子様なんでしょ?」
「たまにだけど、神官に変装して街へ連れて行ってもらえるよ。こっちでは、不便な身だね。エメランディアでは気楽だったなあ」
苦笑いするカマル。
彼が実家に戻りたがらなかった理由は、このあたりにもあるかもしれない。
あのあと、無事にトールと合流し、砂漠大国内に入った私は、神殿の中にいた。
神殿というから、白くて清廉な空間を想像していたけれど、ここは金ぴか空間だ。
至る所が金色で、置物も高級品。
「す、すごい」
カマルのお金持ち加減が度を超えていることがわかった。
神殿は、商売繁盛を推進している。神殿にお祈りして成功した者たち、また神殿の加護にあやかりたい者たちが、莫大な額の寄付をしているのだとか。
エメランディアでは、自然と豊穣を司る女神様が信仰されているけれど、信仰加減は緩い。街に像があり、人々がお花やお菓子を気分で供えているくらいだ。
この絢爛豪華ぶりには言葉も出ない。砂漠大国、半端ない。
カマルとトールは何食わぬ顔で神殿の中を進む。
「トール先生。私のバイト先ですが……」
「この神殿だよ」
バイト先は医療施設と聞いていたが、砂漠大国の神殿は病院代わりを兼ねることもあるようだ。こんなにも金ぴかな病院は落ち着かない。
「部下の一人が雑用係を探していて、君を推薦したんだ。これから会いに行くよ」
「お医者さんですか?」
「神殿の医療部門のトップだよ。各地の医療職のとりまとめをしている」
軽い雑用バイトだと思っていたのだが、あまりに予想外の流れが始まり、気分が遠のいていく。
「大丈夫だよ、大医務長は穏やかで優しい人だから。神殿の中で一番の人格者かもしれない」
カマルに励まされ、カチカチに緊張した私は神官長室へ向かう。すでに、大医務長は中で待機しているのだとか。
先ほどから、すれ違う人々が「神官長様、カマル様!」と挨拶している。
「ねえ、カマル。ここでは私、あなたをカマル様と呼んだ方がいいかも……」
「絶対に嫌だからね。今まで通りにして」
いつになく強い口調で返されてしまった。
「でも……」
どこの誰ともしれない平民女が王子様を呼び捨てにするなんて、ここの人たちから見ると気分が悪いものではないだろうか。
そう説明すると、カマルは「心配要らないよ」と笑った。
「君は、自分の身を犠牲にして幼い僕を助けた命の恩人だから」
「へ……?」
「神殿の者は君を無碍に扱わないということだよ。それに、僕と君は親友だと皆に伝えてあるよ。だから大丈夫」
「親友……。ありがとう、カマル」
その響きが嬉しい。
ここにいる間、カマルとは毎日会えるそうだ。
彼は彼で、神殿内の行事に参加する仕事がある。
金に彩られた廊下を通り過ぎ、魔方陣のエレベーターで最上階に上がると、神官長室に着いた。一番絢爛豪華な部屋で、床には真っ赤な絨毯が敷かれている。
「おかえりなさいませ、神官長」
礼儀正しく部屋でトールを出迎えたのは、四十代くらいの紳士的な男性だった。
この上品なおじさまが、大医務長だろうか。
ちなみに、エメランディアは国外では森林小国と呼ばれている。
自然が豊かというか、それしか特徴のない国なので。
砂漠大国は活気に満ちた街で、城下町は魔法都市『石壁と竈のエリア』よりもさらに雑多で賑やかなエリアだった。
この国にも『闇黒街』のような場所があるらしく、「迷い混むと駄目なので外出時は一人で出歩かないように」とカマルに言われた。
「カマルは外出できるの? 王子様なんでしょ?」
「たまにだけど、神官に変装して街へ連れて行ってもらえるよ。こっちでは、不便な身だね。エメランディアでは気楽だったなあ」
苦笑いするカマル。
彼が実家に戻りたがらなかった理由は、このあたりにもあるかもしれない。
あのあと、無事にトールと合流し、砂漠大国内に入った私は、神殿の中にいた。
神殿というから、白くて清廉な空間を想像していたけれど、ここは金ぴか空間だ。
至る所が金色で、置物も高級品。
「す、すごい」
カマルのお金持ち加減が度を超えていることがわかった。
神殿は、商売繁盛を推進している。神殿にお祈りして成功した者たち、また神殿の加護にあやかりたい者たちが、莫大な額の寄付をしているのだとか。
エメランディアでは、自然と豊穣を司る女神様が信仰されているけれど、信仰加減は緩い。街に像があり、人々がお花やお菓子を気分で供えているくらいだ。
この絢爛豪華ぶりには言葉も出ない。砂漠大国、半端ない。
カマルとトールは何食わぬ顔で神殿の中を進む。
「トール先生。私のバイト先ですが……」
「この神殿だよ」
バイト先は医療施設と聞いていたが、砂漠大国の神殿は病院代わりを兼ねることもあるようだ。こんなにも金ぴかな病院は落ち着かない。
「部下の一人が雑用係を探していて、君を推薦したんだ。これから会いに行くよ」
「お医者さんですか?」
「神殿の医療部門のトップだよ。各地の医療職のとりまとめをしている」
軽い雑用バイトだと思っていたのだが、あまりに予想外の流れが始まり、気分が遠のいていく。
「大丈夫だよ、大医務長は穏やかで優しい人だから。神殿の中で一番の人格者かもしれない」
カマルに励まされ、カチカチに緊張した私は神官長室へ向かう。すでに、大医務長は中で待機しているのだとか。
先ほどから、すれ違う人々が「神官長様、カマル様!」と挨拶している。
「ねえ、カマル。ここでは私、あなたをカマル様と呼んだ方がいいかも……」
「絶対に嫌だからね。今まで通りにして」
いつになく強い口調で返されてしまった。
「でも……」
どこの誰ともしれない平民女が王子様を呼び捨てにするなんて、ここの人たちから見ると気分が悪いものではないだろうか。
そう説明すると、カマルは「心配要らないよ」と笑った。
「君は、自分の身を犠牲にして幼い僕を助けた命の恩人だから」
「へ……?」
「神殿の者は君を無碍に扱わないということだよ。それに、僕と君は親友だと皆に伝えてあるよ。だから大丈夫」
「親友……。ありがとう、カマル」
その響きが嬉しい。
ここにいる間、カマルとは毎日会えるそうだ。
彼は彼で、神殿内の行事に参加する仕事がある。
金に彩られた廊下を通り過ぎ、魔方陣のエレベーターで最上階に上がると、神官長室に着いた。一番絢爛豪華な部屋で、床には真っ赤な絨毯が敷かれている。
「おかえりなさいませ、神官長」
礼儀正しく部屋でトールを出迎えたのは、四十代くらいの紳士的な男性だった。
この上品なおじさまが、大医務長だろうか。
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