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56:ボードレースの結果は……!?

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 他の三寮と並んで飛行するハイネは、競技場を出た瞬間に反撃を開始する。
 なんと、持っていた魔法玉を青桔梗寮、白百合寮、黄水仙寮の生徒に向かって全部投げつけたのだ。魔法玉は固まって飛んでいた彼らに直撃した。
 しかも、ハイネが手にしていた球は全部雷の魔法玉。
 完全な不意打ちの上、五個同時に放ったので電気の威力が上がり、他寮の生徒たちは痛みで悶絶している。
 ちなみに、彼女の行動はルール違反ではない。「雷の魔法玉を同時に投げるな」というルールは存在しないのだ。
 三人を追い抜かしたハイネは、前をいく赤薔薇寮の生徒を追う。
 しかし、差は縮まらない。
 二位のまま、ハイネはリアムと交代した。

「ハイネ、すごい! スカッとした!」

 大活躍のハイネに全員で駆け寄る。彼女は騒がないけれど、まんざらでもない表情を浮かべている。
 リアムは赤薔薇寮との差を縮めて二位で交代、マデリン、ジェイソン、オリビアもその位置をキープした。
 けれど、あと少しという距離で、赤薔薇寮へ追いつけずにいる。
 ガロも追い抜かされず完走し、カマルと交代した。

 驚いたのは、カマルが驚異的な追い上げを見せたことだ。
 どんどん前との差を詰めた彼は、ついに赤薔薇寮の寮長と並んだ!
 
 実況席から、トールが身を乗り出している。
 現在の実況者を押しのけ、甥の活躍をマイクで褒め称えようと動いたトールだが、ジュリアスに見つかり、あえなく実況台から引きずり下ろされた。

(ジュリアス先生、グッジョブ!)
 
 そろそろカマルが魔法都市を一周して戻ってくる。
 先頭は赤薔薇寮長とカマルで、二人ともいい勝負をしていた。
 続いて青桔梗寮、白百合寮、黄水仙寮の順番だ。白百合寮と黄水仙寮は、大きく引き離されている。
 アンカーたちは、揃って競技場の定位置に並んだ。
 赤いユニフォームを着たサリーもいるけれど、全く緊張していないのか、彼女は笑みさえ浮かべている。

(すごい余裕、自信があるんだろうな)
 
 私と違って、サリーはこういう場になれているに違いない。
 少しして、接戦の先頭二人が競技場に突っ込んでくる。
 
 カマルが手を伸ばし、私も彼の方へ腕を差し出す。けれど……
 ドンッ! と隣にいた生徒のボードがぶつかり、私はバランスを崩してしまった。
 青いユニフォーム……青桔梗寮の生徒だ。わざと当たってきた!
 
「アメリー!」
 
 とっさにカマルが私を抱え、事なきを得たが、妨害してきた相手に構っている暇はない。

「ありがとう、カマル! 行ってきます!」

 サリーに少し遅れ、私は急いで飛び立った。
 アクシデントがあったものの、魔力は安定しており、風を切って私のボードは進む。
 競技場を出たら、いよいよ魔法都市だ。
 コースアウトしないよう、街にはあらかじめ魔法で光る道が示されている。
 前方のサリーは、まだ追いつける距離にいた。赤い背中を追う。

(この速度なら、抜かせるかも!)
 
 しばらく進むと、遅れている白百合寮と黄水仙寮の生徒が、競技場を目指して反対側からやってきた。
 サリーや私とはすれ違う形になるのだが、彼らを見た私は、思わずボードの上で固まった。
 明らかに、こちらへ向けて魔法玉を投げようとしている!

(そんなのあり!?)
 
 私は慌てて防御の魔法を使った。
 ちなみに、飛行中の防御魔法の仕様は許可されている。
 
 それぞれ五つの魔法玉を投げつけてきた生徒たち。
 しかし、全ての魔法玉はヘドロぬりかべに吸着してしまい、不発に終わる。
 一瞬、サリーが私の方を振り向き、僅かに焦った表情を浮かべた。
 ボードを飛ばす私とサリーは、『石壁と竈のエリア』『車輪と桟橋のエリア』『風と緑のエリア』『飴玉と刺繍のエリア』を順番に通過していく。
 
 時折、巡回の教師がコースの外側を飛んでいた。
 下からは、街の人々の声援が聞こえる。

 残るは、『胞子と砂塵のエリア』、そして再び『石壁と竈のエリア』を通って競技場に戻る。
 全力で進んでいた私は、『胞子と砂塵のエリア』の上空でついにサリーに並んだ。
 サリーは水の魔法玉で妨害してくるけれど、またしてもヘドロぬりかべが防ぐ。
 間近でぬりかべを見たサリーは、盛大に顔をしかめた。

(うん、ちょっと気持ち悪い見た目だよね)
 
 そんなことを思っていると、下方から何かが飛来し私に直撃した。
 
「えっ!?」
 
 ボードが傾き、速度が落ちる。下を見ると魔法学園の生徒が集まっていた。
 赤薔薇寮と黒撫子寮以外の寮は人数が多く、レースに出ない生徒がいる。
 彼らはこの場で待機し、黒撫子寮のアンカーを魔法で攻撃する隙を窺っていたのだろう。
 低い位置をボードで飛んでついてくる。

(また、妨害行為!!)

 腹が立ったが、サリーを追うのが先だ。念のため、ボードの下にヘドロぬりかべを出しておく。
 私もサリーに魔法玉を投げてみたけれど、やはり変な方向に飛んでいって当たらなかった。

(下から妨害していた生徒の悲鳴が聞こえたけど、まさか、そっちにぶつかった?)
 
 とはいえ、気にしている暇はない。無視して進む。
 サリーが先行した状態で、『石壁と竈のエリア』へ来た。
 このまままっすぐ進み、競技場に入ればゴールだ。
 
(どうしよう、追いつけない。何か方法は……)
 
 黒撫子寮のメンバーは、アウェイな状況でも諦めずに戦い、赤薔薇寮に追いついた。
 ずるい人たちに負けて、皆の頑張りを無駄にしたくない。

(そうだ! あの方法なら!)
 
 飛びながら、私はいい案を思いついた。
 
 以前、浮遊靴を用いた授業で、私は猛スピードで空へ飛び出してしまったことがある。
 魔力を多く使いすぎたのが原因だ。つまり、使用する魔力を増やせば速度が増す。
 空へ向かって発射する代わりに、前方へ向けて飛び出せば、サリーを追い抜けるのではないだろうか。

(この方法は、危険と隣り合わせだけど)

 授業のときも、ジュリアスが止めてくれなければ、私はどこまでも飛んでいったに違いない。
 指輪がある状態でも、まだ上手く魔法を制御できないのだ。
 自分をボードごと前方に発射させ、自力で魔法を解いて体を止める。一人でここまでしなければならない。
 魔力のコントロールが大事だ。

(カマルは、『魔法は感情に左右される』って言ってた。だから、心を静めて冷静に飛べば大丈夫!)
 
 ゴールはどんどん近づいてくる。
 学園が視界に写ったところで、私は体を倒し、前に向かってロケットのようにボードを発射させた。
 
「……っ!?」
 
 周囲を確認する余裕がなく、サリーを抜いたかどうかもわからない。
 でも、学園の敷地内に入ったのは見えた。

(もうすぐ競技場! 落ち着け、私のボード!!)

 全身全霊をかけて、私はボードを制御する。冷静に飛ぶよう心がけていたからか、魔力は安定していた。

(大丈夫、だんだんスピードが緩やかになっているもの)
 
 大きな歓声が聞こえてきた。ゴールはもうすぐだ!

「止まれぇー!!」

 最後の気力を振り絞って、私はボードを止めにかかった。
 順位も何もかもわからないけれど、競技場に突っ込むわけにはいかないので必死だ。
 黒撫子寮の皆の声が聞こえた。その中には、私の名を呼ぶカマルの声も。

「アメリー、こっちだよ。ここがゴールだ!」
 
 私は声のする方へ体を向けて目を閉じ、魔法を解いて飛び込む。
 かなりスピードを緩めていたので、地面に直撃しても死にはしないはずだ……と思ったら、私の体は誰かに抱き留められていた。
 瞼を開くと、競技場の床に広がる金髪と、私を見つめる赤と青の瞳が見える。

(えっ? カマル? もしかして、彼を轢いちゃった!?)
 
 怪我があっては大変だと、慌てて自分の体を離そうとしたが、しっかり抱きしめられていて動けない。

「カマル、ごめんね! 怪我してるかも! 早く医務室へ……!」
 
 パニックに陥る私だが、カマルはいつものように笑っている。

「防御魔法を使ったし、無傷だから大丈夫だよ。アメリーの速度も落ちていたし」

 ようやく腕を放してくれたカマルは、私を立たせると一言。

「優勝だよ、アメリー」

 ……と口にした。
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