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54:ボードレースについてin赤薔薇寮(サリー視点)

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 絢爛豪華な赤薔薇寮の自室で、サリーは長椅子にもたれかかり新聞を読んでいた。
 魔法都市には大きく分けて二つの新聞が出回っている。
 エメランディア新聞と魔法都市新聞。エメランディア新聞は、主に国全体の出来事が載る普通の新聞、魔法都市新聞は王都や魔法都市の出来事に特化したゴシップ寄りの新聞だ。
 他の生徒の手前、サリーは「エメランディア新聞を愛読している」と口にしているが、実は見出ししか見ていない。勉強嫌いのサリーにとって内容が難しすぎるのだ。
 サリーが読むのは、もっぱら魔法都市新聞の方だった。
 ゴシップ好きのサリーは、自室で魔法都市新聞を眺めるのを密かな楽しみにしている。
 しかし、今日は違っていた。

「……なんなのよ、なんなのよー!! この見出しは!!」

 真っ赤な顔で鼻息も荒く、持っていた新聞をビリビリと破り捨てる。

「ふざけんじゃないわよ!! なんで、アメリーが一面に載っているのよ!! っていうか、どうして無事なのよー!!」

 記事には『ヘドロ色の新星! アメリー・メルヴィーン現る!』などと書かれている。サリーの名前は、ちょろっと出ているだけだ。許せない。
 凶悪な表情を浮かべたサリーは、地団駄を踏んで歯ぎしりしながら新聞の残骸を踏みつけた。
 そのとき、コンコンと部屋のドアがノックされる。続いて聞こえた声は、この寮の上級生のものだった。ちなみに、男子生徒だ。
 
「サリー、いるかい? 君に知らせたいことがあるんだ」
 
 びくりと体を震わせたサリーは、一瞬のうちに凶悪な顔を引っ込める。

「はぁい、今開けますね~♪」

 赤薔薇寮の男子生徒は優良物件なので、仲良くしておくに越したことはない。
 慌てて集めた新聞紙をゴミ箱に突っ込み蓋を閉じると、サリーは小走りで扉に駆け寄る。
 扉の隙間から顔を覗かせ、上目遣いで上級生を見た。

「どうしましたか、先輩?」
「サリー、大変なことになった」

 浮かない顔の上級生が、続けて口にした言葉は衝撃的だった。

「赤薔薇寮の一年生二人が、退学処分にされた! 青桔梗寮も三人退学になっている」
「え……?」
「今朝のエメランディア新聞は読んだかい?」
「……ええ、まあ」

 目を泳がせつつ、サリーは答えた。
 本当は全く読んでいない。魔法都市新聞でさえ、一面を見て破り捨ててしまった。
 
「なら、話は早い。違法な魔物の取り引きが明るみに出て、それに関わっていた生徒が退学処分になっている。恥ずべきことに、その中に我が寮の生徒がいたんだよ」
「きっと、何かの間違いだわ」
「本人たちが自白したから、どうにもならない。元赤薔薇寮生、ベドールの命令で動いていたらしい……って、これも新聞に載っていたね。わざわざ君に言うことじゃなかった」
「……っ!?」
 
 サリーは、とっさに顔を伏せた。

(私のこと、誰も気づいていないわよね!?)
 
 関与していたとバレるのは、非常にまずい。
 自分の手を汚さず、アメリーを排除できると考え、事件には積極的に協力したのだ。
 幸い、関係者は全員サリーの信者なので、まだサリーが手引きしたという証言は出ていない模様。これからも黙っていようとサリーは思った。

「サリー、君に知らせたい内容というのは、ボードレースについてなんだ」
「ボードレース?」

 話題が変わったことに、内心ホッとする。
 
「知ってのとおり、赤薔薇寮は選ばれた生徒しか入寮できない特別な寮だから、寮生の数がとても少ない」
「全部で十二人でしたけどぉ、三人が退学でいなくなっちゃいましたね」
「そう、それが問題なんだ!」

 上級生は、今年のボードレースについて語り始めた。
 つい先日、教師陣よりレースの詳細が各寮長へ知らされ、それによれば、今年の赤薔薇寮生は運営ではなく、競技に参加するよう指示が出たらしい。
 だが、レースには各寮十人が参加しなければならず、ベドールに続いて一年生二人が退学になってしまった今、赤薔薇寮は窮地に立たされている。

「だから、サリー、君に出場して欲しいんだ!! どうか、赤薔薇寮のためにボードレースに出てくれないか? 無理はさせないと約束する!」

 特別待遇のサリーは、寮の中で大事に優遇されており、ボードレースのメンバーからも、最初は外されていた。
 しかし、ここへきて、人数不足から出場せざるを得ない事態になってしまった。
 さすがのサリーも断れない。赤薔薇寮の男子には、いい印象を残しておきたいので!

「わかりましたぁ。でも、私、早く飛べる自信がないです……」
「大丈夫だ! サリーは僕が全力で守る!! 他の赤薔薇寮生だって、サリーを助けるに決まっているよ」
「まあ、心強いです~♪」
 
 微笑みを浮かべるサリーは、次の瞬間、ハッと口を開けた。いいことを思いついたのだ。

(ボードレースで私が非の打ち所のない活躍すれば……! そして、『失敗作』のアメリーが大恥をかけばいいのよ!!)

 そうすれば、魔法都市新聞だって、これ以上アメリーを持ち上げないはずだ。
 だいたい、今回の記事だって、何かの間違いに決まっている。
 多少魔力量が上がったとはいえ、魔法の才能を持たないアメリーに、大それた真似ができるわけないのだ。ボードレースでは、そのことが証明されるだろう。

(早速、行動に移さなくちゃ)
 
 よからぬ笑みを浮かべたサリーは、上級生と別れて赤薔薇寮長の部屋を目指すのだった。
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