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78:不良令嬢、無自覚の誘惑

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 翌朝目覚めると、クレアのすぐ隣にサイファスが寝ていた。

「……っ!」
 
 長い睫毛、規則正しい寝息……いつも通りだ。
 だというのに、クレアの心臓は激しく脈打つ。何かがおかしい。
 相変わらず、恥ずかしくて離れたいような気持ちもあるし、それとは逆で彼にひっついていたい気持ちもある。

「どうしたものか」

 迷った末、クレアはサイファスにくっついてみた。
 自分のおかしな気持ちについて、何かが判明するかもしれないと思ったのだ。
 横向きで睡眠中のサイファスに近寄り、きゅっと彼の背中に腕を回す。
 
「温かい……」
 
 すると、サイファスの体がビクッと大きく揺れた。

「ん?」

 だが、起きる様子はない。せっかくなので背中をスリスリしてみる。
 さすが残虐鬼、引き締まったいい体だ。
 やけに筋肉がこわばっているが、きっと疲れているせいだろう。
 見習わなければならないと、クレアは決意を新たにした。
 
 起き上がってベッドから出ると、背後から長いため息が聞こえた。
 振り返ると、サイファスが目を開けている。

「おはよう、サイファス」
「ク、クレア、お、おはよう……っ!」

 なぜか、めちゃくちゃどもるサイファス。明らかに、挙動不審だ。

「き、着替えてくるねっ!」
 
 そう告げた彼は、急いで寝室を出て行った。
 クレアもさっさと着替え、ミハルトン家へ向かう準備をする。
 マルリエッタやアデリオとも合流した。
 
 屋敷では激しい戦いがあったものの、二人とも無傷である。
 アデリオは替えの従者服、マルリエッタも新しい侍女服を身につけていた。全員、昨日着ていた服を返り血で真っ赤にしてしまったのだ。
 
「屋敷の血まみれ廊下、綺麗になってっかな~?」
「どうだろうね。昨日の騒動で使用人も足りていないと思うよ」
「靴が汚れるのは困りますねえ」
 
 好き勝手に喋りながら宿の外に出ると、先に用意を終えたサイファスが待っていた。
 サラサラの金髪の髪が、朝の光を受けて揺れている。挙動不審は治っていた。
 
「クレア、本当に行くのかい? ミハルトン伯爵も相変わらずだろうし、私が一人で片をつけたいところだけれど」
「大丈夫だ、サイファス。お前こそ、巻き込まれただけなのに」
「私は自ら望んでミハルトン家へ向かうのだから、クレアが気に病む必要はないよ」
 
 この日は、ミハルトン家のクレオでなく、アリスケレイヴ辺境伯夫人として屋敷へ赴く。
 一緒に馬車へ乗り込む二人を、アデリオが無言で見つめていた。
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