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37:不良令嬢、生い立ちを話す

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 商人を帰したあと、クレアはサイファスと一緒に彼の仕事部屋へ向かった。

「ねえ、クレアに聞きたいことがあるのだけれど」

 椅子に座ったクレアに向かい、サイファスが遠慮がちに話しかけた。
 だが、彼の態度は全く遠慮しておらず、何が何でも聞き出してやるという意気込みを感じさせるものだ。鋭い視線がクレアを射貫く。

「私と君とは、もっと話し合う必要があると思うんだ。お互いに知らないことが多すぎると思わないかい? さっき、君に婚約者がいたと聞いて……私は気が気じゃなかった」

 サイファスは、空色の瞳で恨めしげにクレアを見た。

「なんだ、そんなことか。心配しなくても、不貞を働いていたわけじゃないぞ? 相手は女だし」
「……女性!? そう言えば、髪飾りを送ったと言っていたね」
「ああ、エイミーは着飾るのが好きだからな」

 この際だ。色々と明るみに出てしまっているので、サイファスに本当のことを告げるべきだろうとクレアは思った。

「サイファス、聞いてくれるか? 俺の本当の生い立ちを……」

 そうして、クレアは真実を話し始めた。
 深窓の令嬢ではなく、元孤児で密偵組織にいたこと、ミハルトン伯爵の庶子だと判明して彼に引き取られたこと。クレオの影武者をしていたが、お役御免となり令嬢に鞍替えさせられたこと。サイファスに嫁ぐよう言われたことなど全て。
 サイファスは、黙ってクレアの話に耳を傾けている。

「そう言えば、ミハルトン伯爵には優秀な嫡男がいたな」
「少し前までは、俺がクレオをやっていた。今は腹違いの弟がやっている」
「えっ……?」

 驚いて瞬きする夫に向け、クレアは話を続けた。

「俺はこの年になるまで、ずっと男として生きてきたんだ。だから、令嬢の真似事に慣れていない」
「……にわかには信じられない話だけれど、クレアを見ていたら信憑性が増すね」

 小さく息を吐くサイファスは正面に屈み、クレアをそっと抱きしめた。

「大変な人生を歩んできたんだね」
「そんな大げさな話じゃないぞ? 密偵時代は大変だったが、親父に拾われてからは割と裕福な暮らしをしていたし。アデリオもいたしな」

 アデリオの名を出した瞬間、サイファスがわかりやすく固まった。

「……クレア? その、アデリオと君はどういう関係なんだい?」

 サイファスがやけに深刻な面持ちで尋ねるので、クレアは首を傾げつつ答えた。

「あいつは俺の弟分だ。密偵をやっていたときに知り合って、親父に拾われる際に一緒に引き取ってもらった。それからは俺の片腕。サイファスと結婚するときも、ついてきてくれた」
「……そうなんだ。その……彼に恋愛的な感情は」
「阿呆か。そんなもん、あるわけねーだろ。あいつと俺が何年一緒にいたと思ってんだ?」
「う、うん。そうだよね」

 相づちを打ちつつ、さすがにアデリオが気の毒になったサイファスだった。
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