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31:不良令嬢、白状する

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「サイファス……?」
「やあ、クレア。一人で出て行ってしまうから、少しびっくりしたよ」
「悪かった。せっかく副官に紹介してもらったのに」
「知り合いだったみたいだし、私の紹介は必要なかったね?」

 何気ない彼の言葉が、チクチクと刺さる。

(態となのか……?)

 サイファスは、笑顔のまま言葉を続けた。

「責めているわけじゃないんだ。ただ、クレアに聞きたいことがあって……」

 目の前に、見覚えのある袋がドサリと置かれる。
 それが何か気づいたクレアは、驚いてサイファスを見上げた。

「これ……」
「君の部屋で見つけたんだ。ねえ、この袋は何かな……どうするつもりだったの?」

 問いかける形だが、サイファスは中身を確認済みだろう。
 袋の中身は、クレアが屋敷を出て行くために纏めていた荷物だった。
 サイファスは、あのやり取りだけで何かに気づき、クレアの部屋でこの袋を見つけたらしい。侮れない。

 彼に迷惑をかけないために立ち去るつもりだった。
 なのに、責められるような目で見られ、クレアはちょっと納得がいかない。
 ちゃんと「辺境伯が花嫁に振られた」という形でなく、「クレアが原因で辺境伯は被害者」という噂を流して出て行く予定だったのだ。
 サイファスだって、欠陥花嫁のクレアが出て行った方が都合が良いだろうに。

 出来れば、もう少しだけ気づかずにいて欲しかった。その方がきっと上手くいった。
 全ては後の祭りだが。

「ねえ、どうなの? 答えて」

 詰め寄るサイファスに腕を取られ、クレアは逃げ出す機会を失う。
 観念して、彼に事実を告げることにした。

「お前の言うとおりだよ、サイファス。俺はこの屋敷を出て行こうと思っていた」
「……どうして?」
「それが、一番いいと判断したからだ……このルナレイヴの地にとっても、辺境伯家の奴らにとってもな」

 明るい日差しを受けた庭に、気まずい沈黙が訪れる。
 薔薇の茂みの前で、クレアは俯きながら呟いた。

「俺は令嬢として欠陥品だ。血筋以外、まがい物と言われても仕方がない生き方をしてきた。辺境伯の妻に相応しくない。最初から、ここへ来るべきではなかったんだ。すまない」

 クレア自身、冷静になってみればわかる。
 ずっとここで生活していくつもりだったなら、中途半端な芝居を打ってはいなかっただろう。命がけで、完璧な令嬢になりきっていた。
 そうしなかったのは、いつでもここを出て行く気があったからに他ならない。
 きっと、正体がばれてもいいと思っていた。

「それで、君はここを出てどこへ行くつもりだったの?」
「決めていない。外国を旅しようかと考えてはいたけどな……」
「外国……ねえ、私の何がいけなかった?」
「サイファスはどこも悪くねぇよ。全面的に俺が悪い」

 言うと、サイファスが縋るような目を向けてクレアの背に腕を回す。

「なら、ここにいればいい。どこにも行かず、私の傍で暮らす選択肢はないの?」

 責めるように問いかけられ、クレアは戸惑った。

「……なんでそうなる」
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