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子供編・学園編(一年目一学期)まとめ

改・プロローグ(ハートのQ)

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書籍化に伴って削除した部分を、少し変えて投稿し直しています。
最初だけカミーユ視点、後はアシルとかの視点になる予定。
書籍と被る部分は、端折っています。

詳しく内容を見たい方は、こちらをどうぞ。
(アルファポリス様の無料立ち読みサンプルページに飛びます)
https://cdn-file.alphapolis.co.jp/books/4613/3b039799d2050c6cf3d1658d947835bb/sample.pdf
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『いや、こんなの嘘よ! いやああああっ!』

 小さな四角い画面の中央で、一人の令嬢が泣き叫んでいる。
 ピンク色の髪にぱっちりしたラズベリー色の瞳の、ものすごい美少女だ。
 彼女は牢屋に繋がれて涙を流しているが、助けようとする者は誰もいない。

 それもそのはず。
 令嬢はそんな目に遭うだけのことを……
 いや、それ以上のことを、これまでに沢山やらかしていたのだ。
 悪事がつまびらかにされ、罰を受けている令嬢を見た私は、そっとほくそ笑んだ。

「やったね! カミーユ、ざまぁ!」



 私、相沢あいざわ愛美まなみは、隠れゲーマーの女子高生だ。
 最近のお気に入りのゲームは「キャルト・ア・ジュエ」——
 キャラクターをトランプのカードに模した、学園ものの恋愛アドベンチャーゲームである。
 俗に言う、「乙女ゲー」というやつだ。
 私は、今日も学校から自宅に直行し、「キャルト・ア・ジュエ」をプレイしていた。

 このゲームは、ファンタジーな異世界で、主人公ヒロインが、ハート、ダイヤ、クローバー、スペードという四つの勢力の攻略対象と疑似恋愛を楽しむというものだ。
 ゲームの中で、恋愛攻略対象はキング、ライバル令嬢はクイーン、友情攻略対象がジャックと呼ばれている。

「よっしゃ、ハートのKのハッピーエンドをクリアした!」

 私はゲーム片手にステップを踏み、回想モードでもう一度先程のエンディングを反芻する。

「はぁ、やっぱりハートのKのロイス様が一番格好良いな。それに、カミーユが破滅してくれて清々した」

 ちなみに、「カミーユ」というのは、ハートのKのルートで主人公の邪魔をしてくるライバル令嬢、ハートのQのことだ。
 カミーユは、自らの地位と美貌を鼻に掛け、主人公に嫌がらせの限りを尽くすとんでもない女だった。
 しかし、主人公がハートのKのベストエンドを迎えた場合、カミーユは今までの悪事がばれ、社会的に抹殺される。
 ハートのKの部下が、カミーユを思いっきり断罪してくれるのだ。
 はー、スッキリした!

「愛美、ちょっと葱買ってきて~」

 台所から、母が私の名を呼ぶ。

「はーい、ちょっと待って」

 私は、ゲームデータがセーブできていることを確認すると、机の引き出しから鏡を取り出した。

「うーん。前髪よし、睫毛よし、化粧よし! 服は……着替えよう」

 私は、他人の目を非常に気にする、年頃の女子高校生だ。
 下手な格好で外を出歩くなんてできない。
 自分がどう見られているかを常に気にしているし、勿論学校では乙女ゲーマーだという事実を隠して過ごしていた。
 流石に、学校で堂々と乙女ゲームをするのは……ちょっと恥ずかしいからね。
 悲しいが、まあまあイケている外面を持つ女子高生を演出するためには、必要な措置なのだ。

「愛美~! 財布は机の上だから、早く行って来て~!」

 着替え終わった私は、母に急かされて近くのスーパーに葱を買いに行く。
 途中で、部活帰りの男子高校生達とすれ違った。あれは、バスケ部だろうか。
 その中の一人が、私の方をじっと見つめている。

「……同じクラスの安井やすいまこと君、だっけ?」

 よく分からないので彼の目を見返してみると、あからさまに逸らされてしまった。
 ——私、何かした?
 いや、彼とは特に接点がないからきっと気の所為だろう。
 私は、そう結論づけて踵を返し、さっさと葱を買いにスーパーへ向かった。

 この数日後、私は誠君の所為で彼の彼女からトンデモナイ言い掛かりをつけられ、張り手を食らい、階段から転落するという憂き目に遭う。
 そうして気付いたら、あのゲームの憎きライバル令嬢——カミーユになっていたのだった。

「……これって、夢オチだよね?」

 幸いなことに、入れ替わった私の体の持ち主であるカミーユは、三歳児。
 今すぐに破滅を迎えることはない筈だ。
 カミーユが破滅するのは十六歳なので、あと十三年は好きなことをして生きようと思う。
 どうせ夢だし、十三年も経たないうちに目が覚めるだろう。

 とりあえず、カミーユ・ロードライト侯爵令嬢として生活することにした私は、職業魔法使いであるこちらの世界の父親に魔法を習うことにした。
 魔法なんて、ファンタジーの世界ならではの産物だ。ここでしか学べない。
 隠れゲーマーの血が騒いだ。
 偏った向上心から次々に魔法を覚える私は、こうして魔法使いへの第一歩を歩み始めたのだった。
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