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37:<金曜日> 桜エビとキャベツのカレー
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染さんと一緒に出かけた翌日は、通常通りの出勤だ。
昨日のことがあるので、楓は妙にそわそわしてしまう。
あのあと、染さんと一緒に公園へ行ったり、夕食を別のカレー屋で食べたりした。
早足で階段を上り、二階の洋燈堂へ向かう。
庭の桜も咲き、穏やかな春の日差しがぽかぽかと暖かい。
スパイス料理を食べ続けていたからか、半年前に比べて体調もずいぶんと良くなった。
先のことはわからないけれど、自分の人生を前向きに考えられるようになっている。
「おはようございます、染さん」
「お、おはよう、楓ちゃん」
キッチンから顔を出す染さんを見ると、なんだか照れてしまう。
昨日から、楓たちは晴れて恋人同士となったのだ。
「染さん、昨日はありがとうございました」
「こちらこそ。楽しかったよ」
お互いに恥ずかしがっているためか、以前より会話がぎこちなくなってしまったけれど、不思議と嫌な感じはしない。
おそらく、そのうち慣れていくのだろう。
四月に入ったので、雛ちゃんは大学が始まった。
朝と昼は授業があるので、彼女が出勤するのは夕方からになる。
昼の混雑時は、現在無職の理さんが接客を手伝ってくれるそうだ。
春なので、店の内装にも少し変化を加える。
タペストリーを明るい色に変え、曲を春らしいものに入れ替えた。
メニューを書く黒板には、文字の他に桜と兎のイラストも描いてみる。
<金曜日>
本日のカレー(桜エビとキャベツのカレー)
定番カレー(四色カレー)
「うん、いい感じ」
準備をしていると、唐突に店の扉が開きウインドチャイムが鳴った。
見ると、ペアー出版の鈴木さんが鞄から雑誌を取り出しながら立っている。
「おはようございます」
挨拶して店の中へ案内すると、彼女は持っていた雑誌を楓に渡した。
表紙には、大きくカレーの写真が載っており、「おいしいカレーガイド」と書かれている。
「前に取材させていただいた本が完成しましたので、お届けに来たんです」
「わあ、ありがとうございます!」
楓はさっそくページをめくって中を見てみる。
一ページ目には目次が、宣伝を挟んで次のページには「カレーアワード」という大きな文字が載っていた。
「カレーアワード?」
「ああ、それは……カレーの評論家や、カレー好きなブロガーさんなど、カレーの専門家を選考メンバーにして、各店を審査したものです」
「そんな選考があったんですね」
「はい、最初に選考委員の方がここぞというお店をノミネートし、その後、全員のノミネート店を共有し、一か月かけて皆で検証するのです。次に本選考へと進み、年末にアワード受賞店が発表されます……ちなみに、洋燈堂は今回は対象外です」
あとで知ったけれど、洋燈堂は楓が働き始める少し前に開店したばかりの店だった。
場所がわかりにくい上に、インターネットにも情報が出ておらず、閑古鳥が鳴いているような店だったので、当時は認知されていなかったに違いない。
「洋燈堂が載っているのは、ここですね」
鈴木さんは真ん中辺りまでページをめくった。そこには、「編集部オススメ、新店特集!」と書かれたページがある。
カウンターの向こう側から、染さんも顔を出した。
「今回、特別に私も、お店の紹介ページを持つことができて……だから、ここへ取材に来させてもらったんです」
洋燈堂のページを見ると、四食カレーの写真もしっかり掲載されている。
カレーの写真の上には、染さんのイケメンな写真も載っていた。
(……発売されたら、自分用に買おう)
そうしているうちに、開店時間が迫ってきた。
「カレー、食べていきます? 今日は、桜エビとキャベツのカレーがありますけど」
染さんの言葉に、鈴木さんは「はい!」と、大きく首を縦に振った。
昨日のことがあるので、楓は妙にそわそわしてしまう。
あのあと、染さんと一緒に公園へ行ったり、夕食を別のカレー屋で食べたりした。
早足で階段を上り、二階の洋燈堂へ向かう。
庭の桜も咲き、穏やかな春の日差しがぽかぽかと暖かい。
スパイス料理を食べ続けていたからか、半年前に比べて体調もずいぶんと良くなった。
先のことはわからないけれど、自分の人生を前向きに考えられるようになっている。
「おはようございます、染さん」
「お、おはよう、楓ちゃん」
キッチンから顔を出す染さんを見ると、なんだか照れてしまう。
昨日から、楓たちは晴れて恋人同士となったのだ。
「染さん、昨日はありがとうございました」
「こちらこそ。楽しかったよ」
お互いに恥ずかしがっているためか、以前より会話がぎこちなくなってしまったけれど、不思議と嫌な感じはしない。
おそらく、そのうち慣れていくのだろう。
四月に入ったので、雛ちゃんは大学が始まった。
朝と昼は授業があるので、彼女が出勤するのは夕方からになる。
昼の混雑時は、現在無職の理さんが接客を手伝ってくれるそうだ。
春なので、店の内装にも少し変化を加える。
タペストリーを明るい色に変え、曲を春らしいものに入れ替えた。
メニューを書く黒板には、文字の他に桜と兎のイラストも描いてみる。
<金曜日>
本日のカレー(桜エビとキャベツのカレー)
定番カレー(四色カレー)
「うん、いい感じ」
準備をしていると、唐突に店の扉が開きウインドチャイムが鳴った。
見ると、ペアー出版の鈴木さんが鞄から雑誌を取り出しながら立っている。
「おはようございます」
挨拶して店の中へ案内すると、彼女は持っていた雑誌を楓に渡した。
表紙には、大きくカレーの写真が載っており、「おいしいカレーガイド」と書かれている。
「前に取材させていただいた本が完成しましたので、お届けに来たんです」
「わあ、ありがとうございます!」
楓はさっそくページをめくって中を見てみる。
一ページ目には目次が、宣伝を挟んで次のページには「カレーアワード」という大きな文字が載っていた。
「カレーアワード?」
「ああ、それは……カレーの評論家や、カレー好きなブロガーさんなど、カレーの専門家を選考メンバーにして、各店を審査したものです」
「そんな選考があったんですね」
「はい、最初に選考委員の方がここぞというお店をノミネートし、その後、全員のノミネート店を共有し、一か月かけて皆で検証するのです。次に本選考へと進み、年末にアワード受賞店が発表されます……ちなみに、洋燈堂は今回は対象外です」
あとで知ったけれど、洋燈堂は楓が働き始める少し前に開店したばかりの店だった。
場所がわかりにくい上に、インターネットにも情報が出ておらず、閑古鳥が鳴いているような店だったので、当時は認知されていなかったに違いない。
「洋燈堂が載っているのは、ここですね」
鈴木さんは真ん中辺りまでページをめくった。そこには、「編集部オススメ、新店特集!」と書かれたページがある。
カウンターの向こう側から、染さんも顔を出した。
「今回、特別に私も、お店の紹介ページを持つことができて……だから、ここへ取材に来させてもらったんです」
洋燈堂のページを見ると、四食カレーの写真もしっかり掲載されている。
カレーの写真の上には、染さんのイケメンな写真も載っていた。
(……発売されたら、自分用に買おう)
そうしているうちに、開店時間が迫ってきた。
「カレー、食べていきます? 今日は、桜エビとキャベツのカレーがありますけど」
染さんの言葉に、鈴木さんは「はい!」と、大きく首を縦に振った。
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