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24:<月曜日> 基本のチキンカレー
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無事にカレーフェスが成功し、いつもの日常が戻ってきた。
この日は三連休の祝日で店はいつもより繁盛している。
フェスで知名度が上がったためか、階段の下に列が続いていた。楓も染さんも大忙しだ。
けれど、客が途切れる合間を縫って、楓は染さんにカレー作りを教えてもらっていた。
もしものとき、楓も手助けができるよう、染さんにお願いしたのだ。
とはいえ、お客さんに出すカレーはまだ作らず、自分のまかない用カレーで練習している。
「にんにくや生姜は、粗みじん切り、みじん切り、すりおろしで風味が異なるんだ。粗みじん切りは、噛んだ際にしっかり風味が感じられる。旨みを溶け込ませたいときはすりおろしがいい。同じように、タマネギやトマトも切り方によってカレーのできが変化するよ」
「なるほど……」
「とはいえ、そこは好みだから。楓ちゃんも自分のオリジナルカレーが作れるようになるといいね」
「先は長そうです」
染さんのカレーは、どこまでも自由で掴みどころがない。まるで、彼自身みたいだ。
「油によっても、味に違いが出るよ。米油、オリーブオイル、ごま油、ココナッツオイル……無限の可能性がある。唐辛子の種類や、炒めるか煮るか漬け込むかでも変わってくるし。タマネギを入れる場合は、炒め加減も重要」
楓は基本的なチキンカレーを作ることにした。
「最初は、クミンシード、ターメリックパウダー、カイエンペッパー、コリアンダーの四つを中心に考えるとわかりやすいかもね。仕上げにガラムマサラを振ったら、香りが良くなるよ」
スタンダードなカレーのスパイスの割合は、個人の好みにも寄るけれど……二人分でターメリックやカイエンペッパーは小さじ二分の一ほど。クミンは小さじ二で、コリアンダーが大さじ一くらい。
後ろに立つ染さんが、手取り足取り、教えてくれる。本当に腕をとられたときは、ドキドキしてしまった。ただのカレー講習なのに。
「別で、スープや出汁を作る場合もあるけれど、今日は使わないね」
米油にクミンシードを入れて弱火で香りを移し、にんにくや生姜を足し、タマネギを加えて強火で炒め、トマトを投入。ターメリックパウダー、カイエンペッパー、コリアンダーを混ぜて塩で味を調え、お湯を注いでチキンを入れて煮て……最後にガラムマサラ。
これで、とろりとしたチキンカレーができあがる。
「できた……!」
「そこまで難しくないでしょ?」
なんとか作れたけれど、自分でカレーを考え出すには、まだまだ修行が必要だ。
「最初に、カルダモン、クローブ、シナモンを入れても、途中でヨーグルトを加えてもおいしいよ」
だんだん混乱してきたので、まずは、自分に把握できることから始めようと決めた楓だった。
※
夜、人がいなくなった頃、扉に着いているウインドチャイムが鳴り、お客さんがやってきた。
「こんばんは、いらっしゃいませ」
楓はいつものように、出迎えの態勢をとる。
入ってきたのは、楓より少し年上の女性客だった。
いかにも仕事をしていますという、オフィスカジュアルにブランドバッグをさげたスタイルが格好いい。
「お好きな席へどうぞ」
水と、お手拭きを用意し、彼女の注文を待つ。
すると、女性は鞄から名刺を取り出して、楓に渡した。
「あの、私、株式会社ペアー出版の、グルメ記事を担当している鈴木です。実は、このお店を取材させていただきたくて……」
「え、あ、少々お待ちくださいませ! 責任者に伝えてまいります」
慌てて、キッチンの奥にいる染さんを呼びに行く。
「そ、染さん!」
「どうしたの、楓ちゃん」
「取材の人が来られています」
「楓ちゃん、落ち着いて。僕が行くから」
カウンターへ移動する染さん。楓も彼のあとに続く。
「お待たせしました。店主の賀来です」
鈴木さんは、来店目的について説明を始めた。
彼女の会社で、スパイスカレー店の雑誌を出版する企画が持ち上がっていて、掲載するカレー屋を探しているそうだ。
「有名な常連店舗の他に、新規のお店の紹介ページを作る予定なんです。そこに、洋燈堂も載せさせていただければと……」
驚いた楓と染さんは、互いに顔を見合わせた。
この日は三連休の祝日で店はいつもより繁盛している。
フェスで知名度が上がったためか、階段の下に列が続いていた。楓も染さんも大忙しだ。
けれど、客が途切れる合間を縫って、楓は染さんにカレー作りを教えてもらっていた。
もしものとき、楓も手助けができるよう、染さんにお願いしたのだ。
とはいえ、お客さんに出すカレーはまだ作らず、自分のまかない用カレーで練習している。
「にんにくや生姜は、粗みじん切り、みじん切り、すりおろしで風味が異なるんだ。粗みじん切りは、噛んだ際にしっかり風味が感じられる。旨みを溶け込ませたいときはすりおろしがいい。同じように、タマネギやトマトも切り方によってカレーのできが変化するよ」
「なるほど……」
「とはいえ、そこは好みだから。楓ちゃんも自分のオリジナルカレーが作れるようになるといいね」
「先は長そうです」
染さんのカレーは、どこまでも自由で掴みどころがない。まるで、彼自身みたいだ。
「油によっても、味に違いが出るよ。米油、オリーブオイル、ごま油、ココナッツオイル……無限の可能性がある。唐辛子の種類や、炒めるか煮るか漬け込むかでも変わってくるし。タマネギを入れる場合は、炒め加減も重要」
楓は基本的なチキンカレーを作ることにした。
「最初は、クミンシード、ターメリックパウダー、カイエンペッパー、コリアンダーの四つを中心に考えるとわかりやすいかもね。仕上げにガラムマサラを振ったら、香りが良くなるよ」
スタンダードなカレーのスパイスの割合は、個人の好みにも寄るけれど……二人分でターメリックやカイエンペッパーは小さじ二分の一ほど。クミンは小さじ二で、コリアンダーが大さじ一くらい。
後ろに立つ染さんが、手取り足取り、教えてくれる。本当に腕をとられたときは、ドキドキしてしまった。ただのカレー講習なのに。
「別で、スープや出汁を作る場合もあるけれど、今日は使わないね」
米油にクミンシードを入れて弱火で香りを移し、にんにくや生姜を足し、タマネギを加えて強火で炒め、トマトを投入。ターメリックパウダー、カイエンペッパー、コリアンダーを混ぜて塩で味を調え、お湯を注いでチキンを入れて煮て……最後にガラムマサラ。
これで、とろりとしたチキンカレーができあがる。
「できた……!」
「そこまで難しくないでしょ?」
なんとか作れたけれど、自分でカレーを考え出すには、まだまだ修行が必要だ。
「最初に、カルダモン、クローブ、シナモンを入れても、途中でヨーグルトを加えてもおいしいよ」
だんだん混乱してきたので、まずは、自分に把握できることから始めようと決めた楓だった。
※
夜、人がいなくなった頃、扉に着いているウインドチャイムが鳴り、お客さんがやってきた。
「こんばんは、いらっしゃいませ」
楓はいつものように、出迎えの態勢をとる。
入ってきたのは、楓より少し年上の女性客だった。
いかにも仕事をしていますという、オフィスカジュアルにブランドバッグをさげたスタイルが格好いい。
「お好きな席へどうぞ」
水と、お手拭きを用意し、彼女の注文を待つ。
すると、女性は鞄から名刺を取り出して、楓に渡した。
「あの、私、株式会社ペアー出版の、グルメ記事を担当している鈴木です。実は、このお店を取材させていただきたくて……」
「え、あ、少々お待ちくださいませ! 責任者に伝えてまいります」
慌てて、キッチンの奥にいる染さんを呼びに行く。
「そ、染さん!」
「どうしたの、楓ちゃん」
「取材の人が来られています」
「楓ちゃん、落ち着いて。僕が行くから」
カウンターへ移動する染さん。楓も彼のあとに続く。
「お待たせしました。店主の賀来です」
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彼女の会社で、スパイスカレー店の雑誌を出版する企画が持ち上がっていて、掲載するカレー屋を探しているそうだ。
「有名な常連店舗の他に、新規のお店の紹介ページを作る予定なんです。そこに、洋燈堂も載せさせていただければと……」
驚いた楓と染さんは、互いに顔を見合わせた。
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