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1章
12・吸血鬼と同衾しています
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(あ〜、ヤヨイ国にいた頃はよかったわ〜。田舎だし布団は薄くて床は硬かったけど、こんなに居たたまれなくなることはなかったし……)
私は、過去に想いを馳せて現実逃避をしていた。
そうでなければ、とても一夜を過ごせそうになかったからだ。
ふかふかのベッドの上には、私と……ここにいてはいけない人物がいる。
清潔なシーツの上に横になった私を、隣に潜り込んだシュリが抱きしめていた。
「サラ、そんなに硬くならなくていいよ。安心して僕に身を委ねて?」
「……明日の晩御飯は、なんだったかな〜」
相手を意識しては負けだ、無になるのだ。
そう自分に言い聞かせているものの、なかなか心は思い通りになってくれない。
「ふふっ、つれないなあ」
吸血鬼やハンターの眠る時間――明け方近くに無理やり私の部屋に突撃してきたシュリは、上機嫌でベッドに上がり込み、細い割に鍛え上げられた体で私を拘束している。
「……シュリ、そろそろ離してくれない?」
「恥ずかしがっているサラも可愛いね。このまま、すぐに花嫁にしてしまいたいくらいだ」
「それって、隷属に……ってこと? 私がシュリの血を飲めばいいのよね?」
「そうだよ。そして、僕がサラの血を口に……って、あんまり誘惑しないで欲しいな。抑えが利かなくなって、君を襲ってしまいそうになる」
私は誘惑などしていないのに、シュリはなんでもこちらのせいにしてくる……困った吸血鬼だ。
一人で何かを葛藤している彼に、私は隷属の儀式について質問した。
「ところで、隷属の儀式って、職員の立ち会いが必要なの?」
「事後報告でいいけど……どうしたの、サラ?」
「……それなら、今から血を交換してしまっても良いのね?」
「まるで、血の契約をしたいと言っているように聞こえるけど」
私は、シュリの翡翠色の瞳をまっすぐ見つめた。
「……さっきの決心が揺らがないうちに、実行したいのよ」
臆病な私は、時が経てば経つほどに、また隷属の儀式を恐れて拒絶するようになるかもしれない。
吸血鬼の力が必要であるにもかかわらずだ。そんな醜態は、さらしたくなかった。
「サラ……」
私の言葉を聞いたシュリは、なぜか頬を赤く染めた。
「自分から血の契約を申し出てくれるなんて……これが、逆プロポーズというものなのか」
「……違うから」
一人で照れているシュリに、儀式の手順を確認する。
「私の血をシュリにあげて、シュリの血を私が飲めば良いのね?」
「そうだよ……って、本当に今から契約する気?」
「そう言っているじゃないの。んーと、適当な刃物で皮膚を切って血を出せば良いのよね?」
私が懐からナイフを出そうとすると、シュリがそれを止めた。
「痛いから、それは止めよう。僕が噛んであげる」
「……確か、吸血鬼の唾液には麻酔の効果があるんだっけ?」
「そう。ついでに媚薬の効果もあるよ?」
「……やっぱり、ナイフでお願いします。切って上から垂らすから、皮膚に口をつけないように飲んで」
タダでさえ不安な隷属の儀式。わけのわからない媚薬効果で変なことになっては困る。
変なことの詳細はよくわからないが、きっとヤヨイ国の女子としてあるまじき破廉恥な事態に違いない。
私は、丁重にお断りした。しかし……
「まあまあ、遠慮せずに」
「え? シュリ!?」
笑顔のシュリに両手を拘束され、ベッドに固定される。
「え? ええっ!?」
「可愛いサラ、ようやく君を正式に僕の妻にできるんだね」
「ちょ、ちょっと、シュリ!?」
「感慨深いよ。せっかくの、夫婦最初の共同作業なんだから、ロマンチックに行こう」
先ほどよりも、さらに身動きが取れなくなる。
(いつの間にか、組み敷かれているんですけどー!?)
自分から言いだしたこととはいえ、こんな展開は予想していなかった。
私は、過去に想いを馳せて現実逃避をしていた。
そうでなければ、とても一夜を過ごせそうになかったからだ。
ふかふかのベッドの上には、私と……ここにいてはいけない人物がいる。
清潔なシーツの上に横になった私を、隣に潜り込んだシュリが抱きしめていた。
「サラ、そんなに硬くならなくていいよ。安心して僕に身を委ねて?」
「……明日の晩御飯は、なんだったかな〜」
相手を意識しては負けだ、無になるのだ。
そう自分に言い聞かせているものの、なかなか心は思い通りになってくれない。
「ふふっ、つれないなあ」
吸血鬼やハンターの眠る時間――明け方近くに無理やり私の部屋に突撃してきたシュリは、上機嫌でベッドに上がり込み、細い割に鍛え上げられた体で私を拘束している。
「……シュリ、そろそろ離してくれない?」
「恥ずかしがっているサラも可愛いね。このまま、すぐに花嫁にしてしまいたいくらいだ」
「それって、隷属に……ってこと? 私がシュリの血を飲めばいいのよね?」
「そうだよ。そして、僕がサラの血を口に……って、あんまり誘惑しないで欲しいな。抑えが利かなくなって、君を襲ってしまいそうになる」
私は誘惑などしていないのに、シュリはなんでもこちらのせいにしてくる……困った吸血鬼だ。
一人で何かを葛藤している彼に、私は隷属の儀式について質問した。
「ところで、隷属の儀式って、職員の立ち会いが必要なの?」
「事後報告でいいけど……どうしたの、サラ?」
「……それなら、今から血を交換してしまっても良いのね?」
「まるで、血の契約をしたいと言っているように聞こえるけど」
私は、シュリの翡翠色の瞳をまっすぐ見つめた。
「……さっきの決心が揺らがないうちに、実行したいのよ」
臆病な私は、時が経てば経つほどに、また隷属の儀式を恐れて拒絶するようになるかもしれない。
吸血鬼の力が必要であるにもかかわらずだ。そんな醜態は、さらしたくなかった。
「サラ……」
私の言葉を聞いたシュリは、なぜか頬を赤く染めた。
「自分から血の契約を申し出てくれるなんて……これが、逆プロポーズというものなのか」
「……違うから」
一人で照れているシュリに、儀式の手順を確認する。
「私の血をシュリにあげて、シュリの血を私が飲めば良いのね?」
「そうだよ……って、本当に今から契約する気?」
「そう言っているじゃないの。んーと、適当な刃物で皮膚を切って血を出せば良いのよね?」
私が懐からナイフを出そうとすると、シュリがそれを止めた。
「痛いから、それは止めよう。僕が噛んであげる」
「……確か、吸血鬼の唾液には麻酔の効果があるんだっけ?」
「そう。ついでに媚薬の効果もあるよ?」
「……やっぱり、ナイフでお願いします。切って上から垂らすから、皮膚に口をつけないように飲んで」
タダでさえ不安な隷属の儀式。わけのわからない媚薬効果で変なことになっては困る。
変なことの詳細はよくわからないが、きっとヤヨイ国の女子としてあるまじき破廉恥な事態に違いない。
私は、丁重にお断りした。しかし……
「まあまあ、遠慮せずに」
「え? シュリ!?」
笑顔のシュリに両手を拘束され、ベッドに固定される。
「え? ええっ!?」
「可愛いサラ、ようやく君を正式に僕の妻にできるんだね」
「ちょ、ちょっと、シュリ!?」
「感慨深いよ。せっかくの、夫婦最初の共同作業なんだから、ロマンチックに行こう」
先ほどよりも、さらに身動きが取れなくなる。
(いつの間にか、組み敷かれているんですけどー!?)
自分から言いだしたこととはいえ、こんな展開は予想していなかった。
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