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1章
11・吸血鬼はケダモノです
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「どこから聞いていたの?」
「吸血鬼を責めないであげて……って辺りから」
「そう」
私は、シュリの目をまっすぐ見られず、床に視線を落とす。
(よかった、隷属の儀式を不安に思っていることは、聞かれていないみたい)
「ごめん、勝手にシュリの話をして」
「構わないよ、聞きたいことがあるのなら答えるけど?」
話しながら、彼が距離を詰めてくる。
「シュリのお母さん、人間に殺されたの?」
「そうだよ。僕がまだ子供の時、吸血鬼に恨みを持つ人間に殺された」
「それって、吸血鬼ハンター?」
「違う。ただの武装した人間で、協会にも所属していない……彼らは母の親族で、吸血鬼の隷属になった彼女を蔑んでいた」
子供の時に親を殺されるなんて、とても悲しい出来事だ。
同じ経験をした私だからわかる。
「……人間を恨んでいないの?」
「母親も元人間だし、全ての人間が敵ではないことも知っているからね。吸血鬼であっても、とんでもない奴もいるし」
それを聞いた私は、なぜかシュリを直視できなかった。
私は、彼のように広い視野を持てない。
吸血鬼に親を殺された私は、ずっと吸血鬼という種族を憎み続け屠ってきたのだ。
シュリのことも、心の底から信用しているわけではないし、彼が私に向けている気持ちと同じものを返すこともできない。
吸血鬼を信用なんてできないし、信用することが怖い。ずっと、そう思っていた。
「他には? 今なら、何でも話してあげるけど?」
シュリは、悶々と悩む私に向かって優しく話しかけた。
「……隷属の儀式って、いつまでにしなきゃならないの?」
「早ければ早いほどいいだろうね。協会側は、早く一級吸血鬼ハンターを各地へ派遣したくてたまらない様子だから。でも……」
言葉を切った彼は、絹のような白銀の髪をいじりながら口を開く。
「焦らなくてもいいよ。君を逃がしてあげる気はないけれど、無理に血の契約を結ぶようなことはしたくない」
シュリは、私を甘やかすようにそう言いきった。
(彼は、私に猶予を与えようとしてくれている……でも、本当にそれで良いの?)
心の中で、自分自身に問いかける。
このまま隷属になるのを恐れ、強い吸血鬼に対抗できないハンターに甘んじていて良いのかと。
(良いわけないじゃない……!)
私は、顔を上げてシュリを見た。今度は目を逸らさずに……
「……い」
「え、サラ?」
「構わない、隷属の儀式を行ってもいいわ」
私の言葉に、シュリは信じられないという様子でパチパチ瞬きした後、幸せそうな満面の笑みを浮かべた。
「本当に?」
彼のそんな表情を見て、柄にもなく動揺してしまう。
だから、つい言ってしまった。彼の誠意に応えたいと。
「……ええ、少し不安だけれど逃げたくないし、今よりももっと強くなりたい。それに、あなたが人間を信じたように、私もシュリを信じたいわ」
「……サラ」
シュリは、翡翠色の目を見開くと、私を思い切り抱きしめた。
「えっ、ちょっと!?」
「……嬉しい。サラが、僕を受け入れようとしてくれているなんて」
彼の吐息が首元に当たる。
(ど、どうしよう!? 私、今、異性に抱きしめられて……)
初めての事態に動揺する私に、シュリは更なる追い打ちをかけた。
なんと、私の首筋をベロリと舐めたのだ。
「ひゃぁあっ!?」
「ああ、サラ。可愛い声だね……」
「な、何をするのっ……?」
「一生懸命に僕を受け入れようとしてくれている君が、あまりにも可愛くて、抱きしめたらいい匂いで、我慢できなくて」
「け、ケダモノ!!」
男はみんなケダモノだから気をつけなさいと、過去にアズキが言っていた。
「酷いなあ、サラが魅力的すぎるんだよ。でも……せっかくの信頼を損なうようなことはしたくないし、今日はこれで我慢しておこうかな」
シュリは、私の髪にキスを落とすと、上機嫌で部屋へと去っていく。
「あ、そうそう。約束だから、今夜は一緒に寝ようね?」
最後に大きな爆弾を投下して――
「吸血鬼を責めないであげて……って辺りから」
「そう」
私は、シュリの目をまっすぐ見られず、床に視線を落とす。
(よかった、隷属の儀式を不安に思っていることは、聞かれていないみたい)
「ごめん、勝手にシュリの話をして」
「構わないよ、聞きたいことがあるのなら答えるけど?」
話しながら、彼が距離を詰めてくる。
「シュリのお母さん、人間に殺されたの?」
「そうだよ。僕がまだ子供の時、吸血鬼に恨みを持つ人間に殺された」
「それって、吸血鬼ハンター?」
「違う。ただの武装した人間で、協会にも所属していない……彼らは母の親族で、吸血鬼の隷属になった彼女を蔑んでいた」
子供の時に親を殺されるなんて、とても悲しい出来事だ。
同じ経験をした私だからわかる。
「……人間を恨んでいないの?」
「母親も元人間だし、全ての人間が敵ではないことも知っているからね。吸血鬼であっても、とんでもない奴もいるし」
それを聞いた私は、なぜかシュリを直視できなかった。
私は、彼のように広い視野を持てない。
吸血鬼に親を殺された私は、ずっと吸血鬼という種族を憎み続け屠ってきたのだ。
シュリのことも、心の底から信用しているわけではないし、彼が私に向けている気持ちと同じものを返すこともできない。
吸血鬼を信用なんてできないし、信用することが怖い。ずっと、そう思っていた。
「他には? 今なら、何でも話してあげるけど?」
シュリは、悶々と悩む私に向かって優しく話しかけた。
「……隷属の儀式って、いつまでにしなきゃならないの?」
「早ければ早いほどいいだろうね。協会側は、早く一級吸血鬼ハンターを各地へ派遣したくてたまらない様子だから。でも……」
言葉を切った彼は、絹のような白銀の髪をいじりながら口を開く。
「焦らなくてもいいよ。君を逃がしてあげる気はないけれど、無理に血の契約を結ぶようなことはしたくない」
シュリは、私を甘やかすようにそう言いきった。
(彼は、私に猶予を与えようとしてくれている……でも、本当にそれで良いの?)
心の中で、自分自身に問いかける。
このまま隷属になるのを恐れ、強い吸血鬼に対抗できないハンターに甘んじていて良いのかと。
(良いわけないじゃない……!)
私は、顔を上げてシュリを見た。今度は目を逸らさずに……
「……い」
「え、サラ?」
「構わない、隷属の儀式を行ってもいいわ」
私の言葉に、シュリは信じられないという様子でパチパチ瞬きした後、幸せそうな満面の笑みを浮かべた。
「本当に?」
彼のそんな表情を見て、柄にもなく動揺してしまう。
だから、つい言ってしまった。彼の誠意に応えたいと。
「……ええ、少し不安だけれど逃げたくないし、今よりももっと強くなりたい。それに、あなたが人間を信じたように、私もシュリを信じたいわ」
「……サラ」
シュリは、翡翠色の目を見開くと、私を思い切り抱きしめた。
「えっ、ちょっと!?」
「……嬉しい。サラが、僕を受け入れようとしてくれているなんて」
彼の吐息が首元に当たる。
(ど、どうしよう!? 私、今、異性に抱きしめられて……)
初めての事態に動揺する私に、シュリは更なる追い打ちをかけた。
なんと、私の首筋をベロリと舐めたのだ。
「ひゃぁあっ!?」
「ああ、サラ。可愛い声だね……」
「な、何をするのっ……?」
「一生懸命に僕を受け入れようとしてくれている君が、あまりにも可愛くて、抱きしめたらいい匂いで、我慢できなくて」
「け、ケダモノ!!」
男はみんなケダモノだから気をつけなさいと、過去にアズキが言っていた。
「酷いなあ、サラが魅力的すぎるんだよ。でも……せっかくの信頼を損なうようなことはしたくないし、今日はこれで我慢しておこうかな」
シュリは、私の髪にキスを落とすと、上機嫌で部屋へと去っていく。
「あ、そうそう。約束だから、今夜は一緒に寝ようね?」
最後に大きな爆弾を投下して――
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