2 / 19
2
しおりを挟む
その晩、家畜小屋の中で動きがあった。
「エルフが来た!」
見張り役の雌鶏獣人が警報のように大きな声を上げ、それを聞いた他の獣人たちがベッドから飛び起きる。
マルやサラミも、寝間着の上に上着を羽織って小屋の外に出た。
「サラミ、エルフは……こんな夜中に襲撃してくるものなの?」
「わからないわ。皆、何の知識も与えられないまま、この場所に放り込まれているから」
「……向こうで、悲鳴が上がっているけど」
マルとサラミは、恐怖で引きつった顔を見合わせる。
「私、様子を見て来る……! エルフが家畜小屋の女性たちに危害を加えているのかもしれない」
「ちょっと、何を言っているの!?」
「サラミは、このまま逃げて」
「だめよ、マルちゃん!」
サラミの手を振り切り、マルは悲鳴のする方へ走った。
他の女たちに危害が及んでいるのなら、助けるべきだと思う。
(小さくて無力で世間知らずなハムスターだけれど、家畜小屋行きと同時に王籍も剥奪されてしまったけれど――きちんと「国民を守る」という義務くらいは果たしたい)
てけてけと細い道を全力疾走すると、被害の実態が見えて来た。
黒いフードを深く被ったエルフと思われる男たちが、女たちを捕まえている。
家畜小屋の女たちは、恐慌状態に陥っていた。
「嫌あっ! 離してよ!」
「お願い、見逃して! 私の他にも女がいるでしょう?」
反応は様々だが、女たちは全員が抵抗している。
「大人しくしてくれよ。ったく……女を百人寄越すことに、獣人の国は同意しているんだろ? なんで毎回、こんなことになるんだ」
なかなか言うことを聞かない女にしびれを切らしたのだろう、エルフたちの行動が次第に荒っぽくなっていく。
一人の背の高い男が空中に手をかざすと巨大な魔法陣が現れ、白い光が周囲を照らした。
マルは、本に書いてあった「エルフの使う魔法陣」というものを初めて間近で見た。
過去の戦争で、獣人たちはこの魔法陣の攻撃にやられたのである。
光に当てられた女たちが、よろよろと地面に倒れ伏した。
「今のうちだ、連れて行け」
魔法を使った男が周囲の者に指示を出し、動かなくなった女たちは次々に荷馬車に積まれていった。
女たちが魔法で殺されたのではないかと心配になったマルは、思わず物陰から飛び出してしまう。
「待って、彼女たちに何をしたの!?」
急に突進して来たハムスターを目撃し、周囲の男たちが困惑したように顔を見合わせた。
「心配いらない、眠らせただけだ。明日の朝には目覚めるだろう……おい、この女も連れて行け」
「やめて! 彼女たちは、今まで十分辛い思いをして来たのに。これ以上傷つけないで……!」
言い募るマルだが、何者かに背後から羽交い締めにされて言葉を失う。
黒いフードを被った男の一人が、マルを捕らえたのだ。
「はいはい。わかりましたから、少し大人しくしてくださいね。こっちだって、本当は手荒な真似をしたくないんですよ」
「女性たちを昏倒させておいて、何をっ……ん……」
突如、急激な眠気に襲われ、マルは前のめりに倒れる。
それを、背後の男がしっかりと受け止めた。
きっと、先ほど命令していた男と同じ怪しい魔法を背後にいる男が使ったのだろう。
(なんだか、ハーブみたいな良い香りがする……)
などと考えているうちに、マルは意識を手放してしまった。
「エルフが来た!」
見張り役の雌鶏獣人が警報のように大きな声を上げ、それを聞いた他の獣人たちがベッドから飛び起きる。
マルやサラミも、寝間着の上に上着を羽織って小屋の外に出た。
「サラミ、エルフは……こんな夜中に襲撃してくるものなの?」
「わからないわ。皆、何の知識も与えられないまま、この場所に放り込まれているから」
「……向こうで、悲鳴が上がっているけど」
マルとサラミは、恐怖で引きつった顔を見合わせる。
「私、様子を見て来る……! エルフが家畜小屋の女性たちに危害を加えているのかもしれない」
「ちょっと、何を言っているの!?」
「サラミは、このまま逃げて」
「だめよ、マルちゃん!」
サラミの手を振り切り、マルは悲鳴のする方へ走った。
他の女たちに危害が及んでいるのなら、助けるべきだと思う。
(小さくて無力で世間知らずなハムスターだけれど、家畜小屋行きと同時に王籍も剥奪されてしまったけれど――きちんと「国民を守る」という義務くらいは果たしたい)
てけてけと細い道を全力疾走すると、被害の実態が見えて来た。
黒いフードを深く被ったエルフと思われる男たちが、女たちを捕まえている。
家畜小屋の女たちは、恐慌状態に陥っていた。
「嫌あっ! 離してよ!」
「お願い、見逃して! 私の他にも女がいるでしょう?」
反応は様々だが、女たちは全員が抵抗している。
「大人しくしてくれよ。ったく……女を百人寄越すことに、獣人の国は同意しているんだろ? なんで毎回、こんなことになるんだ」
なかなか言うことを聞かない女にしびれを切らしたのだろう、エルフたちの行動が次第に荒っぽくなっていく。
一人の背の高い男が空中に手をかざすと巨大な魔法陣が現れ、白い光が周囲を照らした。
マルは、本に書いてあった「エルフの使う魔法陣」というものを初めて間近で見た。
過去の戦争で、獣人たちはこの魔法陣の攻撃にやられたのである。
光に当てられた女たちが、よろよろと地面に倒れ伏した。
「今のうちだ、連れて行け」
魔法を使った男が周囲の者に指示を出し、動かなくなった女たちは次々に荷馬車に積まれていった。
女たちが魔法で殺されたのではないかと心配になったマルは、思わず物陰から飛び出してしまう。
「待って、彼女たちに何をしたの!?」
急に突進して来たハムスターを目撃し、周囲の男たちが困惑したように顔を見合わせた。
「心配いらない、眠らせただけだ。明日の朝には目覚めるだろう……おい、この女も連れて行け」
「やめて! 彼女たちは、今まで十分辛い思いをして来たのに。これ以上傷つけないで……!」
言い募るマルだが、何者かに背後から羽交い締めにされて言葉を失う。
黒いフードを被った男の一人が、マルを捕らえたのだ。
「はいはい。わかりましたから、少し大人しくしてくださいね。こっちだって、本当は手荒な真似をしたくないんですよ」
「女性たちを昏倒させておいて、何をっ……ん……」
突如、急激な眠気に襲われ、マルは前のめりに倒れる。
それを、背後の男がしっかりと受け止めた。
きっと、先ほど命令していた男と同じ怪しい魔法を背後にいる男が使ったのだろう。
(なんだか、ハーブみたいな良い香りがする……)
などと考えているうちに、マルは意識を手放してしまった。
0
お気に入りに追加
484
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる