最強勇者と他二名は再び異世界に飛ばされる~この世界は望まぬ御都合主義で廻ってる~

滓神 紙折

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第1章 再来の勇者

第4.5旅 この世界での戦い方は

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said edaori



誰もいない部屋の中で年上の美人と二人きり。

そんなシュチュエーション。

今の俺でも少しは何か感じるものがあったかもしれない。......そこが、大きな椅子が二脚あるだけの、光も音も通さない分厚い壁と扉で覆われた応接室とは名ばかりの取調室でなければ。



「まずは、自己紹介かな。私の名前はカルナ=イレイシス。これから君がDランクに上がるまでは、君の教育係を務めさせてもらうよ。こう見えても冒険者ランクはAAだからね。何でも頼ってくれていいよ。」


と、女は名乗りながら席に座る。

....席に座る。何故か俺の隣に。俺の席に。


いくら、大きめと言っても所詮は一人用の椅子だ。二人以上で座ることは元々想定されていないので普通に狭い。というか何故、対面に座らないんだ。


しかし、今話の腰を折るのは時間の無い俺としては都合が悪い。

それに、教育係とやらがついて自由に動けなくなるのは避けたい。

なんとかコイツの弱みでも見つけられればいいのだが。


取り敢えず流れで話を進める。


「AA....?」


「ん?信じられないかい?こう見えても私、結構強いよ?」


いや、そりゃそうだろ。

詠唱破棄どころか弱体化してるとはいえ俺が、掴まれただけで完全に抵抗できなくなるほどの身体強化系魔法まで使えるんだ。弱いはずが無いだろ。


王宮にいた魔術師の魔法が酷かったんで、勝手にこの世界の魔法レベルは、良くて中の下くらいだと思い込んでいたが、そんな事はなかったようだ。


「...いや、そこは信じる。イレイシスさん、アンタは強い。」


「あはは。ありがと。あと、私の事は呼び捨てでいいよ。」


そう言って女は俺の頭に手を置いてくる。

うざったい。俺の年齢を受付のハゲオヤジから聞いてないのか?

この世界で、15歳と言ったら普通に成人だぞ?


そう思い、自身の年齢を誇示するため、年上だと思わず、呼び捨てで対等に話す事にする。

そもそも俺、15歳ではあるけど、1200年ちょっと旅行してたし。


「そうか。じゃあ、カルナ。なんでAAのアンタが新人の教育係なんてやってんだ?別に見た所、人材不足ってわけでも無いだろ?あと、俺は15だ。子供扱いするな。」


俺が質問すると、カルナは目を逸らす。

これは何か裏が有りそうだと思い、追及する。


「おい。聞いてるのか?」


「ん?あーうん。それは私が君に、というか君のクラスを聞いて興味を持ったからだよ。だからどんな子かな~って思って立候補したんだ。」


この世界でいうクラスとは職業のようなものだ。但し、戦闘に関係のあるもののみ。

例を挙げるなら、戦士や騎士、魔法使いや盗賊、勇者と言った感じで、商人や遊び人は職業(クラス)に含まれない。

このクラスというものは、自身の才能に大きく依存し、才能のある者は複数の中から自由に選択する事が出来るが、才能の無い者は、親が戦士や騎士でも無職(ノークラス)として生産系の仕事に就くらしい。

仕事をしているのに無職とは全く厳しい世界だ。

まあ、それは置いといて、俺のクラスは、何故かは知らないが戦闘職でもない『旅人』で固定されてしまっているらしく、変更が出来ない。


この世界で、俺のクラスが珍しいのか分からなかったので取り敢えず騒ぎにならないようにと思い、俺の戦闘スタイルに一番近い『魔法剣士』を名乗ろうと思っていたのだが....


「クラス?魔法剣士の事か?別に珍しく無いだろ。あと、いい加減俺の頭から手を退けて正面に座れ。話しづらい。」


「あはは。いやいや、珍しいよ。魔法剣士のクラスに就いてる子なんてここ何年も見てないよ。」


「.....何故?」


「何故って、そりゃあ、魔術師なら身体鍛える時間あったら魔法を極めるし、剣士だって、戦ってる間に詠唱なんて出来ないでしょ?それに、魔法なんて無くたってスキルで十分補える。要するに魔法剣士は欲張り過ぎて中途半端になっちゃうのさ。」


「........」


なる程。

この世界の戦い方が大体分かってきた。

魔導師なら、魔法に特化し、戦士なら近接戦闘に特化する。

...しかし、それだと魔法職が弱過ぎないか?この世界でも詠唱破棄は珍しいみたいだし、戦闘中に詠唱なんてしてたら、格好の的に......って、ああ、そうか。パーティーを組めば良いのか.....そういえば俺も昔はそうやって仲間と一緒に戦ってたな。

いつからか、完全にソロで戦ってたから忘れていた。

そもそも、詠唱省略ならともかく詠唱破棄なんて高レベルスキル、高位界の世界でも持ってる奴少なかっ............?

ちょっと待て。そういえば、なんで魔導師でもないコイツが詠唱もなしに身体強化なんて使えんだ?

それに、よく見ればコイツが指に付けてんの魔導具じゃんか。それも、この世界の魔導具とは根本から違う.....。


これは上手く利用すればコイツの弱みを握れるかもしれない。


「あはは。納得いかないかい?確かに君みたいにそれでもどうにかなるって思ってるレアケースもいるけど....普通は」


「アンタみたいにか?」


「......ん?」


「いや、レアケースってアンタの事だろ?.....魔法剣士。というより『詠唱破棄が使える剣士(・)』って感じか?」


数秒の沈黙の後カルナは口を開く。


「............あ、はは。何の事かな....?」


よし。この反応。十中八九俺の考えで合ってるだろう。

問題はやはり、指輪の入手先だが....


「隠さなくていい。そんな指輪付けてりゃ誰だって気付く。....攻撃した相手に麻痺や毒などの状態異常を引き起こすデバフ系の指輪が三つ。自身の身体能力や耐性を一時的に上げる類のバフ系の指輪が四つ。全部で七つ。他人の目に映らない類の魔法が封じ込められた指輪型魔導具だろ?」


カルナの顔に汗が滲む。

俺も悟られないように必死に笑みを浮かべながら慎重に言葉を選ぶ。


「それなら戦闘中でも、詠唱破棄さえ出来れば呪文を唱えず指輪に封じられた魔法を使えるようになる。これを使いたいと念じるだけで、あとは勝手に指輪が魔法を発動してくれるんだから。」


カルナは席を立とうとするがこれを逃がすわけがない。


「おい、どこ行くんだ?まだ話は終わってないだろ?」


「......ちょっと喉渇いちゃって」


「嘘だな。...そう、警戒するなよ。始めにアンタが俺に言った事だぜ?」

「.........」


ここからが問題だ。

相手の反応を見ながら全てを知っていると思わせられるように演技する。


「さて、この魔法剣士を成り立たせる為に、最も重要な指輪型魔導具。ここに来るまでに立ち寄った魔導具店で見た魔導具の構造は全て、内部に貯めてある魔力を使うという物だった。....だが、それじゃあ自分が魔力を出す訳じゃないから詠唱破棄を使う事が出来ない。」


「なら」


「なら、全く違う構造。内部の魔力を使うのでは無く、使用者の魔力を注ぎ込んで魔法を発動させられる魔導具を作ってしまえば良い。」


「そんな事出来るわけが」


「出来るはずだ。アンタの『力』なら。」


「...!!何で私のスキルの事を.....君、一体何処まで知って......」



よし。かかった....!

『力』って言葉は指す意味が幅広く、汎用性の高い言葉だ。

金、地位、権力、他者との繋がり、そしてこの世界で言うところの特殊技能。

つまりは、魔法や、スキルの類だ。

残念だが、今の俺では他人のステータスや考えが読めない以上、相手の口から聞くしかない。

そして、この場合、『力』という言葉に当てはまったのは『スキル』だったというわけだ。


スキルの明確な効果は分からないが、話の流れから恐らくは魔導具作成に関係のあるスキルだろう。

まさかコイツ自身が、魔導具を作れるとは思ってなかったが。


さて、あとはこっちの要望を飲ませれば終わりだ。


「AAランカー、カルナ=イレイシス。アンタ程の冒険者が自分の能力が他人に知られる危険性を理解出来ないわけがないよな?」


「..........」


「知ってるか?噂ってのは思いの外すぐに広まるんだぜ?有名人の噂は特にな.....あ、ところで、話は変わるんだが、アンタに一つお願いがあるんだ。」


「......それは脅迫として受け取ってもいいのかな....?」


カルナが剣に手を掛ける。

今のレベルでこいつと殺り合うのは不味い。

恐らく負ける事はないが、此処はギルド内だ。それに、此方も無傷では倒せないだろう。


背中に、冷や汗を流しながら、それでも余裕な態度は崩さず表には出さない。


「お願いって言ったろ?新人冒険者が教育係であるアンタに対して頼みがあるだけだ。別に脅してるわけじゃないさ。......で、聞いてくれるか?」


目の前の女が頷く。

危なかったー。

ホッとし、口元が緩む。


「契約成立だな。」


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