小さな黄色の花を咲かせる頃には

ひまわりまま

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第十一章

秋の始まり

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あれから私は実家に帰るたびに、あの通学路を一人歩くようになった。
巡り行く季節の中で懐かしい風景は所々その形を変えながらも、あの頃の面影を残している。
背の高さはあの頃と違うから、幼い頃見た景色を少し高い角度から眺めながら私は歩いてゆく。
その中を歩いていると、私の心は小学生のあの頃にいつの間にか戻って行った。

 この通学路を一人歩いてみるようになってから何度目のことだろうか。
暑い夏が通り過ぎ、穏やかなあたたかさを取り戻した頃、ちょうど秋の始まりに私はまた一人この通学路を歩いていた。
右手にあの田んぼを見ながら、その先にある同級生の家を通り過ぎたころ、視線の先に短い髪にデニムの上着をはおり、黒色の細いジーンズをはいた女性が立っているのが見えた。
ちょうどそこはあの思い出の木の下だった。
女性は木を一心に見上げていた。
木を見上げるその目を見た瞬間、私はあの秋の終わりに引き戻されていった。
「風華!」私の声に女性は振り向いた。
その目が一瞬驚いたように大きく丸くなった後、
懐かしいあのきつくて、でも瞳の中は優しさを持っている私の知っているあの目に変わった。

「久しぶり」懐かしい風華の声だ。
「仕事でちょうどこっちに来てね、ふいにこの木を見たくなって来てみたんだ。あんたは?」
私は聞きたいこと、言いたいことが胸の中に一気に溢れてきて、すぐに言葉が出なかった。
風華は私から木のほうに目線を移し、
「この木にこんなに葉っぱがついてるのを見たの初めてかもしれないな」
風華はこの木のことを旧友にでも会ったかのような眼差しで見上げていた。
「あの時は枯れ葉だったからね。でも風華がいなくなってからこの木は毎年、緑の葉っぱをたくさんつけて、春には小さな黄色の花を咲かせているんだよ」
その時私は、春に咲くあの小さな黄色の花を風華に見せたい!そう強く思った。
木を見上げながら風華は「そうなんだ。この木は小さな黄色の花をつけるんだね。初めて知ったよ。」「私、その花を見てみたい!」
風華は私をまっすぐに見つめながらぱっと明るく力強い声で言った。

私は風華と今、同じあの小さな黄色の花のことを思っていることが嬉しかった。
そして風華と一緒にその花を見上げたい!
強く強く願った!!

「風華!来年の春、ここで会おう!
風華のちょうど誕生日の日に。ここで。」

私の言葉に風華は何度も何度もうなずいた。





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