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第20話 檻とヘルムと悪臭と

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「お前はどこの人間だ!!どこから来た!!!」

 今僕はトカゲの獣人に頭を机に押し付けられて、めちゃめちゃぐりぐりされている。

「だから王都の闘技場から来たって言ってるじゃないですか、途中で盗賊に襲われて身ぐるみはがれたんですよ」

 ドン!トカゲが机を叩くと頭にも響いてくる。

「そんなもん信じるわけないだろう!身元を保証できるものを持っていないしブレスレットも付いていない!すぐばれる嘘をつくな!貴様はどうやってこの砦の裏側へまわったんだ!!」

 その後も全然信じてもらえず、かなり殴られ顔を腫らして牢屋に戻された。

 次の日の朝、腰蓑一丁で寒さに震えていると誰かが牢屋の前へやってきた。

「はぁ、やっぱりシュウか…君は本当に何をしているんだ」

 そこには三毛猫の獣人、ダッシュが立っていた。




 あの後、僕はダッシュに牢屋から出してもらって、お湯をもらい体を洗い新しい服に着替えてご飯を食べていた。


「本当に君はトラブルが尽きないね、どうすれば王都からの道すがら盗賊に身ぐるみ剥がされ、ドラゴンに骨まで焼かれたうえに呪印を刻まれ、最後は腰蓑だけで砦までたどり着くんだい?僕が居なかったらずっと牢屋の中だったよ」

 暖かい飲み物をもらい、ほっとしたせいで少し涙ぐみながら答えた。

「こっちが聞きたいですよ!普通に野営してるだけで気が付いたら獣人に取り囲まれてるし、檻に入れられるし、ドラゴンは飛んでくるし、めちゃめちゃブレス痛かったんですよ!」

「まぁでもここへたどり着けて良かったね、ドラゴンは普通無いけどね」

 そう言ってダッシュは紅茶を飲みながら、やれやれと言った態度でさらに口を開いた。

「それにしてもだよ。せっかくここで上官として出てきて驚かせようと思ったのに、まさかこっちが驚かせられる羽目になるとはね」

 だから別れの挨拶があんなにそっけなかったんだね。

「全部ドラゴンのせいですよ、僕は普通に観光も少しだけしかせず真面目にこっちに向かっていたんですから」

「はぁまぁいいか、それにしてもその呪印って言うのは何かわかったのかい?」

 そう言いダッシュが僕の右腕を覗き込んだ、すると目が開きダッシュを睨んでいる。

「なかなかすごいねそれ」

「こら!睨むなよ!これについてわかったのは行きたい方向を教えてくれるくらいですね、いまだに他の機能は使えてないですね」

 呪印にダッシュを睨んだ事を注意すると目が閉じ刺青自体も消えていった。

「不思議だね、ドラゴンと目が合って生き延びただけでも奇跡なのに呪印を付けられるとか、その話だと昔話も違うのかもしれないね」

「昔話ですか?」

 ダッシュは少し考えて紅茶を一口飲み話し始めた。

「この国にある昔話でね、獣人の英雄がドラゴンを倒すも呪印を全身に刻まれてしまうんだ。でも呪いに苦しみながら強敵と次々戦い続け、最後は人間からこの王国を勝ち取り建国してその後を子供たちに託し死んでしまう。って言う初代建国王アルケイオス様の話だよ、もしかすると彼はドラゴンを倒したんじゃなくて呪印をもらってその力で敵を倒し、最後にその力で死んだのかもしれないね」

 ダッシュが言うにはこの物語は子供でもみんな知っているみたいで、獣人の子供は体に呪印を描いたりして遊ぶらしい。

「昔からドラゴンは居るんですね、因みに何匹くらい種類がいるんですか?」

「数はそれなりにいるけど普通のドラゴンは喋らないし例外は居るけどブレスも吐かない、サイズもそんなに大きくないよ、シュウが会ったのはたぶん古代龍だね」

「じゃあ古代龍は僕が会った黒いのだけなんですか?」

「ん-確かではないけど赤・青・白・黒の4柱は聞いたことがあるよ、物語でも有るし。まぁどれも会った人なんてほぼ居ないし会っても死んでるんじゃないかな?大きな影を見たとか焼き払われた跡があったとかそういうのはたまにあるけどね」

「あんなのが後3匹もいるのかぁ、とんでもないですね」

「まぁそのブレスに焼かれて生きているシュウもとんでもないよ、さてご飯は終わりにしようか、これからシュウは僕の小隊に編制されるんだよろしくね」

 そう言って手を出して来たので握手をかえした。

「とりあえず今日は小隊の者と顔合わせをしよう、部屋へ案内するよ」

 そう言いながら立ち上がったダッシュが出口へ向かいながら振り向いて口を開いた。

「ああ、そういえば一つ、ここでは僕の事一応隊長でお願いするね」

「はい分かりました!隊長!」

 軍隊っぽく返事を返すとダッシュが笑いながら部屋の扉を開けた。

「あはは、そうそう、そんな感じ。切り替え早いね、まぁでもそんなに固くなくてもいいけどね」


 ダッシュに続いて廊下を歩くと人間が珍しいのか行き交う獣人が僕を二度見していく、そして石で出来た砦の中は狭いうえに複雑に入り組んでいた。

「ねぇ隊長、人間って僕以外居ないのかな?後なんでこんなに入り組んでいるの?」

「人間はシュウだけだね、あとこの砦は敵が入り込んだ時の足止めにもなるからね」

 そんな会話をしながら登ったり降りたり、とても迷いそうでそろそろ来た道がわからなくなって来た頃にやっと目的地にたどり着いたみたいだった。

「さぁここが僕たち小隊の部屋だよ」

 木製の重い扉を開けると窓から光が差し込んでいて廊下よりかなり明るかった。部屋の中は思ったより広く左右の壁に二階建てベッドが二台ずつ置いてあり奥に数人が座れるテーブルとソファがあった。

「お疲れみんな、新しい仲間を紹介するねコロシアム出身で人族のシュウだよ、そしてこっちが虎の獣人ラグー、狼の獣人ディコ、兎の獣人パットルだよ。みんな仲良くしてね」

 ダッシュに紹介され挨拶すると虎の獣人がこちらへ近づいてきて肩に手を置いた。

「ワレが隊長の言うとった人間かよろしゅーな!死なずの十三番なんて呼ばれとったらしいなワシとも今度手合わせしたってや!」

「あー、機会があればよろしくお願いします」

 ラグーはニアさんと同じ出身地かな?訛がすごい。

「シュウ!ワシには敬語はいらんで、堅っ苦しいのは無しや」

「う、うんわかったよ」

 こんどは横から狼の獣人が手を出して来たので僕も握り返した。

「俺はディコだよろしくな、俺はお前の試合見たことあるぜ!隊長に聞いてて勝たせてもらったから今度いっぱいおごってやるよ」

「ありがとうございます」

 そのあとスッと白い兎の獣人がベッドから立ち上がり口を開いた。

「パットルだ」

 兎は無口でほぼ喋らないとみんながフォローしていた。

 それから僕たちは親睦を深めると言う理由でおしゃべりをして色々話を聞いたが、渓谷以外は人間の国とはかなり高い山で塞がれていて通り道が無いらしい、そして驚くことにこの渓谷は古代魔法時代の遺物の力で山が削り取られて出来たという話だった。古代魔法時代は相変わらず何でもありだね。

 そしてここ最近は人間が攻めてくるのも少ないので基本的に仕事は巡回と砦の向こう側の斥候らしい、ほっておくと向こうにも砦を建てられるかもしれないからと言っていた。

 闘技場の話などで盛り上がっていると夕方になり、明日は朝から小隊の仕事があるとの事でみんなで食堂へ行き食事を取って眠りについた。布団で眠れるのは最高だった。


 次の朝、カーンカーンとゆっくと響く鐘の音で目が覚めると、上の段で寝ていた虎の獣人ラグーが顔を出した。

「シュウ!めしの時間やで!はよ起きや!」

 そう言いながら頭から落ちて来たのかと思ったら器用にクルリと着地した。

 ラグーに急かされた僕は急いで布団を畳んで隅においてある水瓶で顔を洗った。

 その後みんなの準備がおわりそろって食堂に行き、列に並んで朝食貰って席についた。ちなみに食堂のメニューは毎日違って選べないらしい。

「いただきます」
 手を合わせる僕をみんなにチラッと見られたが砦には色んな種族が居るのでそこまで気にしないみたいだ。

 今日の朝食のメニューは蒸した芋と肉の塊が入ったスープにパンだった。

 芋は蒸して少し経っているのか硬く食べづらかったが周りの獣人が潰して食べていたので真似をするとマッシュポテトの様でまぁまぁ美味しかった、スープは塩味が強くお肉もかなり噛みごたえがあったが周りの獣人の歯を見て納得した、特にディコ。

 最後に硬いパンもスープに浸して食べるとかなり満腹になったが、これから夜まで仕事だと思うと納得の量と塩分だった。


「よしシュウ今日は巡回と食糧集めや、兵士控室行って装備もろて外に集合や行こか!」

 ラグーがこの小隊で僕がくるまでは一番下っ端だったらしく僕の世話をしてくれるのでありがたい、まだ一人だと迷子になりそうだし。

 ダッシュたちは他に用事があるらしく、兵士控室にはラグーと二人で喋りながら向かった。

「そういえばシュウは異世界から来たんやろ?異世界で一番強いんはどんな奴やったん?」

「んー僕のいた世界ではあまり個人の戦いは無かったんだよ、戦争とかもこっちで言うと魔法?の撃ち合いみたいな感じだね多分、逆にこの世界で一番強い人どんな感じ?」

「せやなぁー、一番かどうかは知らんけどやっぱり怖いんは魔法使いやな、さっきのシュウのいた世界と一緒で魔法は一発一発が強烈やからな、しかも魔法使いはとんでもない身体強化が出来るさかい肉弾戦でも厄介やで、シュウも戦場で出会ったら気をつけや」

 昨日みんなで喋って居るときに異世界の話をして盛り上がったので今日もその続きだった。

「そういえば僕も魔法使えるかな?」

「シュウが?んーそれは分からんなぁワイらは獣人やさかいな、魔法は使えるんやけど体内での循環しか出来ひんねん、だから出来るのは身体強化だけや、せやけど人間の魔法使いはそれを体外へ出す事ができるっちゃう話や、まぁ人間の魔法事情に関しては人間しか知らんのちゃうかなぁ」

「そうかぁ、ありがとう、魔法が使えたら良いなと思ったんだけどそう簡単には行かないかー」

「まぁええやんシュウは不死身なんやろ、期待してるで、なんかあった時はシュウを盾にしてええんやろ」

「嫌だよ痛いのに!」

「あはは冗談やん、ほら兵士控室着いたで、失礼しますー」

 両開きの分厚い扉をくぐり中に入ると、そこには武器や鎧がたくさん置いていてそしてすごく汗臭かった。

「ええ匂いやろ?」

 ラグーがこちらを見ながら鼻を摘むポーズをしてくる。

「確かに凄いね」

「みんなの汗と努力と汗と汗と汗の結晶やわ」

「なんか嫌だねそれ」

 そんな事を言いながらラグーが僕に合いそうな革鎧を揃えてくれた。

「それと、シュウは集団戦の時に人間の軍と間違われると困るさかいこれ被っとき」

 そう言って手渡されたのは猫の耳と顔が彫ってあるフルフェイスだった。

「くさっ!めちゃめちゃ獣臭がするんだけど洗ってるのこれ?!」

 笑いながらラグーが硬く絞ったタオルを渡してくれたので拭いてみるとタオルが茶色くなった、汚い。

「まぁでも戦場で後ろから刺されたくないし、とりあえずこれで行こうかな暑いけど」

 入ってきた方と反対側のドアから出ると外へとつながっていた。

「着替えてそのまますぐ外に出れるようになってるんだね」

「そうや、なんでもさっとやってさっと出て行かなあかんからな!モタモタしてるのが一番あかんわ、せやからさっさといくで!」

 そう言いながら集合場所へ向かっていった。



「本当にシュウかい?」

「そうです、ラグーが敵の人間と間違えられない様にってこれをかぶるように言われました」

「そ、そうかもしれないけどフェイスガードは無いよね」

 ダッシュは笑いをこらえている感じだった。

「に、似合ってるぞ、プッ、グククク、ワハハハハ」
 狼の獣人のディコは腹を抱えて笑っている。

「もう意地でもこれで行きます」

「拗ねた」

 兎の獣人パットルがボソリとつぶやいた。


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