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第2話 森と焚き火と一人ごと
しおりを挟む「あー、いい天気だねー」
僕は草の上で背伸びをして大きく息を吐いた。
「あー、それにしてもここはどこですかねー、普通異世界転生とかって町の近くとか草原の丘の上とかじゃないんですかねー?」
もちろんそれに答えるものは誰もいない、目に映る青空には雲一つなく輝く太陽、そこにあるのは丸く風穴があいた大きな薄い月だけ、やっぱり完全に地球じゃないね。
「それにしても夢じゃなかったんだね異世界転生、何あの月?誰が穴開けたの?服も何でこのリクルートスーツ?もっとお気に入りのがあったよね?ジャングルに革靴って酷ひどいよ、あーとりあえず上着脱ごう暑い」
このどうしようもない状況に無駄と分かっていても悪態をつきながら起き上がって上着を脱ぎシャツの袖を折り返し周りを見渡した。さっき木に登ったり周辺をうろうろしてみたけど人里は見えないし見渡す限りジャングル、完全に終わってるなこれは。
「とりあえず生きるために動かないとね、話の通りなら死なないけど」
誰も聞いていない所で独り言をつぶやきながらトボトボと歩き始める。
それにしても周りに誰もいなさすぎて独り言でも言ってないと寂しすぎるよ、寂しさで死んでしまうんじゃないだろうか、っていうかほんとに死なないのかな?怖くて試せないんだけど。
「まぁ現状行けるとこまで行くしかないか」
とりあえず最近見てたサバイバル動画が役に立ったな、まずは薪を拾いがてら水や食べ物を探して森を歩いてみるか。
しばらく薪を拾いながら歩いていると少し開けた場所に出た。地面も平らだし草も少ないしここいいな、僕はそこを中心に大きめの木を集める事にした。
「エー、皆さんこんにちわこんばんわ!秀太です。今から集めた木材でこの辺の少し開けた場所に拠点を作りたいと思いまーす!」
ネットで見た動画配信のマネをしながら寂しさを紛らわせ、早速拾ってきた木で拠点を組み立てていこう。
長めの木を地面に石で4本打ちつけ、そして下から30センチくらいのとこに横向きに木を組んで蔓で縛りつけて、そしてまたその木に床になる木を並べて、蔓で結んで…
「これ思ったよりきつい、ナイフの一本でも欲しかったなぁ」
それから2時間かかって何とか完成した。全身汗だくで白いシャツも木を担いだりしたので肩や胸に茶色い汚れがたくさん付いてしまった。
「はぁはぁ、出来ましたー!屋根はこのでっかい葉っぱをたくさんかぶせてっと完成です!」
もう動画実況風はいいや寂しくなるだけだ、早速この我が家で休憩しよう!
拠点は幅が2メートル奥行きが45センチ程のベンチのような作りでとりあえず寝転がれるように地面から離してある簡単な作りだ、屋根も大きめの椰子の葉っぱみたいなのがあったのでそれを適当に載せてるだけなので強い風が吹いたら全部なくなるかもしれない。
「まぁでもいいよね!気温がジメジメしてなくて服装もスーツじゃなければもっといいんだけど、あと壁と絨毯とついでにエアコンがあったらもっと最高だけどね」
しばらく達成感に浸りながら寝っ転がっていると木と木が擦れる音が大きくなっていき、やがて床が柱から外れ大きな音を立てながら全部倒れてしまった。
「痛ったぁ!」
全然だめだった、蔓で柱に結んだ場所が緩んでそのまま抜けて全部下まで落ちた。これじゃあ地面の上に木を並べて寝てるのと一緒だ、屋根も全部倒れたし。
「と、とりあえず拠点は後にして火をおこそう!なんか無人島の動画でもサバイバルは火が大切って言ってた気がする」
現実逃避気味にさっき拾ってきた木から乾いてそうなのを選び木の凹みに細い木をあてがい、両掌でこすり合わせて原始的な方法で火を起こしてみる。
「シュリシュリシュリシュリ」「シュリシュリシュリシュリ」「シュリシュリシュリシュリ」
「シュリシュリシュリシュリ」「シュリシュリシュリシュリ」「シュリシュリシュリシュリ」
「えええ、これほんとに火が着くのかな。。。ちょっとだけ焦げた匂いはするんだけど、もう30分くらいやってるし手の平真っ赤だし・・・」
それから黙々と一時間ほどこすり続けたが火はつかなかった。
「無理無理ーむぅるいぃいいいいーー!」
茶色い粉が出るだけで火が起きない!もしかしたら湿気のせいかな。動画の人すごすぎるよ改めて尊敬するね。それにしても腕がだるすぎるし手の皮がボロボロだよ今日は無理かも、とりあえず喉乾いたから水を探そう。
そのあと夕方になるまで周りを探したけど何も見つからずしょんぼりして拠点へと帰った。
「あーぁぁ、そういえば拠点崩れてるんだった泣きそう」
それから暗くなるまで拠点の修正に時間を注いだ。
「あー、ジャングルの夜中ってもっと暗いのかと思ったけど空のあの月のせいか少し周りが見えるなぁ」
空には昼と同じように丸く欠けた月が浮かんでいた。その月は青白く光り夜をうっすらと照らしている。どこか遠くで狼のような鳴き声も聞こえるし虫の声もすごい。
「もう寝ようやることないし、あー明日こそ水と食料を確保するぞ!お休みお月さん」
狼の声や虫の声が怖くなって現実逃避して目をつぶってしまうと昼間の疲れのせいかあっという間に意識を手放していった。
「ああああああああ!痒いー!蚊がいるよ蚊!蚊かしらんけど!!」
寝れない!せっかく眠りについたのに痒くて起きたよ。なんか小さい虫が飛んでるし痒いしキモイ!デカい蛾みたいなのもいるし。
「ジャングルとかいやだー、布団が欲しいー、壁も欲しいー!あ、あと屋根も!それと蚊取り線香とおにぎりとコーラと唐揚げとあと彼女も」
そんなこんなで寝たり覚めたり掻いたり掻いたり掻いたりしていると東なのかわからないけど空が白んできた。
「ぐあぁぁ、眠いけど眠れないし食べ物と水探そう」
今日は一方方向へ歩き続けよう、とりあえずわかりやすいように太陽に向かって歩いて行く事にした。
迷子にならないように枝を折りながらしばらく歩くと昨日うろうろした場所を少し抜けたあたりに急に川があった。
「ふおぉぉぉ!水だー!!」
昨日から水を飲んでないので喉がカラカラだった、しかし川だけど5メートルくらいの幅で流れも緩い、水も若干濁ってる気がする。
「どうやって飲もう、流石に直接行く勇気はないな、ペットボトルとかも落ちて無いしね」
確か水辺の横の地面掘って染み出してきたやつを飲むと土が濾過してくれるとか聞いたなぁ、さっそく手で湿った地面を掘ってみるとじんわりと泥水がしみだしてきた。
しばらく待ってみると上の方が少し透明感が出てきたので飲んでみることにした。
「うわぁ、これはコーヒー牛乳、これはコーヒー牛乳うぅうぅ」
唇をタコの様にすぼませて直接水たまりから水を飲むと、のどが渇き過ぎていたせいか少し甘く感じた.。そして鼻から抜ける土のにおい。
「風味は完全に土だ、でも止まらない!ぷっはー!まずかった!」
けっして美味しくはなかったけど体の中の何かが満たされた気がする。ついでに尊厳が少し失われた気がする。
それから途中で食べれそうな無花果の様な形の木の実を見つけ、一つかじってみるととても青臭く酸味が強かったが食べれないこともないので2,3個食べ拠点でもう一度火起こしに挑戦してみることにした。
「食べ物と水を飲んだから大丈夫、今日こそ火をつけるよ!途中で乾いてそうな木と火口になりそうなふわふわの枯れた草も見つけたし!今日はやる!!」
自分に言い聞かせながら拠点の中でひたすら木を擦り続けた。しばらく擦り続けていると、昨日と同じように焦茶色の粉がたくさん出てきた。
川からの帰りに松脂のようなベトベトした樹液を見つけたので先に塗っておいたのが効いてるのかもしれない!それでも擦り続ける事1時間、その時は突然訪れた。
細い白煙が上がり始め、小さなオレンジ色のカケラが生まれた。僕は焦る気持ちを抑えて慎重に震える手でオレンジのカケラを火口に移し、両膝をついて祈るようなポーズで優しく優しく息を吹きかけ続けた。
すると煙がどんどん増えていき、やがて手の中の枯れた草に火がついた。
「あっつあつつ!」
熱くて落とした火口の上に残った枯草と小さめの木を重ねていく。
「来たー!さぁ火を育てないと!」
焚き火の火は育てていくものらしい、なので小さな薪からだんだん大きな薪を乗せていく。するとパチパチと木がはぜる音と共に焦げた匂いと煙が上がり火が大きくなっていった。
「やっと、やっとまた一つ人間らしい生活に近づいた!消えると嫌だから1番でかい薪もくべとこう!」
若干涙ぐんだのは煙のせいか火がついた喜びかわからないけどこれで夜も虫対策が出来る!
「虫は煙で寄って来なくなったりするみたいだからね、これできょうぶぁぁオロロロロロロッ」
まさかの突然の人間マーライオンだった。
嘔吐が止まらないお腹も痛い、だんだん体の節々も痛くなってきた上に熱っぽい。
これはまさか水のせい?迂闊だった。まず火を起こして水を沸騰させるべきだったのか。
散々体の中の物を上と下から出し続けて気がつけば次の日の朝だった。
「はぁーやっと治ったよー、死ぬかと思った不死だけど」
本当に不死なのかなぁ死なないだけで他は普通に病気になるとか地獄なんだけど。まぁ生水の怖さが身に染みたよ、本当に今生きてるのが不死のおかげじゃ無いかと思うくらいお腹も痛かったし。
「とりあえず水はなんとかして沸かして飲もう、後何か食べたいなぁ」
昨日全部出ちゃったからね、とりあえず一旦水場へ行こう。
フラフラとした足取りで昨日の水場へ向かってると1メートル以上ある黒っぽい蛇を見つけた。
「でかいって言うか長い!やっぱこれは食べるしかないかなサバイバル的に」
正直蛇は嫌いではない。食べるのじゃなくて飼う方だけど、先が少し別れた1メートルほどの棒を持って蛇の後ろからそっと近づき首を上から押さえ手で素早く掴んだ。
「うえっ臭い、蛇って超生臭いんだけど」
うわぁーこれを食うのかぁー。若干しょんぼりしながら頭と尻尾の先を持って拠点へと戻った。
すごく嫌だけど生きるためにいただきます。まず石で頭を叩いて取ってしまおう。
「すごいな、首がないのにガンガン絡み付いてくる」
首の辺から力任せに皮を引くと綺麗に剥けた。
「意外と蛇の皮って簡単に剥けるんだね!」
このどうでもいい感動を誰かに伝えたかった。そんなバカな事を考えながら皮を剥いた蛇の内臓を取りその身に枝を刺してっと、うわぁまだ動いている。
石で強引に叩き切ってそれを何個かに分け、少し匂いのある肛門部分は破棄して残りを焚き火で炙って焼いてくことにした。
しばらくボーッと焚き火を眺めてるとちょっといい匂いがしてきた。お腹が空いてるからなのか蛇からいい匂いがしている。
「焚き火で焼くのって時間かかるんだね」
かなり焼くのに時間がかかった。昨日の晩から僕のお腹の中は空っぽでペコペコだ。
「いただきます」
恐る恐る端っこから齧ってみた。
「えっ、何これうまい!」
表面はカリッとして食感も風味も骨せんべいのようになっている。でも中の部分は小骨が多いけどよく噛めば大丈夫、味はほぼ鶏肉だ。全身筋肉だから噛めば噛むほど味がある。これは美味しい。
「これから蛇見つけたら気持ち悪いじゃなくて美味しそうって言ってしまいそうな自分にがっかりだよ」
一人でバカな事を言いながら半分を食べ終わり、残りは夜に食べる事にしよう。残りの焼いた蛇は焚き火の上で燻製のように煙が当たるところに置いておく事にした。
さてお腹も膨れたし水をどうにか汲みにいこう。
「そうだ!いいこと考えた!」
蛇の皮が袋状になってるのでそこに水を入れてくる事にした。
「先人の知恵はすごいね、もし日本へ帰る事があったら動画配信者に寄付しよう」
バカな独り言を言いながら生臭い蛇の皮を持って僕は川へと向かった。
川の横で穴を掘って蛇の皮を洗ってると後ろでガサガサと音がするので急いで振り向くと。
「うさぎ?」
茶色い可愛らしいうさぎがこっちを見ていた。そしてその頭には体にしては長めの角が生えていた。
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