名探偵になりたい高校生

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八十話 体育祭 五

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続いての競技は障害物競走だ。
午前中最後の競技である。
まずは女子からのスタートで、うちのクラスは堀田さんと麦野さんで、まずは堀田さんからだ。
競技に出場するからなのか、いつもの地味なメガネでは無く、メガネのフレームの両端が尖ったメガネを掛けていた。

「寧々さーん!!頑張って下さいーい!!」

柳さんは大きな声で堀田さんを応援している。
堀田さんは柳さんの声が聞こえているのだろう、柳さんに向かって手を振って応えていた。

「うーん。堀田さんってやっぱり、胸でけえよな」

近くに座っている、近衛くんが独り言の様に呟いている。
彼は、女子のそう言った部分をよく見ているだろうか?
だが、堀田さんの胸に目が行くのはなんとなくわかる。
堀田さんは普段は、制服を着ているから分かり辛いが、隠れ巨乳だ。
俺もそれに気が付いたのは去年の文化祭だし……。
体育祭では当然体操服の為、堀田さんの胸の大きさははっきりと浮き出ていた。
なぜ俺は去年は気が付かなかったのだろうか……。

「うーん……。あれはEカップくらいあるな」

近衛くんの分析は続いていた。
その近衛くんを冷めた目でみる灰村だが、自分を見られている訳では無い為、そこまで気にする事無く堀田さんを見ている。

「灰村、堀田さんは勝てるかな?」
「一応勝てると思って、この競技に選ばせて貰ったけど、四組には思ってた通りの人が出てきたわね」

俺は堀田さんの隣に立つ女子を見た。隣に立つ四組の女子。
それは、堀田さんと同じ部活である、倖田さんだった。

「あれは倖田さんだよな。あの人は強敵なのか?」
「彼女は去年の障害物競走で一位を取っているの。だから、今年もそれなりに活躍するのかなって」

倖田さんか。
去年のクリスマス会でちょこっとだけ話したが恋バナが好きな女子としか印象はなかったけど、体育祭で一位を取っていたとはね。

「寧々ちゃん、寧々ちゃん。まさか一緒に走れるなんてね」
「そうだねー。倖田さんがいるとは思いもしなかったよ」
「うっそだー。寧々ちゃん鋭いから、勘付いてたでしょー」
「倖田さんと競うとまでは思ってなかったさ。まあ、よろしく」
「うん。本気でやってね」

堀田さんと倖田さんが何やら話している中。先生がスターターピストルを構えた。

障害物競走のコースは、まず始めに、平均台の上を歩き、次にネットの中を潜り進んでいくとテーブルの上に置かれた台に入った小麦粉の中から飴を見つけ、紐で吊されたパンを咥え、最後にたくさんあるハードルを飛びながら進んでいく事になっている。

レースが開始されると、まずは飛び出しのは四組倖田さんだ。
流石去年も出場し、一位になっただけあって平均台の上をスムーズに進んでいる。

「はっはー!!これは私の独壇場かな!!」

平均台をなんなくクリアし、一位のまま次へ進んでいく倖田さん。
そんな倖田さんを見ているが自分のクラスの選手である、堀田さんが気になる。堀田さんは現在何位だ?

「これは……。予想以上だったわね」

隣に座る灰村がそう言うと堀田さんがいるであろう場所を指を差した。

「障害物競走って結構簡単だったんだな」

なんと堀田さんは、紐で吊られたパンを咥えた後、咥えたまま最後のハードルを飛び越え、今まさにゴールをしようとしていた。
大きな胸が激しく揺れるのを近衛くんはゴクリと唾を飲み込み眺めているのが気になるが、そんな事より俺が倖田さんを見ている隙にいつの間にか堀田さんは倖田さんを抜いていたらしい。
いや、そもそも抜く以前に堀田さんは最初っから一位だったのかも知れない。
彼女は一体何者なんだ。

「堀田さんって、私が思っていた以上に器用に事をこなすのね。これは嬉しい情報だわ」

灰村は嬉しそうに、笑みをこぼしながら堀田さんを見ている。
堀田さんは祭りハンターなど言われているからただ者では無いとは思っていたけど。

「堀田さんって去年どの競技に出場してたの?」
「女子全員参加の玉入れだけよ。他の競技は目立ちたい女子が積極的に参加してたし、目立ちたくない堀田さんは玉入れだけ参加し、競技は適当にやってたよ。本当は行事ごとは楽しむ性格だから、ちゃんと指名すれば必ず成果を残す娘なのにね」

だから去年の堀田さんに対する記憶が無いのか。彼女が活躍していれば覚えているはず。
それにあの巨乳にも早めに気が付いていただろう……。

堀田さんは余裕で一位となり、片腕を上げ、ガッツポーズを決めていた。
「すごーい。堀田さん、やるわね」

去年同じクラスであった、嗚呼さんも堀田さんの実力に驚いていた。
嗚呼さんも去年の堀田さんの記憶は無いらしい。
第一レースは堀田さんの圧勝で終わり、続いては第二レース。
出場者の麦野さんはスタートラインに立ち、緊張しているのだろう表情が硬かった。

「ゆりあちゃん頑張れよー!!」

快斗の声援が聞こえているのだろうが、麦野さんはピクリとも動かない。あれは相当緊張しているな…

「麦野さんめちゃくちゃ緊張してるな」
「うーん。順番を間違えたかな」

麦野ゆりあ。
話した事は一度も無い。
去年彼女が何組にいたのかさえ知らない俺は彼女事はまるで分からない。
だが、灰村は違うだろう。
灰村の情報力で、麦野さんの事は調べているはず。
その上で麦野さんを選んだはずだ。灰村を見ると、腕を組みながら麦野さんを真っ直ぐ見つめている。

先生が、耳に手を当て、スターターピストルを鳴らすと、一斉に全員が走り始める。

「がんばらないと、頑張らないと!!」

麦野さんは、スタートダッシュを決め一位にまま、最初の障害である平均台に乗って両手を広げ、バランスを取りながら進んでいく。
その後を追うのは四組女子だ。
灰村の話じゃ、この体育祭、一番の敵になるのは間違いなく四組になるとの事。
その話の通りこれまでの競技では四組が二位になる事が多い。
100m走女子では、上手い事潰せはしたが他の競技では上位に食い込んでいる。
さっきのレースも四組の倖田さんが二位だったし。

「堀田さんは第二レースに出場して貰えばよかったかも」

灰村は唇に手を当てながら言っている。
この体育祭で初めて灰村が自分の判断に不安を感じている様に見えた。
その不安が的中したようで、麦野さんはパン食いに苦戦をしているうちにどんどん抜かれていき、ゴール前で一人抜きはしたが、結果は四位と終わった。

麦野さんは、肩を落とし残念そうな表情をしながら歩いて帰ってくると灰村の元にやってきた。

「ごめん……。私、勝てなかった」
「大丈夫よ。お疲れ様。麦野さんは次の競技に備えてね」
「……うん」

負けた事が相当悔しかったのか、瞳に涙が滲んでいるようにも見えた。
俺が見ていると、麦野さんは視線に気が付いたようで、目をゴシゴシと擦り、俺の横を通り過ぎていく。

「麦野さん」
「……なあに?」

呼び止めて見たが、何を話そう。
麦野さんと話した事はない……。
でも凹んでいる麦野さんをそのまま帰すのもな……。

「えっと、次で挽回すればいいさ。気にしないでね」
「うん、ありがとう。次は必ず貢献するね。間宮くんって優しいんだね」

麦野さんはそれだけ言って自分の席に戻っていった。戻ってからは周囲の友達にどんまいと声を掛けられている。
チラチラとこっちを見ているが、灰村の事が気になるのだろうか?

「これまでうちのクラスの成績が良すぎたせいもある。ほとんど上位の成績を取ってた他の人達に自分も負けない様に気を張り詰めてしまった。だから麦野さんは本来の力を出せずに終わった。プレッシャーに弱かったって事ね。本来の彼女だったら、のびのびと走り、一位を取れていたはず。まあ、麦野さんを悪く言うつもりはないから、彼女は気持ちを落ち着かせて午後の競技に出る時には復活してくれる事を祈る、かな」

そうか、一位や二位を取ってくる事が多いうちのクラスだ。後から出場する人は自分も勝たないとって気持ちになり、麦野さんの様にプレッシャーに押しつぶされてしまう人も出てくるかもしれないな。

女子のレースが終わり、続いては男子。
出場するのは、堀田さん胸の大きさを解説していたスケベな男、近衛くんと快斗だ。
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