名探偵になりたい高校生

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七十九話 体育祭 四

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 借り物競走続いては二年女子。
 俺のクラス、二年三組の最初に走るのは柳さんだ。

 柳さん本日初の出番の為か、若干緊張した表情で、スタートラインに立ってる。

「香澄ー頑張れよー」

 堀田さんの声援に軽く会釈をし、スタートに備える。

 先生がスターターピストルを鳴らすと、全員が走り始めた。

 この借り物競走、男子と同じで、女子にも同じ内容の物が書かれているのだろうか…

「なあ、灰村。柳さんはこの手のレースは難しいんじゃないのか?]
「そうね。正直の事を言うと、柳さんはこのレースは厳しいと思う」
「じゃあ、なんで柳さんを?」
「その前に、間宮くんは借り物競走女子の部、一年生のレースは見てた?」

 一年女子…そういえばあまり見ていなかったな。
 男子と同様で、好きな男子とか、かっこいい異性とか、そんなお題をやったんだろうとは思ってるけど…

「注目はしてないな…伊藤が出てたら応援くらいしてたと思うけど」
「女子は男子とはまた違うお題なのよ。男子は、好きな異性など連れて行くとかだったけど、女子はね…」

 灰村がその続きを言う前に、一人の女子が、何かを叫んだ。

「あの日、空腹な私に食パンを持ってきてくれた人来て下さい!!」

 空腹な私に…なんて?

 他の女子達も食パン女子と同様叫びその場を動こうとしない。

「灰村これって…?」
「女子は借りに行くんじゃなくて、呼ぶの。思い出のあの人を。学校限定で。多分男子…」

 なんだそれ…

「それ、相手が覚えてなかったらこないんじゃ…これってレースとして成立すんのか」
「さあ?実行委員がokしたんだから大丈夫でしょ」
「柳さん大丈夫かな…」

 俺はお題を眺めている柳さんを見ると、なにやら決心がついたような表情をした後、大きく息を吸い込み、叫ぶ。

「迷子の男の子をお母さんの元まで一緒に届けてくれたあの時のヒーローさん!!私の元に来て下さい!!」

 迷子の男の子…

 柳さんの叫び。
 その声に周囲の人達は誰だ誰だと反応した。

「なあ、間宮くん。香澄の叫びは聞こえたよね?」

 堀田さんが俺の元へやってきて、そう言ってくる。
 柳さんの叫んだ、迷子の男の子。
 もちろん覚えている。
 去年の遠足で俺と柳さんで届けたあの少年の事だ。
 ってことは…俺を指名ですか。

「堀田さんこれは。俺が行くんだよね」
「君しかいないだろ」

 ヒーローと呼ばれ、恥ずかしいが、クラスの為に行かないわけにはいかない。

 立ち上がり、柳さんの元へ向かう。
 クラスの女子何名かの視線を感じるが無視しよう。

「柳さん、迷子の男の子って、去年の遠足の時の子でいいのかな?」

 もしこれで、『違います。勘違いですよ』などと言われたら、恥ずかしいし、立ち直れない。

「は、はい!!」

 先生にその事を伝えると、柳さんはお題をクリアとなり、後はゴールを目指すだけとなる。

 他にもお題をクリアした人達が続々と現れ、男子と一緒にゴールに向かっている。

「柳さん、急がないと」
「は、はい…そうなんですけど」

 柳さんは何故か、顔を赤くしている。どうしたというんだ?
 このままでは負けてしまう。

「どうしたの?」
「あの、実はもう一つお題が残っていて」
「もう一つ?」
「探偵さんを呼ぶという時点で、私のお題はほぼクリアになったんですけど…」
「うん」
「呼んだ後のゴールへの行き方がありまして」
「そうなんだ、じゃあそれやろう」
「えっと、で、でも」
「俺に出来ない事かな?」
「そんな事はないです」

 柳さんはブンブンと顔を振り、お題の書かれた紙を見せてきた。

【思い出のあの人を呼び、おんぶしてもらいながらゴールする】

 なるほど、これは恥ずかしい。

 他の女子達をみると、男子と手を繋ぎ走っている人や、肩を組みながら走っている人がいる。

「柳さん、やるしかない。乗ってくれ」
「ううう、わ、分かりました…」

 俺は柳さんをおんぶし、走る。

 背中に、柳さんの柔らかい部分があたり、気になってしまうし、それを羨む、男子の視線も痛い。

「うう、恥ずかしい」

 後は俺の脚力に掛かっているが、出たのが遅かった為か、三位でゴールした。それでも三人を抜いた事は褒めて貰いたいが…

「全員抜いて来いよ変態」

 灰村の棘のある一言が一番痛かった…

 続いて、女子第二レース、
 うちのクラスの女子は、若山ひかるさん。
 この借り物競走のお題を考えたラブコメ部の部長である彼女の出番だ。

「うっほーい、みんな期待しててねー」

 クラスに向かい手を振る若山さん。
 話をした事はないしどんな人かわからないが、明るい人だという事はわかった。

「ひかるちゃーん可愛いぞー頑張れー!!」

 快斗の声援が聞こえたようで、快斗に手を振っている。

 スターターピストルが鳴ると、
 第二レースが始まった。

 若山さんは、誰よりも速く、テーブルに到着し、お題を眺めた。

 女子第二レースも叫び呼ぶのだろうか?

「三組の跡野くんと遠山くん、二人共、私の元へ!!」

 若山さんは、快斗と遠山くんの二名を指名する。

「誠実、俺達ご指名だぜ、行こうぜー」
「そうだね、行こう。若山さんが待ってる」

 快斗と遠山くんの二名を呼ぶか、若山さんはあの二人が思い出の人なのかな?

「うちのクラスのイケメンツートップを呼んだぞ、若山のやつ」
「近藤くんは快斗から若山さんとの出会いは聞いた事ある?」
「ねえな。ただ、可愛いしか言ってない」

 快斗は女子の事は可愛いしか言わないな…

「お待たせ、ひかるちゃん」
「いいねえ、二人ともやっぱり、華があるよ。イケメン二人に囲まれてるぅ」
「僕は若山さんとの思い出は特に思いつかないんだけど…」
「俺はあるぜ、去年一学期に、他のクラスの女子に会いに行った時、初めて話したのがひかるちゃんだ。可愛かったぞ」
「そうそう。跡野くんとの出会いそんなだったねぇ。初めて見た時はとんでもねえイケメンだと思ったもんよ」
「今もイケメンでしょうよ」
「んー顔はそうだねぇ。でもさぁ、それ以外がねぇ…女子は知られたくない事もあるのに跡野くんは気が付いちゃうからちょっとねぇ」
「それより、お題はなにかな?僕と跡野くんとの思い出がないなら、一体?」
「ああそれね。うちのクラスのイケメンの二人に是非やってもらいたいことがあるのよ。私のお題はね」

【男子二人に取り合いされる。その後三人でうふふ、あははしながらゴール】

「なるほど…若山さんを僕と跡野くんで取り合うと」
「そっかぁ。灰村さんを取り合うってんならテンションも上がるんだけどな」
「つべこべ言わずにさあ、私を取り合え!!行くよ」

 若山さんは快斗、遠山くんの二人と何やら話し始めた後、三人は少し、距離を置いた。
 なにを始める気だ…

「やめて!!私のせいで二人が争うのは見たくないの!!」
「悪いねひかるちゃん、こればっかりは引けねぇんだわ」
「僕もだよ、若山さん」

 なんだ…快斗と遠山くんが争ってる?

「ひかるちゃんは俺が貰うぜ誠実!!」

 えっ…?
 快斗って若山さん狙ってたの?

「快斗くん何言ってんだろ?」

 俺と同じく、疑問に思った飯島さんが首をかしげている。

「跡野くん。若山さんは、君には渡さない」

 遠山くんも狙ってたの?

「ぶ、部長!!な、なーに、い、言ってんのよ!!冗談でしょ!!」

 金田さんも苦笑いを浮かべながら言っている。

「やめてよ!!二人は親友じゃない!!こんなことって…」

 会場も全員が突然始まった寸劇に注目している。
 本当に、二人が若山さんを巡って争っているかのようにも見えるが果たして真相は…

「茶番ね。若山さんらしいけど」
「どういうこと」
「ラブコメ部の人間として、それっぽい展開を用意しただけでしょ。三人に恋愛感情なんてまるでないよ」
「ああ、お題をこなしてるだけか」
「信じてる人も数名いるようだけどね…」

 俺は信じてる人がいるのかと思い、周囲を観察してみると、一年の方から声が聞こえてくる。

「だめーーー!!跡野先輩は私のなんだからーー!!」

 …伊藤が叫んでいた。
 快斗大好き伊藤がめちゃくちゃ反応している。
 快斗はそんな伊藤を無視し、演技を続けていた。

「誠実、お前とはここで決着をつけねぇとね」
「そうだね、跡野くん。君とこんな形で争うとはね…」

 役者だな、二人とも…

「やめて!!そんなに私が欲しいなら捕まえてみてよ!!捕まえた方が私を…」

 若山さんは走り出す。

「ま、待てよ!!ひかるちゃん」
「置いていかないでくれ若山さん」

 快斗、遠山くんがそれぞれ走り出す。
「あははは」
「待て待てー」
「そーれ、私はこっちよー」

 海辺で走り合う男女の様に三人で走り、そのままゴールした。

 若山さんの茶番劇にあっけにとられた他の生徒達は呆然と、三人を眺め、ゴールされてからやっと動き始めた。
 三組若山ひかるは無事一位でゴールに成功したのだった。

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