名探偵になりたい高校生

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七十八話 体育祭 三

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借り物競走第二レース。
その準備の為各クラスの選手がスタートラインに向かっていく。
うちのクラスの二人目は佐竹くんだ。
灰村曰く、佐竹くんなら、ヤンキーだし、どの人もビビって物を渡してくれるだろうとの事だが、このレースのお題を作成したのはラブコメ部の人達らしいし、佐竹くんが引いたお題によっては彼は何もせずに棒立ちになるのでは無いかと思ってる。
つまり、灰村の人選ミスにより、うちのクラスはビリになるのでは無いかと、クラス内で囁かれている。
まあ、第一レースで一位になった遠山くんを全員暖かく向かい入れ、クラスの雰囲気は決して悪くは無い為、ここで佐竹くんが負けても誰も文句は言わないだろう。
そんな感じのクラスの雰囲気の中、
灰村は立ち上がり、どこかに行こうとしていた。

「灰村、どこ行くんだ?」
「佐竹くんの所。一緒に来てくれる」

灰村に言われるがまま、俺は灰村と一緒にスタートラインに向かう佐竹くんの元に向かった。

「佐竹くん」
「ああ?」

灰村が声を掛けると、不機嫌そうに、返事をした。

「頑張ってね」
「はっ。前も言ったが、一位になれなくても文句言うんじゃねえぞ」
「まあ、正直、このレースのお題じゃ、佐竹くんには厳しいかもね。無理、恥ずかしい、等の感情が出てきたら、無理をせず、リタイアしてくれても構わないよ」
「随分と優しいじゃねーか。他の連中が上位の順位を取ってるから、気分でも良くなったか?」
「ここまでは私の思い通りに事は進んでるから、気分は別に変わってないよ」

佐竹くんは何も言わずに灰村の言葉を待っている。

「まあ、やりたくない競技を無理矢理やらせる訳だし、佐竹くんが乗り気でないなら、無理をしなくてもいいよって言いたいだけ」
「ああ、そうかよ。なら、適当に流してやるぜ」
「そっ。じゃあ頑張って。私が勝手に選んだわけだし、一応応援に来ただけだから。それじゃ」

灰村はそう言って佐竹くんに背を向けた。
いいのか?それじゃ、佐竹くんは本当に適当に走るかもしれないぞ?

「ああ、そうそう。君が去年もめてた空手部の内田くん、彼も出場するのよね」
「だからなんだよ」
「彼さ、うちのクラスの女子を密かに狙ってるらしいのよね」
「あいつが誰を狙おうと俺には関係ねえだろ」
「そうなんだ。恐らくだけど、この借り物競走でもその子の所に行くかもね。その子がそれをオッケーしたら、恋人になっちゃうのかしらね」
「知るかよ、そんな事」
「ちなみにその相手。堀田さんなんだけどね。それじゃ、頑張って」

灰村は歩き出し、自分の席に戻って行く。
俺は、佐竹くんをチラッと見ると、内田くんを見ていた。

「それじゃ、俺も戻るね。佐竹くん頑張って。応援してるよ」

俺は席に着き、佐竹くんの出番を待った。

「寧々さん、次は佐竹くんですね、応援しましょう」

柳さんは、隣に座る堀田さんに声を掛けている。
その一方で堀田さんはどうでも良いかのように適当に返事をした。

「ん?ああ、次、佐竹だっけ。まあ、やる気無さそうだし、ビリにでもなるんじゃないのか」
「そうならない様に応援しましょうよ」
「応援であいつが速くなるとは思えないけど」

堀田さんの応援で俺は佐竹くんが頑張ると思うが、それは言わないでおこう。

視線を佐竹くんの方に戻すと、各クラスの選手がスタートラインに立っている。
灰村が言っていた内田くんは四組のようで、隣に立っている佐竹くんに話し掛けていた。

「よう佐竹」
「……」
「無視すんなよ」
「なんだよ」
「まさか、お前とここでレース出来るとは思ってなかったぜ」
「だからなんだ。俺はお前なんてどうでもいい」
「あっそう。第一レースじゃお前のクラスに一位を取られたがこのレースは俺が貰うぜ」
「そうかよ」
「やる気ねぇんだな」
「……」
「ま、お前のやる気とか正直俺はどうでもいい。それより、お前のクラスにいる、あの地味なメガネ掛けた女子。堀田さん。実はめちゃくちゃ可愛いよな」
「……」
「この借り物競走で俺は堀田さんの所に行かせてもらう。これを機に距離を縮め、いずれは付き合う」
「……」
「そういやお前、堀田さんと噂になった事あったな」
「なんの事か知らねぇが一々うるせえんだよ。てめーが堀田狙ってんなら、勝手にしやがれ」

なにやら二人が話しているが声は聞こえない。
去年の事か、それとも堀田さんの事か…

先生がスターターピストルを鳴らし、各自が一斉にテーブル置かれているお題が書かれている、紙を目指す。

全員が紙を取り、恥ずかしそうにしているが、第一レースの様子を見ていた為か、ほぼ全員、立ち止まる事はなく、各方々に散っていく。
一人を除いて…

「灰村、佐竹くんは本当に適当に流すかな?全員が走る中、佐竹くんだけは棒立ちだ」
「どうだろうね。私的には頑張ってもらいたい所だけど。本人がやる気が無いなら、どうしようもないかな」
「そもそも、お前は本当に、佐竹くんが借り物競走に適任とか思ってたのか?」
「もちろん。お題によっては彼は頑張るはず。なんだかんだ言っても佐竹くんはやるはずよ。去年の体育祭も頑張ってたし」

そのお題が問題な気もするけど…

灰村と話している間に、一人の男子生徒がこっちに向かってくる。
あれは、四組の内田くんだ。
彼が来たって事は狙いは…

「堀田さん、一緒に来てくれないか?」
「おや、内田くんじゃないか。君もこのレースに参加してたんだね」
「そういう事。だからさ、俺のお題をクリアするには堀田さんが必要なんだよね。一緒に来て欲しいな」

内田くんは爽やかな笑顔で、堀田さんに話し掛けている。

「んー。そのお題って何?」
「えっとそれはだね…」

内田くんは恥ずかしそうにしながら、お題が書かれている紙を堀田さんに見せた。

【メガネ】

…おいこれのどこが恥ずかしいんだ。全然普通のお題じゃねえか。

「メガネね。なら私が一緒に行く必要はない気もするんだけど」
「まあ、そうなんだけど。それでも堀田さんに来て欲しいかなって」
「ほれ、この予備メガネを渡すよ。これで我慢してくれ」

そういって堀田さんは内田くんにメガネを差し出した。

内田くんはメガネを中々受け取ろうとはしない。内田くん的には、堀田さんを連れて一緒にゴールする事で、堀田さんが自分に好意があると周囲に知らせたいのかも知れない。だから受け取れないのだろう。

「どうした、いらないのか?」
「いや、うーん…」

そんな内田くんの後ろから一人の男が現れた。

「どけ、内田。邪魔だ」

佐竹くんだ。

「ちっ。佐竹、お前何しに…」

佐竹くんは内田くんを無視し、目の前にいる堀田さんを見た。

「おい、堀田。一緒に来い」

佐竹くんによる堀田さんの指名にクラスの女子達は、目を輝かせて佐竹くんを見ている。

「なんで?」
「何でもだ、俺のお題がお前に当てはまるからだ」
「へえ。お題とは?」
「なんでもいいだろ。堀田、俺が一位になる事はクラスに貢献出来るんだろ?なら協力しろ」
「なるほど、そういう事なら仕方ない」
「ちょ、堀田さん、俺は」
「はい、メガネ。これで我慢してくれ」
「くそ…」

内田くんは悔しそうにしているが、堀田さんのメガネを受け取り、走り出した。
他のクラスの男子もそれぞれがお題をクリアしたのか、走り出している。内田くんのように、物を持つ人もいれば、仲良く女子と手を繋いで走っている人もいる。

「佐竹、行くんだろ。さ、行くぞ」
「……ああ」

佐竹くんは、そう言うと、堀田さんを抱きかかえ、堀田さんをお姫様抱っこの状態にした。

周囲の女子は、軽く悲鳴を上げ、二人を見ている。

「ちょ!!いきなり、なんだ!!」
「うるせぇ!!こういうお題なんだよ!!我慢しやがれ」
「うわわわ、は、恥ずかしい!!降ろせぇ!!」

堀田さんの叫びを無視して佐竹くんは走り始める。

他の生徒達も二人の姿にあっけに取られ、スピードが落ちている。
現在一位の内田くんを捉え、横並びになると、内田くんは負けじと、走るが、佐竹くんは更に加速し、見事一位となった。

「うおおお!!やりやがったぜ佐竹のやつ」

快斗が嬉しそうに、はしゃいでいる。正直俺も嬉しい。やる気の無い佐竹くんがまさか、一位になるとは思ってなかった。灰村の言った通り、彼はやる男だったようだ…

「おい、降ろせ。恥ずかしい」
「ああ。悪かった」
「ハァハァ、ところで、佐竹のお題ってなんだ?」
「…メガネを掛けた可愛い女子をお姫様抱っこしてゴールする、だとよ」
「ほお、メガネを掛けた女子ね」
「俺はお前しか知らねぇから、お前にしただけだ」
「そうだろうな。そうでないと困る」

借り物競走男子の二人が見事に一位となり、次は女子の部だ。
うちのクラスは、柳さんと、若山さんだな。

「若山さんってどんな人?」
「ラブコメ部、部長」

なるほど、奴がこのレースのお題をまとめた張本人か…
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