名探偵になりたい高校生

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七十五話 二年一学期 七

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体育祭まで一週間に迫った。
今日は五限目から体育祭の話し合いがある為、授業は午前中で終わる事になるありがたい日だ。

お昼になると、俺は快斗と遠山くんと食堂にご飯を食べに行くのが毎日のお決まりだが、ここ数日そのお決まりが変わりつつある。

四限目の終了を知らせるチャイムが鳴ると、快斗は急いで立ち上がった。

「孝一、誠実!!俺は先に食堂に行ってるぞ!!」

快斗はスタートダッシュを決め、廊下に向かっていくが、快斗が扉に手を掛けるより先に勢い良く扉が開いた。

「逃がしませんよぉ!!」

…伊藤だ。

伊藤は探偵部の新入部員。
入りたての頃は部活の時間になるまで、快斗に会いに来る事は無かったが、快斗のクラスを知ると、毎日お昼ご飯を一緒に食べようとやってきていた。

「があああ、足が速いんだよ、香和里ちゃんは!!廊下は走るな!!」
「良いじゃ無いですか!!誰よりも早く走れば問題ないですよぉ風の香和里です!!さあ、食堂行きましょう!!」

伊藤は、快斗の腕を掴み歩き出す。

「助けてぇ孝一ぃ!!」
「どんまい…」

俺がかけてやれる言葉はこれしか無い。

「ちょっと!!快斗くん嫌がってるじゃん」

いつもは誰もなにも言わずに連れて行かれる快斗を見ているだけだが、今日は違うらしい。
快斗の席の隣に座る女子、飯島茜さんが立ち上がり、伊藤に物申す。
伊藤は少しムッとした表情で飯島さんを見た。

「先輩、跡野先輩の彼女か何かですか?」
「ち、違うわよ!!」
「じゃあ、関係ないですよね。先輩はお借りします」

伊藤はそう言って、快斗を連れて行った。

「なんなのよあの子…」

飯島さんは呆れた表情で誰もいないドアを見ながらボソッと呟いていた。それより、俺は遠山くんと二人で食堂に向かおう。

「じゃあ、俺達も行こっか」
「そうだね。そうだ、佐竹くん、君も一緒に行かないか?」
「あっ?」

佐竹くんは遠山くんを一睨みした。
なぜ、声を掛けただけで、睨んでくるんだ彼は…

「俺はいいよ。ここで食ってる。構うなよ。お前まで腫れ物扱いされるぞ」
「はっはっは。構うもんか。クラスメイトと仲良くしようとしてなにが悪い。さあ、行くよ」

そう言って、遠山くんは佐竹くんの腕を引っ張り始める。

「ああ!!引っ張っんな。うぜぇな…たくっ。行けば良いんだろ行けば」

そうして、俺達三人は食堂に行く事になった。

食堂では、快斗と伊藤がすでに席に座っていて、ここの空間には誰も入ってくるなオーラを伊藤が全開で出していた。

「跡野はあの巨乳と付き合ってんのか?」

二人の関係を知らない佐竹くんにはそう見えたのだろう。それはきっと周りの人達も同じく思っているに違いない。
それだけ、伊藤の快斗への思いがハッキリと出ているからな…

「あの二人は中学が同じなだけで、付き合ってる訳じゃ無いよ。ただ、伊藤は快斗の事を想ってるのは間違いないけど」
「完全に恋人にしか見えねぇけどな」

佐竹くんはそう言った後、A定食の列に並んで行き、俺と遠山くんもそれに続いた。

三人でお昼ご飯を食べ、昼休みが終わり、午後のホームルームが始まる。

教壇に立つのはクラスの担任の磯川先生では無く、クラスの代表である、灰村と快斗だ。
快斗は、軽く咳払いをすると、全員に向かって話し始める。

「よーし、じゃあ午後からは、体育祭の事で話し合いを始めるぞー。いいか野郎共、灰村さんの言う事に一々逆らわない事、灰村さんの言う事は、絶対である事を頭にたたき込んでくれ」

灰村信者の快斗は皆にそう伝える。
クラスの男子、女子共に快斗に向ける視線が冷たい。

「跡野くん。うざいから黙って。えっとそれじゃあ。私がこのクラスの代表になった時にも言ったけど、このクラスなら、間違いなく優勝出来ると思ったから。だから、皆に協力して欲しいの」

灰村の真面目な表情を見て、クラスの空気が少し変わった気がした。
それだけ、灰村が本気だと言う事が皆に伝わったのだろう。

「はいはーい、しつもーん」

金田さんが質問する。

「なに?」
「優勝を目指すって事は、各競技に誰が出るか、灰村さんが決めるって事?」
「そういう事になるかな。皆に適している競技に出て貰う事になるけど、いいかな?」
「私は別に構わないけど、それぞれ出たい競技や、出たくない競技とかあるんじゃ無いかなって」
「そうね。だから、まずは皆の意見を聞きたい。特に無いって言うのなら、私が決めるけど」

灰村の発言により、クラス内が若干ザワつく、友達を話したり、ただ黙って、うつむく人様々だ。
しかし、ここで意見を言う人はまだ出てこないと思う。まだ、なにもわかって無い状況だし。

「私はまず、灰村さんがどの様に振り分けしているのか知りたいです」

柳さんが発言する。
灰村は、その言葉が来る事は分かっていたのだろう、全員にプリントを配り始めた。
プリントの内容は、各競技に、誰が出場するのかが、書かれていた。
どれどれ、俺はっと…
綱引きと…男女混合リレー…か。
どちらも去年出てない競技だな。

「ねえ、灰村さん。私はこれでも良いけど、私が100m走で本当にいいの?私、足はそんなに速くないけど」

100m走女子の出場者は誰かと、プリントに、目を落とすと、嗚呼さんの名前が書かれている。
この手の競技は大体陸上部の人が出てくるだろうし、負ける事を前提に嗚呼さんを選んだのか?
だとした、嗚呼さんに失礼な気もするが。

「私が適当に選んだと思ってる?私はこの100m走は嗚呼さんで無いと勝てないと判断してるよ」
「そう言って貰えるのは嬉しいけど、私自身ないよ。私より、バスケ部の飯島さんの方が足は速いし」

俺もそう思う。嗚呼さんが何部にいるか分からないが、今の感じだと運動部ではなさそうだ。なら、ここは運動部である、飯島さんの方が適任な気もする。

「確かに、今この段階で、嗚呼さんと飯島さんが走れば、間違いなく、飯島さんが勝つわ。でも飯島さんは陸上部には勝てない」
「飯島さんに勝てない私が出ても、勝てないけど…」
「嗚呼さん。あなたは自分のポテンシャルの高さに気が付いてないのね。いい、100m走女子は、体育祭で一番最初に行われる競技なの。一年、二年、三年。その中でも、私達、二年からスタートする。この体育祭、本当に一番最初に競技を行うのは私達二年、女子。その一番最初の競技で、一番最初にゴールテープを、その日一番始めにゴールテープを切るのがあなたじゃ無くて誰がやるというの。何事も最初に行動する嗚呼さんがそれを譲るのかしら」
「その日一番最初に…」

なんか、よく分からん理屈だが、確かにその役は何事も一番最初に行動する嗚呼さんにこそふさわしいと思ってしまう。

「そ、そうね。私がやらなければいけないわね!!OK任せて、必ず一位になるわ!!」

「さて、他に自分の出る競技に疑問がある人は言ってくれる?」
「綱引きって佐竹くんと、間宮くんだよね。佐竹くんはなんとなく分かるけど、間宮くんってそこまで、力があるとは思えないけど」
「間宮くんはこのクラスでは誰よりも力がある。それは私が一番知ってる。中学の時も、クラスの綱引き、他のクラスから、間宮がいるから勝てないと言われるくらいだったから」

俺、そんな事言われてたの…

灰村の答えを聞いた女子が俺を見てくる、質問した人は、えっと、確か麦野さんだったか…

「灰村さん、私は二人三脚と障害物競走なんだが」

眠そうな声で堀田さんが発言する。

「そう。堀田さんはその二つが適任。二人三脚は、柳さんとペアでお願いね」
「ほお、香澄か。よろしくな」

堀田さんは右隣に座っている柳さんの方を向き話かけている。
柳さんも笑顔で『よろしくお願いします』と返事をした。
てか、堀田さんは身体が右向きにして座っている事が多いな。
隣が柳さんだからだろうか、それとも他に理由があるのか、俺は、堀田さんの左隣に座る、佐竹くんをチラッと見てみた。
佐竹くんは堀田さんの事が気になるのかたまにチラ見している時があるが今はプリントを見ている。
自分が出る競技に疑問に思ったのか灰村を見た。

「おい。なんで俺が借り物競走なんか出なきゃ行けねえんだよ」
「適任だから」

灰村は特に態度を変えずに佐竹くんに対応している。

「どういった理由で適任なんだよ」
「君に言われたら誰だってビビって物渡すでしょ。だからよ。足が速いとかそんなの関係ないからこの競技。なに、不満?」
「はっ。そうかよ。上手くいかずにビリにでもなっても文句言うんじゃねえぞ」
「ビリにならないように頑張りなよ。ヤンキーのくせに負ける事に悔しいという感情は無いのかしら」
「ああ!!んだと!!」
「あー怖ーい。堀田さん。助けてー」

超棒読みで、堀田さんに助けを求める灰村。
普段なら、自分の一睨みで。相手を黙らせるくせに…

「なんで、私に…はぁ。めんどくさい」

堀田さんはくるりと佐竹くんの方に身体を向け一言。

「佐竹。うるさい。耳が痛いじゃ無いか。話が進まないから黙っててくれ」
「ぐっ……。わかったよ。悪かったな」

灰村は佐竹くんが堀田さんには逆らえない事を知った上で助けを求めたな。  
きっとクラスの皆がそれを理解している。これから佐竹くんで困りごとが出来たら迷わず堀田さんに相談するだろう。
堀田さんも大変だ。

「佐竹くん、僕も借り物競走だ。一緒に頑張ろう!!」
「ちっ。てめーもかよ…」

遠山くんも借り物競走だったのか。
理由が気になるが今はいっか…

「部長足遅いもんねぇ」
「はっはっは。金田それは言わないでくれよ」

「さて、他には不満がある人はいるかしら?」

「所でさ、不満は俺はもう無いけど、二人三脚って俺達で良いのかな。確かさ、去年の五組にいた運動部二人の二人三脚。すげー速かったよな。あの二人また同じクラスらしいけど」

そう言ってきたのは、近藤くんだ。
近藤くんは二人三脚出場で、ペアは、快斗となっている。バスケ部コンビで頑張って貰いたい所だけど。

「サッカー部と野球部のコンビよね。部活が違うくせに息がピッタリな二人。まあ、そこは余り気にしてないかな。それに二人三脚は、チーム戦。アンカーとしてその二人が来たとしても、そこまでにリードしておけば勝てると思ってるよ。アンカーは近藤くんと跡野くんペアで頑張って。そこまでに、柳さん、堀田さんペア。駒川くん、近衛くんペア、飯島さんと私ペアが頑張るわ」

ここまでの話を聞いた後、金田さんが発言した。

「あれ?私が聞いた話だと、その二人今年は組まないらしいよ。今年はサッカー部コンビ、野球部コンビで組むって…」
「えっ!!その話は本当?」
「まあ、友達が言ってたし、間違いないと思うけど。別に問題ないんじゃ無い?ゴールデンコンビで組むよりかマシでしょ。単純に足の速い奴を二手に分けただけって感じだし」
「金田さん間違ってるわね。その逆なの。そこのクラスは確か、四組よね。まずいな…」

灰村は、唇に手を当て、何かを考えている。
俺も金田さんの言った通りに、足の速い二人を組ませるより、その二人をバラバラにさせ、足の速いチームを二つ作っただけだと思うが。

「サッカー部野球部で組む二人は、同じ部活同士でライバル関係だったはずなの。その二人が共に組むって事は…」
「ライバル同士って事はお互いに負けたくないって感じになるから、息も合わずにバラバラになるんじゃない?ラッキーじゃん」
「それも違うのよ。元々私が予想してた二人なら、息がピッタリ合いすぎて、二人だけど、一人のように走れる理想な形だろうけど、そこまで脅威ではなかったんだけど、同じ部活同士になれば金田さんの言った通り、ライバル関係だから息も合わずにバラバラになる事は確実。でも、それによって起こる事もあるの」
「何が起きるの?」
「こいつには負けたくないと言う気持ちが強くなり、お互いより前に出ようとする、お互いその気持ちになるから、自然と足も速くなる。つまりお互いが競い合う事で生まれる加速があるかも知れないって事。更に言うなら、どっちかの部活に活躍の場を取られたくないから、更に速くなるかも」
「ま、まあ。そこで負けてもさ、他の競技で勝てれば優勝は出来るだろうし、良いでしょ」
「クラスのエースが勝ちを取ると、そのクラスは勢いを増す物よ。勝てる競技でも負ける可能性も出てくるの。うーんどうしょかな」

灰村は自分が作ったプリントに視線を落とし、考えている。ふと、こう言った時、隣に玲那がいればまた違う策を思いついていたかも知れないと思ってしまった。

「角川くん。君って確か。演劇部だよね」
「うん、そうだけど。それが何か?」
「近衛くん。君は、二人三脚から、男女混合リレーに変更して貰えるかな?]

灰村は、近衛くんが断れないように、優しく、そして軽く微笑んで頼んで見せた。もちろん答えはOKである。

「と言う事で、駒川くんは、角川くんとペアでお願い。作戦は追って連絡します」

そして、話し合いは終了し、体育祭に向けて、各個人が練習を開始する事になる。

「最後に。今年は優勝を狙います。もちろん学年一位ではなく、総合一位を狙う。だから、みんな。よろしくね」

灰村の満面なスマイルが発動した。

か、かわいい……

クラスのほぼ全員が思った瞬間だった。


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