名探偵になりたい高校生

なむむ

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七十一話 二年一学期 五

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伊藤は今日はもう遅いからと言う事で、次の日の放課後にまた来ると言ってその日は帰って行った。

そして今日の放課後である。

コンコンと扉をノックする音が鳴り、扉を開けると伊藤ともう一人、女子生徒が立っていた。

「こんにちは、間宮先輩と灰村先輩」

伊藤は挨拶をするとすぐさま、俺の横を通り抜け、快斗の元へ向かう。

「ああ、先輩に毎日会えるなんて幸せぇ」
「俺は幸せじゃない…」
「そんな事言わないで下さいよぉ。それより、昨日の件ですけど」
「香和里ちゃんが探偵部に入るとかは置いといて、依頼だよな」

快斗は腕にしがみ付く、伊藤を振り払い、扉の前に立っている、一年女子に近づき笑顔で声を掛ける。

「やあ、可愛い一年生。君が依頼主かな?」
「は、はい…」
「ささ、こっちに来て話を聞かせてごらん」

快斗は道を空け、女子生徒を部室に招く、その仕草を見て灰村は『キモ』っと呟いていたが、聞こえなかったフリをしておこう。

椅子に座らせ、灰村が生徒の前にお茶を出す。
さて、この子は何を依頼してくるのかな?
とりあえず話を聞かねば。

「じゃあ依頼という事で、まずは名前を教えてもらえるかな?」
「……………」

おや?どうしたんだ?顔を下に向けたまま何も言ってこない。

「……………」
「……………?」

俺と女子生徒の沈黙が続く。
俺は灰村に視線を送り、この場をなんとかしてくれ、年下の扱いは得意だろとパスをする。

チラッ。

一瞬だけこっちに視線を送り、すぐに視線を逸らす。
知らない。自分でなんとかしろよって事らしい。

「間宮先輩。その子は超人見知りだから、人の顔見て話せないんですよぉ。先輩の質問シカトしてたわけじゃないんですよ。小声でしたけど答えてましたよ」
「えっ。そうなの…」

俺は女子生徒の方を見ると、顔を赤くしながらコクコクと頷いていた。

「さっき、快斗には普通に返事してなかった?」
「俺はその子が人見知りって一瞬で気が付いたから、視線を合わせず、会話したからな」

マジかよ…すげーなこいつ。

「きゃああ!!かっこいい」

伊藤による黄色い声が上がるが快斗は全然嬉しそうにない。
この二人の関係ってただの先輩後輩の間柄ではないな。

兎に角、俺も視線を合わせずに会話してみる事にしよう。

「じゃあごめんね。もう一度名前言ってくれるかな?」

机に視線を落とし話し掛ける。

「……牧田…さえ…です」

…今度は聞こえた。
どうやら視線を合わせなければ普通に会話が出来るらしい。

依頼主の名前は牧田さえ。
クラスは一年一組。
一緒に来た伊藤とはクラスは違うが、趣味が合った事で仲良くなったらしい。
そして今回の依頼内容だが。
牧田さんは将来アニメーターになりたいらしく、その為の部活に入りたいとの事だ。
部活に入るだけならわざわざ俺達に依頼する必要は無いとは思うが、この牧田さんは重度の人見知りだ。
勇気を振り絞り、見学に行ったが、部員は三人。全員男だったと。
男子しかいない中、女子一人だと不安だということ。

「つまり、牧田さんは、同じ志を持っているかも知れないその人達が悪い人じゃ無いか調べて欲しいって事かな?」

コクコクと頷いている。

さてそういう事なら、簡単かな?
灰村に調べて貰って情報を提供すれば良い。

「よーし、良い案が浮かんだぞ」
「ん?快斗も灰村に頼もうと思ったのか?」
「違う違う。灰村さんに頼めば一瞬で解決するのは最初から分かってる。そうじゃなくて、俺が浮かんだ案はな」

快斗は伊藤の方を見てニヤッとする。

「香和里ちゃん。君も一緒にアニメーター部?に入ってあげなさい」
「嫌ですよ!!私、アニメーターに興味ないし!!」
「さえちゃんが可哀想だろ!!こんな可愛い子一人にするなんて」
「アニメーター部?に入ったら私探偵部入れて三個も入ってる事になっちゃうじゃ無いですか」
「いいじゃん!!元々自由人だろうが!!そもそもまだ探偵部じゃ無いだろ」
「あーーひどーーい!!せっかく依頼主連れてきてあげたのにぃ!!先輩そうやって私を引き離そうとするんですね」

伊藤は、涙目になりながら近くにいた灰村に抱きついた。

「えーん!!灰村せんぱーい!!跡野先輩がひどいんですぅ、私をいじめるんですよぉ」
「よしよし。ひどい男だね。クズだね。死ねば良いのにね」
「ひどい、クズはその通りですけど。死んじゃやだー!!」

伊藤の頭をさすりながら、快斗をチラッと見る灰村。

「ぐっ。灰村さん…だあ!!わかったよ。他の方法を考えるよ」
「本当ですか!!」

伊藤はどうやら昨日の時点でこの部において誰を味方に付けておくべきか判断出来ていた。
その効果は快斗に取っては抜群であり、灰村に嫌われたくない快斗はこれ以上伊藤には何も言えないだろう。

「じゃあ、快斗の案を無かった事として、アニメーター部?の人を調べるか。と言う事で灰村…」
「ちょっと待って。確かに私が調べれば今すぐ答えはわかる。けど、それじゃダメね」
「ダメって?」
「牧田さんには悪いけど、これは、香和里ちゃん、あなたの入部試験にもなる。あなたが連れてきた牧田さんの依頼。あなた自身が解決しなさい」
「ええー。私ですかぁ?]
「そうよ。あなたの実力を知りたいの」
「私の実力ですか…」
「香和里ちゃんの大好きな跡野くんも探偵部に入部した時は入部試験をやってもらったのよ。それで彼は、事件を解決した」
「すごーい!!先輩かっこいい!!」

快斗の元に近づき腕にしがみ付く。どうやら伊藤は快斗が何をしてもかっこいいと思うのだな。
一方の快斗は腕を振り伊藤を身体から引き離す。

「どお?やる?やらないのなら、牧田さんの依頼は、私達が引き受ける。もちろん解決するのは私では無く間宮くんだけど」

えっ…俺?

「わ、わかりました。やります。私がその人達を調べ、さえちゃんが安心して入れる部活なのか調べてやろうじゃないですか。でもまず何すれば良いんですか?」
「まずはアニメーター部、正式にはデジタルイラスト部に所属している三名の事を教えるわね」

灰村はそう言って、三枚の写真を机の上に置いた。

「まず一人目。三年二組、和光先輩。イラスト部、部長。得意なジャンルはロボットアニメの機体等。好きなアニメもロボット系だけど、まあ、どれも見ているそうね。好き嫌いは良くないとかで」

ピクっ。

「二人目。同じく三年、クラスは五組、佐川先輩。得意なジャンルは可愛い女の子キャラ。ここ数年配信サイトで自分が描いた美少女キャラを使って、配信しながらゲーム実況やってる。ちなみに好きなゲームは格闘ゲーム」

ピクピクっ。

「最後の三人目。二年三組、駒川こまがわ隆太りゅうた。得意なジャンルは特になし。なにも出来ないんじゃなくて、どのジャンルも描ける。本人は実際の人物をアニメ調にして描くのが好きみたいね。コスプレイヤーが好き」

ピクピクピクっ。

なんか、さっきから伊藤が反応してるのが気になるのだが…
まあいいや。

「最後の駒川くんって同じクラスなんだな」
「そうよ。嗚呼さんの後ろに座ってる人がそう。クラスメイトくらい覚えなよ」
「それにしても先輩凄いですね。こんなに情報持ってて」
「これが私の特技であり、この部での役割。さあ、香和里ちゃん。後はお願いね」
「わかりました。任せて下さい」

ビシッと敬礼をした後、廊下に出る伊藤。

「伊藤香和里、行きます!!」

走り去っていく…

「大丈夫かな…」
「心配なら見て来なよ。私はここで、牧田さんと待ってるから。いってらっしゃい」

一応探偵部としての行動だし、見に行くか…

俺と快斗は伊藤の後を追った。
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