名探偵になりたい高校生

なむむ

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六十八話 二年一学期 ニ

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新年度も始まり、体育館での新入生の入学式が始まる。
去年もあそこに自分はいたんだなと、一年前を思い出しながら、
校長が一生懸命考えたであろう挨拶をいつも通り聞き流し、入学式を終えた俺は自分のクラスである二年三組へと戻った。

教室に戻るとすぐに、磯川先生によるホームルームが始まる。

「よし、お前ら。一学期の行事を言ってくぞー。まず一番最初な。明後日にある、部活動紹介だ。一年が入りたくなるような部活紹介をしっかり考えておけよ」
「部活紹介なんて去年やってたっけ?」

去年そんな事をやっていた記憶がないんだが…

「やってたよ。君は探偵部の事しか考えてなかったから忘れたんでしょ」

後ろから灰村が言って来る。
確かに俺はこの高校で探偵部を創る事しか考えてなかったし、部活紹介なんて興味なかったから忘れちゃったのかな。

「次に、体育祭だ。一位になれば秋の第二体育祭に出場だぞ」

第二体育祭とは、各学年の一位だったクラスは学校の代表として姉妹校である全開高校と闘う事となる。
去年俺のクラスは学年で五位となった為参加していない。

「そしてその後は、お楽しみの修学旅行だ。今年は沖縄に行くぞ」

喚起の声が聞こえる。
沖縄か…行った事ないし、楽しみだ。

「と、まあ大体こんなもんだろ」

磯川先生は説明を終えた後、パイプ椅子を広げ座る。

「んじゃ、最後に、このクラスの代表を決めるぞ。誰か立候補する奴はいないか?」

クラスの代表とは、イベント事に各クラスが集まり話し合い、
その結果をクラスに報告をする何かと忙しいやつだ。
先生の発言に誰も手をあげる様子が見られない。好き好んで代表になる奴はいないって事かな。
俺も代表にはなりたくはない。
そんな柄ではないし…

誰も手をあげない中、一定数の人達が柳さんを見る。
柳さんなら、きっと手をあげクラスの代表になってくれるだろうと。
そう思っている人が何名かいるようだ。
柳さんはそんな視線を感じ取ったようだ。

「あの…だれもいないのなら…」
「私がやります」

柳さんが手をあげようとした時、灰村が手をあげ立候補する。
あいつがやるとか言うなんて…

「おお、そうか。灰村がやってくれるか。女子は決まりだな。次に男子誰かいないか?」

灰村が女子代表に決まる。
それはつまり=であり、相棒はあんたでしょと数名の女子が俺を見てくる…
灰村…俺は代表なんて器じゃないぞ。

「灰村さんがやるなら、俺やる、俺やる!!」

俺にとっての救いの手。
快斗が手を上げ立候補する。

快斗ありがとう。この恩は今日は忘れないよ。

快斗は満面の笑みで灰村をみる。その灰村は快斗の視線には気が付かず外を眺めていた。

「他に候補がいないのならこれで決まりだな。じゃあ悪いが後は二人で司会を頼む」

後は灰村と快斗に任せるようで、クラス代表になった二人は前に立った。

「んじゃあ、灰村さん。これから俺と灰村さんが恋人同士になる為の方法を皆に考えてもらおう」
「私がこのクラスの代表になったのは、今年のこのクラスなら、体育祭も優勝出来ると思ったからよ」

灰村は快斗を無視し、話し始める。
それを悲しそうな顔で見る快斗。
可哀想だ…

「そして、あの腹黒女王様をぶっ倒すのが私の目標。個人的な目標で悪いのだけど、皆に協力して欲しいの」

灰村の発言に、ザワつくクラスメイト。灰村の言ってる、女王とは玲那の事と知ってるのは、俺と、多分堀田さんくらいかな?
しかしまあ、灰村が玲那に勝ちたいとか言うとはね…

「ねえ、灰村さん。腹黒女王って誰?」

玲那の事を知らない金田さんが言って来る。

「全開高校の生徒会長よ。去年のクリスマス会で挨拶してた人」
「ああー。あの人ね。知り合い?」
「同じ中学」
「へえ。って事は間宮も知ってるのね」

そう言うと金田さんは俺の背中を小突いてくる。
後ろを振り向くと金田さんは小声で話し掛けてきた。

「ねえ、その女王と灰村さんとの関係って?」
「うーん…よくケンカしてたかな。玲那は誰にでも優しいし、誰にでも厳しいけど、灰村には優しさは無い。二人がなぜそこまでいがみ合うのかわかんないけど…」
「ふううん。ラ、ライバル、みたいな?」
「そー言ってる人もいたかも」

湯澤が言ってたっけ。

「あ、あの灰村さん」
「なに?」

今度は柳さんが手を上げ発言する。手を上げている姿を見るだけで、柳さんが礼儀正しい人だと思ってしまう。
先に発言した金田さんはきっと手は上げてないんだろうな。

「私は去年戦いましたけど、全開高校はとても強かったです。特に私達と同じ学年の方達は圧倒的でした」

そういえば、柳さんは去年、玲那達と戦ったんだったな。

「そうみたいね。去年は五組は完全に足を引っ張ってたと、学校新聞にも載ってたわね。まあ、一年が足を引っ張るのはわかりきった事よ。去年のクラスのまま、今年の体育祭をやれば、柳さんのいたクラスは、一位にはなれないよ」
「なぜですか?」
「高校が始まって、まだ皆の実力がはっきりとわかってない状態で行われる体育祭。各競技にふさわしい人がわからず、とりあえず、現時点で目立っている人が率先して目立つ協議にエントリーしてた。周りの人も特に何も言わずにそのまま体育祭がスタートする。去年はほとんどのクラスはそうやって決まったはず。私のクラスはそうだったし。適当に決めた競技に出場すれば運動部の多かった五組が勝つのは当然よね。一方先輩方はそうならないように、ちゃんと考えて決めた。だから、何も考えず決めた一年は、第二体育祭の時に、第一体育祭のような感じで決め、全体的に足を引っ張った。今年も去年と同じように決めてたら、あのクラスは、三位ってところかな」

灰村が言う通り、去年の俺のクラスは、あの時クラスを仕切ってた奴が自分が目立ちたいが為に決めてた気がする。その上で、灰村に優勝するにはって聞いてたな。

「じゃあ、灰村さんはこのクラスなら、優勝出来ると思ったんですね。去年私と同じクラスだった運動部の人はいませんけど、それでも勝てると?」
「そうね。このクラスなら優勝は出来ると思う。五組にいた運動部の人がいなくても問題ないよ。むしろいない方がよかった」
「なるほど…わかりました。なら、優勝したいですね。私も今年は全開高校に勝ちたいです」

柳さんは、両手をグッとし、やる気を見せる。

「野郎共!!灰村さんのお願いだ!!今年はなんとしてでも優勝するぞ!!」

男子代表、灰村の駒である快斗が男子全員を奮い立たせる。
快斗ほどテンションは高くないが、協力的だ。

「灰村さん、このまま文化祭でも俺達が代表して全開高校に殴り込もう」
「えっ…そこは考えてなかった…」
「灰村さん!!文化祭は俺に任せてくれ!!このクラスなら、間違いなく、人気になれる」

快斗のやつ、やけに自身があるんだな。

「快斗くん、また変な事考えてるでしょ」
「茜ちゃん、俺を信じてくれよ」
「怪しい…去年もたくさん女子が来て欲しいからって、スイーツ店やったじゃん」
「茜ちゃん、今年は去年とは違うさ
まあ、楽しみにしててよ。と言うわけで、灰村さん。文化祭は俺が仕切っても?」
「私はいいけど…」
「てことで、みんな、文化祭は俺に任せてくれ!!」

灰村、快斗それぞれの思惑の中、ホームルームが終わり、
本日はこれで終わりとなった。
明日から本格的な授業が始まる。
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