名探偵になりたい高校生

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五十八話 一年三学期

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 現在、大変ピンチに陥ってる。
 開かない扉の前に立ち尽くしている俺と…
「いやいや、困ったね」
 全然そんな感じを見せない堀田さん。
 俺達は閉じ込められた。体育館の隣にある、倉庫に…

 三学期も始まり、授業も開始され始めたある日の三限目の終わり…

 寒空の中、三限目の体育、俺達男子はマラソンとなる。
 全員のブーイングを無視し、体育教師は容赦なく開始の笛を吹く。
 仕方なく全員がスタートし、走り始めた。このクソ寒い中、なぜ体育はマラソンをやるんだろう。
 マラソンとはいうが、学校の外周を何周か回るだけで距離は、三キロ程しか無いが、それでもただ走るだけのこの授業は全員が嫌いの様だ。
 しかも男子だけ…
 女子は校庭で、ソフトボールをやっている。
 この学校は男子と女子が同じ空間で体育をやることはほとんど無い。合同はスポーツテストや、体育祭、マラソン大会、球技大会などになっている。教師も、男子には男性教諭。女子には女性教諭となっている。
 年頃の女子に対する男子のスケベな視線を感じさせないためだとか。
 まあ、男子たる者、女子の走る姿を見たら、見るところは大体決まってるよな。
 実際マラソン大会で、走る女子の胸、尻、脚を見ている男も多かった。
 俺も見ちゃったし…その事を金田さんに追求され、灰村に死ねと言われたのはつい先日の事だ…。
 兎に角、そんな事で男子諸君の嫌いなマラソンもスタートし、制限時間内にゴールしないと補修になる為、だらだらと走ることも出来ず、全員が真面目に走っている。
 たまに見える女子から声援を受けてその場に留まり女子と話したりする者もちらほら見えたが、全員が無事に制限時間内にゴールが出来た為、補修は無しとなる。
 無事、マラソンも終わり、授業終了の合図の鐘もなると、それぞれが教室に戻っていく。
 俺も教室に戻ろうと体育館の横を通り過ぎると、一人で後片付けをしている堀田さんを見かけた。

「堀田さん。これ一人で片付け?」
 俺に声を掛けられると堀田さんは、相変わらずの眠そうな表情で俺を見てくる。
「ああ、そうなんだ。今日は私の番でね」
「結構な量あるけど大変じゃ無い?手伝おうか?」
「それはありがたい。じゃあこれよろしく」
 堀田さんはバットの入ったかごと球が入ったかごを俺に渡すと、自分はグローブが入ったかごを持って、体育館横にある倉庫に向かっていった。
 地面にドサッと重量感のある音を鳴らし、バットと球の入ったかごを置く。
「いやー。助かったよ。決行の量あるだろ。一人で片付けやると次の授業に間に合わないんだよ」
「なぜ、一人で片付けを?」
 まさか、いじめか?
「基本は二人だよ。一クラス一名ずつ。もう一人はユニフォームを片付けているよ。じゃんけんで負けた私はこっちというわけさ」
 なるほど。女子はそうやって決めているんだな。
 男子は最後に触った奴とかで決まることが多いが。

「さて、片付けも終わったし、教室に戻ろうか。これで堀田さんも次の授業も間に合うだろうし」
「そうだね。ありがとう。借りが出来てしまったな」
「いいって、気にしないで」

 俺は扉に手を掛けスライドさせようとしたが、ガタガタと扉が開かない。
「あれ?開かない」
「間宮くん、なにやってんだ」
 堀田さんも扉に手を掛け開けようとするがビクともしない。
「あら、開かないな」
「そもそも、なんで扉閉まってんの?」
「寒いから私が閉めた。今日は風も強いし」

 なんてことしてくれてんだ、この人はあああ!!

「いやいあ、困ったね」
「全然困ってる感出てないんだけど」

 しかし、どうするか。このピンチ。どう切り抜ける?
 次の授業は家庭科だ。家庭科室でオムライスを作る事になっている。
 体育でお腹を減らした俺にはこの授業は絶対サボるわけにはいかない。

「次って、何組が体育かな?」
「さあ、私に聞かれても」
「他のクラスが授業でここをあk…」

 いやいやいや。それ。かなりまずくない?
 体育は基本男子と女子は別々。俺と堀田さんがここに一緒にいることを誰かに見られたら、俺と堀田さんがここでいかがわしい事をしていたと勘違いされるかもしれない。いや、それだったらまだマシか。
 俺が堀田さんを襲う為ここまで後を付けてきたと思われる可能性の方が高くないか?
 堀田さんは普段地味な眼鏡で素顔を隠しているが、眼鏡を外したら美女だと言うことは結構知られている。
 そんな堀田さんを襲おうとしたと…

「次のクラスが来る前になんとしてでも出よう」
「別にやましい事してるわけじゃないし、普通に閉じ込められたって言ったら良いんじゃ無いか?」
「それはダメだ。堀田さん。君は自分の評価を甘く見ている」
「はっ?」
「兎に角脱出だ。堀田さん。あの窓から出られないかな?」

 俺が指差す方には、決して大きくは無いが、女性なら通れそうなサイズの小さな窓。
 堀田さんがあそこから出て、扉を開けてくれればいい。簡単だ。

「わかった。やってみる」
 堀田さんは言われるがまま、窓を開け、上半身を出そうとするが途中で止まり、諦め戻ってきた。

「無理だ。胸が邪魔で通れない。余計に育ちおって…」
 自分の胸を見ながらぶつくさ言う堀田さん。そうだ、この人、隠れ巨乳だったんだ…
「君、わざと私をあそこに行かせたな?」
「違います…堀田さんの胸が思ってたより大きいなんて思ってません」
「少し、君と距離置こうかな…」

 堀田さんが普通に引いている。間違った発言をしてしまったようだ。

「と、兎に角、次の作戦を考えないと」
「君が私にセクハラしてきそうで嫌なんだが」
「しないから!!」
「冗談だよ。んで、次は?」
「堀田さん、スマホある?」
「更衣室になら」
「俺もです…」

 くそ、ダメか。スマホで灰村でも呼んで貰おうと思ったんだけど…
 ん?灰村?
 あいつなら、堀田さんと俺がいないことをいち早く気が付いてくれるんじゃ無いのか。

「灰村さんなら、次の準備で早めに行ったよ。気が付いても、君がなんとかすると思って何もしないのでは?」

 …その可能性が高い。むしろ気が付いても無視しそうだ。

「しかたない…諦めて、助けを待つか…次のクラスはせめて知り合いがいないこと祈ろう」

 俺、謹慎になったりして。

 遠くから、女子の声が聞こえてくる。どうやら他のクラスの人が早めに来たらしい。

「何組かな?どれどれ」
 堀田さんは、窓から顔を出し、様子を伺っている。

「あれは…倖田さんだ。六組か……五組と六組だと!!」

 突然慌てる堀田さん、どうしたんだろ?

「堀田さん、落ち着いて。倖田さんってクリスマス会で一緒にいた子だよね」
「ああそうだ。おしゃべり大好き倖田さんだ。問題はそこじゃ無い」
「と、いいますと」
「君は本当に鈍いな、五組だ、五組!!香澄がいるだろ!!」
「柳さん?確かに、柳さんは五組だったね。なら、誤解もされないし、よかったのでは?」
「ダメだ。香澄に見つかるのだけはダメだ。誤解ですむはずが無い。私の事、きっと…」

 どうしたんだろ。いつもの堀田さんとは違い、随分と慌てている。
 ただ、堀田さんはどうしてもこの場面を柳さんには見られたくないようだ。それだけはわかった。
 なら、どうするか…
 あまり、やりたくは無かったけど。やるしかないな。

「わかった、堀田さん。なんとかしてここから出よう。少し、俺から離れてて」

 堀田さんはなにも言わずに俺から離れる。

 俺は、外にある何かが、扉を固定していると判断し、なら、こっちの壁を思い切り蹴り飛ばし、その何かを吹っ飛ばすことにする。

 バンッ!!と大きな音を鳴り、外からも、カランと音が鳴る。
 恐らく、何かが、外れた音だ。

「堀田さん、どうかな?開く?」

 堀田さんが扉を手に掛けスライドさせると、扉は開いていく。

「おお!!開いたぞ。凄いな間宮くんは」
「壁、凹ませちゃったけどね」
「君には大きな借りが出来てしまったな。必ず返すよ」
「いや、いいって。堀田さんのあんな顔を見たら、壁が凹むとかどうでも良くなったし。さあ、次の授業に急ご!!」
 お腹すいたし、急いで家庭科室に向かわねば。

「……なるほどね。あいつの見る目ないなぁと思っていたけど。いざって時はって奴をみるとなんか、納得してしまうよ。まぁ私は友情を取るし、好きにはならないがね」
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