名探偵になりたい高校生

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五十六話 年末

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 冬休み。
 年末。
 俺は自宅のリビングにある、コタツで寝転びながら、テレビのリモコンを片手に、テレビのチャンネルを変えながらだらけていた。
「暇だな…」
 どれも似たような番組で、特に目につく番組がやっていないが、とりあえずドラマがやっていたから、それを見ることにした。
 ドラマは今年話題になっていた、恋愛ドラマで、それの一挙放送となっているようだ。

「秋頃やってたドラマだっけ。薫が夢中になってたやつか」

 ゴロゴロと寝転びながらテレビを見ていると眠くなってきて、少しばかり寝ようかなと思っていると、ドカドカと下品な音を鳴らしながらこっちに近づいてくる気配を感じる。

 せっかく寝ようと思っていたのに。

 バタン。勢いよくドアが開くと。
 いつものお決まりのポーズを取り、こちらを見つめている。我が妹。

「ちょっと、ちょっとぉ!!せっかくの年末になにしてんのよぉ!!」
「リビングで、ゴロゴロ寝転びながら、テレビを見てた。眠くなってきたから、昼寝でもしようとしたところにお前の登場だ」
「ふふん、つまり、暇ってことね」
「いや、暇じゃ無い。寝ようとしたから」
「暇じゃん」
「暇だったらなんだよ」
「パパが呼んでる」
「……寝たって言ってくれる」

 父さんが呼んでる…けして良いことではないな。

「おう。起きてるな」

 間宮まみや弦一げんいち
 我が間宮家の大黒柱。
 ありとあらゆる格闘技を極め、頂点に立った男。
 現在は引退して、近くに建てた道場で、格闘技や、護身術を教えている。現在でもファンは多くいるらしく、未だに復活を望む声がある。
 年齢は今年で、四十二歳。
 その男が初登場である。

「これから、寝るところ」
「そうか、じゃあ。行くぞ」

 俺の言葉を無視し、薫と二人で俺をコタツから引きずり出し、拉致していく。

 父さんと薫に連れてこられたのは、誰もいない畳み臭い道場。
 この臭いを嗅ぐと同時に、過去の苦い思い出が蘇る。

 高校生になるまで、俺はこの道場で強制的に父さんに鍛えられていた。
 そのおかげで、色々と役には立ったが、この父親の鍛え方は強引の為、毎日、ボロボロになる日々が続いていたのだ。
 父親の掲げた目標をなんとか中学時代に達成できた俺は、解放された。

「どうだぁ。孝一懐かしいだろ」
「そうだね。吐き気がするよ」
「良い思い出だな。はっはっは」

 笑ってんじゃねえよ…

 懐かしむ父親と、すでに道着に着替えている薫。

「なにしにここへ?」
「年末だから、生徒達がいない。俺は退屈だ」
「で?」
「そこで思った。孝一がいるではないか。と」
「薫いるじゃん」
「もちろん薫ちゃんもいる」
「つまり、俺はいらないと言いたいんだけど…」
「さあ!!来い!!お前が鈍ってないか確認する」

 人の話全然聞かねぇ…
 自分の退屈しのぎに子供を使うなよ。俺は全くやる気がないが、薫はやる期満々の様で、すでに父さんに立ち向かっている。

「ほおおおおりゃああああ」
 薫の上段蹴りで、父さんの顔面を狙う。

「さすが、薫ちゃん。良い狙いだ。だが!!」
 父さんは、薫の蹴りを首を動かすだけでかわし、薫の軸足を軽く蹴る。

「いたあああああああ」
 軸足であった左足を押さえ、転がる薫。
 薫の蹴りのスピードは決して遅くは無い。俺だったらかわすことは出来なかっただろう。あいつ、レスリング部じゃなかったっけ?

「さあ、孝一、お前も着替えてこい。このままじゃ、薫ちゃんが大怪我してしまうぞ」
「それはあんたの匙加減だろ…」
「お前はやる気ないなぁ…そうだなぁ。もし、薫ちゃんと二人掛かりで俺に一撃を入れられたら、お年玉を少し多めにあげようじゃ無いか」

 俺は急いで着替えにいった。

 着替えて戻ってくると、薫はすでに息が上がっている。
「お前、飛ばしすぎだろ」
「兄さんが来るの遅いんでしょ」

 さて、お年玉UPの為、どうやって立ち向かうか…
 一人だと一撃を入れるのは、まず無理だが、薫がいればなんとかなるかな?

「孝一、お前、かなり衰えてるらしいな。薫ちゃんが言ってたぞ」
「そうよ、兄さん。高校生になってから弛んでるよ。私が鍛え直してあげるわ」
「おい、お前どっちの味方だ」
「パパに一撃入れたい。けど、兄さんにも一撃入れたい。つまり、私の敵は二人ともって事よ。兄さん、背中に気をつける事ね」
 そう言って、俺にも構えを取る薫。
 こいつ、協力する気ねえな。

「いいぞぉ、薫ちゃん。世界一可愛いぞぉ」

 この父親、娘に溺愛してる。

「さあ、いくぞおお」
 薫は、まず、俺に向かってくる。
 なぜだ、お年玉が欲しくないのか。
 ただ単に馬鹿なのか?

 薫はスライディングで俺の足下を狙う。畳みを上手いこと利用して、加速するスライディングを俺はジャンプでかわす。
 空中で身動きが出来ない俺に父さんはすかさず、跳び蹴りを放つ。
 父さんの蹴りはをかわすことは出来ずに、腹に直撃する。

「くはっ…」

「はっはっは。孝一、鍛え方がたらんな」
「ちょっと、ちょっとぉ!!兄さん、なにやってんのよぉ!!あれくらいかわしてよぉ!!」

 この二人、協力してない?
 二対一の一は俺になってませんか。

 薫の攻撃は止まらない、なぜこいつは俺に向かってくる。

「よーし、わかった。お前も敵だな」
 薫は俺の足を狙うタックルをしてくる、レスリングの動きだ。
 薫はガシッと俺の足を掴む。
 簡単には振りほどけないほど力強い。
「捕らえたぁ!!ここから、押し倒して、兄さんをボコボコにしてやるわぁ!!」
「悪いな、薫。これはレスリングじゃ無いから、遠慮しないぞ」

 薫が押し倒す力を利用し、俺はバク転の体勢になる。

「おほあ」
 薫の変な声が聞こえたが、俺はかまわず、両手を畳みに付け倒立状態になると、そのまま足を開脚させ、薫の腕を振り解き、薫の脇腹を蹴る。

 女性に手を上げる男はどうかと思うが、薫は妹の為それは目をつむって欲しい。

 薫を吹っ飛ばし、立ち上がると、父さんが、ニヤリとこちらをみている。
「なかなか、良い動きだ。最近めきめきと力を付けてきている薫ちゃんを吹っ飛ばすとはな。さすがは我が息子。どうだ、こっちの世界に帰ってくる気はないか?」
「そうよ、兄さん。今こっちに帰ってくれば、世界の半分は貴様にやろう」

 お前らは、魔王か…

「格闘技は中学までだって言っただろ。今日無理矢理でも付き合ってるんだから、感謝して欲しいくらいだ」
「パパ悲しい」
「パパとか言うな。気持ち悪い」
「パパは怒ったぞ、バカ息子」

 父さんは『はっ!!』と声を出し、畳みを思い切り、踏みつける。
 その力で、道場全体が、揺れる。
 壊れたらどうすんだ。
 てか、すげー揺れ。

「必殺」

 父さんの得意種目は、柔道。
 必殺技は何か、わからんが、たぶん投げ技のはず。
 俺まで五メートル程ある。
 十分警戒すれば交わせるはずだ。
 交わしたところで一撃を入れれば。お年玉UPだ。
 …さあ、来い!!

 ダンッ!!

 五メートル程離れた所にいたはずの父さんが、目の前に!!

「縮地。からの。パパストレート!!」

 父さんの声が、遠くに聞こえた…
 俺はどうやら、壁に激突していたらしい。それに、腹に激痛が走る。

「痛って~」
「はっはっは。俺が柔道が得意だからって、投げ技で来ると思っていたようだな。俺は最近、ボクシングにハマっているんだ。故に、ボクシングで何か必殺技が、欲しかったから、最近覚えた、縮地と言う、超加速に合わせたパンチを撃ち込んでみた」

 縮地って、そんな簡単に出来るもんなの…?

「パパかっこいー!!」
「そうだろー!!薫ちゃんもっと褒めて褒めて」

 このバカ親子を見て、軽くため息を吐いた後、父親は自分の必殺技を見せれたことに満足したのか、遊びは終わり俺達は家に帰った。

「おかーえりー」

 俺達の帰宅をエプロン姿で、迎えたのは、俺の母親である、間宮まみやのぞみ、三十九歳。

「ただいま。母さん、仕事はいいの?」
「仕事?うん、オッケー。原稿はもう送ったから大丈夫。これで、私もお休みになったよ」

 母さんの職業は、漫画家である。
 主に少年誌でバトル漫画を描いている。一応人気作家だ。王道のバトル漫画を描いて少年達の心を鷲掴みにしている。俺も母さんの漫画は好きで、コンビニで立ち読みしている。家族から外にネタバレが漏れないように、仕事場は鍵が掛かっていて、鍵も母さんが持っている為、部屋には入れて貰えず、先に原稿を読ませて貰うことも出来ない。
 そんな、漫画家の母親と格闘家の父親はどうやって出会ったかというと、取材で父さんの試合を見に来た時に、父さんに猛アプローチされたようだ。父さんの無敵の強さを題材にした漫画を描かせてくれる代わりに交際をオッケーし、その後、二人は結婚、現在にいたる。

「せっかく、休みになったんなら、ゆっくりしてたら?]
「考は優しいねー。でも。料理してる時が私のリラックスの時間なのよ。所で、弦ちゃんとの戦いはどうだった」
「凄まじい速度のストレートパンチを腹に受けたよ」
「そう。弦ちゃんは考には手加減しないからね」
「おかげで、お年玉UP出来なかったよ」
「弦ちゃん。UPする気ないのに、そんなこと言っちゃダメでしょ」
「だってー、孝一やる気無いんだもん」

 …おっさんが、語尾に、もん。とか言うな。

「お母さん、兄さんにこっちに戻るように言ってよー」
「かおちゃん。考は中学生中に、弦ちゃんに一撃いれるを達成したんだから、もう格闘技はやらないと思うよ。今は、えっと、探偵だっけ?あれに夢中なのよ」
「ええー、だってー」
 母さんは俺の味方のようだ。

「それより、そろそろ、蕎麦が茹で上がる頃よ。さあ、年越し蕎麦を食べましょ」

 全員がテーブルにある席に着き、蕎麦を啜る。

 夕方に蕎麦を啜る。年末だなと。改めて思う今日この頃。

 蕎麦を食べ終えた我々家族一同は年末の特番である、紅白や、格闘番組を交互に見続けていた。
 格闘番組になれば父さんと薫が、わいわい騒ぎ、紅白になれば、母さんが知っている歌を口ずさんでいる。間宮家の年末は毎年こうだ。

 テレビも見終わり、後はダラダラとチャンネルを変えながら年越しの瞬間を待つだけとなった。

「兄さん、年越しだよ。どっちがより長く空中にいるか勝負しよ」
「俺の負けでいいや。勝者薫。おめでとう」
「ちょっと、ちょっとぉ!!勝負しなさいよ」

 薫を無視し、静かに、年越しの瞬間を待つ。
 今年もいい年だった。来年もいい年でありますように。
 心の中でそっと願う俺であった。
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