名探偵になりたい高校生

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五十四話 クリスマス会 五

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「嫉妬ね…」

静かなおかげか、灰村と夢沼先輩のやりとりがはっきりと聞こえる。
けり付けるとか言ってたな。
「あの人、灰村の事嫌いだったよね。灰村はなにしたの?」
「灰村が恨まれるなら、俺もあの人に恨まれてもおかしく無いんだが」
「孝一、あんな美女に恨まれてんのかよ」
「わからない。あの人の行動は謎だ」
「考ちゃん落とせば、灰村を潰せるとかアホな事言ってたわね」
「マムー、高校じゃ、モテてるんだね」
「あの人は俺に好意はない」
「じゃあ、なにしたんだよ」
「探偵部として活動中、あの先輩が所属している、新聞部のスクープを学校新聞に載せさせないようにした。新聞部の活動で下手したら、一人の女子生徒の人生が終わってたかも知れないからな」
「つまりー。マムーとハイムーは正義の活動をしたって事?」
「そうなるのかな…」
「その逆恨みって訳ね。器の小さな人」

「いい加減、あんたの相手すんのめんどくさいんだよね」
「じゃあ、どうしようか?」
「絡んで来んな。それでいいでしょ。お互いこれ以上、メリットないよ。間宮くんも落とせない。間宮くん、落として私の前でイチャイチャしたいんでしょ?それも出来ないじゃ無い。どうすんの?あんたじゃ私は潰せないよ」
「もし、間宮くん落として、灰村の前でイチャイチャしたら、あんたはどうなるのかは気になるけど」
「それは、実際に付き合ってからにしな。想像で語っても意味ないでしょ。そもそも、先輩にあの鈍感を落とすのは無理でしょ」

「鈍感だってぇ」
志田はニヤニヤしながら、俺を見ている。
「鈍感じゃない…と思いたい」
「ネーネーに鈍いって言われてたじゃん」
ネーネーって誰だろって思ったけど、堀田さんだな。

「思いっきり迫って、告れば一発で落ちんでしょ。童貞でウブな、可愛い間宮くんなんて。なんなら、一発ヤらせれば、もっと簡単ね。やった瞬間に彼氏づらでもするね」

「考ちゃん、随分と舐められてるのね」
「みたいだな。俺の居ないところで、本性でも出てきたのか」
「でも、実際あんな美女が、マジで迫ってきたら、うれしいだろうな。
気がつかないことの方が幸せの事もあるだろうに。孝一、付き合ったら」
「あんなの見て、付き合いたいとか思うか?いくら美女でもないだろ」
「考ちゃんも、美女とかって思うんだね」
「ていうか、ゆっざ、あの人とHしたいの?」
「そりゃ、美女とそういう関係になれんなら、ありがたいだろ。誰だって可愛い人と付き合いたい思うもんだろ」
「うわ、外見しか見ない、ゆっざ、マジゆっざー」
「だから、うっざ見たいに言うな」
湯澤が自爆してくれたおかげで、俺にはなんの被害も無さそうだな。
夢沼先輩は確かに美女だ。二年生の中で一番人気であるのは確かだ。
…でもそれだけだ。
灰村や柳さんから色々聞いたおかげで、あの人に対する見方が変わってしまった。

「簡単にやらせるねぇ…それって、あんたが辞めさせた角田かくた義郎よしろうって男見たいに?」

角田義郎…その名前を聞いて、夢沼先輩は目元をピクリとさせる。

「懐かしい名前ね。確かそんな、名前の男に迫られたっけ」
「迫ったのはあんたでしょ?それともなに、迫られたら、簡単に落ちるの?ウブで、可愛い夢沼華蓮は」
「…ふふ。やっぱり、知ってるか。ほんと、あんたってムカつく」

夢沼先輩の表情が変わる。
いつもの、謎に満ちた雰囲気のある美女ではない、事件の真相を話す、犯人のような、悪意に満ちた表情をしている。
「顔、変わったわね。考ちゃん。一応警戒しておいて。万が一、あの人が暴力行為をしたら、見過ごせないわ」
「わかった…」
玲那も空気が変わったのも気がついたようだ。万が一に備え、飛び出す事も考えている。クリスマス会を台無しにしたくないからだろう。
けして、灰村の為では無い。

「人の過去、一々、調べちゃってさあ、それで何?弱みを握るのがあんたの趣味なわけ?性格わっる」
「性格悪いのはお互い様でしょ?あんたが一々、突っかかってこなければ、いい話」
「初めて見た時から気に食わなかったんだよ。絶対潰すって思った」
「私を潰した後は、金田さんでも潰す?その後は、柳さん?」

金田さんに、柳さん?あの先輩は何をするつもりだったんだ…

「もちろん、本堂さんを一番潰したかった。でも、それは私達、探偵部によって失敗に終わる。潰すと言うより自分と同じようにしてやろうと思う気持ちの方が強かったかしら?一番嫉妬してたもんね」
「……」

灰村は、夢沼先輩の事、どこまで調べたんだ。

「ちなみに本堂さんに嫉妬していると同じくらい、霧島先生の事を憎んでいる。
あんたが、この高校に入学した本当の目的は、本堂さんと同じ、アイドル部に入部だもんね」
「あんた…どこまで…」

夢沼先輩もアイドル部に?
あの人もアイドル志望だったのか。
だから、アイドル部に入部した本堂さんに嫉妬してた訳か。

「あんたは、全力高校に大手事務所に通じている霧島先生の存在を知っていた。そして、あんたは、入学してすぐに、霧島先生の元に向かう。しかし、結果は今ここにあんたがいる事が証明しているわね。あんたは、アイドルにはなれなかった。其れ処か、門前払い。霧島先生はあんたの事をまるで相手にしなかった。
素質が無いなど、言われたのかは知らないけど。兎に角アイドル部にさえ、入部出来なかった。かわいそうにね。中学時代は、無敵な美女で周りに敵なし。歌も上手ければ、ダンスも出来る。ステータスだけ見れば入学当初の本堂さんよりは高かったはず。中学では誰よりもモテていたし、学外からも告白されていた。芸能人になる人ってこういう人なんだろうなって周りにも思われていた。
でも、霧島先生は…あんたを選ばなかった」
「やめろおお!!」

夢沼先輩の叫ぶ声が廊下に響く。

「灰村…あんたにわかる?自分に絶対的な自信を持って、完璧だと思っていた自分が…たった一言。
『お前は、アイドルには向いていない』それだけ言われて、相手にもされなかった私の気持ちが…なんの為に、この高校に入ったと思っている。一瞬で、夢が崩された私の気持ちが…」
「さあ、わからないわね。私はあんたほどの気持ちを持ってこの学校には入学してないから。それで躍起になって、私たちに怒りをぶつけられるのは迷惑なのよ」
「フフ…そうね。怒りね。アイドルになれなかった私が面白かったのか、一個上の先輩が私をからかってきた。そいつは、私と同じ中学でさ、私の中学時代を知っている人なんだよ。
周りからチヤホヤされてた私が、アイドルになれなくて、ざまあみろって言ってきたのを今も覚えている。
あの顔を忘れることは出来ない。私はその日に、そいつの彼氏に近づいた。そして、私に惚れさせた。後はあんたも知ってるでしょ」

中学から付き合っている二人の中を引き裂き、精神的に追い込み退学させた。そして、その後、彼氏も同学年の女子達に責められ、しばらくしてから退学したと。

「先輩達は私が付き合っている事なんて知らなかったと言うことをあっさり、信じた。さらに、あの女は私に嫉妬して、いじめをしてきたという嘘もあっさり信じた。私の中で、アイドルになれない事で人生がどうでも良くなってきていたの。あの女の彼氏、角田にあっさり体を許した。好きでも無い男とSEXするのなんて全然気持ちよくも無い。ただ単に気持ち悪いだけ」
「その点は、同意出来るわね。私はまだ、未経験のウブな処女だけど。好きでも無い男とヤルくらいなら……」
「そして私はキャバクラでバイトしたりした。キャバクラでもあっさりNo1になったよ。未成年である事は隠してたけど。ここで、私は自分の自信を少しだけ回復させた。結局キャバクラのバイトは三年の沖山先輩にばれて辞めた。更に沖山先輩にバラされたくなかったら新聞部に入れって脅されて仕方なく入ったの」

沖山先輩に逆らえないって言ってたのは本当だったんだな。

「新聞部はそれなりに楽しかったわ。人の弱みを握るのって結構楽しいのね。アイドルになる事なんて、すっかり諦めていた。でもね…」
「今年、本堂恵子が入学し、アイドル部に入部した」
「そうよ…アイドル部は存在するだけで、誰も入部出来ない。私ですら入部出来なかったのに。だれも慣れるはずが無いって。でも、本堂恵子は入部した。
私は、本堂恵子の事をすぐに調べた。そして…自分では到底敵わない程、整った顔。明るい声。存在だけで周りを幸せにしてしまうオーラ。心底嫉妬した。私が一番のはずだっだのに…」
「そうね。あの子は本当に可愛いと思う」
「私は嫉妬した。本当に。今まで、嫉妬される側だっただけに自分が惨めに思えてきた。あの子をアイドルにさせたくなかった。沖山先輩を上手く利用してやろうと考えた。それも失敗した。探偵部に邪魔されたね。文化祭も終わり、本堂恵子がアイドルになる事も決まり、今なら、霧島先生も気分が良くなっているかも知れない。上手くいけば、アイドル部に入れるかも、なんて考えた。でも、一つの紙を発見したの」
「あの、くだらないランキングね」
「校内、可愛い子ランキング。全学年と書かれた紙をね」

一学期の最初にそんなの聞かれたな。全学年のやつは聞かれてないが。
「考ちゃんの高校。くだらないランキングするのね。誰でもいいじゃない。可愛い子なんて。その子に票をいれたら付き合えるわけ?」
「女子も好きだろそう言うの」
「女子はランキング表なんてつくんないよ。所でマムーは誰に一票入れたのかな?」
めんどくさいから、志田は無視だ。
「あーこらー。シカトすんなー」

「ランキング上位五名。
一位一年六組本堂恵子。
二位一年三組灰村杏。
三位一年一組金田明。
四位一年五組柳香澄。
五位二年三組夢沼華蓮。
上位四名が一年よ。今年の一年は可愛いのが多いって。評判ね。私は私以上に可愛いとされている奴が許せなくなっていった。あんた達がいる限り、私はアイドルになれないんじゃないのかってね。だから、あんたから潰そうと思った。灰村さえ、潰せば後は全員雑魚しか残ってないし」
「私を強敵と思ってくれる事はありがたい事だけど、そのくだらないランキングのせいで、こっちは迷惑してんのよ。これ以上付き纏うな。あんたがアイドルになれないのをこっちに八つ当たりにすんなよ。別に霧島先生を頼らなくても、他の事務所で勝負しな」
「…いまさら、アイドルなんて無理ね。悪かったわね。全部知られてちゃ、私に灰村は潰せないわ…それに灰村の事、調べても出たのは、灰村と思われる人物と誰かがサイト内で口論してたのがあるくらい」
「どっかの女王が、匿名なのに、ケンカふっかけてきたあれね」

俺は、そっと玲那を見る。
「なに?」
「いえ…」

「私の負けよ。いままで、ごめんなさいね」
「私は先輩の過去を誰かに話すつもりは無い。人には知られたくない過去はあるからね。私が調べたデータはすでに消しているから安心しなよ。これで、お互い関わらないって事で」
「そうね。後ろの人達にもそう言ってくれるかしら?」

夢沼先輩が笑顔で俺達を見る。
灰村が振り向くと、玲那を見て、ため息を吐いた。
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