49 / 81
四十九話 水族館
しおりを挟む
「さてと、そろそろ行くか」
本日、土曜日。
俺はこれから水族館に行く事になっている。
もちろん、一人で行くわけじゃないよ。
二人だ。
相手は柳さんだ。
話は二日前に戻る。
部屋でくつろいでいる中、柳さんから電話が掛かってきた。
柳さんとはメールなどでやり取りをする事はあったが、電話は初めてで少し緊張してしまう。
なにか、緊急の様でもあるのかな?
「もしもし」
「………」
反応がない…
これは、なにかあったのか!?
「もしもし!柳さん!!どうしたの、なにか、あった?」
「こここここ、こんばんは」
声が、少し高くなっている。誰かに脅されて、俺に電話をしろと言われたのか!?
「柳さん、大丈夫!?」
「は、はい!!探偵さんに電話するの初めてで、その、緊張してしまって…」
そう言う事か。よかった、なにかあったわけじゃないんだな。
「それで、どうしたの?」
「えっと…その…た、探偵さん。こ、今度の土曜日ってなにか、予定ありますか?」
「土曜日?うーんとね、特にはないよ」
「あ、あの。も、もしよろしかったら。一緒に水族館に行きませんか」
「水族館?うん。いーよー」
と、言うやり取りがあり、今に至るわけだ。
柳さんから誘われるなんて、驚いたけど、最近色々あったし、偶には息抜きしないとな。
ドアに手を掛け、開けようとした時、ドタドタと、勢いよくこちらに向かって走ってくる音が聞こえてくる。
考える必要も無い。あいつの登場だ。
「ちょっと、ちょっとぉ!!兄さん、どこ行くのよぉ!!」
腰に手を当てるいつものポーズで、こちらをみている薫。
「どこでも、いいだろ」
「いーや、よくないね!!さぁ、今日こそはっきりさせてもらおうじゃない」
「お前に説明する必要ない。じゃ」
「必要ありますぅ!!私は兄さんルートに入った人を知る権利があるんだから」
「そんな、権利、お前には無い。そもそも誰も、俺ルートに入ってない。それにお前、文化祭で、その候補を探すとか言ってなかった?」
「ふん!!そんなの、兄さんの教室から出た瞬間に忘れたわ!」
「その時点で、対して興味持ってねえだろ」
「ぐっ。痛い所を!!こうなったら、兄さん、ちょっと待っててよ」
そう言って、薫はリビングの方へ走っていく。
恐らく、母さんを呼びに行ったな…
面倒だから、もう行こう。
薫を待たず、家を出て、駅に向かう俺。
帰ったら、二人の口撃に会うのが嫌だが、早く行かないと、遅刻してしまう。
何とか、集合時間前に駅に間に合った。
柳さんはまだ来てないのかな。
周囲を確認していると、駅の入り口にある時計の下で立っている、柳さんを発見した。
柳さんは、白のニットのシャツに、黒の肩までベルトが繋がっているロングスカートと言う、可愛い服装だ。
柳さんの私服姿は初めて、見るが、なるほど。可愛い。
俺は柳さんに近づいた。
「ごめん、柳さん。待った?」
「ここ、こんにちは、探偵さん!!わ、私も今来た所です」
「そっか、それなら良かった。じゃあ、行こうか」
「は、はい!!」
俺達は電車に乗り、目的の水族館に向かった。
「水族館なんて、久しぶりだな。柳さんは結構くる?」
「私も久しぶりです。小学生の時に両親と来て以来ですね」
「そっか。いやー楽しみだな」
「わ、私も楽しみでした」
「イルカのショーとか、初めて見るなー」
「わ、私は…探偵さんと…」
「ん?なに?」
「い、いえ!!なんでもないです…い、イルカのショー楽しみですね」
入り口でチケットを渡し、中に入る。
イルカのショーは午後一時半からの様だし、それまでどこに行くか。
「取り敢えず、ぐるっと回ろうか」
「はい」
先ずは、小さな、魚がいるエリアへ。
縦長の水槽の中を優雅に泳ぐ無数の魚達。
気持ちよさそうに泳いでんな。
「この魚、なんて名前だろ?」
「それは、クマノミと言うお魚ですよ。
有名な映画のモデルにもなった、可愛い魚です。クマノミはイソギンチャクに身を隠しながら、太平洋などに生息していますね」
「イソギンチャクって、毒なかったっけ?」
「はい。クマノミは特別な粘液が体を覆っているので、刺されない様です」
「へぇーそうなんだぁ」
さすが、柳さん。魚の生態にも詳しい。
次に現れたのはチンアナゴ。
砂底から、ニョロニョロと体を伸ばしている。
「いま、体を伸ばしているから、プランクトンでも食べているのですね。フフ。
可愛いです」
口に手を当て、笑う柳さんを見て、柳さんも可愛いけど、と、思ってしまう。
それからも、小さな、魚や、珍しいカエルなどを見て回っていく。道中、柳さんの講義ももちろんあった。
なんか、この感じ遠足の時を思い出すな。
「あっ、探偵さん。見て下さい。ペンギンですよ」
柳さんが指を差す方へ目を向けると、飼育員さんの後を一列で追いかけ、餌を貰うと、そのまま水の中ダイブするペンギン達がいる。
「可愛いですね」
柳さんはペンギンが好きなのか、うっとりとした表情で、ペンギンを見ていた。
イルカのショーが一時半からなので、俺達は少し早めに昼ごはんを取る事に。
少し早めに来たことで、水族館内のレストランはまだ空いていた為、すぐに席に座る事が出来、俺と柳さんは店員さんに注文をして料理を待つ事に。
「あ、あの探偵さん」
「はい、なんでしょう」
「えっと、答えたく無いなら、答えなくてもいいんですけど…」
「うん」
「二年生の、夢沼先輩に告白されたって本当ですか?」
夢沼先輩の告白…柳さんも知ってるのか。
いや、堀田さんにでも聞いたのかな?
あの時、スマホ触ってたよな、確か…
「告白なのかな。あれは」
そう答える事しか出来ないな。
実際あの人は俺に好意があるわけじゃない。あの人の狙いも全くわからない。
「違うんですか?」
柳さんはなぜか不安そうな表情をしている。夢沼先輩を好きな男子がいて、その人の恋を成功させたいから、俺が夢沼先輩に気があるのか気になるのかな?
「違うだろうね。あの先輩は俺に好意が無い。それなのに、あんな思わせぶりの事をしてくるんだよね。なにが狙いなんだか」
「そ、そうだったんですね!!」
パァッと表情が明るくなる。
「た、探偵さんは夢沼先輩の事…」
「俺はあの人には好意は無いよ」
「そうなんですね。よかったぁ」
ますます、表情が明るくなる。
そんなにその男子の恋を応援しているんだろうか。
「では、なぜ、夢沼先輩は探偵さんに、その様な事を言ったのでしょうか?」
「わからない…ただ、金田さんの話じゃ、二年の中で、灰村VS夢沼が始まったとか噂になってるらしいよ」
「そうですか…夢沼先輩は、灰村さんを」
柳さんは何か、知っているのかな。
「柳さん。夢沼先輩の事、なにか知ってるの?」
「生徒会長の檜山先輩の話では…」
なるほど…つまり、夢沼先輩は、灰村を潰す為に、俺を狙ったと。
なぜ?
「その情報。ありがとう。助かったよ」
「いえいえ、私が勝手に聞いてしまっただけですので」
「まぁ、灰村なら、大丈夫だと思う」
「でも。心配です」
「確かに最近元気無かったけど。あいつなら負けないさ」
「信頼してるんですね」
レストランを後にして、イルカのショーを見にいく事に。
「こちらの番号をお持ちくださーい」
イルカのショーの行われる場所の入り口で、番号の書かれたボールを渡され、俺達は席に着く。
「皆さーん!!こんにちはー!!これより、イルカのショーンくんのショーをはじまりまーす!!」
お姉さんの掛け声共に、会場は拍手に包まれ、イルカのショーンくんが登場した。
「わぁ!!可愛い!!」
隣で柳さんは少女の様に、瞳を輝かせている。
ショーンくんは登場すると、自分でお辞儀をした後、拍手をする。俺達もそれにつられ、拍手する。
ショーンくんはお姉さんの指示に従い、次々と芸を見せてくれる。時にはお姉さんの指示を無視して、観客の方に近付き、手を振るパフォーマンスをして、楽しませてくれる。
ショーも佳境に近づいてくる頃、お姉さんが番号を言い始めた。
「21番、48番、77番のボールをお持ちの方、ステージにお越しくださーい!!」
俺は自分の番号を確認すると、30番の為、ステージに行く事は出来ず。
「わ、私、77番です!!」
「おお!!良かったね!!行って来なよ」
「は、はい!!」
ステージ場の柳さんはガチガチの様子だ。一緒にステージに立っている、小学生の女の子の方はリラックスしているのか、表情が柔らかい。
お姉さんはマイクを柳さんに向けた。
「こんにちは!今日は誰と来たんですか?」
「え、ええっと。お、お友達です」
柳さんは俺の方を指を差し、お姉さんも俺を見る。
「お友達~?ほんとかなぁ?彼氏さんの間違いでは~?」
あのお姉さん、なんて事言いやがる。
友達だっつーの。
「ちちちちちち、違います!!友達です!!」
柳さんも同じ事を思っていたらしく、全力で否定する。
「ふむふむ、なるほどぉ。まあ、いいかぁ。それでは、お嬢さん、早速、ショーンくんに餌をあげてみましょう」
お姉さんは柳さんに餌を渡し、柳さんはショーンくんに近付く。
「はい、どうぞ。ショーンくん」
柳さんは笑顔で餌をあげ、ショーンくんも嬉しそうに、餌を食べている。
柳さんに餌を貰った、ショーンくんは、空中にある、輪っかをジャンプした後見事に潜り抜ける。
「おおっと!!ショーンくんめ、可愛い女の子から餌を貰って上機嫌だぞぉ!!でも、ショーンくん、このお嬢さんは彼氏持ちだぞぉ!!」
ショーンくんはその言葉に反応したのか、俺のいる方まで近付くと、思い切り、水を掛けて来た。
ずぶ濡れである…
「あちゃー、やっちゃった…」
会場から、笑いと、励ましの声を頂き、見事、ショーは終わりを迎えた。
「探偵さん。寒く無いですか?」
「大丈夫。入る前に、合羽を渡されてたし…着ててよかった」
俺達は最後に、お土産を買って帰る事に。
「柳さんは何買って行く?」
「そうですね。ペンギンのクッキーですかね」
あ。やっぱり、ペンギン好きなんだね。
「探偵さんは何か買いますか?」
「家族になんか、買って行くかな。買って帰らないとうるさいし」
「ふふ、仲が良いんですね」
「そうかなぁ…」
俺は適当に、家族へのお土産(クッキー)を買い、後は。イルカのキーホルダーと、後は柳さんに何か今日のお礼って事で、何か買うか。
水族館から出て、電車に乗り、俺達は帰る。
「今日はありがとう。楽しかったよ」
「私も楽しかったです!!ありがとうございました」
ペコリとお辞儀をする柳さん。
「あ、そうだ。これ。今日のお礼ってわけじゃ無いけど」
俺はペンギンの小さなぬいぐるみを柳さんに渡す。
「あ、ありがとうございます!!あの、その。私も…探偵さんに」
柳さんはそう言って、クマノミの絵が描かれたジグソーパズルを渡してきた。
「こ、これは!!ジグソーパズル!!こんなの売ってたのか」
「はい、ありました。見つけた時、探偵さんにプレゼントしようと思いました。少し早いですけど。私からのクリスマスプレゼントです」
なんて、ありがたいんだ…
「今日は本当にありがとうございました。そうじゃあ、私はこれで…」
「あ、うん。でももう遅いし、送っていくよ」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
そう言って柳さんは歩き出してしまう。
俺は柳さんの姿が見えなくなるまで、見守る事にした。
柳さんはその視線に気がついたのか、振り向いてきた。
何かを言っている。
「………きです」
ん?なんて言ったんだろ。
気になるが、柳さんは小走りで帰って行った。
家に着いたらメールしなきゃな。
兎に角、楽しい一日だった。
ありがとう。柳さん。
本日、土曜日。
俺はこれから水族館に行く事になっている。
もちろん、一人で行くわけじゃないよ。
二人だ。
相手は柳さんだ。
話は二日前に戻る。
部屋でくつろいでいる中、柳さんから電話が掛かってきた。
柳さんとはメールなどでやり取りをする事はあったが、電話は初めてで少し緊張してしまう。
なにか、緊急の様でもあるのかな?
「もしもし」
「………」
反応がない…
これは、なにかあったのか!?
「もしもし!柳さん!!どうしたの、なにか、あった?」
「こここここ、こんばんは」
声が、少し高くなっている。誰かに脅されて、俺に電話をしろと言われたのか!?
「柳さん、大丈夫!?」
「は、はい!!探偵さんに電話するの初めてで、その、緊張してしまって…」
そう言う事か。よかった、なにかあったわけじゃないんだな。
「それで、どうしたの?」
「えっと…その…た、探偵さん。こ、今度の土曜日ってなにか、予定ありますか?」
「土曜日?うーんとね、特にはないよ」
「あ、あの。も、もしよろしかったら。一緒に水族館に行きませんか」
「水族館?うん。いーよー」
と、言うやり取りがあり、今に至るわけだ。
柳さんから誘われるなんて、驚いたけど、最近色々あったし、偶には息抜きしないとな。
ドアに手を掛け、開けようとした時、ドタドタと、勢いよくこちらに向かって走ってくる音が聞こえてくる。
考える必要も無い。あいつの登場だ。
「ちょっと、ちょっとぉ!!兄さん、どこ行くのよぉ!!」
腰に手を当てるいつものポーズで、こちらをみている薫。
「どこでも、いいだろ」
「いーや、よくないね!!さぁ、今日こそはっきりさせてもらおうじゃない」
「お前に説明する必要ない。じゃ」
「必要ありますぅ!!私は兄さんルートに入った人を知る権利があるんだから」
「そんな、権利、お前には無い。そもそも誰も、俺ルートに入ってない。それにお前、文化祭で、その候補を探すとか言ってなかった?」
「ふん!!そんなの、兄さんの教室から出た瞬間に忘れたわ!」
「その時点で、対して興味持ってねえだろ」
「ぐっ。痛い所を!!こうなったら、兄さん、ちょっと待っててよ」
そう言って、薫はリビングの方へ走っていく。
恐らく、母さんを呼びに行ったな…
面倒だから、もう行こう。
薫を待たず、家を出て、駅に向かう俺。
帰ったら、二人の口撃に会うのが嫌だが、早く行かないと、遅刻してしまう。
何とか、集合時間前に駅に間に合った。
柳さんはまだ来てないのかな。
周囲を確認していると、駅の入り口にある時計の下で立っている、柳さんを発見した。
柳さんは、白のニットのシャツに、黒の肩までベルトが繋がっているロングスカートと言う、可愛い服装だ。
柳さんの私服姿は初めて、見るが、なるほど。可愛い。
俺は柳さんに近づいた。
「ごめん、柳さん。待った?」
「ここ、こんにちは、探偵さん!!わ、私も今来た所です」
「そっか、それなら良かった。じゃあ、行こうか」
「は、はい!!」
俺達は電車に乗り、目的の水族館に向かった。
「水族館なんて、久しぶりだな。柳さんは結構くる?」
「私も久しぶりです。小学生の時に両親と来て以来ですね」
「そっか。いやー楽しみだな」
「わ、私も楽しみでした」
「イルカのショーとか、初めて見るなー」
「わ、私は…探偵さんと…」
「ん?なに?」
「い、いえ!!なんでもないです…い、イルカのショー楽しみですね」
入り口でチケットを渡し、中に入る。
イルカのショーは午後一時半からの様だし、それまでどこに行くか。
「取り敢えず、ぐるっと回ろうか」
「はい」
先ずは、小さな、魚がいるエリアへ。
縦長の水槽の中を優雅に泳ぐ無数の魚達。
気持ちよさそうに泳いでんな。
「この魚、なんて名前だろ?」
「それは、クマノミと言うお魚ですよ。
有名な映画のモデルにもなった、可愛い魚です。クマノミはイソギンチャクに身を隠しながら、太平洋などに生息していますね」
「イソギンチャクって、毒なかったっけ?」
「はい。クマノミは特別な粘液が体を覆っているので、刺されない様です」
「へぇーそうなんだぁ」
さすが、柳さん。魚の生態にも詳しい。
次に現れたのはチンアナゴ。
砂底から、ニョロニョロと体を伸ばしている。
「いま、体を伸ばしているから、プランクトンでも食べているのですね。フフ。
可愛いです」
口に手を当て、笑う柳さんを見て、柳さんも可愛いけど、と、思ってしまう。
それからも、小さな、魚や、珍しいカエルなどを見て回っていく。道中、柳さんの講義ももちろんあった。
なんか、この感じ遠足の時を思い出すな。
「あっ、探偵さん。見て下さい。ペンギンですよ」
柳さんが指を差す方へ目を向けると、飼育員さんの後を一列で追いかけ、餌を貰うと、そのまま水の中ダイブするペンギン達がいる。
「可愛いですね」
柳さんはペンギンが好きなのか、うっとりとした表情で、ペンギンを見ていた。
イルカのショーが一時半からなので、俺達は少し早めに昼ごはんを取る事に。
少し早めに来たことで、水族館内のレストランはまだ空いていた為、すぐに席に座る事が出来、俺と柳さんは店員さんに注文をして料理を待つ事に。
「あ、あの探偵さん」
「はい、なんでしょう」
「えっと、答えたく無いなら、答えなくてもいいんですけど…」
「うん」
「二年生の、夢沼先輩に告白されたって本当ですか?」
夢沼先輩の告白…柳さんも知ってるのか。
いや、堀田さんにでも聞いたのかな?
あの時、スマホ触ってたよな、確か…
「告白なのかな。あれは」
そう答える事しか出来ないな。
実際あの人は俺に好意があるわけじゃない。あの人の狙いも全くわからない。
「違うんですか?」
柳さんはなぜか不安そうな表情をしている。夢沼先輩を好きな男子がいて、その人の恋を成功させたいから、俺が夢沼先輩に気があるのか気になるのかな?
「違うだろうね。あの先輩は俺に好意が無い。それなのに、あんな思わせぶりの事をしてくるんだよね。なにが狙いなんだか」
「そ、そうだったんですね!!」
パァッと表情が明るくなる。
「た、探偵さんは夢沼先輩の事…」
「俺はあの人には好意は無いよ」
「そうなんですね。よかったぁ」
ますます、表情が明るくなる。
そんなにその男子の恋を応援しているんだろうか。
「では、なぜ、夢沼先輩は探偵さんに、その様な事を言ったのでしょうか?」
「わからない…ただ、金田さんの話じゃ、二年の中で、灰村VS夢沼が始まったとか噂になってるらしいよ」
「そうですか…夢沼先輩は、灰村さんを」
柳さんは何か、知っているのかな。
「柳さん。夢沼先輩の事、なにか知ってるの?」
「生徒会長の檜山先輩の話では…」
なるほど…つまり、夢沼先輩は、灰村を潰す為に、俺を狙ったと。
なぜ?
「その情報。ありがとう。助かったよ」
「いえいえ、私が勝手に聞いてしまっただけですので」
「まぁ、灰村なら、大丈夫だと思う」
「でも。心配です」
「確かに最近元気無かったけど。あいつなら負けないさ」
「信頼してるんですね」
レストランを後にして、イルカのショーを見にいく事に。
「こちらの番号をお持ちくださーい」
イルカのショーの行われる場所の入り口で、番号の書かれたボールを渡され、俺達は席に着く。
「皆さーん!!こんにちはー!!これより、イルカのショーンくんのショーをはじまりまーす!!」
お姉さんの掛け声共に、会場は拍手に包まれ、イルカのショーンくんが登場した。
「わぁ!!可愛い!!」
隣で柳さんは少女の様に、瞳を輝かせている。
ショーンくんは登場すると、自分でお辞儀をした後、拍手をする。俺達もそれにつられ、拍手する。
ショーンくんはお姉さんの指示に従い、次々と芸を見せてくれる。時にはお姉さんの指示を無視して、観客の方に近付き、手を振るパフォーマンスをして、楽しませてくれる。
ショーも佳境に近づいてくる頃、お姉さんが番号を言い始めた。
「21番、48番、77番のボールをお持ちの方、ステージにお越しくださーい!!」
俺は自分の番号を確認すると、30番の為、ステージに行く事は出来ず。
「わ、私、77番です!!」
「おお!!良かったね!!行って来なよ」
「は、はい!!」
ステージ場の柳さんはガチガチの様子だ。一緒にステージに立っている、小学生の女の子の方はリラックスしているのか、表情が柔らかい。
お姉さんはマイクを柳さんに向けた。
「こんにちは!今日は誰と来たんですか?」
「え、ええっと。お、お友達です」
柳さんは俺の方を指を差し、お姉さんも俺を見る。
「お友達~?ほんとかなぁ?彼氏さんの間違いでは~?」
あのお姉さん、なんて事言いやがる。
友達だっつーの。
「ちちちちちち、違います!!友達です!!」
柳さんも同じ事を思っていたらしく、全力で否定する。
「ふむふむ、なるほどぉ。まあ、いいかぁ。それでは、お嬢さん、早速、ショーンくんに餌をあげてみましょう」
お姉さんは柳さんに餌を渡し、柳さんはショーンくんに近付く。
「はい、どうぞ。ショーンくん」
柳さんは笑顔で餌をあげ、ショーンくんも嬉しそうに、餌を食べている。
柳さんに餌を貰った、ショーンくんは、空中にある、輪っかをジャンプした後見事に潜り抜ける。
「おおっと!!ショーンくんめ、可愛い女の子から餌を貰って上機嫌だぞぉ!!でも、ショーンくん、このお嬢さんは彼氏持ちだぞぉ!!」
ショーンくんはその言葉に反応したのか、俺のいる方まで近付くと、思い切り、水を掛けて来た。
ずぶ濡れである…
「あちゃー、やっちゃった…」
会場から、笑いと、励ましの声を頂き、見事、ショーは終わりを迎えた。
「探偵さん。寒く無いですか?」
「大丈夫。入る前に、合羽を渡されてたし…着ててよかった」
俺達は最後に、お土産を買って帰る事に。
「柳さんは何買って行く?」
「そうですね。ペンギンのクッキーですかね」
あ。やっぱり、ペンギン好きなんだね。
「探偵さんは何か買いますか?」
「家族になんか、買って行くかな。買って帰らないとうるさいし」
「ふふ、仲が良いんですね」
「そうかなぁ…」
俺は適当に、家族へのお土産(クッキー)を買い、後は。イルカのキーホルダーと、後は柳さんに何か今日のお礼って事で、何か買うか。
水族館から出て、電車に乗り、俺達は帰る。
「今日はありがとう。楽しかったよ」
「私も楽しかったです!!ありがとうございました」
ペコリとお辞儀をする柳さん。
「あ、そうだ。これ。今日のお礼ってわけじゃ無いけど」
俺はペンギンの小さなぬいぐるみを柳さんに渡す。
「あ、ありがとうございます!!あの、その。私も…探偵さんに」
柳さんはそう言って、クマノミの絵が描かれたジグソーパズルを渡してきた。
「こ、これは!!ジグソーパズル!!こんなの売ってたのか」
「はい、ありました。見つけた時、探偵さんにプレゼントしようと思いました。少し早いですけど。私からのクリスマスプレゼントです」
なんて、ありがたいんだ…
「今日は本当にありがとうございました。そうじゃあ、私はこれで…」
「あ、うん。でももう遅いし、送っていくよ」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
そう言って柳さんは歩き出してしまう。
俺は柳さんの姿が見えなくなるまで、見守る事にした。
柳さんはその視線に気がついたのか、振り向いてきた。
何かを言っている。
「………きです」
ん?なんて言ったんだろ。
気になるが、柳さんは小走りで帰って行った。
家に着いたらメールしなきゃな。
兎に角、楽しい一日だった。
ありがとう。柳さん。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる