名探偵になりたい高校生

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四十九話 水族館

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「さてと、そろそろ行くか」

本日、土曜日。
俺はこれから水族館に行く事になっている。
もちろん、一人で行くわけじゃないよ。
二人だ。
相手は柳さんだ。

話は二日前に戻る。

部屋でくつろいでいる中、柳さんから電話が掛かってきた。
柳さんとはメールなどでやり取りをする事はあったが、電話は初めてで少し緊張してしまう。
なにか、緊急の様でもあるのかな?

「もしもし」
「………」

反応がない…
これは、なにかあったのか!?

「もしもし!柳さん!!どうしたの、なにか、あった?」
「こここここ、こんばんは」

声が、少し高くなっている。誰かに脅されて、俺に電話をしろと言われたのか!?

「柳さん、大丈夫!?」
「は、はい!!探偵さんに電話するの初めてで、その、緊張してしまって…」

そう言う事か。よかった、なにかあったわけじゃないんだな。

「それで、どうしたの?」
「えっと…その…た、探偵さん。こ、今度の土曜日ってなにか、予定ありますか?」
「土曜日?うーんとね、特にはないよ」
「あ、あの。も、もしよろしかったら。一緒に水族館に行きませんか」
「水族館?うん。いーよー」

と、言うやり取りがあり、今に至るわけだ。
柳さんから誘われるなんて、驚いたけど、最近色々あったし、偶には息抜きしないとな。

ドアに手を掛け、開けようとした時、ドタドタと、勢いよくこちらに向かって走ってくる音が聞こえてくる。
考える必要も無い。あいつの登場だ。

「ちょっと、ちょっとぉ!!兄さん、どこ行くのよぉ!!」
腰に手を当てるいつものポーズで、こちらをみている薫。
「どこでも、いいだろ」
「いーや、よくないね!!さぁ、今日こそはっきりさせてもらおうじゃない」
「お前に説明する必要ない。じゃ」
「必要ありますぅ!!私は兄さんルートに入った人を知る権利があるんだから」
「そんな、権利、お前には無い。そもそも誰も、俺ルートに入ってない。それにお前、文化祭で、その候補を探すとか言ってなかった?」
「ふん!!そんなの、兄さんの教室から出た瞬間に忘れたわ!」
「その時点で、対して興味持ってねえだろ」
「ぐっ。痛い所を!!こうなったら、兄さん、ちょっと待っててよ」
そう言って、薫はリビングの方へ走っていく。
恐らく、母さんを呼びに行ったな…
面倒だから、もう行こう。

薫を待たず、家を出て、駅に向かう俺。
帰ったら、二人の口撃に会うのが嫌だが、早く行かないと、遅刻してしまう。

何とか、集合時間前に駅に間に合った。
柳さんはまだ来てないのかな。
周囲を確認していると、駅の入り口にある時計の下で立っている、柳さんを発見した。
柳さんは、白のニットのシャツに、黒の肩までベルトが繋がっているロングスカートと言う、可愛い服装だ。
柳さんの私服姿は初めて、見るが、なるほど。可愛い。
俺は柳さんに近づいた。

「ごめん、柳さん。待った?」
「ここ、こんにちは、探偵さん!!わ、私も今来た所です」
「そっか、それなら良かった。じゃあ、行こうか」
「は、はい!!」

俺達は電車に乗り、目的の水族館に向かった。

「水族館なんて、久しぶりだな。柳さんは結構くる?」
「私も久しぶりです。小学生の時に両親と来て以来ですね」
「そっか。いやー楽しみだな」
「わ、私も楽しみでした」
「イルカのショーとか、初めて見るなー」
「わ、私は…探偵さんと…」
「ん?なに?」
「い、いえ!!なんでもないです…い、イルカのショー楽しみですね」

入り口でチケットを渡し、中に入る。
イルカのショーは午後一時半からの様だし、それまでどこに行くか。

「取り敢えず、ぐるっと回ろうか」
「はい」

先ずは、小さな、魚がいるエリアへ。
縦長の水槽の中を優雅に泳ぐ無数の魚達。
気持ちよさそうに泳いでんな。
「この魚、なんて名前だろ?」
「それは、クマノミと言うお魚ですよ。
有名な映画のモデルにもなった、可愛い魚です。クマノミはイソギンチャクに身を隠しながら、太平洋などに生息していますね」
「イソギンチャクって、毒なかったっけ?」
「はい。クマノミは特別な粘液が体を覆っているので、刺されない様です」
「へぇーそうなんだぁ」
さすが、柳さん。魚の生態にも詳しい。

次に現れたのはチンアナゴ。
砂底から、ニョロニョロと体を伸ばしている。

「いま、体を伸ばしているから、プランクトンでも食べているのですね。フフ。
可愛いです」
口に手を当て、笑う柳さんを見て、柳さんも可愛いけど、と、思ってしまう。

それからも、小さな、魚や、珍しいカエルなどを見て回っていく。道中、柳さんの講義ももちろんあった。
なんか、この感じ遠足の時を思い出すな。

「あっ、探偵さん。見て下さい。ペンギンですよ」
柳さんが指を差す方へ目を向けると、飼育員さんの後を一列で追いかけ、餌を貰うと、そのまま水の中ダイブするペンギン達がいる。

「可愛いですね」
柳さんはペンギンが好きなのか、うっとりとした表情で、ペンギンを見ていた。

イルカのショーが一時半からなので、俺達は少し早めに昼ごはんを取る事に。

少し早めに来たことで、水族館内のレストランはまだ空いていた為、すぐに席に座る事が出来、俺と柳さんは店員さんに注文をして料理を待つ事に。

「あ、あの探偵さん」
「はい、なんでしょう」
「えっと、答えたく無いなら、答えなくてもいいんですけど…」
「うん」
「二年生の、夢沼先輩に告白されたって本当ですか?」
夢沼先輩の告白…柳さんも知ってるのか。
いや、堀田さんにでも聞いたのかな?
あの時、スマホ触ってたよな、確か…

「告白なのかな。あれは」
そう答える事しか出来ないな。
実際あの人は俺に好意があるわけじゃない。あの人の狙いも全くわからない。

「違うんですか?」
柳さんはなぜか不安そうな表情をしている。夢沼先輩を好きな男子がいて、その人の恋を成功させたいから、俺が夢沼先輩に気があるのか気になるのかな?

「違うだろうね。あの先輩は俺に好意が無い。それなのに、あんな思わせぶりの事をしてくるんだよね。なにが狙いなんだか」
「そ、そうだったんですね!!」
パァッと表情が明るくなる。
「た、探偵さんは夢沼先輩の事…」
「俺はあの人には好意は無いよ」
「そうなんですね。よかったぁ」
ますます、表情が明るくなる。
そんなにその男子の恋を応援しているんだろうか。
「では、なぜ、夢沼先輩は探偵さんに、その様な事を言ったのでしょうか?」
「わからない…ただ、金田さんの話じゃ、二年の中で、灰村VS夢沼が始まったとか噂になってるらしいよ」
「そうですか…夢沼先輩は、灰村さんを」
柳さんは何か、知っているのかな。
「柳さん。夢沼先輩の事、なにか知ってるの?」
「生徒会長の檜山先輩の話では…」

なるほど…つまり、夢沼先輩は、灰村を潰す為に、俺を狙ったと。
なぜ?

「その情報。ありがとう。助かったよ」
「いえいえ、私が勝手に聞いてしまっただけですので」
「まぁ、灰村なら、大丈夫だと思う」
「でも。心配です」
「確かに最近元気無かったけど。あいつなら負けないさ」
「信頼してるんですね」

レストランを後にして、イルカのショーを見にいく事に。

「こちらの番号をお持ちくださーい」

イルカのショーの行われる場所の入り口で、番号の書かれたボールを渡され、俺達は席に着く。

「皆さーん!!こんにちはー!!これより、イルカのショーンくんのショーをはじまりまーす!!」

お姉さんの掛け声共に、会場は拍手に包まれ、イルカのショーンくんが登場した。
「わぁ!!可愛い!!」
隣で柳さんは少女の様に、瞳を輝かせている。

ショーンくんは登場すると、自分でお辞儀をした後、拍手をする。俺達もそれにつられ、拍手する。

ショーンくんはお姉さんの指示に従い、次々と芸を見せてくれる。時にはお姉さんの指示を無視して、観客の方に近付き、手を振るパフォーマンスをして、楽しませてくれる。

ショーも佳境に近づいてくる頃、お姉さんが番号を言い始めた。
「21番、48番、77番のボールをお持ちの方、ステージにお越しくださーい!!」

俺は自分の番号を確認すると、30番の為、ステージに行く事は出来ず。
「わ、私、77番です!!」
「おお!!良かったね!!行って来なよ」
「は、はい!!」

ステージ場の柳さんはガチガチの様子だ。一緒にステージに立っている、小学生の女の子の方はリラックスしているのか、表情が柔らかい。

お姉さんはマイクを柳さんに向けた。
「こんにちは!今日は誰と来たんですか?」
「え、ええっと。お、お友達です」
柳さんは俺の方を指を差し、お姉さんも俺を見る。
「お友達~?ほんとかなぁ?彼氏さんの間違いでは~?」
あのお姉さん、なんて事言いやがる。
友達だっつーの。
「ちちちちちち、違います!!友達です!!」
柳さんも同じ事を思っていたらしく、全力で否定する。
「ふむふむ、なるほどぉ。まあ、いいかぁ。それでは、お嬢さん、早速、ショーンくんに餌をあげてみましょう」
お姉さんは柳さんに餌を渡し、柳さんはショーンくんに近付く。

「はい、どうぞ。ショーンくん」
柳さんは笑顔で餌をあげ、ショーンくんも嬉しそうに、餌を食べている。

柳さんに餌を貰った、ショーンくんは、空中にある、輪っかをジャンプした後見事に潜り抜ける。

「おおっと!!ショーンくんめ、可愛い女の子から餌を貰って上機嫌だぞぉ!!でも、ショーンくん、このお嬢さんは彼氏持ちだぞぉ!!」

ショーンくんはその言葉に反応したのか、俺のいる方まで近付くと、思い切り、水を掛けて来た。
ずぶ濡れである…

「あちゃー、やっちゃった…」
会場から、笑いと、励ましの声を頂き、見事、ショーは終わりを迎えた。

「探偵さん。寒く無いですか?」
「大丈夫。入る前に、合羽を渡されてたし…着ててよかった」

俺達は最後に、お土産を買って帰る事に。

「柳さんは何買って行く?」
「そうですね。ペンギンのクッキーですかね」
あ。やっぱり、ペンギン好きなんだね。
「探偵さんは何か買いますか?」
「家族になんか、買って行くかな。買って帰らないとうるさいし」
「ふふ、仲が良いんですね」
「そうかなぁ…」

俺は適当に、家族へのお土産(クッキー)を買い、後は。イルカのキーホルダーと、後は柳さんに何か今日のお礼って事で、何か買うか。

水族館から出て、電車に乗り、俺達は帰る。

「今日はありがとう。楽しかったよ」
「私も楽しかったです!!ありがとうございました」
ペコリとお辞儀をする柳さん。

「あ、そうだ。これ。今日のお礼ってわけじゃ無いけど」
俺はペンギンの小さなぬいぐるみを柳さんに渡す。
「あ、ありがとうございます!!あの、その。私も…探偵さんに」
柳さんはそう言って、クマノミの絵が描かれたジグソーパズルを渡してきた。
「こ、これは!!ジグソーパズル!!こんなの売ってたのか」
「はい、ありました。見つけた時、探偵さんにプレゼントしようと思いました。少し早いですけど。私からのクリスマスプレゼントです」
なんて、ありがたいんだ…
「今日は本当にありがとうございました。そうじゃあ、私はこれで…」
「あ、うん。でももう遅いし、送っていくよ」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
そう言って柳さんは歩き出してしまう。
俺は柳さんの姿が見えなくなるまで、見守る事にした。
柳さんはその視線に気がついたのか、振り向いてきた。
何かを言っている。

「………きです」

ん?なんて言ったんだろ。
気になるが、柳さんは小走りで帰って行った。
家に着いたらメールしなきゃな。

兎に角、楽しい一日だった。
ありがとう。柳さん。



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