名探偵になりたい高校生

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四十八話 柳香澄は動く

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 ー間宮くん、二年の先輩に告白されたっぽいぞ。

 朝、学校に来てから直ぐに寧々さんからメッセージを貰った…

 告白…探偵さんが……??

 私は見間違いかなと、スマホを何度も確認したけど、なんど見ても、文章は変わらない。

 相手は誰だろう…。

 私の脳内はその事しか考える事しか出来ていなかったらしく、クラスメイトの女子に声を掛けられるまで、先生が私を呼んでいることに全く気が付かなかった。

「柳、どうした?なにかあったか?」
 先生も不思議に思ったらしく声を掛けてくる。

「い、いえ。だ、大丈夫です。すみません」

 私は気持ちを切り替え、号令を掛けた。

 昼休み。

 私のクラスに寧々さんが来てくれて、いつも一緒にご飯を食べている。
 今日も、寧々さんは来てくれて、私の前の机を反転させ、向かい合わせにすると、お弁当の蓋を開け、ご飯を食べ始めた。

 私もお弁当を開けるけど、食欲がわかない…気持ちを切り替えてとか言っては見たけど、全然、切り替えられなかった。
 午前中の授業は全然頭に入らず…

 そんな私を見て、寧々さんは、全てを察したのか、私に聞いてきた。

「んで、お前、どうするんだ?」
「どうするって…なにがですか?」
「なにがって、間宮くんに告った人が気になるんだろ?」
「…気にはなります。あ、後…」
「ああ。間宮くんの返事は、知らん。多分、付き合うとかでは無いと思うが。今の所」

 今の所って事は付き合う事もあるのかな…?

「その、相手の方って?」
「相手は、二年の夢沼先輩と言う人らしいな。二年で一番可愛いとされている人だよ。倖田さんが教えてくれた」

 倖田さん。
 倖田こうだ千佳ちかさん。
 一年六組で、一年生でもう一人の茶道部の方。合同授業で一緒になる事はある為、顔は知っているけど、話した事は無い。いつも誰かと話していると言う印象はある。

「倖田さん、朝のHR が終わると同時に、速攻で、私の所にやって来たよ。そのついでに聞いた。さすが、おしゃべり大好き、倖田さん。いつもは部活まで我慢するのに、話したくて話したくて仕方がなかったんだろうな」

 部活で…
 倖田さんのいつものあの感じを見るに、寧々さんがお茶を点てているその横で、ひたすら話していると言うのが想像出来てしまう。

「そ、その、夢沼先輩と探偵さんってどう言った繋がりが…」
「さあ。そこまでは。その先輩がなにを想って間宮くんに告ったのかは知らない。それより、私はお前がこのまま何もしないのかって聞きたいんだけど」
「そ、そんな事言われても」
「まぁ、間宮くんが他の女とイチャイチャするのが耐えられるなら別になにもしなくて良いさ。香澄も本気で間宮くんの事好きじゃなかったと気がつくだけだと思うし」
「いや、そ、その…」
「はっきりしないなぁ。好きなんだろ?」
 寧々さんは私の顔をじっと見つめている。
 言わなくてもわかる。全てお見通しだと。そんな顔をしている。
 ちゃんと行動しない私に少し呆れているのかも知れない。
「す、好きです…」
 は、恥ずかしい。
「ん。そうか。ならお前にこれをやろう」
 寧々さんはそう言って、自分のバッグをゴソゴソと漁り、私にチケットを渡して来た。
「これって」
「文化祭で手に入れた奴。水族館のペアチケット。これで間宮くんをデートに誘え」
「えええ!!」
 大きな声を出してしまった。
 クラスの人達が全員こっちを見ているが、暫くすると元に戻った。

「うるさいな」
 寧々さんは耳を手を当てながらそう言った後、チケットを机の上に置いた。
「ご、ごめんなさい…」
「私はそんなのいらないからな。香澄にあげるよ。そもそも、それ、お前にあげる為に取ったんだし」
「いや、でも、悪いですよ。寧々さんが取ったのに」
「お前の為に取ったものだって言っただろ。気にする事はないさ。私は誘う相手もいないし」
 佐竹くんを誘ったら凄く喜びそうだけど…
「今、余計な事考えてなかった?」
「い、いえ!!なにも…」
 す、鋭い。

 私は寧々さんから水族館のチケットを頂いた。
 探偵さんを誘うか…いつ言えば良いのかな。

 放課後になり、生徒会室に行くと、檜山先輩しかまだ来ていない様で、檜山先輩は私に気がつくと読んでいた、漫画を机に置いた。

「やあ、柳。今日も早いな」
「こんにちは。先輩、ここで漫画を読むのは禁止ですよ」
「まあまあ、そんな事言わないでよ。そうだ、生徒会長の権限で、ここで漫画を読むことは良しとしちゃおうかな」
 笑顔でそのような事を言う檜山先輩。
 本気で言っているのか冗談なのかわからない。
「副会長として、先輩の横暴は阻止します」
「厳しいなぁ、柳は。ま、そんな所もあって、俺は柳を副会長に推薦したんだけどな」

 今は檜山先輩と二人だ。ここは思い切って夢沼先輩の事聞いてみよう。

「あ、あの。檜山先輩」
「んー。どうした」
「夢沼先輩ってご存知ですか?」
「夢沼さん。そりゃあ同じ二年だし、知ってるよ。あいつがどうかした?」
「どの様な方なのでしょうか?」
 檜山先輩は少し考えた後話し始めた。
「新聞部。そして、俺達二年で、いや、二、三年の中では一番可愛い人。かな」
「二、三年生。ですか」
「そぉ。二、三年。夢沼さんはね、俺達が入学した年、つまり去年ね。その年の一年、二年、三年の中で、一番可愛いって言われてたんだ。それはもう、モテるモテる。同学年はもちろん、先輩方には告白されまくってたよ」
「凄い方なんですね」
「そんなだから、他の女子には結構嫉妬されたりしてたわけよ、本人は全然気にして無いけど。でも彼女をいじめとかする奴はいない。何故ならね…」
 檜山先輩は、少し声のトーンを落とし始めた。
「あいつに何かしたら、必ず、精神的に追い込まれ、学校を辞める、もしくは不登校になるって噂が、あったから」
「噂ですか…実際退学してしまった方はいるのでしょうか?」
「今の三年で二人、いるよ。その先輩は夢沼さんに嫉妬して、何かやったらしいんだ。何をやったかは知らないけど。
 それで、夢沼さんは反撃に出た」
「反撃」
「まずは、その先輩の彼氏を奪った。そして彼女の前で容赦無くイチャついた。他の生徒など全く気にせずにね。デートの場所はその彼女との思い出の場所に行き、彼氏から、その彼女との思い出を自分との思い出に切り替えさせ、完全に前の彼女との思い出を忘れさせ、全て自分と行ったのが初めての様にしていた」
 酷い。
 私はそんな事されたらすぐに、倒れてしまいそう。
「そんで、その先輩を呼び出し、元彼の前で、土下座させ、思い出の品を全て目の前で燃やさせた。可哀想にね。中学から付き合ってたらしいのに」
「その男の先輩も酷いと思います」
「そうだね。夢沼さんは人の心の隙間に入るのが上手いらしいんだ。その彼氏の心の隙間に入り込み、惚れさせたんだろうね。そして、その先輩は不登校になってしまい、そのまま、辞めた。そして、その後、夢沼さんは男とも別れた」
「最初から好きでも無かったって事ですね」
「そうだね。そして、男も辞めたよ。女の先輩が辞めたのはその男の所為って事で結構追い詰められてたらしいし。夢沼さんは、知らずに付き合っただけって事で誰にも何も言われていない。でも、裏話として、こうやって広がっているわけさ」
 夢沼先輩は自分の敵になった人は容赦無く潰す人って事なんですね…酷い。
「まぁ、あの人から、何か仕掛ける事はしない人だから、柳も関わらなければ問題ないよ」
「そうですか…ありがとうございます」

 自分から仕掛ける事はしない…つまり、夢沼先輩は純粋に探偵さんに惹かれ告白をしたって事なのかな?
 それとも…他に…

 檜山先輩から夢沼先輩の事を聞き終えると、ぞろぞろと生徒会メンバーが集まり、確実自分の作業を始めた。

 生徒会での作業が終わり、帰ろうとした時、門の前に寧々さんがいる事に気が付いた私は、寧々さんの元へ駆け寄り声を掛けた。
「寧々さん、今お帰りですか?」
「おお、香澄か。そうなんだ、今から帰る所だ。ちょうどいい、一緒に帰るか」
「はい」

 二人で歩きながら、寧々さんは、水族館の話を初めてきた。
「所で、間宮くんは誘ったのか?」
「い、いえ。まだです。直接言うのは恥ずかしくて、メールにしようかと…」
「電話」
「へ?」
「電話しろ。今日。夜」
「きょ、今日ですか!?」
「ああ」
「は、恥ずかしい…」
「仮に水族館行けたら、お前、恥ずかしくて、話せないんじゃないか。それ。楽しいのか。デートがつまらない。それって、その後の展開として結構致命的だと思うけど。香澄と二人でも、話す事ないしな、一緒にいてもつまんない。そんな印象を与えるだけな気がするが…。電話で少しでも会話して、当日に会話が出来るくらいにはしないと」
 ぐうの音も出ない。見事に論破されてしまった。
「わ、わかりました。電話してみます」
「私の勘だと、まぁ、断られないから大丈夫だよ」
「そうですかね…」
「ハァ。やれやれ」

 帰宅し、自分の部屋に着いて、スマホを持ち、スマホの画面には、【間宮 孝一】と表示されたまま、もう二時間は経ってしまった。
 つ、通話ボタンを押せない。
「はああああ、緊張する」

 気分を変えようと、スマホを操作し、動画でも見ようかと思ったが、間違えて、通話ボタンを押してしまう。
「はふぁはうぁwふぁふぁふぁ」

 プルルルとコール音が鳴っている。
 ーガチャ。

「はい、もしもし」
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