名探偵になりたい高校生

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四十六話 一年二学期 九

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 十二月になって、寒さもますます厳しくなり、本格的な冬になって来た。
 朝の寒さに、身を震えさせながらいつも通りに学校に向かう。

「おはよー、間宮くん」
「おはようございます」

「間宮くん、おはよー」
「おはようございます」

「おはよ、間宮」
「おはようございます」

 季節の変化と共に、俺の学校生活にも変化が起き始めて来ていた。

 それは、ここ一週間で、やけに上級生、主に二年生の先輩、それも女子から声を掛けられる様になった事だ。
 俺にも遂にモテ期が来たかと思いたいが、挨拶される程度でそれ以上特に何か起こる事はない。
 たまに、依頼として、やって来る人もいたが…

 教室に着くまでに、数人の先輩に声を掛けられている俺を羨ましそうに見ている男子達の視線を感じ、若干の疲労感を感じながら、自分の席に着く。

 一日は始まったばかりなのに、すでに疲れてしまう。

「やあ、おはよう間宮くん」
「おはよう堀田さん」
 俺の席の前に座る女子、地味なメガネを掛け、今日も眠そうな目をしている堀田さんは、俺が席に着くなり、後ろを振り向き挨拶をしてきた。
「最近、よく二年生に声を掛けられているね」
「そうなんだよね。モテ期きちゃったかな?」
「挨拶以外で君に積極的に話しかけてくる人がいたら、そうかもね」
「……いないです。ホントはモテ期なんか来てないと思ってます」
「そういう所は鈍チンじゃないんだね。
 二年生に注目される様な事でもやったのかな?」
「いや、なにも…」
「そうか。じゃあなんでだろうね」

 堀田さんが聞いてきた事の様に、俺は二年生に注目される様な事は何一つやってはいない。
 あえて言うなら、文化祭で薫が目立った事なのかもしれないが、文化祭が終わってもう二ヶ月くらい経つ。
 文化祭は関係ないって事になると思うが。

「そう言えば、今日は灰村さんは一緒じゃないのか?」
 周囲をキョロキョロと見回す堀田さん。
 俺も、同じく周囲を見るが、灰村が来ていない。
 いつもは校門前で大体会うが、今日は会っていない。
 休みなら、スマホに連絡して来るし…
 遅刻か?

 教室の後ろに扉がガラガラと開くと、いつも以上に不機嫌な表情をした灰村が入ってきた。
 灰村は俺と目が合うと、小さく『おはよ』とだけ言って席に着いた。
 挨拶をして来るって事は俺に対して怒っているわけではなさそうだけど…

「灰村さん、なんか物凄く不機嫌だね。なにかあったのかな?」
「さあ、なんだろう。聞いてみるよ」
 俺は席を立ち、灰村の元へ近付いた。

「おはよう、灰村。なんかあったのか?」
 灰村は視線だけこっちに向ける。
「別に…なんでもない」
 灰村はそれだけ言って何も話そうとはしなかった。
 こうなったら無理に聞く必要はないな。席に戻ろう。
 席に戻ると同時にチャイムが鳴り、担任である磯川先生が入ってきて朝のホームルームが始まったーー。

 昼になり、俺はいつも通り、快斗と共に食堂に向かおうとするが、灰村が話しかけてきた。
「ねえ、今日は私も食堂行ってもいいかな?」
「いいよ。珍しいな」
 灰村はいつも自前の弁当を教室で一人で食べている。そんな灰村が食堂に来ると言うなんて。
「弁当忘れたの?」
「違う。たまには違う場所で食べたいって思っただけ…」
 断る理由もないし、一緒に食堂に向かう事に。快斗は灰村と一緒にご飯が食べれることにテンションが上がり、食堂に行くまでずっとうるさかった。

「ここが、食堂か。初めて来た」
「俺達はご飯買って来るから、灰村は先に座って、席を確保しててくれ」
「わかった」

 俺はいつものA定食に快斗は、パスタを持って灰村の待つ席に向かい、快斗は灰村の隣に座る。
「いや~灰村さんとご飯を食べれるなんて夢の様だね~。パスタがいつもより美味く感じる!!」
 そんな快斗を無視して、灰村は俺のA定食をジッと見ている。
 今日はハンバーグ。灰村はハンバーグが好きだったっけ?
「美味しそうね、それ」
「少しあげようか?」
「そうね…交換しましょ」
 灰村は自分弁当を俺に渡し、俺のA定食を奪っていく。
 まさか、灰村の弁当と交換になるとは思いもしなかったが、俺のA定食を取られてしまったし、仕方ない。灰村の弁当を頂くとしよう。
 弁当の蓋を開けると、ほうれん草のソテーに卵焼きにソーセージが入っている。
 美味そう。
 俺は卵焼きを一つ掴み口に入れる。

 う、美味い!!

 灰村が料理は一度だけ食べた事もあり、上手なのは知っていたが、これは美味い。
 丁度いい甘さ。うめー。

 そんな俺を羨ましそうに見つめる快斗。
「ここここここここ、孝一。そ、その高級弁当。俺にも一つ恵んで下さいい!」
 俺は灰村に視線を向け、ハンバーグを食べている灰村は、手を止め、快斗に、『どうぞ』とだけ言うと再びハンバーグを食べる。

「い、いただきまーーす!!」
 快斗は、卵焼きを一つ掴み、口に入れると、満面の笑で、灰村を見る。
「うっめぇぇぇぇぇぇぇ!!灰村さん!!料理上手だね!!こんな美味い卵焼きなんて初めて食べたよ!!」
「はぁ、どうも」
「灰村さんはいいお嫁さんになるだろうな~!!」
「料理が上手なだけで、いいお嫁になるかどうかはわかんないけど、一応ありがとうとだけ、いっとくよ。ただ、私の旦那は君じゃないけど」
「悲しい…」

 放課後になると、今日は灰村は予定がある為部活には参加せず、帰宅。依頼も特にない為、俺と快斗も帰る事に。

「あ、間宮くん。帰り?また明日ねー」
「はあ、どうも」

「間宮くん、バイバーイ」
「はあ、どうも」

「間宮、じゃあね~」
「はあ、どうも」

 帰りも先輩達に声を掛けられる。
「孝一、最近先輩方に声掛けられてるんだって?」
「そうなんだよ。よく知ってるな」
「茜ちゃんが教えてくれた」
「飯島さんにも見られてたか」
「茜ちゃんはそう言った事に敏感だからなぁ。流行り物とか好きだし。今日も昨日と違う香水付けてたし」
「快斗はさっきの先輩達見てどう思った」
 モテ期ではないと思うがもしかしたらモテ期の始まりかもしれない。快斗の女子の変化に気がつく特技を利用し、聞いてみることにしよう。
「さっきの先輩達?ああ、そうだな。孝一に好意はまるでないよ。それどころか三人とも彼氏いるぞ」
「じゃあなんで、声かけて来るんだ?」
「そうだなぁ…面白いから…か?」
「面白い?俺の反応は普通だと思うけど…」
「いや、あれはお前の反応じゃなくて、誰か他の人への反応って感じだな。兎に角、孝一への好意ではないからモテ期じゃないぞ。残念だったな」
 ニヤつく快斗に若干の苛立ちはあったが、一応教えてくれた事に感謝しなくては。
 それにしても、俺以外の反応ってなんだ?
 複雑な感情を残し、俺は帰る事にした。


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