名探偵になりたい高校生

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四十五話 一年二学期 八

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「ありがとーございましたー」
お客さんになんの感情も込めずにお決まりの挨拶をして、レジから離れる俺。

二年で新聞部の夢沼ゆめぬま華蓮かれん先輩に依頼を頼まれ、やってきたのが現在いるファミレスだ。
新聞部の依頼なだけあって、尾行とかそういった依頼かと思えば、先輩がバイトしているファミレスに本日、人手が足りないから手伝って欲しいとの事。しかも、新商品のスイーツも宣伝してほしいと付け加えて来た。

「ごめんね。こんな依頼で」
レジから離れ、定位置に戻ると、夢沼先輩が声を掛けてくる。声のトーンからして悪いとは思ってなさそうだけど。
「俺達は便利屋じゃないんですけどね…」
「そうだったの?探偵部=便利屋ってみんな言ってるよ」
ここ最近の依頼から考えて、そう思っている人は多いんだろうな。
「まぁ、バイト代出るから別にいいですけど」
「それにしても」
夢沼先輩はチラリと灰村に視線を送る。
「灰村はやらないと思ったけど、しっかり働いてくれるのね。今もほら」
俺も灰村の方に視線を向ける。
「お待たせいたしました。ホットコーヒーです」
愛想は決して良くないが普通に働く灰村。
仕事はきちんとこなすタイプなんだな、あいつ。
「ふふ。中年受けしそうね。コーヒー貰ったおじさん嬉しそうだったよ。灰村がこのままここで働けば売り上げ伸びそう」
そんな灰村は俺と先輩の視線に気がつくと、サボってないで働けといった表情で睨んでくる。
「おー、怖っ。灰村はいつもそうなのかな?」
「自分が働いて、他がサボってるとなると、誰だってムカつくと思いますが…」
「それとも…私が君と話してるのに嫉妬してたり」
「それは無いと思いますけど。俺が他の女子と話してる時は興味無さそうにしてますよ」
「ふ~ん。じゃあ、こうしたら?」
先輩はそう言うと、俺の腕にしがみ付き、灰村の方を見た。
「ちょ、せ、先輩なにしてるんですか!?」
「さあ、なんだろうね」
腕に先輩の柔らかい感触をはっきりと感じるが、今はそれどころではない。
俺は先輩を引き剥がし、一定の距離を取る。
「あれ?嫌だった?」
嫌か、嫌じゃないかと言われれば嫌では無いが、今は仕事が最優先。

「サボってないで、仕事しろよ」

いつの間にか、灰村が近づいて来て、俺と先輩に向かって言ってくる。
「ごめんねぇ、灰村。間宮くんって可愛いから、イジリたくなっちゃうのよ」
「あんたも、鼻の下伸ばしてないで、さっさと注文聞いてこいよ。跡野くんを少しは見習ったら?」
灰村はそう言って快斗を指を差す。
快斗は現在、注文を聞きに女子大生っぽい人達の元へ向かっている。

「ご注文はお決まりでしょうか、美しいお姉さん方!!」
相手が女性だからだろう、テンションが高い。
「わあ!君、イケメンだねぇ何歳?」
お客さんもイケメンの快斗が注文を受けに来て嬉しそうにしている。
「僕ですか!?そうですねぇ、高校一年で16歳です!!お姉さん方は素敵な大人の色気を感じますから、大学生ですか?」
「ええ~、大人の色気とか、出ちゃってるぅ?」
「出てます、出てます!!素敵ですよ!!」

わいわい、キャッキャと楽しそうにしている快斗達。イケメンであるあいつは初対面には強いのだろう。

「楽しく会話を続けていたいんですけど、あちらにいる、男が嫉妬してしまうので、そろそろ、注文を聞いてもいいでしょうか?」
快斗と、女子大生が俺を見てくる。
俺は別に嫉妬してない…

「そうだなぁ、ねぇ、なにかオススメってあるぅ?」
「ありますよ!!お姉さん方は運がいいです!!本日から始まった新作のスイーツ!!シャインマスカットのケーキです!!」
「へぇ、美味しそうだね!じゃあそれお願い!!」
「ありがとうございまーす!!ついでに、紅茶もどうですか?ケーキとピッタリ合いますよ!!」
「うん、じゃあそれも!!」
「ありがとうございまーす!!」

見事新作スイーツの注文を受ける快斗。
イケメンって凄いんだな。
「さすが跡野。イケメンはこういう時に役に立つ」
冷静に分析をする先輩。

一方、灰村もいつの間にか俺達から、離れ、親子連れに接客をしている。

「本日から始まった新作スイーツはいかがでしょうか?とっても美味しいのでオススメです」

笑顔で接客する灰村。同年代にはほとんど見せる事ない灰村スマイルは親子連れ、主に子供にはよく見せ、その笑顔を見た、子供は灰村の言う通りスイーツを食べたいと親にねだり親は注文していた。

「う~ん。灰村のあの笑顔。可愛いね。二年でもあの笑顔が可愛いって言ってる男、多いんだよね」
普段目つきの悪い分、笑顔になった時のギャップが凄いからな…
「それにしても、灰村って子供好きなのかな?兄弟がいるとか?いや、あの態度は少し違うな。う~ん。子供に触れる機会でもあるのか…」
この先輩、灰村の事探ってる?
それとも単に興味があるだけか?
てか、俺もそろそろ、注文を受けに行かないと。

「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「ん。ああ…ちっ。これ」
注文に来たのが灰村や夢沼先輩では無いため明らかに不機嫌な男は適当に注文をしてくる。
「ご一緒にこちらの新作スイーt」
「いらね」
……悲しい。

俺だけ、スイーツの注文を取ることに失敗し、トボトボ元の位置に戻ると、
「どんまい」と先輩から一言貰った。

その後も快斗、灰村は見事に任務をこなし、俺のみが新作スイーツの注文を取る事が出来なかった。

バイト時間も残り一時間となり、お客さんも減る時間の様で、先程までの忙しい時間はなく、楽な時間帯になった。

快斗は俺達に賄いを作るため、厨房に入っていった。

「快斗って料理出来んのかな?」
「さあ。作ってるって聞いた事ないね。私へのアピールかな。変な物入ってたら殺そ」
「入れないだろ…」

「間宮くん」
夢沼先輩が掃除から戻って来るなり声を掛けてくる。
「なんですか」
「彼女いるの?」
いきなり何聞いてきてんだこの先輩。
「いませんよ」
「そうなんだぁ。ふ~ん…」
「先輩彼氏いるんですよね?夏休みに出来たって聞きましたよ」
「ああ、いたね。でも、文化祭が終わったぐらいに別れたよ。文化祭ではしゃぎまくってる姿見たら冷めた。別れたく無いって言ってる姿も見てさらに冷めた。蛙化現象かしら」
蛙化現象って、なんだっけ?
幻滅していきなり恋が冷める事だっけ?
「だから、今はフリー。他にいい人何人か見つけたから、狙うつもり」
「へえ。そうなんですか」
「君もその一人だよ」
「へっ?」
俺もその一人だと…
「興味出てきたって言ったじゃん。そう言う事だよ」
そう言って、先輩は顔をグッと近づけて来る。
整った顔が目の前に。本堂さんの可愛さとは別の可愛さがこの人にはある。二年で一番可愛いとされてるってのも納得だ…てか、近い。
だが、先輩は俺を見ているのでは無く、後ろに立つ灰村を見ている。

「孝一~手伝ってくれ~」
厨房から快斗の声が聞こえ、俺は厨房に向かう。助かった。

「なに?」
「別に」
「あれって本気?」
「間宮くんの事?さあ、どうだろうね。別に灰村に関係ないでしょ。彼女じゃ無いんだから」
「…そうね」
「自分の敵になりそうな人間は潰す?例えば、私の弱味の、一年の時、キャバクラでバイトしてた事をバラすとか」
「なにがしたいんだか…」
「私も弱味を握られっぱなしってのも嫌なの。だから、私も調べようと思ってね。まぁ、調べても別にどうこうするつもりないけど。でも、一つだけわかった」
「…なにが?」
「灰村の弱点、一つみーっけ」

快斗の賄いを食べ、残りのバイト時間も無事に終わり、俺達は店長からバイト代を貰うと、店を出た。

「それじゃあね~!!灰村さ~ん!!華蓮せんぱーい!!と孝一。お疲れ、また来週学校でな」
快斗は手を振り、自転車で帰って行く、夢沼先輩も俺と灰村にお礼を言ってから、帰って行った。

「さて、俺達も帰るか。送っていくぞ」
「…そうだね」

帰り道、俺と灰村は特に話す事も無く、無言で歩いていた。こう言う時はたまにあるが、なぜか今日はいつもと違う感じがする。灰村はなぜか不機嫌ぽい。
このまま帰るのはなんか、気持ち悪いから聞いてみるか。
「なあ、なんかあったの?」
「なにが?」
「いや、お前、バイト中もそうだったけどなんか機嫌悪くない?今日のバイト嫌だったとか?」
「別に、嫌じゃなかったよ。バイト代貰えたし。ただ…」
「おう…」
「いや、なんでも無い」
灰村は俺から離れ、くるりと振りむく
「ここまでで大丈夫。ありがとう。それじゃあ…」
灰村は背を向け、歩き出す。
いつもならここでお別れだが、なぜか、気になってしまった。
「灰村、違ったら違うでいいんだけどさ。夢沼先輩となにかあったのか?」
俺が夢沼先輩と話している時、灰村は俺達を見ていた。夢沼先輩も話しながら灰村を時折見ている。
今日の夢沼先輩の態度は明らかに灰村を挑発している様に見えた。
なぜ、そんな事をしているのかわからんが。
「なにもないよ」
「ははーん。さては俺と夢沼先輩が話しているのを見て、嫉妬したな」
「キモッ…」
灰村は少しだけ歩を進め、俺の方を再び見た。
「じゃあさ、私が嫉妬したからあの先輩とは話さないでって言ったらどうすんの?」
「…えっ」
灰村は真っ直ぐ俺を見ている。俺も視線を逸らすわけにもいかず、灰村を見る。
今の灰村は本気で言っているのかそれとも冗談なのか、全然わかんない。

「なんてね。冗談よ。忘れて。君は忘れる事が出来るでしょ。私と違って…
それじゃ、ここまでありがと。お疲れ」

灰村は再び歩き出し、今度は立ち止まること無く帰って行った。

「忘れろって言ってもな…」











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