名探偵になりたい高校生

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三十七話 文化祭 十四

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午後になり、退屈な店番から解放された俺はようやく自由に動けることが出来た。
文化祭も最終日、今日のお客さんのほとんどが、本堂ほんどう 恵子けいこさんのライブを楽しみにしているようで、午後になってからは人が増えた様な気がした。
ライブは午後三時開演。それまでに俺は体育館に行き、もう一度体育館を調べたい。
思い立ったらすぐに行動だ。
俺は灰村と快斗に連絡した。

「よう、孝一」
学食前で、俺を発見した快斗が声をかけ、どこかの店で買ったのか、焼きそばを片手に持ちながら近付いて来た。
「あれ、灰村さんは?」
もぐもぐと焼きそばを食べながら快斗は聞いてくる。
「灰村なら、その内合流すると思う、先に俺達は体育館に向かおう」
「体育館は今立ち入り禁止みたいだぜ」
「マジ?」
「ああ。さっき、茜ちゃんが言ってた。先に体育館に行って最前列確保しようとしたけど、入れなかったんだと」
立ち入り禁止か、これは困ったな…
どうしよ。
「昨日調べて、何もなかったんだし、大丈夫じゃね?」
「俺もそう思いたいんだけどさ、あの後何か仕掛けられてたりしたらって考えちゃって」
「大丈夫。昨日のあれから誰も体育館に入ってないよ」
後ろから声がして、振り向くと灰村が本堂恵子と書かれた、団扇を持ち、自分に風を送りながらこっちを見ている。
「灰村。調べたの?」
「もちろん。最後に体育館に入ったのは今朝からいたライブ関係者の人達だけね」
さすが灰村。行動が早い。てか、こいつ午前中どこに行ってたんだ?灰村も店番だと思ってたんだけど…
「私、君みたいに馬鹿正直に店番なんかしないよ。今日は絶対お客来ないってわかってたから、探偵部としてやる事があるから抜けるって嗚呼さんに言っておいたの」
なるほど…その手があったか。
「さすがー!!灰村さん!!惚れちゃうー!!」
快斗。君はずっと灰村に惚れてるだろ…
「ライブ関係者が仕掛けている可能性もない。カメラで観てたし」
「体育館にカメラなんてあったっけ?」
「ライブ中継のカメラが昨日から設置されてる。生徒や、お客さん全員が体育館になんて入れないだろうし、各教室でライブを見れる為に設置してるのよ」
イベントごとに力を入れているこの学校はやる事が盛大だな。
カメラ設置なんてお金掛かるだろうに。
「だから私は体育館の様子を見てたから何かを仕掛けている人はいないと言える。さて、間宮くん。残り時間何する?」
「そうだな。取り敢えず、本堂さんの所に向かおう」
本堂さんから今日のライブの段取りは全て聞いたが、もう一度確認の為聞きに行くか。

俺達三人は音楽室前に到着すると、音楽室の扉が少し開いている為か中から声が
聞こえてくる。
「はっはっは。君が本堂恵子か。うん。顔は合格だね」
男の人。声質からして、中年男性っぽいな。
「ありがとうございます!!」
「今日のライブ楽しみにしているよ。しかし、期待はしていない。なにせ君まだ素人同然。うちの事務所で仮契約しているとはいえね。本物のアイドル以上のパフォーマンス力はまだ無いと見える。ポテンシャルは高そうだが…」
「いいライブをお見せできる様に全力でやらせていただきます!!」
「ほお、いい表情だ。霧島が推薦してきただけあるのかな。まあ、がんばりなよ」
「はい!!」
「社長。そろそろ」
「ん?もう時間か。それじゃ、ライブ後にまた会おう。本堂恵子」
「はい!!本日はよろしくお願いします」

コツコツとこっちに向かって歩いてくる音がする。扉の前でばったり鉢合わせってのもなんか嫌だしどっかに身を潜めないと。
俺達は近くの空き教室に身を潜め、やり過ごすことに。

「なあ、あれが恵子ちゃんが入る予定の事務所の社長かな?」
快斗は教室の扉に付いている小さな窓から顔を覗かせ廊下を見ながら言ってきた。
俺も少しだけと窓から顔を覗かせ顔を確認した。
一人は白髪混じりの頭に顎髭を生やし、イケオジ感を漂わせている。グレーのスーツを見に纏い、先頭を歩く姿からあの人が社長だろうと予想する。
もう一人はメガネを掛けていて、超インテリっぽい雰囲気の人だ。紺のスーツを着ていて、グレースーツの男の後ろをゆっくりと歩いていた。こっちは秘書かな?
「わざわざ、隠れる必要あった?私達は関係ないんだから会ってもなにも問題ないと思うけど」
「そうだぞ、孝一。灰村さんの言う通りだ」
「い、いいだろ別に…」
俺は二人の男が完全に見えなくなった事を確認すると教室から出て、音楽室に向かった。

「あっ。間宮くん」
本堂さんは俺達に気がつくと軽く手を振って挨拶してくる、一方で隣にいる霧島先生は無表情で見てくる。
「どうしたの?」
「ああ、その、もう一度ライブの段取りを確認したくてね」
「ああ、そう言うことね。オッケー。いいよ」
本堂さんは笑顔で応えてくれる。

本堂さんに段取りを教えてもらい、本堂さんがステージ上での動きを確認する。
隣にいる灰村は、自前の小さな折りたたみ式ノートパソコンで体育館のカメラを確認しながら、本堂さんの動きを想像している様子。
快斗はと言うと…
「快斗、どうかしたのか?」
「ん…いやぁ。恵子ちゃん緊張してんなぁって思ってさ」
本堂さんは、明るく振る舞ってはいるが、表情は確かに少し硬いかもしれない。自分の未来が決まるライブ、緊張しないやつなんていないよな。
「本堂そろそろ、準備に掛かれ」
霧島先生の一言で本堂さんは更に表情が固まる。
「は、はい!!」
少し、震えている。何か言葉を掛けてあげたいが、半端な言葉じゃ返って邪魔になる気がするし…う~ん。
「ねえ、灰村さん。衣装に着替えるの手伝って欲しいんだけどいいかな?」
「……いいけど」
「よかったぁ、ありがとう!!」
「恵子ちゃん、俺も手伝おうか?」
「快斗くん、それは普通に引くから、気持ちだけ受け取っておくね。ありがと。後、後ろの霧島先生が凄い睨んでるから気を付けて」
本堂さんの一言を受け、ゆっくりと後ろを振り向く快斗。
「跡野。謹慎になるか?」
冗談に聞こえないトーンで霧島先生は快斗に伝えると快斗は『冗談です』といって大人しくなった。
「そうだ、霧島先生。少し早めに体育館に行きたいんですけど、良いですかね?」
「確認の為か?」
「そうです」
「……まぁ、いいだろう」
俺は霧島先生に許可をもらい体育館へ行く事に。灰村と本堂さんは衣装に着替える為、別室へ。
「快斗も体育館行くか?」
「先に行っててくれ、やる事がある」
「おう。わかった」
俺は一人、体育館に向かう。

「跡野、お前はなぜここに?」
「……先生とちょっと、お話ししたくてですね」
「………なる程。お前も探偵部って事か」

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