名探偵になりたい高校生

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三十二話 文化祭 十

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輪投げで景品を取り、注目をあびたお面ガール事堀田ほった 寧々ねねさんは、次は型抜きの前に立ち止まった。
「型抜きか…う~ん、どうするかな」
すぐには挑戦せずに考え込む。
苦手なのかな。
「図書券か…」
苦手というわけではなく、ただ、手に入る景品があまりお気に召さないと言う理由で型抜きをやるのに渋っていただけのようだ。
てか、景品は絶対取れるのが決まってるんだな。すげー自信…
「まあ、いいか。図書券が手に入るくらいの難易度のやつをくれ」
「は、はいよ…」
全開高校がお面ガールに渡したのはドラゴンの絵が描かれた型で、難易度は相当難しそうだ。それに多分すぐ壊れるようにしてあるはず。
お面ガールは渡された爪楊枝で型を優しく触れる。
ペキッ。
触れていないところが割れるが、絵には被っていないためセーフだ。
「なるほどね」
お面ガールは店の人を見ると、もう一つ爪楊枝を要求した。
「パパっと終わらせたいから」
店の人は仕方なく、爪楊枝を渡す。
二つの爪楊枝を持ち、二刀流になったお面ガールは、素早い動きで、見事に型をくり抜き、綺麗なドラゴンだけがそこに残っていた。
「さ、図書券くれ」
図書券を貰い、次に向かったのは、くじ引きだ。
たくさんの糸が吊るされていて、どれか一つを引くと、繋がっている景品が取れるやつだ。
ここの一番の景品は最新ゲーム機の本体。
普通に店で買うと五万はする高額商品だ。
腕を組んで、くじ引きを見ているお面ガール。ゲーム機を狙うかと思いきや、次の店に足を運び出した。
「ねえ、そこのお面の子、これはやんないの?」
お面ガールに声をかける店の人。
いいのか、そんな事して。ゲーム機が取られてしまうぞ。
「私はゲームはスマホでしかやらないからな。それに。その糸、ゲーム機に繋がってないだろ」
「なっ…そ、そんな事は…」
景品が置いてあるだけで取らせるつもりがない事を一瞬で見抜き、やらないと判断したお面ガール。
「縁日は楽しんでなんぼだからな。余計な事言って周りのお客さんを冷めさせる様な事は私はしないさ」
それだけ言って次に向かうお面ガール。
景品が取れるのは残りは二つ。
射的と、ヨーヨーすくいだ。
と、ここで灰村が動き出した。
「お面ガール。ちょっといいかしら」
「ん?おお、灰村さん。君も来ていたのか」
それと同時に俺の存在にも気がつくお面ガールと柳さん。
「ヨーヨーすくいは私にやらせてほしいのだけど。もちろん失敗したら譲る」
「灰村さんはヨーヨーすくいが好きだったのか?」
「違うわ。あの、店の人。ヨーヨーをすくってる時に前屈みになって谷間が見える時必ず見てるの。あなたの谷間も見られちゃうわよ」
お面ガールは自分の胸元を見た後、ヨーヨーすくいに目を向ける。
「なるほど、確かにこの格好の私は前屈みになると胸が見えるな。ヨーヨーすくえても、胸を見られたとなればいい気はしないな。でもいいのか、君も見られてしまうんじゃ」
「大丈夫よ」
「そうか。なら、灰村さんに任せるよ」
二人はそれぞれの店に向かう。
灰村と入れ替えで俺の横には柳さんが並んだ。
「寧々さん、すごいですね」
「そうだね。俺は一つも景品が取れなかったよ」
「探偵さんは、灰村さんと二人でここに?」
「うん。まあそうだね」
「……そうですか」

射的場に着いたお面ガール。
「ここの景品はっと…抹茶セット!…だと…そ、それも京都の宇治茶!!これは絶対手に入れるぞ」
「えっと、お嬢さん。やるのかな?」
「もちろん」
お面ガールは料金を支払い銃を受け取る。
「ここはショットガンしかないのか?」
「一番威力が強いやつを渡したんだけど、不満?」
「他にあるなら見せてくれ」
「はいよ」
銃は全部で三つあるようで、最初に渡されたショットガンにパチンコ、ハンドガンだ。
威力が強いショットガンを渡したと言っていたけど、細工してるかな?
「う~ん。リボルバーは無いのか?ウチのクラスはあるぞ」
「リボルバー?無いけど。それ持ってるなら使っていいよ」
「ほお、それはありがたい。じゃあこれを」
「その前にそれ、調べていい?威力が強すぎるかどうか確認したい」
「ああ、いいぞ」
お面ガールにリボルバーを手渡され、銃の中身や、撃ってその威力を確認し始める。
自分達はインチキをしている癖に…
「うん、細工はされてないね。使っていいよ」
「どうも。これは女子の手のサイズだし、反動も無いから威力に関してはそこに置いてある二つの銃の方が強いと思う」
「そうかい。まあ頑張って。狙いは抹茶セットかな?」
「もちろん。インチキしても私には無駄だぞ」
「他の見てたからね。それは知ってる。うちはそんな事してないよ。ただ。もし、君が負けたらさ、連絡先交換とデート一回ね」
「……負けたらな」
お面ガールの顔を見てないのに、デートに誘うとは。あの雰囲気で堀田さんが可愛いと思ったのかな。
「寧々さん、大丈夫でしょうか?」
柳さんは不安そうな表情をしながら俺に言ってくる。
「信じよう。堀田さんの実力を」

コルクの球は全部で三発。
お面ガールは球を見つめる。
「三発か…六発に出来ない?他の祭りじゃ、リボルバーの時は六発なんだが」
「それは他の祭りでしょ?ここはどんな銃でも三発だ。そこのパチンコでも三発だし。特別はないよ」
「わかった」
他より威力が弱いとされる、堀田さん専用リボルバーで三発。これは負けるか?

球を一発、リボルバーの銃口に詰める。
そして。
パンッ!
抹茶セットに当たるが、その場で回るだけで、落ちはしない。
残り二発か。
パンッ!パンッ!
「えっ…」

それは、抹茶セットが、一発目がヒットして、回転している時に起こった。
お面ガールの素早い球詰めで、回転している最中に二発目を撃ち、空中に上げ、トドメの三発目を当て、見事に落としていた。

「…………マジかよ」
店の人が呟く。
俺も同じ感想だ。祭りハンターの実力がここまでとは。
「抹茶セットは貰うぞ」

「あっちはお面ガールが勝ったようね」
「やってく?ヨーヨーすくい」
「ええ。やるわ」

お面ガールの早撃ちで周りが沸いている中灰村がヨーヨーすくいに挑戦していた。
店の人は灰村をニヤニヤと見ていて気持ち悪い。

「可愛いね。何年生?」
「私がヨーヨーすくえなかったら質問に答えてやるよ」
「おっ。いいねぇ」
ますますニヤニヤする、気持ち悪いやつ。
灰村は、お金を支払い、ティッシュに包まれた釣り針を受け取り、しゃがむ。
灰村の言った通り、灰村がしゃがみむと視線を胸に向けている。
ぶん殴りにいってやろうか。
「うわ、本当にみてるよ…」
いつの間にか隣にいたお面ガールがボソッと言う。

灰村、そういう奴マジで嫌いだろ。大丈夫か。

しゃがんでいる灰村は顔を上に上げ、男を見た。
「さっきから、人の胸。見てんじゃねえよ変態」
「な、なにいってんだ」
灰村は立ち上がり、男をまっすぐ見た。
「大声で叫んでもいいんだよ。私が涙を流して訴えればあんた終わりだよ」
「だから、なにをしょ、証拠に」
「証拠があるからこんなに強気なんだよ。童貞やろう」
「て、てめ…」
「更には、このクラスの悪事をばらし今この瞬間からお客ゼロにも出来んだよ。あんたのせいでね」
「な、なにが狙いだよ…」
「こんなチャチな物じゃなくて、絶対壊れないやつあるでしょ。それを出しな。んで大人しく景品を私に取らせなよ」
「そ、そんな事、出来るわけ…」
「あっそ。じゃあ、叫ぶけどいい?」
「……くっ。わかったよ」

灰村の脅しに負けた男は大人しく壊れない釣り糸を渡し、灰村に景品を取られた。汚い手には汚い手をってね…

スーパー縁日を楽しんだ?俺達は廊下に出て玲那に挨拶をする。
「孝ちゃん。どうだった。そこのインチキ縁日」
「自分の学校の事を悪く言うなよ」
「学校は悪く言ってないでしょ。あのクラスの事を悪く言ってるだけ。私が仕切ってたらこんな事にはならなかったのに」
確かに、イカサマを嫌う玲那が仕切っていたらもっとマシな縁日だったんだろう。
「能登生徒会長。私達の学校の文化祭はいかがだったですか?」
柳さんが、玲那に質問する。
「あら、柳副会長さん。そうね。みなさん楽しそうでいい学校だと思いました。ウチの学校も負けないくらい楽しいので来年はぜひお越しください」
「はい」
柳さんには礼儀正しいな
「それじゃあな、玲那」
「夜電話するね。孝ちゃん」

「電話か……」
柳さんが何やらボソって言ってたが何を言ってたんだろ。まあいいか。

二日目の文化祭も終わりを迎え、残す所後一日。廊下には明日用のポスターが既に貼られていた。
明日は最終日。そして、アイドル部の本堂ほんどう 恵子けいこさんのライブが十五時から開始される。
それが終われば、文化祭は終わり、十七時から後夜祭となっている。
校庭でデカデカとキャンプファイヤーを行う予定だ。それにしてもこの学校は本当にイベントごとに力を入れているな。火を扱う事など本来禁止である事が多い中、それを何とかよしとしている。徹底的に管理して安全体制だ。

スマホが震える。
誰だ?
画面を見ると、明日のメインイベントの主役である本堂 恵子と表示されている。
「もしもし」
「あ、もしもし。間宮くん。今平気かな?」
「ああ、うん。平気だよ。どうしたの」
「…………」
「もしもし?」
「話があるんだ…音楽室に来れないかな?」

俺は通話を切り、音楽室に向かった。


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