名探偵になりたい高校生

なむむ

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二十六話 文化祭 四

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 俺は生徒会室で一人仕事をしている柳さんに差し入れを持って向かう事にした。
 生徒会室は教育棟五階の中央に位置している。俺は階段を上がって行く。
「柳さん!!」
 俺は誰もいない静かな廊下で柳さんを呼ぶ声が聞こえると足を止め、階段の影に身を隠し、そっと覗き込んだ。
 生徒会室の入り口の前で、柳さんと見知らぬ男子生徒が向かい合い何やら話している。
 うーん。どうするか…引き返そうかな。
「柳さん!俺、君の事が好きだ!!」
 おっと、これは聞いちゃまずい気が…
 柳さん誰かに告白されてんじゃん。
 まあ可愛いし、そりゃ告白くらいされるよな。
「えっと、その…」
 告白された柳さんは俯き、答えに迷っている様子だ。
「俺なら、柳さんを楽しませる自信もある!だから、俺と付き合って下さい!!」
 腰を曲げ、手を差し出す男子生徒。
 言い方がなんか古臭い気もするけど、彼は本気だな。
「あの、その…いきなり言われても困ります。私、大野くんの事よく知らないですし…」
「確かにそうだけど…でも、これから良く知ってほしい!きっと相性はいいと思うんだ」
「でも…」
「絶対に後悔させないから!!」
「…………」
 柳さんは黙ってしまっている。
 どうするんだ?
 なぜか俺まで緊張してきた。
「ご、ごめんなさい。私、大野くんとは付き合えないです。今は生徒会で忙しいので…」
「なら、生徒会を終える三年の時にもう一度告白してもいいかな?それまで俺は待つよ!柳さんが付き合ってくれるなら」
 大野と呼ばれた生徒は生徒会という壁が無くなれば付き合えると思ったのだろう。
「い、いえ…その。生徒会が終わっても大野くんとはお付き合い出来ません」
「えっ…?」
「き、気持ちは凄く嬉しいです。告白なんて初めてされましたし。でも、ごめんなさい」
「そっか…その理由聞いてもいいかな?」
「……わ、私。好きな人がいるんです」
「そっか…わかった。柳さんの恋が実といいね。でもさ、もし気が変わったらいつでも言ってね」
「………わかりました」
 男子生徒はその場からいなくなった。
 柳さんも男子生徒の姿が見えなくなるのを確認した後生徒会室に戻って行った。

 なんか、見てはいけないものを見ちゃったな…
 柳さん、好きな人いるんだ。
 兎に角、お菓子も持ってきたし柳さんに渡してすぐに帰ろう。

 扉をノックすると、中から『はい』と返事が聞こえたので入る事に。

 中に入ると広々としていて、部屋の奥には生徒会長のみが座る事が出来る大きな机があり、その後ろには大きな窓がある。生徒会長専用の机から、少し離れた所に各役員の席もあるようで、柳さんはそこに座っていた。
「やあ、柳さん。今日も生徒会の仕事してるって聞いてさ、差し入れ持ってきたよ」
 俺は柳さんに声を掛ける。
「あっ。探偵さん!」
 生徒会室に来たお客が俺とわかると柳さんは笑顔になった。
「これ、差し入れ。スイーツと紅茶」
「わあ、ありがとうございます!!今お茶を淹れますね」
 邪魔しちゃ悪いしすぐに帰ろうと思っていたが、お茶を淹れてくれるのに拒否するのも悪いと思うし、ここは素直に頂く事にしよう。
 それにしても柳さんの他には誰もいないのか?
「他の人達はいないの?」
「生徒会長の檜山先輩は全開高校に行っていていませんよ。それに他の方達も今は見回りに行っていて、今は私一人でお留守番です」
 なるほど、他の連中は柳さん一人残し遊びに行ってるわけか。
「柳さんは遊びに行かないの?」
「私は昨日見回りをしましたから。もしかして探偵さん、他の方達がサボってると思ってますか?」
「少しだけね…」
「ふふ。そう思うことは仕方ないですね。でも皆さん真面目な方ばかりですよ。定期的にグループチャットで報告して来るくらいですから」
 柳さんはお茶を俺の前に置いた後スマホを見せてきた。
 会話の内容を見ると確かに真面目に仕事をしている感じだった。写真も載せてくるし。
「それに今日は全開高校の生徒会長さんもいらっしゃいます。檜山先輩不在の今、私がしっかりと挨拶しないといけなかったので、ここを離れるわけにもいきませんでした」
 柳さん副会長だもんな。立派だ。
「それにしても驚きました。全開高校の生徒会長さん、私達と同じ一年生なんですよ。礼儀正しくてとても綺麗な方でした」
「あいつは基本真面目だからな」
「探偵さん、能登生徒会長さんの事ご存知なんですか?」
「うん、玲那は幼馴染で、家も隣なんだよね」
「名前…」
「えっ?」
 なんか少しだけ空気が重くなる感じがした。なぜだ?
「なんでもないです」
 少しの沈黙。
 そんな沈黙を破るかの様にコンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
 柳さんが返事をした後に扉が開くと和服姿の堀田さんが入ってきた。
「ん?なんだ、間宮くんも来てたのか。なら、私は邪魔だな。失礼するよ」
 そう言って帰ろうとする堀田さんを俺は全力で引き留める。
 このまま堀田さんに帰られたら空気の重さに潰されてしまいそうだ。
「なにをそんな必死になってるんだ君は。それに香澄ももじもじしちゃって。付き合いたてのカップルか君達は」
「もじもじなんてしてません!!」
「いや、してたけど…」
『まあいいか』と堀田さんは言うと柳さんの隣に座った。
「んで、二人は何を話していたんだ?」
「俺と玲那が知り合いだった事に柳さんは驚いててさ」
「玲那?ああ、あの全開高校の生徒会長さんか」
「寧々さんもご存知だったんですか?」
「今朝、うちのクラスに来たからな。同じ縁日だから挨拶に来たんだろ」
「そうだったんですね」
 柳さんはうんうんと頷いている。
「その話だけで空気が重くなるって事は…うん。なるほど。理解したよ」
 堀田さんは何かを感じ取ったようだ。この人すごい人なんじゃ…
「兎に角そんなに気にする必要は無いと思うぞ。それより香澄、この後時間あるか?」
「この後ですか?」
 柳さんはスケジュール帳ををペラペラと捲り確認し始める。
「今日はそうですね…この後一時間くらいなら空いてますよ」
「そうか、そうか。すまないが私と一緒にボクシング部の所にいかないか?佐竹くんが試合をするから観にこいと言って来てな。ボクシングの事はよくわからんから、一人で観ても楽しく無いと思ってね」
「佐竹くんが寧々さんに…?」
 ボクシング部の佐竹くん。二学期の初め頃、堀田さんと噂になった人だったよな。
 う~ん。これって…まさか。佐竹くん。
 堀田さんの事…好き?
 俺の探偵力がそう言っている。
「そうだ。なんでもデビュー戦らしい。ヤンキーでも緊張するんだな。震えながら私に言って来たぞ」
 それって、堀田さんを誘うのに緊張してたんじゃ。
 堀田さん程の鋭い人なら気がついてもおかしく無い気がするんだが。
「ボクシングに興味ないから断ろうと思ったんだが、その前に走って行ってしまってね。困ったもんだ」
「そうだったんですね。それなら私も行きますよ」
「おお!!そうか!ありがとう!」
 柳さんは立ち上がり、準備を始める。
「君も来るか?」
「いや、遠慮しとくよ。誤解されそうだし」
「そうか」
 堀田さんは、わかってんのかな?
「お待たせしました」
 柳さんの準備が終わり俺達は生徒会室を出た。
 柳さん、堀田さんペアと別れ、俺は一度クラスに戻ることにした。

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