名探偵になりたい高校生

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十九話 一年二学期 三

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「私と付き合って」
満面な笑みで、付き合ってと言うのは、学校一の美女の本堂 恵子(ほんどう けいこ)さんだ。
冗談なのか本気なのか全然わからん。
「えっと…それは本気でいってるのかな?」
俺は動揺を隠しつつ冷静に話しかける。
「うん。君でいい。私に恋を勉強させてよ」
返事に悩む…どうしよ。
「だ、ダメですよ!!」
俺の横にいた柳さんが声を上げ、反対する。
「確かにいきなりこんな事言われても困るよね」
「そ、そうですよ。探偵さんが困っています」
「順番が違ったね」
「順番?」
「うん。間宮くんって、灰村さんか柳さんと付き合ってる?」
ここでもこの質問か、てか、灰村との関係はよく聞かれるが柳さんとの関係を聞かれるのは初めてだな。さっき友達って言ったと思うんだけど…
「二人とも友人。恋人とかそんなのじゃないよ」
「そうなんだ。よかった。じゃあ。いいよね。これ、私からの依頼なんだけどダメかな?」
「いや、ダメってわけじゃ無いけど。本堂さんはそれでいいの?好きでも無いやつと恋人関係になるんだよ?」
本堂さんが俺の事が好きでは無いことはわかる。アイドル部の、いや、未来の自分の為だとして恋愛を経験しておきたいと言う気持ちは何と無くわかる。でもだからこそ彼女にはちゃんとした相手を見つけて欲しい。
「私だって誰でもいいってわけじゃないよ。ちゃんと色んな人の意見を聞いた上で間宮くんにしようって決めたんだから」
「そ、そ、それって、本堂さんは、た、探偵さんが好きになったって事ですか?」
なぜか動揺している柳さん。アイドルが俺を選んだ事を驚いているんだろうか。
「そのさ、私は間宮くんの事を好きになったわけじゃ無いよ、全然知らないし。ただ他の人じゃダメなんだ」
「他の人じゃダメ?」
「うん。私、アイドル部ってか、一応芸能事務所にも所属してるんだよね仮だけど…そこでさ、仮だとしてもこの学校の男子と付き合うとするでしょ、そしたらさ…噂一気に広がる気がしてさ」
噂か…学校一の美女の本堂さんに彼氏が出来たら確かに一気に広まるし、付き合った彼氏も自慢するだろう。その事が事務所に知られたら解雇される可能性もあるわけか。
「それだったら、俺と付き合うのも危険じゃ無いかな?」
「うん。でも、君探偵でしょ?依頼主の守秘義務をちゃんとしてくれるだろうし」
「そりゃ、守るけど」
「お願い!一ヶ月でいいの!文化祭のライブまでに恋する女の子の気持ちを理解したいの」
「う~ん…」
「ちょっと、ちょっと恵子ちゃん!!」
ここまで黙っていた快斗が声を出してくる。
「探偵部なら俺もだよ。孝一じゃ無くて俺でもよくない?」
確かに、探偵部には男がもう一人いた。
快斗が恋人役になる選択肢もある。
「いや、快斗くんじゃダメなんだよね。付き合ったら確かに言わなそうだけど。すぐにバレそうな気がする。それに快斗くん彼女いるでしょ?」
「えっ…いないけど…」
「クラスの女子がこの間快斗くんが女の子と一緒に歩いてるの観たって言ってたけど…」
「へぇ。跡野くん彼女いたんだ、じゃあ私に告白もうしてくんなよ」
「い、いないよ灰村さん!!俺は灰村さん一筋だ!」
「その時点で快斗くんは除外だね」
快斗に彼女がいる疑惑が出来たな。今度詳しく聞いてみるか。
兎に角今はこれをどうするかと言いたいところだが、本堂さんは諦めなさそうだ。
「わかったよ。一ヶ月、文化祭まででいいんだね」
「うん!ありがと!」
笑顔でお礼を言う本堂さん。仮とは言え俺に彼女?が出来てしまったな。まあ、本堂さんも俺もお互い恋愛感情はまるで無いが。

話が終わる頃、アイドル部の顧問である霧島先生が姿を現した。
「本堂。ここにいたか。さあ、今日もレッスンだ。行くぞ」
「はい」
心配そうな表情をしている霧島先生の横を特に気にするわけでもなく本堂さんは部室から出て行ってしまった。
霧島先生も本堂さんの後を追う形で歩き出そうとしたが俺の方を見てきた。
「お前が間宮だな。夏休み前の盗撮事件を未然に解決してくれた事は感謝する。犯人の狙いは本堂だったらしい。ありがとう」
霧島先生はそういって歩き出してしまった。
本堂さん達がいなくなり、シンとする部室。なぜか空気が重い。
「探偵さん…付き合うんですね…」
柳さんが俺を見つめている。
「彼女に協力するだけだよ。本当に付き合うわけじゃない」
「本当ですか。本当ですね」
疑いの眼差しが強い。付き合いませんっての。
「はぁ…私、今日はこれで失礼します」
肩を落とし、歩き出していく柳さん。
今日のこれのせいで探偵部を廃部にしなければいいけれど。
「俺達も帰るか」
なにもやる事もないし。
「そういえば、教室に忘れ物したわ、先に帰っててくれ。じゃあな」
快斗は部室から出て行ってしまった。
「それにしても、霧島先生はなんか、本堂さんに対して、厳しいって言うか、過保護って感じがするな」
「色々あるんでしょ」
「何か、情報は?」
「情報?本堂さんをオトすにはとか?」
「違う。アイドル部に関する事」
「あるけど、今の君には関係ない事だよ」
何か情報は知っているようだが、今は関係ないって事だし、ほっとくか。
「さて、俺達も帰ろう」
「彼女待たなくてもいいの?」
「彼女じゃない。協力しているだけだ」
「仮でも可愛い彼女が出来たのに嬉しくないわけ?」
「本気の彼女じゃないから別に」
本堂さんが本当の彼女だったらそりゃ鼻が高いが…
「意外と仮じゃ無くなったりして」
「ならんだろ。俺ごときじゃ」
「自分の評価が低くしているのはあまり褒められたことじゃ無いけど、そんな君の事を好きな人はいるわよ」
「まじ?」
「うん。私の知ってる限りじゃ今の所二人ね」
二人の女子が俺の事気になってるのか…これはモテ期か。
「…知りたい?その二人?」
真面目な顔して灰村は言ってくる。聞けば教えてくれるんだろうか?
でもな…
「いや、いいよ。知り合いだったらなんか気まずいし」
「………そうね」
灰村はそう言うとカバンを持ち部室から出ていく。俺もそれを追う形で出ていった。
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