名探偵になりたい高校生

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十六話 夜の学校ニ

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 夜七時。俺と灰村はミス研との約束の為夜の学校を訪れていた。
 校舎の入り口に行くとミス研の遠山 誠実(とおやま せいじ)くんと金田 明(かねだ めい)さんが待っていた。
 俺達は二人に近づくと腕を組んで待っていた金田さんが声を出してくる。
「よく来たわね!来ないかと思ったわ」
「まあ、一応約束したし」
「それじゃさっさと始めましょう!どちらが先に音楽室の謎を突き止めるか勝負よ」
 そう言って金田さんは灰村に向かって指を指すが、その灰村は完全に無視してる。
「待て金田」
「ん。なによ」
「勝負する必要はない。謎を解明するだけだからな」
「なんでよ。それだから勝負したいんじゃない」
「勝負してうるさいと近所から苦情が来たら学校側から後で罰を受けるかもしれない。それに灰村さん関係になるといつもよりうるさくなるし」
「ええー。じゃあどうするのよ」
「このまま四人で行けばいいさ。それに夜の学校だぞ?」
「…わかった」
 遠山くんの説得により俺達は無駄な勝負をする必要はなくなり、四人で行動することになった。

 校舎の中に入り持っていた懐中電灯を照らす。
 なるほど、通いなれているとは言え、夜の学校は中々不気味だな。だれも居ない廊下をコツコツと歩く俺達の足音がいつも以上に響き、恐怖を演出しているように感じる。
 目的の場所は音楽室。今回噂になっている夜七時くらいから音楽室で歌声と鬼の声が聞こえてくるらしいとの事でそれを調べるわけだ。
 音楽室は俺達の部室がある芸術棟の四階にある。
 芸術棟と言っているが、化学室もあるし、家庭科室もある。要は教室で学ぶ以外の場所が集まっている棟になっている。
 この学校は全部で三棟あり、普段教室があるのが教育棟。体育館や道場などがある技術等そして今いる芸術棟となっている。

 懐中電灯を持ち、道を照らしながら先頭を歩くのは遠山くん。その後ろに俺、両隣に灰村、金田さんになっている。
 遠山くんは真っ直ぐ音楽室に向かうかと思うかと思いきやキョロキョロと辺りを見渡しながら進んでいく、階段を登れば音楽室にすぐ行けるのにあえて遠回りをしている。
「ああ。夜の学校。なんていいんだ。見えている全てに謎がある様な気がする」
 いつもより声を高くしている遠山くん。
「あ~。でた。いつものやつ…」
「いつものやつ?」
「そ。部長ってミス研として謎を調べる時いつもこうなんの。目的地にすぐに向かわず、遠回りして新たに謎がないか探すのよ。ミステリーが好き過ぎるんだから全く…」
 呆れた様子で金田さんは言った。
 なるほど。遠山くんにはそんな所があるんだな。
 前を歩いているから顔を見えないがきっとキラキラと子供の様な表情をしているんだろうな。
「間宮くんと一緒ね」
「そうか?」
「そうよ。中学の時といい、一学期の消しゴムの事件といい、みんなの前で推理してる時はいきいきしてるわよ」
 自分ではわからないがどうやら俺にもそんな所があったらしい。遠山くんと初めて会った時気が合うかもって思ったのはこうゆう所を本能的に感じ取ったのかな。
「それにしても暗いわね」
 遠山くんが先頭を歩き懐中電灯も持っている為、後ろにいる俺達は明るさが少し足りない気がする。もう一つ持ってくればよかったか。
「しかし、夜の学校ってなんか出そうだよな」
「あら、間宮くん怖いの?」
「いや、そういう訳じゃないよ。ドラマでも漫画でも夜の学校ってなにか起きてるだろ。そういうのあったら面白いなーって」
「はっはっは。間宮くん。怪談話かい?横にいる金田は怖い物は苦手だから手加減してやってくれ」
 金田さんは怖い物が苦手なのか。
 俺は横にいる金田さんを見ると、金田さんは俺を睨みつけてくる。
「べ、別に苦手じゃないから」
 ふ~ん…
「金田さん横の窓に何か写ってるよ」
「えっ!!」
 金田さんがものすごい速さで窓を見る。
 これは苦手だな。
「なぁんて、嘘だ…」
「ぎゃああ!!怖いい!!」
 冗談と言おうと思った瞬間、金田さんは叫び俺の腕にしがみ付いてくる。
「ごめんなさい。ごめんなさいぃ。もう二度とこんな事しませんからぁ」
 めっちゃ怖がってる。可愛い。
「あら、金田さん。可愛い所あるのね」
「うるさいわね!!怖い物は怖いのよ!!」
 腕にしがみ付き離れない金田さん。
「ごめん。金田さん。その…動きずらいから離れてくれない」
「無理。怖い。間宮強いんでしょ?なにか出てきたらやっつけてよね」
 いや、その離れて欲しい訳じゃないんだけどさ。さっきから腕にもの凄い柔らかい感触を感じるんだよね。
 腕を見る必要は無いが確認の為見る。
 金田さんの胸が俺の腕にくっついている…歩いているから離れてはくっつきを繰り返している事でその感触を堪能出来てしまう。
 胸ってこんなに柔らかいのか…
 この感触を感じられるのならこのままでもいいかと少し思ってしまう。
 男って単純です。
「金田はそうなると中々離さないよ」
 そうなんだ…それはそれでラッキーかも…
「前も生物室の人体模型が夜に動き出すって噂を確認しに来た時も。同じだったしね。あの時は結局動いている人体模型などいなかったのは残念だった」
 前を歩きながら楽しそうに話す遠山くん。
「金田さん、怖いの苦手なのになんで今日来たの?」
「い、一応、ミス研だし…」
 部活に入っている以上部の活動には貢献しようとはしているんだな。
「てかさ、灰村さんは怖く無いわけ?」
 腕にしがみ付いたまま灰村に話しかける。灰村に対する態度だけは怖くても変わらないらしい。さっさと素直になって友達になればいいのにと思う。
「怖くないわね。幽霊なんていないと思ってるし。いえ、いない訳じゃない。亡くなってしばらくはこの世を彷徨っているとは思っているわね」
「はあ?なにそれ」
「しばらくすれば勝手に消滅して新しい人生に向かっていくはず。いつまでもこの世に留まり続けるんじゃ、紀元前の頃の人間も未だにいる事になるでしょ。そしたら幽霊の人口は何億人?って話になるじゃない」
「それはそうだけど…今この場所に亡くなってすぐの人がいるかもしれないじゃん」
「ここ最近でこの学校で亡くなった人なんていません。よってここには幽霊なんて物は存在しない。だから怖く無い」

 中学の時、廃病院に肝試しに行こうと周りの奴らと話していた時灰村は同じ様な事を言っていた。でもあの時ははっきりとあそこにはいると言っていた。
 つまりあの病院には最近亡くなった人がいたと言う事になるのだろうか。

「幽霊じゃなくても不審人物ならいるかもね。そしたら間宮くん。お願いね」
「…いたらな」
「頼もしいね。その時は私も腕にしがみ付いてあげるよ」
 そうなったら俺足だけで戦う事になるんだけど…

 そうこうしているうちに目的の場所に近づいて来た。
 音楽室。
 怪談話ではよく舞台にされる場所だ。
 さて実際はどうなのかな。

「ね、ねぇ…なにか聞こえない?」
 金田さんが音楽室の方を指を指し言ってくる。
 遠山くんにも聞こえたようで足を止め、こちらに振り向いた。
「確かに、何か聞こえたな。これは噂は本当か!?」
 怖がっている金田さんとは真逆の反応を見せ嬉しそうにしている。
 俺も耳を澄ませ音の確認すると、確かにピアノの音と、何か声が聴こえてくる。
「音楽室って防音じゃないの」
「完全に音を防ぐような高価な物を学校がつける訳ないでしょ。少しくらい音漏れはするよ。だからこんな端っこに音楽室を設置してるんじゃない」
 なるほど…そうだったのか。
「どうするの。入る?」
 俺は遠山くんに聞いた。遠山くんの答えはもちろんYESで、扉に手を掛けた。

 遠山くんが扉を開けると、二人の人がいる。
 その人達を見ると金田さんは
「い、いた…本当に…いた…」
 顔面蒼白になりながら小さく呟いている。
 てっきり叫ぶかと思ったけど人間本当に怖くなると声が出なくなるらしい。
「なんだ、お前達は」
 声を出してきた。どうやら幽霊では無いらしい、よく見ると片方の女性はこの学校の制服を着ているじゃないか。
「僕達はミス研です。今回、学校で噂になっている音楽室の事を調査しにきました」
「ミス研?調査?」
 三十代くらいの女性は何を言っているんだと言わんばかりの表情でこちらを見つめている。
 てか、俺はミス研じゃ無いけど…
「夜七時くらいになると音楽室から歌声と…がすると言う噂です」
 鬼の声を省いたな。歌声が生徒なら鬼の声の正体はこの人になる。遠山くんはそれを理解して言わなかったんだろう。
「なるほど。そんな噂が起きてしまっていたか。お前達はこの時間にここに来ることは学校側は許可しているんだろうな。まさか不法侵入ではないだろ」
「もちろん。ちゃんと許可は頂きました」
「そうか」
 女性はさっきから黙っている女子生徒の方を見て話し掛けた。
「本堂。今日はここまでだ。お前にはまだ足りない物がある。その課題をこなして見ろ。文化祭の時にそれが達成していなければ、お前は所詮そこまでだったと言う事だ」
「…はい」
 本堂…どこかで聞いた名前だな。
「お前達もさっさと帰れ。謎は解明できただろ」
 そう言って女性は帰ってしまった。
 一人残された女性と、シンとなる音楽室。その空気を金田さんが壊すように女生徒に話しかける。
「ね、ねえ。あなたが本堂さん」
「ん?そうだよ。初めましてかな」
 金田さんは近づいて行きマジマジと顔を見ている。何やってんだ。
「か、可愛い…こ、これが学年No.1なの」
 膝から崩れ落ち凹む金田さん。
 本堂…そうか思い出した。昼間金田さんに聞いた名前だ。可愛いと噂になっているという本堂 恵子(ほんどう けいこ)さんか。
「ありゃりゃ?どうしたの。てかみんな一年生でいいのかな」
「そうだね。僕達は全員一年だ。君も一年かな?」
「うんそうだよ。一年六組の本堂 恵子。よろしくね。四人とも、ミス研って奴なの?」
「ミス研は僕とそこで崩れ落ちている金田だけさ」
「んじゃ。そっちの二人は?」
 首を傾げこちらをみる本堂さん。
「俺と灰村は探偵部」
「探偵部?なんか凄い部活?」
「そうね。あなたの悩みも解決出来るかもしれない部活よ」
「わあ!そうなんだ!二学期はアタシも普通に登校する予定だから、なにか依頼しにいっちゃおうかな」
「ええ、そうして」
「てか、いけない。こんな時間だから、帰んなきゃだよね。それじゃ、バイバイ」
 手を振り帰っていく本堂さん。
 残された俺達も謎は解けたし帰る事にした。
「あれが、本堂 恵子かぁ。めちゃくちゃ可愛いじゃん。さすがアイドル部ね。ありゃ別次元の人間だ」
 金田さんは完全に敗北したみたいだ。
 暗くて顔はちゃんと見れなかったけど、そんなに可愛かったのかな。残念。
「灰村は本堂さんの事知ってた?」
「部活に専念してるから殆ど学校には来ていないからね。あまり知らないよ。でも二学期にはくるって言ってんだから別にどうでもいいわ」
 その後も何事も無く廊下を歩いて行く俺達、生物室の横を通り過ぎた時、人体模型がクラウチングスタートの構えをしていたのが気になったが見なかった事にしよう。

 夏休みももう終わる。二学期からはイベントがたくさんあるから楽しみだな…
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