名探偵になりたい高校生

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十五話 夜の学校

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夏休みも残りわずかになった頃、本日俺は学校に来ていた。
赤点で補習と言うわけでも無く、ただ単に暇だから来てみただけである。
夏休みだから当然といえば当然だが、人はほとんど来ていない。来ているのは部活の練習などで来ている生徒が殆どだ。
俺も部活には所属している。この学校は生徒会に入っている人を除いて全ての生徒は何かしらの部活に入らなくてはいけない事になっている。
そんな事もあり、俺は高校生活を満喫する為に探偵部を創った。
そして今、俺はその探偵部の部室に来ている。
誰もいない部室。外からの声も殆ど聞こえず、ここだけ別世界なのではと錯覚してしまうほど静かな部室。
お気に入りの畳の上で寝転んでみると案外埃が積もっている事に気がついた。
夏休みになってから一度も訪れていないこの部室はどうやら埃まみれになっていたようで、この部室に入ってから埃っぽい臭いがするなと感じたのは気のせいではなかったらしい。
俺は窓を開け空気の入れ替えをし、バケツに水を入れ掃除をする事にした。

掃除は三十分程で終了し、入ってきた時よりかは綺麗になった気がした。
俺は一息入れようと持って来ていたお茶を急須に入れ、湯呑みにお茶を入れる。
クソ暑い今日この頃だが、熱いお茶は美味しく感じる。掃除で疲れて渇いた俺の喉を優しく潤してくれる。
「お茶うめぇ~」
ホッと一息いれ、特に何もやる事のないこの暇の時間をどうするか。
「そういえば、灰村が夏休みに入る前に部室前にポストを設置してたな」
そう、この探偵部のもう一人の部員、灰村 杏(はいむら あん)が夏休み中に何か依頼来るかも知れないとの事でポストを設置していたのだ。
部室の扉を開け、ポストの中を確認したが、寂しい事にポストの中には何も入っていなかった。
「ま、そうだよな」
再び部室に戻りいつもの定位置に戻ると、暇潰しの為に持って来ていたジグソーパズルを始める事にする。
何もないなら帰ろうかなと思ったが今日は灰村も来るって言ってたし、あいつが来るまで大人しく待つとしよう。
「さて、小さい奴だし、すぐ終わるかな」
しかし、ジグソーパズルを始めようとした時、扉が開く音がした。
灰村か?と思ったが扉は廊下の方の扉では無くお隣の元音楽準備室の方からだった。
「誰かいるなって思って開けてみたけど、間宮かぁ」
声のする方を見るとそこにはお隣のミステリー研究会の紅一点、金田 明(かねだ めい)さんが立っていた。
金田さんはよくその扉を開け、灰村に勝負を挑みに来る女子だ。
見た目は可愛く、学年でも上位になる程男から人気があるらしい。
「灰村さん来ないの?」
「その内来るって言ってたけど」
「そっか」
灰村がいないとなればすぐに扉を閉め、自分の部室に帰るだろうと思っていたが、今日は違うらしい、探偵部の部室に入って来て、近くの椅子に腰を下ろした。
「あれ?帰んないの?」
「うん。ミス研も今は暇だし。灰村さんが来るまで待たせてもーらお」
いや、帰れよ…
「いつも見たいに遠山くんに連れ戻されちゃうんじゃない?」
「部長は職員室に行ってるからしばらく戻ってきませーん」
そう言うと金田さんはスマホを取り出し触り始めた。
金田さんとはあまり話したことが無いからか、この空気が若干気まずい。
「しかし、暑い部屋ね」
「ミス研の部室の方が涼しくていいでしょ。戻ったら?」
「なに、あんた。この美女と一緒で嬉しく無いわけ?」
自分で美女と言いますか…
確かに金田さんは可愛いと思うよ。
同じ美女の柳さんとはジャンルが違うが。
柳さんが清楚系なら金田さんはサバサバ系って感じだ。
「嬉しい、嬉しくないのはどうでもいいんだけどさ、確かに暑いね。扇風機でもつけるか」
扇風機のスイッチをオンにし、風が吹く。
部室が暑いから決して涼しい風ではないが無いよりかはマシだろう。
「これで我慢してくれ」
俺がそう言うと黙る金田さん。
しばらくスマホを触ってからその手を止め、俺に話しかけてきた。
「そう言えば間宮ってオセロで灰村さんに勝ったことあるんだっけ?」
「ああ、そう言えば一回だけ勝ったことあったかな。その一回以降勝ったことは無いけど」
「ねえねえ」
金田さんはバックからコンビニなどに売っている小さなサイズのオセロを取り出した。
「私とオセロで勝負しようよ。私結構強いよ」
笑顔で俺に言ってくる金田さんを見て、断るのも悪いし、ここはやる事にしよう。なによりこの暇の時間を潰すのにはちょうどいい。
「いいよ。やろうか」
「わあ!やった」
まずます笑顔になる金田さん。
その笑顔普通に可愛いな。
「金田さんってゲーム好き?」
「こういったボードゲーム?は好きかな。テレビゲームとかはやらないけど」
金田さんはオセロを広げ準備しながら言った。
準備も終え、俺と金田さんは対面に座る。
「私、白でいい?」
「いいよ」
「んじゃ、先攻後攻じゃんけんしよ」
じゃんけんの結果俺が勝ち俺が先攻となった。
「ねえ、間宮。負けた方は勝った方のお願い聞くってどう?」
「いいよ。変なのは禁止ね」
「それ、男のあんたが言う~?」
そんなやり取りをした後俺達はオセロで勝負する。

オセロを初めて十分前後、試合は終了する。
俺の勝ちだ。
金田さんとやってみて気がついたけど。この人多分オセロ弱い…なにを狙っているかがわかりやすい、その為裏を描きやすくあっさり勝てた。
「はい、俺の勝ち」
お願いなににしようかな?
「ねえ、もう一回、もう一回」
めんどい…けどやると言うまでやってと言って来そうだ。
「わかったよ。もう一回ね」
「ふふん。ありがと」

二回戦。
ここまでまたしても俺がリードしている。
次は金田さんの番だ。どこに置こうか悩んでいる様子。前屈みになりボードと睨めっこしている。
ただ、その…前屈みの金田さん。
胸の谷間が見えてしまっている。
これは男してラッキーな展開なのかも知れない。
でも見続けているわけもにいかず視線を逸らす。気が付かないフリと…

金田さんの番が終わり次は俺の番。金田さんは恐らく上から二段目で右から二番目の位置に黒を置かせようとしているのだろうが、その手にはかからない。
俺は違う所に置こうとした時、ふと金田さんの視線に気が付いた。
俺を真っ直ぐ見つめ、瞳をウルウルさせている。お願いだからそこには置かないでと目で訴えているようだ。
惑わされるな、これは奴の作戦だ。
俺はさっと視線を逸らし、置こうとしたが、またも金田さんが行動を起こした。
両手をギュッと握り、祈る様にしている。そして瞳はウルウルさせている。更には胸を寄せ、谷間がさっきより大きく見えている。金田さんは巨乳というほどでは無いが、寄せて上げるだけでこんなにも大きく見えるんだな。
…もういい。わかりましたよ。
俺は諦め、金田さんが置いて欲しい所にオセロを置いた。
金田さんは掛かっと言わんばかりに表情を明るくさせ、右隅に白のオセロを置く。

その後も瞳ウルウル作戦を実行し、二回戦は金田さんが勝利した。
「はっはー!間宮弱いね!私の勝ちぃ!!」
ちきしょう。ワザと負けてやったんだよ。
「さあて、お願い何にしようかな」
「ちょっと待って。一回戦俺が勝ったよね。俺のお願いが先でいいかな」
「ああ、そういえばあんた奇跡的に私に勝ったね」
うぜぇ…
「エッチな事はダメだかんね」
「そんなお願いするか」
「どうかなぁ~?さっき、私の胸見てたじゃん」
バレてる…女性は視線に気がつくと言うのは本当だったみたいだ。
「す、すみません。男の本能でみてしまいました…」
「あはは。素直でよろしいわ。私の様な美女の谷間見えたら誰だって見ちゃうって」
瞳をウルウル作戦の時はワザと見せていた様な気がするが…
「んで、お願い何?」
お願いと言われても特にないな。どうするか。
まあ、あれでいいか。
「お願いとは少し違うかもだけどいいかな?」
「なに?」
「金田さんって、灰村とどうなりたいの?それを教えて」
俺の質問に金田さんは困った様な表情をした。聞かれたくない事だったか?
「う、う~ん。言わないとダメ?」
「言いたくないなら言わなくても良いけどさ」
そこまで興味があるわけでもないし。
「は、灰村さんには言わないでよ」
「わかった。約束する」
「な、仲良くなりたい…」
「なら、なんであんな態度取ってんの」
仲良くなりたいなら普通に話し掛ければ良いのに。
「だって、その。負けたくないから」
「負けたくない?」
「そのさ、ぶっちゃけ私、可愛いじゃん?」
自分で言うか。まあ、可愛いだろう。快斗も金田さんはモテると言っていたし。
「中学の頃は私、一番可愛かった自身もあった。だから高校でも一番になれる気がしてた。でも…」
「でも?」
「入学してすぐに可愛いと噂になったのは二人。一人は本堂 恵子(ほんどう けいこ)さん」
本堂 恵子?誰だそれ?
「そして、もう一人が灰村さん」
へえ、灰村って可愛いって噂になってたんだ。
「私はすぐに二人を見に行ったよ。けど、本堂さんには一度も会えなかった。体育祭もいなかったし、未だに見た事ない」
へえ、どんな子だろ。気になる。
「次に灰村さんを見に言った。灰村さんを見た時、初めて、私と同じくらい可愛いって思った。中学にも可愛い子は結構いたけど私の方が可愛いって思ってた。でもさ、灰村さんは違った、初めて負けるかもって思ったの。そしたら、なんか勝手にライバル視しちゃってさ…ついついあんな態度取っちゃうんだよね。素直になれば良いのにって思ってるんだけどさ、なんか負けた気がして」
なる程、美女ならではの悩みかな。
「素直になるのが負けとは思わないけどな。金田さんが普通に話し掛ければ灰村も普通に接すると思うけど」
「ううむ。今更ねぇ」
金田さんから灰村への本音が聞け、少し部室がシンとした頃。扉がガラガラと音を立てて開いた。
「あら?金田さんが間宮くんと一緒にいるなんて珍しいね」
灰村だ。夏休みに一度も会っていないから久しぶりに見たな。
「お、灰村来…」
「来たわね!灰村さん!!勝負よ!!」
俺の言葉を被り気味に灰村に話し掛ける金田さん。さっきまでの素直になればいいのにはどうした。
「このクソ暑い中元気ね。オセロが見えるけどさっきまで間宮くんとやってたんでしょ?それで満足しなよ」
灰村は鬱陶しそうに扉の前で立っている。
「そうはいかないわ!!今日こそあんたを負かせてやるんだから」
俺にすら勝てないのに灰村には一生勝てないぞ。瞳ウルウル作戦も聞かないだろうし。
「金田!!」
隣の扉が勢いよく開くと、ミス研の部長。遠山 誠実(とおやま せいじ)くんが現れた。
「部室に戻れ!!今日のミーティングを始めるぞ」
「ええー!これからが良い所なのに」
「ダメだ。間宮くん、いつもいつもすまない、うちの金田が」
頭を下げ謝る遠山くん。
「いや、いいよ。俺も暇だったし、良い退屈しのぎになったよ」
遠山くんは金田さんを連れ、部室に戻っていく。
金田さんがいなくなると同時に灰村も席につく。
「なんか、久しぶりね。間宮くん」
「そうだな。元気だったか?」
「ええ。いつも通りかな」
俺は立ち上がり灰村にお茶を入れた、熱いお茶だが、灰村はなにも言わず、ゆっくりと飲んでいく。
「そういや、由美さんの所行くって言ってたよな。どうだった」
「どうだったって。別に元気だったわね。他のみんなも元気だったし。それより君。夏祭りはどうだったの?」
「ああ、楽しかったよ」
「そ。よかったね」
スッとお茶を飲む灰村。なぜかいつもよりおとなしい気がするが。
「てか、今日はなんで呼んだの?探偵部として特に何もやる事ないんでしょ。ポストも空だったし」
「まあね。ほら、たまには学校に来てゆっくりするのも悪くないかもってね」
「ようは、私に会いたくなったわけ。キッモ」
「そうは言っていない」
相変わらず口が悪いな。この女は。ま、それでいいと言ったのは俺だが…
「暇そうね探偵部!!」
隣の扉が勢いよく開くと同時に声を出したのは金田さんだ。
「なに、まだ、何かようなわけ」
灰村はウザそうに金田さんを見る。
「あんた達。この噂知ってる?」
金田さんはニヤニヤしながら俺達を見る。ああ、遠山くん彼女を早く連れて行ってくれないか。
「この学校の夜七時頃、音楽室で女性の歌声と鬼の声が聞こえるって噂」
「なにそれ、聞いた事ないね」
音楽室で歌声とかはありそうな噂だが、鬼の声って言うのが気になる。
「私達ミス研はそれの調査をします」
胸を張る金田さん。
「探偵部。どうせ暇でしょ。あんた達も一緒に捜査しない?」
「それって、ミス研の仕事でしょ。私達を巻き込まないでよ」
「ははーん。そう言って本当は夜の学校が怖いからやりたくないんでしょ」
「別に怖くは無いけど…」
「だったらいいじゃん。勝負しましょ。どっちが先に真相に辿り着けるか」
「それなら、音楽室に行かなくても答えは分かるから私の勝ちね。行く必要なし」
灰村の情報力なら直接行かなくても答えはわかるだろうな。
「それに、謎は謎のままだから、ミステリーは面白いんじゃない?」
「それは違うな灰村さん!!」
金田さんの後ろから遠山くんが声を出してきた。メガネをクイっとあげて。
「確かに謎は謎のままだから面白い。それは認めよう。それは後に語り継がれ人々によって噂は改変されて行く、それもいい。しかし、謎を解くそれもまた面白いのだよ。答えを解き、胸の奥の詰まりがなくなった時それはなんとも言い難いものなのさ!」
遠山くんが熱く語っている。
「間宮くん。探偵である君も謎を解き、犯人を追い詰めた時は最高の気分になるだろう?」
確かに、俺はその世界に憧れている。
なんか、遠山くんが言いたいことがわかった気がする。
でも、うちの灰村はそうじゃないらしい。
「うん。わかった。じゃ、がんばって。それにミス研は四人いるでしょ。私達はいらないと思うけど」
「佐々木と佐藤なら、めんどくさいって言って帰ったわ」
あの二人、やる気なさすぎだろ。なんでミス研に入ったんだろ。
「それに、間宮。さっきの勝負の事忘れてないわよね?」
「さっきの勝負?」
「そっ。私のお願い。まだ聴いてもらってないけど」
「なに、あんた。あんなザコに負けたの?」
卑怯な手を使われたと灰村には言えない…
「と、言うわけで。今日の夜七時にもう一度学校に集合ね。それじゃ解散」
そう言って金田さんは帰って行った。俺達は行くなど一言も言ってないのだが。
無視するかと思ったけど金田さんは俺の耳元で、「来なかったら。灰村さんに間宮が私の胸超見てたって言うからね」
と言って去っていった。

さて、夜の七時に学校に集合だ。

「ねえ、行くの?」
「しかたないだろ。てか、灰村は無理しなくてもいいぞ」
「…行くわよ。送り迎えよろしく」
「了解しました」

俺達は一度家に帰る事にした。


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