名探偵になりたい高校生

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十三話 夏祭り 二

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堀田さんが快斗を好きだと言う事に気が付いた俺はあえて二人を探さずに柳さんと行動にする事になった。
とはいえ、『探偵さんと二人でいたけどつまんなかったです』と言われるわけにはいかん。俺は俺で柳さんを楽しませようと近くにある出店に行く事にした。
しかし、さっきからどうも柳さんの様子がおかしい、やっぱり体調でも悪いのか?
「柳さん、具合でも悪い?」
「えっ!?そ、そんな事、な、ないですよ」
ブンブンと首を振り元気だと言う柳さんだが。じゃああれかな、学校で話すぐらいの関係である俺と二人でいる事に気まずさがあるのだろうか。
しかし、それを聞くときっと柳さんは気をつかってそんな事は無いと言ってくれるだろうし、う~ん。どうしたもんか。
こういう時は沈黙が一番いけない。そう。会話だ、会話!!
「いや~。あ、雨降らなくて、よ、よかったねぇ…」
「そうですね。天気予報じゃ今日は曇りのち雨みたいな事言ってましたけど。朝起きたら晴れてたのでよかったです」
「そ、そうだよね。いやー。晴れてくれてよかったなー」
「はい」
「………………。」
沈黙。
か、会話が続かねぇ。どうしよ。
「柳さんってなにか趣味ある?」
「趣味ですか?そうですね。読書と散歩ですね。探偵さんは確かジグソーパズルがお好きなんでしたよね」
「そうそう。よく知ってるね!あれ、俺言った事あったっけ?」
「えっと…ま、前に灰村さんと話していたのを聞いてまして」
「ああ、そうなんだ」
「はい…」
「………。」
沈黙。
上手く話せないな。
会話をしようと考えながら歩いていると柳さんが一つの出店を指差した。
「あ、探偵さん。射的ありますよ射的!あれをやりましょう」
射的の出店を発見した柳さんは歩いていく。
よかった。会話に悩んでいたからタイミングよく射的があってよかった。

お金を払い銃とコルクの栓を三個貰うと俺と柳さんはそれぞれ構える。
俺の狙いは右上にある小さなゴリラのぬいぐるみだ。
真正面を狙ってもきっと倒れるだけで棚からは落ちないだろう、右肩か左肩あたりを狙い遠心力を使い落とす!
一発目。
パンと勢いよく放たれたコルク栓はゴリラには当たらず横を抜けて行く。
「難しいな」
二発目。俺はしっかりと狙いを定め銃を撃つ。
コンとゴリラの顔面には当たったが揺れるだけで落ちる気配もない。
「あと一発か」
最後の一発を撃つ前に隣にいる柳さんの事を見てみるか。
柳さんは姿勢を低くし、銃に付いているスコープを覗きながら狙いを定めている。
ん?スコープ?柳さんの銃と俺の銃では種類が違うらしい。俺にはスコープなど付いていないのだが…
少し不満もあるが今は柳さんを見守る事にしよう。
「えい!」
銃を撃ち反動で少しのけぞる柳さん。
撃つ時えいって言ってるの可愛い。
柳さんの一撃は的には当たらずそのまま壁にあたり、柳さんは景品を取る事は出来ずに終わってしまったようだ。
「中々当たらないですね。よく狙ったんですけど。探偵さんも終わりですか?」
「いや、あと一発残ってるよ」
「なに狙っているんですか?」
「あのゴリラのぬいぐるみかな」
ゴリラのぬいぐるみを指差し柳さんに教える。
「探偵さん。ゴリラ好きなんですね。遠足の時もゴリラを探してましたし」
そう言って、ふふふと笑う柳さん。今日初めて笑った顔を見た気がする。
ちなみに別にゴリラは好きでもないけど。ただ少し大きいから狙ってただけなんです…
「私もゴリラは好きですよ。ドラミングしている時迫力あってカッコいいと思います」
確かに遠足の時に見たあのドラミングはカッコよかったな。動画でも撮ればよかったとさえ思う。
「あのぬいぐるみ絶対落とさないとですね」
笑顔で俺を見つめる柳さんの期待に応えられるように俺はゴリラに狙いを定めた。
銃を撃ちコルク栓はゴリラの右肩に命中。その反動でゴリラはクルリと回転しそのまま落下。見事ゴリラのぬいぐるみをゲットした。
「やったー!凄いです探偵さん」
俺の横で無邪気にはしゃぐ柳さんはとても可愛く見えた。
「はいよ兄ちゃん!かわいい彼女の前でかっこいいとこ見せれたな」
「か、彼女じゃないですよ!!」
おっちゃんの言葉を全力で否定し首を振るのは柳さん。そんなに必死に否定しなくてもいいのでは?
「それにしてももうちょい早く来ればさっきのカップルの銃捌きを見れたのになぁ」
「さっきのカップル?」
「そ、兄ちゃんと同じくらいの子がさっき来てたんだけどよ。ここにあった一番の景品を持っていっちまったんだよ」
そう言って、真ん中のなにも無いところを指差すおっちゃん。どうやらそこに、この店で一番の景品があったらしい。
「六発を凄まじいスピードで当てて景品を落としていきやがったのさ」
「六発ってここ三発じゃ」
「こいつを使ったのよ」
『ほれ』とリボルバーを見せてくる。
これを使ってそのカップルは落としたみたいだけど。
「リボルバーでもコルク栓は一発一発詰め込んで撃つんですよね?」
「そうだぜ。でもよ。あの彼女さんは凄まじい速度で弾を詰め込み撃っていた。最初からリボルバーには弾が六発入っているかのように。まさに神業だぜ。あの子が噂の祭りハンターなのかもな」
「祭りハンター?」
「そ、二年くらい前から現れたらしいんだが、各出店の景品の一番良い品を持ち帰ってるって噂さ。去年は隣街に出たって聴いたから、今年はここじゃねえかって話だったけどまさか本当に出るとはな」
おっちゃんから祭りハンターの話を聞かされ、店を後にした俺達。ぬいぐるみを片手に持っていると柳さんが少し羨ましそうにぬいぐるみを見ていることに気がついた。
「柳さん。ゴリラ好きだったよね。これあげるよ」
ぬいぐるみをプレゼントする事にしよう。
「えっ。でも、悪いですよ」
「いいって。受け取って」
「いいんですか。ありがとうございます!!」
笑顔で受け取ってくれた。柳さんはゴリラが好きだと言うのは本当だろう。さっきの射的もゴリラのキーホルダーを狙っていた。それに思い出してみると遠足でホットサンドを食べた時ゴリラのスタンプのやつを食べていたな。

それから俺達は他の出店を周りながら楽しい時間を過ごす。所々で祭りハンターの噂を聞くが出会う事はなかった。

楽しい時は時間が経つのが早いもので時刻は夜の七時半になっていた。八時には花火が上がるとの事なのでその時間には快斗達と合流できたらと思う。
そこで思い出す。堀田さんの事を。
堀田さんは快斗の事が好きだろうと言う事。今は快斗と二人で祭りを楽しんでいるでいるだろうと言うことを。
花火か…合流するのは花火終わってからの方がいいかもな。良い雰囲気だったらなんか申し訳ないし。向こうから連絡が無いって事は上手く言ってるのかも知れないし。
てか、そもそも柳さんはその事に気が付いてるのか?女子同士その手の話はするだろう。チラリと柳さんを見るとスマホの画面を見ながら操作している。
誰かとチャットしてるのか。誰かって多分堀田さんだろ。
もしかして…
『今、跡野くんといい感じだ。悪いが。花火は二人で見させてくれ』
『わかりました。私は探偵さんと二人で我慢します。寧々さん、頑張ってください』
なんてやり取りをしているのかも。
「堀田さんから連絡来た?」
「はい。え、え~と…人が多すぎて疲れたから少し休んでいるそうです。合流は花火が終わってからにしよう…だそうです…」
なんか嘘くさい。柳さん視線をキョロキョしながら俺に説明してたし。
俺はもう気がついているよ。本当は二人きりでいたいから俺には上手く伝えといてとか言ってたんでしょ。
「探偵さん。ここから少し先にある階段を登って横道に入った所から花火を見るのが一番いいらしいですよ」
「そこがスポットなの?」
「そうみたいです。寧々さんが教えてくれました」
となると、そこに快斗達がいる可能性があるのではないのか?
行って大丈夫なのか?
などと考えているうちに柳さんは歩き出してしまった。
まぁ、二人がいたら遠慮して違う場所に移動すればいいか。

柳さんの後を付いて行き目的の場所に着くとそこには誰もいなかった。
「うわぁ。いい眺めですね」
「確かに、ここからならよく見えそうだね。人も全然いないし。静かだわ」
花火までもう少し時間がある。
俺はここまで来たら堀田さんの事を聞いてみる事にした。
「あのさ、柳さん」
「はい?」
「なんとなく気がついちゃったんだけどさ。いいかな?」
「えっ!!」
俺が気がついていないと思ったのか柳さんは驚いている。流石の俺でもここまで来たら気がつくさ。
なぜか、顔が赤くなっているのが気になるが。
「(堀田さんは快斗の事)いつから好きなの?」
「ー!!」
「さすがに俺でも気がつくよ」
出来る事なら応援したいとも思っている。
「え、えっと、そ、その…」
友達の恋の秘密を守りたいその気持ちはわかるけどさ。
「こういう事って中々言いづらい事は確かにあるけど」
「あ、あう…」
「話す事でいい方に行くかもしれないし」
「わ、わかりました…言います…」
おっ。俺の気持ち届いた。
「…遠足の時からです」
遠足か。確かに遠足は他のクラスと交流しろって事だったからその時に快斗と一緒に行動してたのか。
「その、好きになるのになにかきっかけがあったの?」
「えっと…その…」
柳さんはギュッと浴衣を握っている。
そんなに勇気のいる事なのか?
「自分の行いが否定されるどころか肯定され、それどころか強力してくれるって言ってくれたから…そこから、段々意識してしまって。気が付いたら目で追っていたり、用もないのに会いに行ったりして。その、これが恋なんだなって…」
そうだったのか。堀田さんそんな感じ全然してなかったけど内心そんな事になっていたのか。快斗、よかったな。堀田さんお前の事本気で好きだぞ。
それにしても柳さん。人の事だと言うのにまるで自分の事かの様に話すな~。
「なるほど、ね。それで今日、言うの?」
「……もう言った様なものなんですけど…」
柳さんはなにか呟いたが、聞こえない。なんて言ったんだろ。
「…ゆ、勇気。出さないと」
「えっ?」
柳さんは真っ直ぐ俺を見てくる。
その表情はなにかを決心したかの様に力強い表情だった。
「私!!探偵さんの事が--!!」
ドーン!!
「ーーきです!!」
花火が始まった。
そして、俺は柳さんの声が聞こえなかった。なにか大切な事を言っていた様な気がする。
「ごめん、今なんて言ったの?花火の音で…」
「………なんでもないです」
柳さんなぜか物凄くがっかりしている気がするんだけど。
悪い事しちゃったな。

花火は凄く綺麗だった。俺達はしばらく黙ったまま花火を見ていた。この沈黙が少し地獄に感じたけど。

「花火。綺麗でしたね」
花火が終わり、柳さんが話しかけてくる。
「そ、そうだね。綺麗だったね」
さっきの話の続きしてもいいものか。
「柳さん。さっきのーー」
「行きましょう。探偵さん。寧々さん達が待ってます」
笑顔でそう言うと足早に歩いて行った。ギュッと自身の手を握りしめて。

神社の入り口に行くと二人を発見する。堀田さんは告白したのだろうか。気になる。
でも、なにか様子が変だ。快斗はぐったりしてるし、堀田さんはたくさんの荷物を持っている。
「よお、おかえり…孝一。楽しかったか?」
「うん、まあ楽しかったけど。快斗、なにかあったのか?」
「寧々ちゃんに、聞いてくれ…」
俺は横にいる堀田さんを見ると綿あめを口いっぱい頬張っている。
「ん?どおした」
「堀田さん…その荷物は?」
「ああこれか。これは出店の景品だ。代金は全てタダ。勝負に負けた跡野くんが奢ってくれたぞ」
「出店の景品…もしかして祭りハンターって堀田さんの事だったのか」
「なんだそれは?私は普通に祭りを楽しんでただけだ」
本人は噂の事は知らないのかな?
「寧々ちゃんのあのリボルバーの連射。忘れないよ。ハハ…」
この発言で確信した。この人祭りハンターだ。
「あんなの、誰でも出来るさ。それより」
堀田さんはチラリと柳さんをみる。
「香澄。どうだった?」
「えと。楽しかったです…」
「そうか。ではそろそろ。帰るとするか」
堀田さんは立ち上がり、歩き出した。その横に柳さん、後ろに俺と快斗がついて行く。
ふと堀田さんが立ち止まりスマホを取り出す。
「そう言えば、写真を撮ってなかったな」
そう言うと全員がカメラに近付き堀田さんは写真を撮った。
「写真は後でグループチャットで送るよ」
そして再び歩き出した。

家に着くとチャットが届く。堀田さんからだ

寧々(今日はお疲れ、楽しかったぞ。
これは写真だ。

その後写真が送られる。
帰りに撮った四人全員が写る写真に快斗と堀田さんの二人の笑顔の写真。

おお、これはこれは中々いい写真じゃないか。
そして続いて送られてきた写真は。
俺と柳さんだ。
俺が柳さんにぬいぐるみを渡し、それを笑顔で受け取ってる写真と二人で花火を見ている時の写真だ。
なんでこの写真があるのか知らないけど、気にしたら負けだ。俺は写真を保存した。
色々あって気になることも出来ちゃったけど楽しい一日だったな。

俺は風呂に入り、眠る事にした。

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