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十二話 夏祭り 一
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八月の一周目の土曜日。今日は夏祭り。
俺は着替えを済ませ、約束の午後五時に間に合わせるため、少し早めに家を出る事にした。快斗に服装はどうすると相談した所普通の服でいいだろとの事なので俺はラフな服装で夏祭りに向かう事にする。
玄関で靴を履いているとドタドタと慌ただしくこちらに向かって走ってくる音がした。俺は無視して立ち上がり扉に手を掛けようとした時に声が聞こえてきた。
「ちょっと、ちょっとぉ!!兄さん、どこ行くのよ」
振り返り、声のする方を向く。
立っているのは妹の薫(かおる)だ。
白のシャツで黒の短パンと部屋着全開の服装で腰に手を当てながら俺を見ている。
妹は俺の二歳下で今年で中学二年の元気一杯の短髪ガールだ。
「どこ行くって、夏祭りだけど」
「ああ、今日祭りだもんね」
「んじゃな。遅刻するからもう行くぞ」
「いやいや、ちょっと待ちなよ」
「なんだよ」
「誰と行くのかな?」
「…友達」
「杏ちゃん?」
「灰村はいない」
「えっ?杏ちゃんじゃないの?じゃあ玲那ちゃん?」
「あいつでもない」
玲那(れな)とは俺の幼馴染だ。高校は違くてあいつは俺の通っている全力高校の姉妹校、全開高校に通っている。
ちなみに玲那と灰村は仲が悪い。
「じゃあ誰よ」
「お前にいちいち説明する必要はない」
「あっそー。どうせ男だけで行くんでしょ。ナンパすんなよー」
勝手に男だけと決めつけ興味が失せたのか背中を向けリビングの方に帰る薫。
なんかむかついたからドアを開ける際に一言「女子もいるわ」と言った瞬間ドタドタと掛けながら俺の腕を掴んできた。
「なにそれ。聞いてない」
「言ってない」
「く・わ・し・く・き・か・せ・て・も・ら・お・う・か」
「うるせぇな」
俺は薫の腕を振り解き今度こそ家を出る。
家を出た際に家の中から「おかーさーん!!兄さんがぁぁぁ」とでかい声が聞こえたが無視して行く事にしよう。
あいつは灰村がうちに初めて来た時もうるさかった。
駅に近づくにつれ浴衣を来た人達が何人か目に付く。浴衣でもない普通の服装をしている俺は若干浮いているが仕方ない。そんな事思っている中知った顔を発見する。
「おお、孝一!来たかぁ」
つい先日知り合ったバスケ部の跡野 快斗(あとの かいと)だ。
俺は軽く手をあげ、快斗の近づく。
「いやぁ楽しみだなぁ祭り」
「快斗は祭りが好きなのか?」
「祭りって言うか、浴衣女子!寧々ちゃんと香澄ちゃん浴衣かな~」
堀田さんと柳さんの浴衣姿を想像しているのだろう快斗は鼻の下が伸びている。
それにしてもこいつは本当にイケメンだな。すれ違っていく女性達のほとんどが快斗を観ていく。
「灰村さんの浴衣姿が見れないのが残念だけど」
「そんなに灰村がいいのか?」
「そりゃそうだろ!灰村さんだぞ」
灰村ねぇ。あの目付きが悪く、口も悪いあの女がいいとはね。
「あのクールな目付き!」
あっ。そう捉えるんだ。
「そして誰に対しても完璧な指摘するあの言葉」
あっ。そう捉えるんだ。
「スラッとした茶髪にDカップの胸にクビれた腰のラインに魅力的な足!まさに完璧じゃないか」
「お前は灰村の身体が目的なのか?」
快斗の答えによってはこいつを今後灰村に近寄らせるわけにはいかない気がするな。
「まさか!俺は灰村さんのそんな所が目的じゃないぜ!あの誰も近寄るな的なオーラを出している所、そんな灰村さんに近寄れた時彼女はどのような表情をしているのか知りたいのさ」
灰村スマイルの事言ってんかな?
「まあそれより今日は残念ながら灰村さんはいないけど、ほら、観てみろよ」
快斗が指を指す方に目を向けると浴衣を着た二人の女子を発見する。
「うほー!寧々ちゃ~ん!!香澄ちゃ~ん!!」
元気よく手を振り二人に近付く快斗。俺もその後に続く。
「やあ、二人とも。よく来たね。二人は浴衣じゃないのか」
「そりゃそうさ浴衣は女子が着る物!女子が来て輝く物だからね。俺達が普段着を着る事で二人を更に輝かせるってわけよ」
「ふむ。そうか。でどうだ私の浴衣姿は?」
緑に花模様の浴衣を着ている堀田さん。自身の全身を見せるようにクルリとその場で回転する。
「可愛いよぉ~寧々ちゃ~ん!!」
快斗の言う通り浴衣姿の堀田さんは可愛かった。眠そうな目は相変わらずだが。
「ふふ。そうだろ。そうだろ」
「堀田さん、今日はメガネしてないんだね」
「今日は君達男子がいるからね。ナンパもされないだろうと思ってメガネは掛けてないさ。それより」
チラッと横に立っている柳さんを見る堀田さん。柳さんはさっきから俯いているが具合でも悪いのだろうか?
「香澄の浴衣姿はどうだ?」
柳さんの浴衣は水色で蝶の模様が描かれていて、普段下ろしている髪の毛をお団子状にまとめていて頸が見えている。
堀田さんに負けないくらい柳さんの浴衣姿も可愛かった。
「可愛いよぉ~香澄ちゃ~ん!!」
堀田さんの質問に快斗はテンションを上げ答える。
そんな快斗を無視するかの様に堀田さんは俺をみた。
「間宮くん。どうだ香澄は。可愛いか?」
堀田さんの横に俯きながら立っている柳さんを見る。感想はさっきと同じ可愛いと思う。
「うん。可愛いよ。似合ってる」
「あう…」
「よかったな香澄。可愛いとさ」
「あ、ありがとうございます」
俯いていた顔をあげ、やっと見えた顔は真っ赤になっていた。どうやら柳さんは浴衣を着るのが恥ずかしかったらしくずっと俯いていたんだろう。
「可愛いよ~香澄ちゃ~ん!!」
「うるさい、黙れ」
快斗に一撃入れる堀田さん。いい所に入った為か快斗はその場で蹲ってしまった。
とは言えようやく全員が揃った。俺達四人はそれぞれ歩き出した。
祭り会場は駅から十分程歩いた先にある大きな神社で、会場に着くとたくさんの出店が並んでいた。
俺達は横に一直線に歩くのわけにもいかず俺の前に快斗と堀田さん、そして俺の横に柳さんと言う並びになった。
前を歩きながら堀田さんは後ろにいる俺達に聞こえるように話し始める。
「それにしても間宮くんが連れてきた男がまさか跡野くんだとは」
「快斗とは夏休みに入る直前に知り合ったんだ。なんか悪いやつって感じもしなかったし祭りに誘ったんだよね」
「さすが探偵!俺は悪いやつじゃないぜ!」
自分で言うのはどうかと思うが…
「君達二人はどうやって知り合ったんだ」
堀田さんの疑問もわかる。
俺と快斗はクラスも違えば部活も違う、合同で授業を受ける事もない。一年生のうちに会う事は多分ないはずだ。
「夏休み前に起こった盗撮未遂事件の事は寧々ちゃんは知ってる?」
「ああ、清掃業者の人が仕掛けたってやつだね。知ってる」
「そお、それ。その事件を俺と孝一が解決したってわけよ」
その話を聞いてか今までずっと黙っていた柳さんが声を出した。
「あの事件。探偵さんが犯人見つけたんですか?」
「見つけたって言うかなんていうか。たまたまなのかな」
「凄いです!」
笑顔で見つめてくる柳さん。いつもの可愛い表情に戻ってきた。
「ほお、そうかあれは間宮くんが解決したのか」
「そお!俺と孝一!!」
自分も解決した側だとアピールする快斗だが、そもそも覗きの容疑をかけられていた事を忘れてないか?
「そこで俺と孝一は意気投合し…」
「いや、ちょっと待て」
快斗の話を遮る様に堀田さんが話す。
「そもそも、なんで君がそこにいた?間宮くんは探偵部としてなにか依頼があったからそこにいた事は理解できるが、跡野くんはバスケ部だろ。なぜそこにいる?」
「え、え~っと…」
「これは私の勘だが、君。なにか容疑をかけられていたね?間宮くんはその容疑者である君を助けるために女子更衣室に訪れた。そしてカメラを見つけ。君を助けた」
堀田さん鋭い…正解だよ。
「そ、そんなわけないじゃ~ん!ただ俺は女バスの茜ちゃんが誰かに覗かれたって言うからその犯人を捕まえる為に孝一と一緒に現場に駆けつけただけさ」
所々話を変えてるのが気になるけど。
実際は快斗は無実を証明する為に着いて来ただけなんだけど。
「そうか、そうか。君はイケメンだが女子に対して必要以上に褒めるからね。それが仇となって容疑をかけられたとばかり思ったよ」
「貶すよりかはマシでしょ」
「まあそうだね」
俺と快斗の出会いの話も一区切りし、少しお腹が空いてきたなと思っていると横にいた柳さんが立ち止まり一点を見つめている。
「柳さんどうしたの?」
「いえ、りんご飴を発見したもので。私、りんご飴好きなんです」
「そうなんだ。じゃあ買いに行こうよ」
「はい!」
俺と柳さんはりんご飴の売っている出店を目指す。快斗と堀田さんはその後ついてきながら何かボソボソと話していた。
「それにしてもさぁ。香澄ちゃん。最近可愛くなったよね」
「ほお」
「あれは確実に恋してるね。女の子は恋をしてる時は可愛くなるし」
「ほお」
「その相手は孝一?」
「君は間宮くんと違って鈍チンじゃないね」
「一瞬俺かとも思ったんだけどさ」
「それはないな」
「ほら、俺は自分で言うのもあれだけどかっこいいじゃん」
「そうだね。入学当初君の事はすぐに女子達の間で噂になってたよ。すぐに終わったが」
「それなのに。なぜかモテないんだよな~」
「余計な事言わなければモテるんじゃないのか?」
「余計な事なんて言ってないけどな。いつもとシャンプー違うとか、爪綺麗だねとか、髪の毛一ミリ切ったねとか言って女子の変化に気付いては褒めてるんだけどな」
「…そーゆーとこだぞ」
「ん?どういうこと?」
「さて、無駄話も終わりだ。香澄もいつもの感じに戻ったし。試練を与えるか」
「試練?」
「私達はこの場で消える。もちろん祭りが終わる頃には合流するが」
「二人きりにするのか」
「と、言うわけで。行くぞ。君は私をエスコートしろ」
「すみません。りんご飴二つ下さい」
「はいよ。六百円ね」
屋台のおっちゃんにお金を渡し、りんご飴を受け取ると、一つを柳さんに渡した。
「ありがとうございます」
嬉しそうにりんご飴を食べる柳さん。幼い顔が更に幼く見える。
「快斗と堀田さんも…」
あれ?二人がいない。
「柳さん、快斗と堀田さん知らない?さっきまで後ろにいたはずなんだけど」
「えっ!?」
キョロキョロと周囲を見渡す柳さん。俺も見てみるが二人を発見出来ない。
というか人が多くて見えなさすぎる。
仕方ない。
俺はスマホを取り快斗に電話を掛けたが出る様子もなく電話を切った。
「逸れたか」
人混みの中二人を見失うか。この状況じゃ二人を見つけるのは無理かな。
二人も今頃俺達を探しているかもしれない。
「柳さん。二人を探しに行こうか」
「…」
柳さんはスマホの画面を見ているのか俺の声が聞こえていないらしい。
「柳さん?」
「はいっ!!」
「二人を探しに行こ」
「…寧々さんから連絡ありました。今跡野くんと二人でフラフラしているそうです」
フラフラって。俺達を探してるわけじゃ無いのね。
「それで、二人は今どこに?」
「秘密だそうです」
「はい?」
秘密って…まさか。堀田さん快斗の事…
だとしたら邪魔するわけにも行かない気もするが。どうするか。
「…探偵さん」
「ん?」
柳さんは自分の浴衣をギュッと握っている。
「寧々さん達の事は一先ず置いといて…」
「うん」
「わ、私達も。二人でどこか行きませんか?」
そうか。
柳さん。堀田さんの事気遣って。
優しいな。
ならば俺も二人を探す事はやめる事にしよう!
「そうだね!二人で行こうか」
俺は堀田さんの恋を応援する為に柳さんと二人で行動する事になった。
俺は着替えを済ませ、約束の午後五時に間に合わせるため、少し早めに家を出る事にした。快斗に服装はどうすると相談した所普通の服でいいだろとの事なので俺はラフな服装で夏祭りに向かう事にする。
玄関で靴を履いているとドタドタと慌ただしくこちらに向かって走ってくる音がした。俺は無視して立ち上がり扉に手を掛けようとした時に声が聞こえてきた。
「ちょっと、ちょっとぉ!!兄さん、どこ行くのよ」
振り返り、声のする方を向く。
立っているのは妹の薫(かおる)だ。
白のシャツで黒の短パンと部屋着全開の服装で腰に手を当てながら俺を見ている。
妹は俺の二歳下で今年で中学二年の元気一杯の短髪ガールだ。
「どこ行くって、夏祭りだけど」
「ああ、今日祭りだもんね」
「んじゃな。遅刻するからもう行くぞ」
「いやいや、ちょっと待ちなよ」
「なんだよ」
「誰と行くのかな?」
「…友達」
「杏ちゃん?」
「灰村はいない」
「えっ?杏ちゃんじゃないの?じゃあ玲那ちゃん?」
「あいつでもない」
玲那(れな)とは俺の幼馴染だ。高校は違くてあいつは俺の通っている全力高校の姉妹校、全開高校に通っている。
ちなみに玲那と灰村は仲が悪い。
「じゃあ誰よ」
「お前にいちいち説明する必要はない」
「あっそー。どうせ男だけで行くんでしょ。ナンパすんなよー」
勝手に男だけと決めつけ興味が失せたのか背中を向けリビングの方に帰る薫。
なんかむかついたからドアを開ける際に一言「女子もいるわ」と言った瞬間ドタドタと掛けながら俺の腕を掴んできた。
「なにそれ。聞いてない」
「言ってない」
「く・わ・し・く・き・か・せ・て・も・ら・お・う・か」
「うるせぇな」
俺は薫の腕を振り解き今度こそ家を出る。
家を出た際に家の中から「おかーさーん!!兄さんがぁぁぁ」とでかい声が聞こえたが無視して行く事にしよう。
あいつは灰村がうちに初めて来た時もうるさかった。
駅に近づくにつれ浴衣を来た人達が何人か目に付く。浴衣でもない普通の服装をしている俺は若干浮いているが仕方ない。そんな事思っている中知った顔を発見する。
「おお、孝一!来たかぁ」
つい先日知り合ったバスケ部の跡野 快斗(あとの かいと)だ。
俺は軽く手をあげ、快斗の近づく。
「いやぁ楽しみだなぁ祭り」
「快斗は祭りが好きなのか?」
「祭りって言うか、浴衣女子!寧々ちゃんと香澄ちゃん浴衣かな~」
堀田さんと柳さんの浴衣姿を想像しているのだろう快斗は鼻の下が伸びている。
それにしてもこいつは本当にイケメンだな。すれ違っていく女性達のほとんどが快斗を観ていく。
「灰村さんの浴衣姿が見れないのが残念だけど」
「そんなに灰村がいいのか?」
「そりゃそうだろ!灰村さんだぞ」
灰村ねぇ。あの目付きが悪く、口も悪いあの女がいいとはね。
「あのクールな目付き!」
あっ。そう捉えるんだ。
「そして誰に対しても完璧な指摘するあの言葉」
あっ。そう捉えるんだ。
「スラッとした茶髪にDカップの胸にクビれた腰のラインに魅力的な足!まさに完璧じゃないか」
「お前は灰村の身体が目的なのか?」
快斗の答えによってはこいつを今後灰村に近寄らせるわけにはいかない気がするな。
「まさか!俺は灰村さんのそんな所が目的じゃないぜ!あの誰も近寄るな的なオーラを出している所、そんな灰村さんに近寄れた時彼女はどのような表情をしているのか知りたいのさ」
灰村スマイルの事言ってんかな?
「まあそれより今日は残念ながら灰村さんはいないけど、ほら、観てみろよ」
快斗が指を指す方に目を向けると浴衣を着た二人の女子を発見する。
「うほー!寧々ちゃ~ん!!香澄ちゃ~ん!!」
元気よく手を振り二人に近付く快斗。俺もその後に続く。
「やあ、二人とも。よく来たね。二人は浴衣じゃないのか」
「そりゃそうさ浴衣は女子が着る物!女子が来て輝く物だからね。俺達が普段着を着る事で二人を更に輝かせるってわけよ」
「ふむ。そうか。でどうだ私の浴衣姿は?」
緑に花模様の浴衣を着ている堀田さん。自身の全身を見せるようにクルリとその場で回転する。
「可愛いよぉ~寧々ちゃ~ん!!」
快斗の言う通り浴衣姿の堀田さんは可愛かった。眠そうな目は相変わらずだが。
「ふふ。そうだろ。そうだろ」
「堀田さん、今日はメガネしてないんだね」
「今日は君達男子がいるからね。ナンパもされないだろうと思ってメガネは掛けてないさ。それより」
チラッと横に立っている柳さんを見る堀田さん。柳さんはさっきから俯いているが具合でも悪いのだろうか?
「香澄の浴衣姿はどうだ?」
柳さんの浴衣は水色で蝶の模様が描かれていて、普段下ろしている髪の毛をお団子状にまとめていて頸が見えている。
堀田さんに負けないくらい柳さんの浴衣姿も可愛かった。
「可愛いよぉ~香澄ちゃ~ん!!」
堀田さんの質問に快斗はテンションを上げ答える。
そんな快斗を無視するかの様に堀田さんは俺をみた。
「間宮くん。どうだ香澄は。可愛いか?」
堀田さんの横に俯きながら立っている柳さんを見る。感想はさっきと同じ可愛いと思う。
「うん。可愛いよ。似合ってる」
「あう…」
「よかったな香澄。可愛いとさ」
「あ、ありがとうございます」
俯いていた顔をあげ、やっと見えた顔は真っ赤になっていた。どうやら柳さんは浴衣を着るのが恥ずかしかったらしくずっと俯いていたんだろう。
「可愛いよ~香澄ちゃ~ん!!」
「うるさい、黙れ」
快斗に一撃入れる堀田さん。いい所に入った為か快斗はその場で蹲ってしまった。
とは言えようやく全員が揃った。俺達四人はそれぞれ歩き出した。
祭り会場は駅から十分程歩いた先にある大きな神社で、会場に着くとたくさんの出店が並んでいた。
俺達は横に一直線に歩くのわけにもいかず俺の前に快斗と堀田さん、そして俺の横に柳さんと言う並びになった。
前を歩きながら堀田さんは後ろにいる俺達に聞こえるように話し始める。
「それにしても間宮くんが連れてきた男がまさか跡野くんだとは」
「快斗とは夏休みに入る直前に知り合ったんだ。なんか悪いやつって感じもしなかったし祭りに誘ったんだよね」
「さすが探偵!俺は悪いやつじゃないぜ!」
自分で言うのはどうかと思うが…
「君達二人はどうやって知り合ったんだ」
堀田さんの疑問もわかる。
俺と快斗はクラスも違えば部活も違う、合同で授業を受ける事もない。一年生のうちに会う事は多分ないはずだ。
「夏休み前に起こった盗撮未遂事件の事は寧々ちゃんは知ってる?」
「ああ、清掃業者の人が仕掛けたってやつだね。知ってる」
「そお、それ。その事件を俺と孝一が解決したってわけよ」
その話を聞いてか今までずっと黙っていた柳さんが声を出した。
「あの事件。探偵さんが犯人見つけたんですか?」
「見つけたって言うかなんていうか。たまたまなのかな」
「凄いです!」
笑顔で見つめてくる柳さん。いつもの可愛い表情に戻ってきた。
「ほお、そうかあれは間宮くんが解決したのか」
「そお!俺と孝一!!」
自分も解決した側だとアピールする快斗だが、そもそも覗きの容疑をかけられていた事を忘れてないか?
「そこで俺と孝一は意気投合し…」
「いや、ちょっと待て」
快斗の話を遮る様に堀田さんが話す。
「そもそも、なんで君がそこにいた?間宮くんは探偵部としてなにか依頼があったからそこにいた事は理解できるが、跡野くんはバスケ部だろ。なぜそこにいる?」
「え、え~っと…」
「これは私の勘だが、君。なにか容疑をかけられていたね?間宮くんはその容疑者である君を助けるために女子更衣室に訪れた。そしてカメラを見つけ。君を助けた」
堀田さん鋭い…正解だよ。
「そ、そんなわけないじゃ~ん!ただ俺は女バスの茜ちゃんが誰かに覗かれたって言うからその犯人を捕まえる為に孝一と一緒に現場に駆けつけただけさ」
所々話を変えてるのが気になるけど。
実際は快斗は無実を証明する為に着いて来ただけなんだけど。
「そうか、そうか。君はイケメンだが女子に対して必要以上に褒めるからね。それが仇となって容疑をかけられたとばかり思ったよ」
「貶すよりかはマシでしょ」
「まあそうだね」
俺と快斗の出会いの話も一区切りし、少しお腹が空いてきたなと思っていると横にいた柳さんが立ち止まり一点を見つめている。
「柳さんどうしたの?」
「いえ、りんご飴を発見したもので。私、りんご飴好きなんです」
「そうなんだ。じゃあ買いに行こうよ」
「はい!」
俺と柳さんはりんご飴の売っている出店を目指す。快斗と堀田さんはその後ついてきながら何かボソボソと話していた。
「それにしてもさぁ。香澄ちゃん。最近可愛くなったよね」
「ほお」
「あれは確実に恋してるね。女の子は恋をしてる時は可愛くなるし」
「ほお」
「その相手は孝一?」
「君は間宮くんと違って鈍チンじゃないね」
「一瞬俺かとも思ったんだけどさ」
「それはないな」
「ほら、俺は自分で言うのもあれだけどかっこいいじゃん」
「そうだね。入学当初君の事はすぐに女子達の間で噂になってたよ。すぐに終わったが」
「それなのに。なぜかモテないんだよな~」
「余計な事言わなければモテるんじゃないのか?」
「余計な事なんて言ってないけどな。いつもとシャンプー違うとか、爪綺麗だねとか、髪の毛一ミリ切ったねとか言って女子の変化に気付いては褒めてるんだけどな」
「…そーゆーとこだぞ」
「ん?どういうこと?」
「さて、無駄話も終わりだ。香澄もいつもの感じに戻ったし。試練を与えるか」
「試練?」
「私達はこの場で消える。もちろん祭りが終わる頃には合流するが」
「二人きりにするのか」
「と、言うわけで。行くぞ。君は私をエスコートしろ」
「すみません。りんご飴二つ下さい」
「はいよ。六百円ね」
屋台のおっちゃんにお金を渡し、りんご飴を受け取ると、一つを柳さんに渡した。
「ありがとうございます」
嬉しそうにりんご飴を食べる柳さん。幼い顔が更に幼く見える。
「快斗と堀田さんも…」
あれ?二人がいない。
「柳さん、快斗と堀田さん知らない?さっきまで後ろにいたはずなんだけど」
「えっ!?」
キョロキョロと周囲を見渡す柳さん。俺も見てみるが二人を発見出来ない。
というか人が多くて見えなさすぎる。
仕方ない。
俺はスマホを取り快斗に電話を掛けたが出る様子もなく電話を切った。
「逸れたか」
人混みの中二人を見失うか。この状況じゃ二人を見つけるのは無理かな。
二人も今頃俺達を探しているかもしれない。
「柳さん。二人を探しに行こうか」
「…」
柳さんはスマホの画面を見ているのか俺の声が聞こえていないらしい。
「柳さん?」
「はいっ!!」
「二人を探しに行こ」
「…寧々さんから連絡ありました。今跡野くんと二人でフラフラしているそうです」
フラフラって。俺達を探してるわけじゃ無いのね。
「それで、二人は今どこに?」
「秘密だそうです」
「はい?」
秘密って…まさか。堀田さん快斗の事…
だとしたら邪魔するわけにも行かない気もするが。どうするか。
「…探偵さん」
「ん?」
柳さんは自分の浴衣をギュッと握っている。
「寧々さん達の事は一先ず置いといて…」
「うん」
「わ、私達も。二人でどこか行きませんか?」
そうか。
柳さん。堀田さんの事気遣って。
優しいな。
ならば俺も二人を探す事はやめる事にしよう!
「そうだね!二人で行こうか」
俺は堀田さんの恋を応援する為に柳さんと二人で行動する事になった。
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