名探偵になりたい高校生

なむむ

文字の大きさ
上 下
11 / 71

十一話 柳香澄の夏祭り前日

しおりを挟む
私はカレンダーに夏祭りと書かれた文字を見ながら軽くため息を吐く。
「はああ。なんでこんな事に」
探偵さんが来る事は素直に嬉しいと思う。でも学校外で会うなんて恥ずかしい。そんな気持ちをしながら夏休みに入ってからずっと考えている私は宿題にも手が付かず未だ何一つ終わらせていない状況だ。
そもそもあの日に寧々さんにばったり会わなければこんな気持ちにはならずにすんだだろう。

あの日。それは探偵さんが空手部とボクシング部の揉め事を解決してくれた後に起こった。

「香澄はちょいと残れ」
私は寧々さんにそう言われ探偵部やミステリー研究会の皆さんが帰って行く中一人残された私は一人ポツンと茶道室に立っていた。
そんな私に寧々さんはお茶のおかわりを入れ、ここに座れと目で合図してくる。
私は大人しく座り、入れてもらったお茶を飲みながら寧々さんはなぜ私一人を残したのか気になっていたが今はただ黙っておく事にした。

堀田 寧々(ほった ねね)さん。
私が入学して間もない頃に出会い高校生活で最初にお友達になった人。

私は入学してすぐに生徒会に入り、いつも通り生徒会室に向かう時に女子生徒に声をかけられた。
「君。生徒会の人だよね?ちょいと道を尋ねたいのだが」
声の方を振り向くとメガネを掛け、少し気だるそうにした女子生徒が立っている。
「はい。なんでしょうか?」
「茶道室を探しているんだけどね。場所がわからないんだ」
「茶道室ですか。あそこなら格技場の近くにある技術棟一階の突き当たりにありますよ」
「そうか。ありがとう。ちなみに聞くが。格技場はどこだ?」
「えっとですね」
「すまないね。私は道を覚えるのが苦手なんだ。よろしければ案内してほしい」
「わかりました。こっちです」
私は女子生徒を茶道室に案内することにした。困っている人を見捨てるわけにはいかない。
そして女子生徒を無事茶道室に送り届けた。
「ここが茶道室ですよ」
「おお、ここか。ありがとう。助かったよ。そう言えば自己紹介がまだたったね。私は一年三組の堀田 寧々だ。よろしく」
「堀田さんですか。私は一年五組の柳 香澄(やなぎ かすみ)です」
「そうかそうか。柳さんか。今度お礼をさせてくれ」
「いえ、お礼だなんて」
「まあ、いいから。連絡先を交換しよう。私から連絡する」
私は堀田さんと連絡先を交換してその場を去った。
その日の夜に、連絡が来て明日茶道室に来て欲しいとの事だったので、私は行く事にした。

放課後になり私は堀田さんのいる茶道室に向かう。今日はなにやら三組で事件?みたいなのがあったらしく校内が少しざわついていた。堀田さんは確か三組だったよね。詳しく聞いてみようかな。

茶道室の前に立ち扉をノックすると。和服を着た女性が出迎えてくれた。
綺麗な女子生徒。先輩かな?
「あの、ここにいる堀田 寧々さんと言う方に会いに来たのですが」
「堀田は私だ。入っていいよ。今日は私一人だ」
ええ!堀田さん!!
昨日と見た目が全然違う気がする。眼鏡も掛けてないし。でもよく見ると確かに堀田さんの面影はある。
私は呆気に取られながらも案内された茶道室に入った。
室内は畳一色で部屋の中心には囲炉裏がある。なんでも冬はそこで鍋パーティをするのだとか。
私は取り敢えず堀田さんに案内された場所に座った。
「今日は来てくれてありがとう。昨日のお礼だ。私の淹れたお茶を飲んでくれ。美味しいぞ」
堀田さんはそう言うと、お茶をたて始める。
コトコトと素早く、そして丁寧に作業をこなす堀田さん。昨日あった時の眠そうな表情はいっさいしておらず真剣そのもの。
お茶をたて終わり抹茶の入った湯呑みを私に差し出す。湯呑みに入った抹茶はきめ細かく綺麗に泡立っていてとても綺麗だった。
「どうぞ」
私は背筋をピンと伸ばし頂いた湯呑みを90度回し、口の中から一気に胃に流し込む様に呑みこんだ。
「美味しい・・」
「ふふ、そうだろ。それにしても君は作法をちゃんと行うのだな。さすが生徒会」
「あ、ありがとうございます」
作法を褒められ少し照れてしまう。人に褒められる事ってあまりないから恥ずかしいな。
「そう言えば、今日は三組で何やら事件があったみたいですけど」
「事件・・?」
堀田さんは首を傾げ少しの間考えると思い出したように手をポンと叩いた。
「ああ、あれか。消しゴムのやつか。確かにあったね」
「消しゴム?」
私は堀田さんに事件の事を聴き、三組のクラスの男子、【間宮 孝一】(まみや こういち)くんと言う方が解決したと聞いた。
「その間宮くんは探偵部とか言う奴を創りたいらしいよ。中々イカれているだろう。はっはっは」
楽しそうに笑う堀田さん。探偵部って言うのがイカれているかどうかはわからないけど、部を創れたら同じ一年生だし私が視察に行く事になるんだろうな。
探偵部か・・どんなだろう。

そして私はしばらく堀田さんと会話をした後生徒会室に戻る事にした。
「それじゃそろそろ私行きますね。今日はご馳走様でした。美味しかったです」
「おお、そうか。また来てくれ。そうそう私達はもう友人だ。寧々と呼んでくれ。私も香澄と呼ばせてもらうよ」
「わかりました。寧々さん」

そうして私と寧々さんは友達になった。時間が合えば休日にも遊んだりする事もある。そんな寧々さんは茶道室に私一人残して何か用だろうか?
「えっと寧々さん、どうしたんですか?」
寧々さんはじっと私を見つめた後ようやく口を開いてくれた。
「香澄、お前。間宮くんの事、好きだろ?」
「えええええええええええ!!」
大きな声を出してしまった。
ハっとなりすぐに口を閉じる。
寧々さん、なにを、何を急に・・?
「ええっと、寧々さん、い、いきなり、どどどどうしたんですか」
「香澄、動揺しすぎだぞ。なぜ間宮くんの事が好きになったのか知らんが、お前分かりやす過ぎだぞ~」
そ、そんな、私、探偵さんの前では普通にしている筈。
「ね、寧々さんの勘違いじゃないですかねぇ~。わ、私べべ、別に探偵さんの事をすす好きと、とか、べべ、別におおお思ってなななないでですよ」
口がうまく回らない。どうしよう。
「別に恥ずかしがることなんて無いと思うが」
「うっ・・」
何も言えない。取り敢えず俯いて顔を隠そう。全身が熱くなってるのがわかる。恐らく私の顔、今真っ赤になってそう。
恥ずかしい。
「しかし、間宮くんか。意外・・でも無さそうだな。香澄、間宮くんと一緒に遠足で迷子の男の子を助けたんだろ~?
自分の行いを否定された中学時代と違って肯定してくれた彼に、興味を持ち始めた。そして次第に気持ちは膨れ上がり、気が付いたら恋をしていた。そして用もないのに視察と嘘をついて彼に会いに行っていた」
「あう・・」
名推理。寧々さん探偵ですか。あなた探偵部向いているんじゃ無いですか。
「まぁ、恋をする事は悪い事じゃないぞ。それで、いつするんだ?」
「えっと、なにがですか?」
「告白」
「すすすする訳ないじゃ無いですかああ」
「うるさいぞ」
耳を塞ぎながら言う寧々さん。
「間宮くんって、鈍そうだしな。自分から行かないと多分一生来ないぞ。それに」
「それに?」
「彼の近くには灰村さんがいる」
灰村さん。探偵さんと同じ中学で同じクラスで同じ部活。一番探偵さんのそばにいる女子生徒。【灰村 杏】(はいむら あん)さん。
遠足の時も探偵さんがあの男の子を連れて来るとわかっていたな。
「まぁ、兎に角。さっさと行動に移したほうがいいぞ。いきなり告白は無理ならまずは遊んで距離を縮める事からだな。夏休み、八月の一周目の土曜日、祭りがあっただろう。それに行こう。間宮くんは私が誘っておくよ」

寧々さんはすぐに行動に移し探偵さんを誘った。明日は夏祭り。
緊張するな。
部屋で明日の事考えているとスマホが震える。
確認すると寧々さんが作ったグループチャットのようだ。

寧々(明日は午後五時に駅前集合。遅刻は許さん。男子共。

間宮(りょうかい。

跡野(寧々ちゃーん!俺が女の子の約束に遅刻するわけないじゃーん!!

柳(みなさん。明日はよろしくお願いします

グループチャットの画面を閉じ、スマホを机に置こうとしたら寧々さんから個人メッセージが届いた。

寧々(明日は浴衣でこいよ。私も来て行くからね。それと香澄と私は少し早めに集合だ

私は了解ですと返事をしてスマホを置く。
「浴衣か、あったかな」

明日は夏祭り。緊張の日。
「がんばろ・・」
今日は早めに眠る事にした。
しおりを挟む

処理中です...