名探偵になりたい高校生

なむむ

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七話 一年一学期七

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放課後。
俺は部室に来ていた。
依頼もなく、特にやる事のない今日この頃だが、灰村に『とりあえず、部室の掃除でもしたら?』と言われたので、今日も掃除をしていた。
掃除もひと段落ついた頃、この元音楽準備室の隣にある倉庫は、意外と快適な部屋だと思い始めていた。
なぜなら、この部屋は畳があり、上履きを脱いでゴロゴロ出来る場所がる。
もちろん机もあるが、俺は畳の上で寝込んでいるのが好きになった。

俺が掃除を終え、畳の上でゴロゴロしていると、ガラガラと扉が開く音がする。
俺は音の方に顔を向けると、そこには、俺らに勝負に負けたくせに、磯川先生に一目散に部室の権利書を渡した汚い女子、ミス研の【金田 明】(かねだ めい)さんが、俺の方を見ていた。
「今日は三十点の男しかいないのかしら?」
三十点の男。金田さんと部室を掛けて勝負した時、俺の顔を見て、三十点と点数をつけてきたのだ。
それ以降、金田さんは俺の事を三十点の男と呼ぶようになったわけだ。
「ねぇ、その三十点てのやめてくんない。傷つくんだけど」
「事実だからしょうがなくない?」
悪びれる様子もなく淡々と話す金田さん。この女、灰村と同じくらい口悪いかもな。
「所で、なんか様?依頼ってわけじゃ無いでしょ」
「あなた達に頼むことなんて何もないわ」
・・じゃあ帰れよ
「灰村さんは?」
「今日は来ないよ。あいつはあいつで忙しいからね」
「ふーん。じゃ、いいわ」
ガラガラと扉を閉めて、自分の部室に帰って行く金田さん。何しに来たんだあの女。灰村と喧嘩でもしに来たのだろうか。
俺はやれやれと思いながら、立ち上がり、灰村が用意して置いたお茶を飲む事にした。
ズズと湯呑みを啜りながらお茶を飲み、やる事の無い暇の時間をただ潰していると、今度は磯川先生がやってきた。
磯川先生はこの探偵部の顧問であるが、滅多に部室には来ない。
その磯川先生はなにをしに来たのだろうか?
「おお、間宮。今日はお前一人か」
「そうですよ。灰村の事は先生は知ってますよね」
「ああ、まあな」
俺は一応先生にもお茶を用意し、目の前に置くと、先生は、『どうも』と一言言ってからお茶を飲んだ。
「先生が来るなんて珍しいですね。なんかあったんですか?」
「おう、あるぞ。明日の放課後、生徒会のメンバーの一人がここに来る」
「生徒会ですか。依頼とか?」
「いや、違う。お前、部活を創れる事以外なにも調べてないのな」
「と、いいますと」
磯川先生はお茶をズズと飲み、話しを続けた。
「部活を新規で創るには、条件をクリアすれば創れる。まぁちょいと前は申請だけすれば簡単に創れたが・・」
「そうですね。俺は見事に条件をクリアして、探偵部を創れましたよ」
そう、俺はクラスで起きた【ファーストタッチ強奪事件】を見事に解決したのだ。
「部活を作るだけなら、正直誰でも出来る。お前の場合、ちょいと厳しかったかもしれんがな。問題はその後だ」
「後?」
「生徒会による視察。その視察によってはこの部活はなくなるぞ」
「えっ?」
無くなる。どういう事。
俺は磯川先生の言っている事がよくわからなかったが質問する前に磯川先生は『まぁ頑張れ』とだけ告げ、いなくなってしまった。

次の日。
俺は教室で昨日磯川先生に言われた事を灰村に伝えた。
「で?」
女の【で】の言い方はなんでこんなに怖いのだろうか。
「その事を知らなかったあんたに私は驚いているんだけど」
「す、すみません」
「活動内容をちゃんとしているか、私達と同じ立場である生徒。その中で学校でも権力を持つ生徒会が見に来るだけでしょ」
「それだけなら、なんで部活が無くなるとかあんの?」
「余計な部活を増やしたくない。って事よ。この学校の生徒会は先生よりも厳しく、そして意見を言うことが出来る。生徒として、この部活は不要と判断すれば学校側はその部活を廃部にする事もあるって事ね」
生徒会の一言によって無くなった部活は多数あるとの事。去年も不要と判断された部活は三つ程あったらしい。
「まぁ、普通に活動すれば大丈夫だよな」
「普通ね。お茶飲んでゴロゴロしているだけの部活が普通の活動とは思えないけど」
せっかく苦労して創った部活をあっさりなくしてたまるか。

放課後になり、俺と灰村は部室で待機していると、コンコンと扉をノックする音がして、灰村が扉を開けると一人の女子生徒が立っていた。
三つ編みにキリッとした目、如何にも優等生といった感じの女子だ。
「はじめまして、今日は貴方達探偵部がどの様な活動をしているのか視察にやっってきました。私は生徒会、会計担当、一年五組【柳 香澄】(やなぎ かすみ)と言います」
柳さんは一礼をすると、部室に入って来る。
「さっそくですが、まずは活動内容を教えてもらえますか?」
俺は探偵部の活動内容を柳さんに伝えると柳さんはメモをとりながらうんうんと頷いていた。
「依頼を受け、事件を解決ですね。わかりました。では、今日はなんの事件を解決するのでしょうか?」
俺は灰村を見る。
灰村は俺の視線に気がつくと、柳さんに説明を始めた。
「柳さん。今日は特に依頼がないの」
「そうですか。ではなにも無い日はなにを?」
なにも無い日・・掃除?
「なにも無い日はいい事よね?この学校は平和って事だと思うし。うちの部長の間宮くんは、なにも無い日は部室でゴロゴロしてるわ」
おおおおおおおおおい!!
それ言っちゃダメだろ!!
「ゴロゴロですか」
ギロリと睨むように俺を見た後、メモ帳になにやら書き始める柳さん。小さな声で減点って聞こえた気がするんだけど。
「私は探偵部の活動内容は素晴らしいと思います。学校の治安を守れそうですし。でも正直、このままではこの部活は不要って判断になってしまいますね。せめてなにか活動していただけると」
探偵部の存在は気に入ってくれてるんだ。
なんかありがたいな。この人いい人かも。
「それもそうね、なら柳さん。あなたが何か困っている事ないかしら?」
「私ですか?」
「そう」
「そうですね、それでは探偵部に依頼があります」

俺達は柳さんからの依頼を引き受けると、さっそく学校の部活動の紹介がされている掲示板にやってきた。

柳さんの依頼は内容は、存在しているはずだけど、そこの部員と活動内容を調べて欲しいとの事だ。
柳さんのから調べてほしいと言われた部活の紹介文を探す中、俺達探偵部の紹介も発見した。
【どんな、依頼も必ずこなします。アホ探偵間宮に依頼を】
「なあ、灰村」
「なに?」
「これ、お前が創ったんだよね?」
灰村は探偵部のポスターをみると『そうよ。事実じゃない』と言う。
おのれ灰村め、自分の事は書かないのか。
「完璧美女灰村に依頼をなんて書いたら毎日忙しいでしょ」
「完璧美女かどうかは知らんけど、毎日忙しいのはいい事では?」
「忙しいと脳が疲れ、仕事も雑になるし、解決出来るものも出来なくなるわ。私は君の事を思って書いてあげたのよ」
灰村なりの優しさなのだろうけど、アホ探偵ってひどくない?

兎に角まずは柳さんの依頼を来なそう。
俺は謎の部活【帰宅部】を探そう。

【帰宅部】その部活は確かに存在していた。しかし、そこには活動内容が記載されておらず、現在の部員数も書かれていなかった。
学校の掲示板に掲示する時は必ず、活動内容と部員数を記載させるのが決まりの筈だ。
「帰宅部の存在知ってた?」
「ええ。当然。君が探偵部を創らなかったらそこに入ろうと思っていたの」
「じゃあ灰村は活動内容知ってんの?」
「残念だけど、それは知らないわ。私がなんでも知ってると思わないことね。入らないと決まった時点でこの部には興味ないし、調べもしなかったわ」

う~ん。困ったな。灰村ならこの手の情報は持ってると思ったんだけどな。
「仕方ない、まずは職員室にでも行って情報を集めるか」

俺達は職員室にやってくるとそこには磯川先生しかいなかった、他の先生は部活などで席を外しているらしい。
磯川先生いつもいるな。暇なんだろうか。
「おお、お前達か、どうだった生徒会の視察は?」
「今はその視察の最中ですよ」

俺は生徒会の柳さんからの依頼を受けた事を話した。

「と、言うわけで、帰宅部についてなんか知ってます?」
「知らん」
「はっ?」
「知らんよ。帰宅部についてなんて。そもそもそんな部活あったか?」
先生はそう言うと資料を持ってきて、パラパラとページを捲り始めた。
「う~ん、やっぱりねえな。そんな部活。存在してねえよ」
「じゃあ、あの掲示板のやつは・・」
「それを調べるのがお前らの活動だろ。頑張れよ」
先生は立ち上がりお茶を取りに行ってしまった。

俺と灰村は職員室を後にし廊下を歩いていきながら帰宅部について話し合った。
「そもそも、帰宅部の活動ってなんだと思う?」
灰村の質問に俺は答えた。
「帰宅部だし、さっさと帰る事じゃないかな」
「私もそう思う」
「さっさと帰る事が活動内容だったら現時点で帰宅部に入っている人は皆帰っている可能性があるな」
「そうね」
だとしたら話を聞く事も今日は出来ない。このままでは依頼失敗になるのか?
「部活を創るには申請しなければならない。それなのに先生は知らない。資料にも載ってない。本当に存在するのか帰宅部なんて」
「さあ」
「帰宅部に入部しようとした、灰村はどうやって入るつもりだったんだ?」
「調べる」
「どうやって?」
「企業秘密」
その方法を教えてくれれば解決出来そうなのに。
「まあ、ぶっちゃけ答え知ってるんだけど。私は誰かに答えてもらうほうが好きなのは知ってるでしょ?ヒントだけ言うわ」
やっぱり知ってやがったなこの女。中学の時より、情報集めのスピードが上がってない?
「毎年無くなっているのよこの部活。部員が卒業と共に無くしている。そして、次の年にまた出来る」
無くなっては、出来る部活か。
「卒後式にその正体を明かすのよ」
卒業式にか・・

俺達は再び掲示板の前にやってきた、俺は帰宅部の掲示物を眺める、そこには活動内容もないし、部員数もない、さっきと見た情報と同じく書かれている。

帰宅部、部活に入りたくない人が創った部活なのだろうか。しかし、それだとわざわざ無くしては創り直す必要は無い気がするし、部活に入りたくない人が創った可能性は低い・・だとすると。

「柳さんの所に戻ろう」

俺達は部室に戻り、柳さんに話すことにした。
「おかえりなさい。どうでした?帰宅部」
「柳さん。帰宅部は存在しないよ」
「それは知ってます。先生にも聞きました。では、あの掲示板は?」
俺はフッと一息入れ、柳さんに話す。正直正解か自信は無いが、今は柳さんを満足させればいい。
「帰宅部は毎年、出来ては、無くなってを繰り返している。先生の許可なく創った謎の部活。活動内容は、すぐに帰宅することで間違いない。だから放課後である、今の時間は帰宅部の部員はいない」
柳さんはじっと話を聞いている。
「そして、さらに、部員数だけど、現時点では、いないだろう」
「どうしてそう言い切れるんです?」
「まだ、時期じゃ無いからさ」
「時期?」
柳さんはなにを言っているのだろうかと言わんばかりに俺を見ている。
キリッとした目が更に鋭くなった気がする。
「全校生徒は必ず部活に入らなければならない。それがこの学校の校則であるけど、例外もある事は知っているかな?」
例外、それは【生徒会に入っている者は除外】だ。
生徒会は忙しい。生徒の中でトップ。
学校の代表。その生徒会はありとあらゆる事で活動をしている。それ故に、部活などをしている暇がないのだ。
当然その事は柳さんは知っている。彼女もどの部活にも所属していないのだから。
生徒会だけの特権。
「それがどうだと?まさか生徒会が帰宅部が創っていると言いたいんですか?」
「帰宅部は卒業式にその正体を明かす」
「じゃ卒業式にならないと正体はわからないと」
「そうだね。でも正直。帰宅部について調べる人っているのかな?俺の知っている限りじゃそこにいる灰村だけだ。だれも興味ない。しかし、生徒会は別だ。活動内容を調べるため視察をしなければならない」
俺は続ける。
「視察したくても、正体がわからない以上調べられない。どの学年が創ったかわからないから、誰も視察に行かない。視察は創った学年と同学年の生徒会が行うからね」
ここまでいって俺はさっさと答えを言うことにした。
「帰宅部が活動するのは、二学期。それはなぜか。生徒会の入れ替わりが起きてからだ。三年生である人が二学期からわざわざ部活に入る事はない。それならば、帰宅部でも創って遊んでみようと考えたんだろう。そうして、謎の部活は勝手に活動を行う。生徒会は視察が出来ない。生徒会の穴をついた部活になったわけだ。そして卒業式に新生徒会のメンバーの数人にでも伝え、生徒会の伝統にでもしたんだろう」
これが俺が導き出した答えだ。
柳さんは満足しただろうか。
「そうだったんですね・・私、どうやら余計な詮索をしてしまったみたいですね」
柳さんは少し悲しそうな顔をしてから
「これで視察は終わりです。探偵部の活動はとても面白いと思います。これからも頑張ってください」

おお、これは廃部にならずに済みそうだ。
「ただし」
柳さんはビシッと指を真っ直ぐ俺に向けると
「あなた達二人だけでこの部室にいるのは少々気掛かりです。定期的に見にきますから!」
それだけ言って、柳さんは去っていった。
「灰村、部員増やすか・・」
「私はどっちでもいいけど」

兎に角本日の活動を終え、俺達は帰る事にした。
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