名探偵になりたい高校生

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六話 一年一学期六

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ミステリー研究会との部室をかけた戦いは今の所一勝一敗である。
灰村が勝ち、俺が負けた。
勝負は全部で三回。次が最後の勝負となるわけだが、さて、お次は何の勝負だろうか?
「じゃあ、次で最後になるけど、これで勝った方がこの元音楽準備室を部室として使用できる事になる」
ミス研の部長のメガネくんが淡々と話す。司会進行は得意なのだろうか?
「最後の勝負は。大富豪だ」
「大富豪ってあのカードゲーム?」
「そう、それだ、このゲームは一対一ではなく二対二で勝負になる」
「そう、じゃあさっさと始めましょう。そろそろ部活の終わりの時間も近づいてきた事だし」
灰村はそう告げ、席に着くとその灰村を追う様な形で、ミス研の副部長の金田さんが席に着く。
「やっと、あなたと戦えるわね。ぶっ倒してやるんだから」
鼻息を荒くし、灰村を見る金田さん、余程灰村に勝ちたいらしい。
続いて俺も席に着く、こっちは俺と灰村、そっちは金田さんと・・
「さて、そろそろ僕の出番かな?」
ミス研のメガネ部長だ。
見た目は、長身でメガネ。いかにも優等生って感じの人だな。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は【遠山 誠実】(とおやま せいじ)一年一組だ。よろしく」
メガネ部長事、遠山くんはクイっとメガネを上げた後、席に着いた。その遠山くんに金田さんは、【いちいち、カッコつけんなよ】と肘で腹をこづいていた。
兎に角最終戦だ。
「ルールは、三回勝負して、ポイントの多い方が勝ちだ。大富豪が2点、富豪が1点、貧民が0点、大貧民が-1点になる。2と8とジョーカー上がりは禁止。Jバック、8切り、縛りはあり。都落ちもなしだ。いいかな?」
遠山くんの説明を俺と灰村は理解し、勝負は始まる、まずは一回戦。
ジョーカーは一枚のみとし、カードを配られる。それぞれが13枚程持ち、♠︎の3を持つものから時計回りで始まる。♠︎の3を持っていたのはどうやら灰村らしく、灰村は♠︎の3を出す。次は金田さんがカードを出す、最初は様子を伺っているらしく、遠山くんもそれほど大きなカードを出してこない。
俺のターンだ。
俺は手持ちのカードを眺める。強いカードは🖤のAが一枚あるだけで、他は数字の小さいカードが、何枚かまとめてあるくらいだ。現在、机にあるカードは、♣︎の6。さて、どうしたものか。
ここは8を出して、8切りをして、リセットしてから、弱いカードを2枚出すか?
悩む、けどここで、8を出すのは少し、勿体無いな、ここはJを出して、Jバックをするか。弱いカードしか無いし、それで次のターンで、4でも出すか。
俺は🖤のJカードを出し、Jバックをコールする。
さて、次は灰村だ。
灰村はパサっとカードを置く。
「はい、8切り」
灰村の8切りにより、机のカードは無くなり、最初からになる。カードをリセットさせた灰村のターンで始まる。
パサッ。
灰村は3枚のカードを場に出した。
そのカードを見て全員が動きを止める。
灰村の出したカードはKを3枚。
大富豪に置いて、ジョーカーを除けば三番目に強いカードになる。
そのカードを前に全員が当然パスをする。
そしてカードは切られ、また灰村のターン。
パサッ。
灰村はカードを2枚出す。Jのカード。
「Jバックね」
2枚出しで♣︎と♦︎Jバック。中々強いカードをお持ちですね灰村さん・・
金田さんのターン。
「くっ。私はこれよ」
金田さんは♣︎と♦︎7を出す。灰村が出したカードとガラが一緒の為、縛りとなる。縛りになれば、金田さんが出したカードより強いカードを持っていようが、ガラが同じでないと場に出す事は出来ない。遠山くんはカードを出せないのか、パスした。もちろんあえて出さないでいる可能性もあるが、カード2枚での縛りは中々厄介で、そうそう出せる人はいない。このまま金田さんまで、全員がパスをするのかな?
灰村のターン。
パサッ。
灰村はカードを出した。
♣︎と♦︎の4を。
「な!なんなのよあんた」
金田さんは灰村がパスをすると思っていたらしく、灰村がカードを出した瞬間一番驚いていた。
このまま灰村まで全員がパスをするだろう。そうなったらまた、灰村からになる。この場は今、完全に灰村が支配しているようなもんだ。
灰村ってこんなに強かったっけ?
「カード運が良かったのかしら。さて、また私の番ね。悪いけどこの一回戦は私が大富豪になるわ」
灰村はそう言うと、また2枚出した。
金田さんも負けじと2枚出すが、その後また灰村によって潰された。
そうして一回戦の大富豪は、灰村となり、打倒灰村に燃える金田さんが富豪。遠山くんと俺の醜い最下位争いの末、貧民が遠山くん、大貧民が俺となった。
ポイントは灰村2点、金田さん1点、遠山くん0点、俺-1点。チーム戦になる為、灰村の点数が1点引かれ、1対1となってしまった。
「まずいな、灰村、次が正念場だぞ」
「そおね。その前に貧民にくらいなれよ。そうすれば次で、ほぼ勝てたのに。あんた、私に奇跡的にオセロは勝てたのに、こう言った多人数で遊ぶゲームは弱いのね」
灰村の棘のある言葉が胸に刺さる。
確かに俺は今の所、何一つ勝っていない。
さっきのババ抜きで勝っていたら、もう俺たちの勝ちだったのに。すまない灰村。
「まあ、いいけど。最後に勝ちましょ」

2回戦。
大貧民である俺は、一番強いカードを2枚大富豪である灰村に渡す。灰村は俺に一番弱いカードを2枚渡す。
そう、この大富豪は一度負けると強いカードを強制的に失うわけで、次のゲームも負けやすくなり、成り上がりが中々難しいのだ。
都落ちがあれば少し楽なんだけどな・・

俺は灰村から貰ったカードを確認する。
灰村は俺に♠︎のKと♦︎の1を渡していた。
灰村、君はどんだけ強いカードを持っているんだ?
全員がカードを手に持ちゲームが開始される。今度は前回敗者だった俺からだ。
2回戦目からは♠︎の3が持っていようが持っていなかろうが関係ない。負けた奴からのスタートになる。
俺は手持ちのカードの中で最弱になる、♣︎の3を一枚出した。
続いて灰村の番。
こいつはまた、一気に勝ちを狙うのだろうか?
「チッ。パス」
はっ?パス?
3だぞ?あえて出さないのか、それとも一枚出しが出来ない?
てか、今舌打ちしなかった?
灰村がパスをすると、続いて金田さんの番になる。
金田さんは🖤の6を出す。縛りでも無い為、次の番の遠山くんは、カードが6より強ければ、好きなカード出すことができる。
遠山くんは♦︎の8を出す。
「ふふ、8切りだ」
嬉しそうにカードをリセットする。このまま遠山くんの番が続く。
「さあ、行くぞ。僕はこれを出す」
遠山くんはカードを2枚出す。
♦︎と🖤の3を出す。
遠山くんの出したカードを見ると、金田さんは『チッ』と舌打ちをした。金田さんは2枚出しが出来ない?今回カードが弱かったのか?
大富豪は確かに大貧民やら貧民になると勝つのが難しいが、最初に配られた時のカード全体が弱ければ、大富豪や、富豪は負ける事もある。どうやら、金田さんはカードが弱いと見た。
続いて俺の番。
2枚出されたカードに対し、俺の手持ちは何とか出せる状態だ。遠山くんが3を出してくれたおかげで、俺は♦︎と♠︎の6を出す。
灰村の番。灰村はさっきパスをした。恐らく、手持ちのカードが強すぎるか、2枚のカードしか出せない為だ。今度は2枚なら出せるだろう。
灰村は、♦︎と🖤の7を出す。
続いて金田さん。
「はい8切り」
金田さんによる、リセット。8を2枚も持っていたか。
3枚8が出た。残るは一枚。俺は持ってないし、灰村が持ってるか?
金田さんの番は続く。
「そーねぇ・・これかな」
パサッとカードを投げる。

黙々とカードを捨てているうちに俺たちの手持ちは少なくなってきていた。
現在俺が4枚、灰村が7枚、金田さんが6枚、遠山くんが2枚となっていた。
順番は金田さん。
「ふぅ、部長が残り2枚か・・そろそろいいかな」
金田さんはカードを2枚出す。
🖤と♠︎の10を。
金田さんここに来てそんなカードを持っていたのか。
遠山くんはパス。俺も出せない
「パスで」
灰村もパスをする。
カードは切られ、金田さんの攻撃は続く。
「さあ、行くわよ、部長。ここで私達が勝って、一気に差を広げましょ」
「お、おう。そうだな」
金田さんはカードを3枚だす。
ここに来て3枚出し。金田さん。この人は決してカードが弱くはなかった。
全員がパスをする。
そして金田さんの番が続く。
「私はこれで上がり。続いて部長が上がるから、私が大富豪で2点。部長が富豪で1点。あなた達どちらかが、-1点。合計で私達が、さっきの合わせて4点。あなた達は0点。これで勝ちは無くなったわ」
「いやいや、なんで金田さんは、次に遠山くんが勝つってわかってるわけ?」
「あんた、気が付いてないの?」
何がだ?灰村は何かに気が付いているのか?
「最初、部長が3なんて弱いカード2枚出した時は殺そうかと思ったけど、どうやら、灰村さん。あなたの彼氏もお馬鹿さんだったようね」
「そうね」
「どーゆー事?」
「これはチーム戦よ。私が富豪、部長が貧民。なら、当然弱いカードを渡すわけないじゃない。強いカード渡して、二人で勝つ。そうするに決まってるじゃない」
チ、チーム戦。そ、そうか。だから灰村は俺に強いカードをくれたのか。
俺は灰村の顔を確認する。
灰村はゴミを見る様な目で、俺を見ていた。
しかし、どうやら、そちらの部長も気が付いていないかったらしい。驚いていた。
「ええ!そうだったの!僕てっきり、金田はカード強くて余裕なのかと思ってた」
俺と遠山くんは同じ事を思っていたらしい。なんかこの人とは仲良くなれそうな気がしてきた。
「き、気がついていなかったのね」
金田さんは呆れながらも、カードを出す。
2回戦金田さんは大富豪になった。
金田さんのカードは強く、誰も出せなかった為自動的に遠山くんの番になる。
遠山くんは残り2枚。金田さんが勝ちを確信していたから強いカードなのだろう。
遠山くんの番。
「金田、だからこのカードくれたのか。さあ終わりにしよう。くらえ」
バンと叩きつける様に出されたカードはなんとジョーカーだ。
確かにこいつは強い。
俺は何も出せない。
「パス」
金田さんがニヤついている。この部室を手に入れるのがそんなに嬉しいか。いや、灰村だ。灰村に勝てるのが嬉しいんだ。すまない。灰村。俺が作戦に気が付いていたらこんな事には。
「金田さん。あなた本当に勝ちを確信してたの?」
「はぁ?なに言っ・・」
灰村はバンとカードを机に出す。
ジョーカー相手に勝てるカード。
♠︎の3だ。灰村はそれを隠し持っていた。
ジョーカーに唯一勝てるカード。
数字的には最弱だが、ジョーカーのみになら最強になれるカード。
そういえば、出てなかったな。
「なッ!」
灰村は机のカードを切ると反撃に出る。そうして2回戦は、またまた俺の活躍はなく、金田さんが大富豪、灰村が富豪、遠山くんが貧民、俺が大貧民となった。
2回戦が終わり、お互いの合計ポイントが俺達が1点。ミス研が3点となった。

3回戦。これで最後だ。
俺は金田さんから貰ったカードを確認する。灰村の時の様に強いカードはなく、🖤の3と♣︎の3だった。
最終戦開始。
俺からだ。
俺は♦︎と♣︎の6を出す。
2枚だし。少しでも数を減らし、心に余裕を持たねば。
灰村の番。
灰村はここで、一気に勝負を決めてきた。強いカードを出し続け、気がつけば、灰村はあっという間に大富豪となっていた。
「はい、これで2点もらい。後はあんたが勝つだけよ」
「くうう!なんなのよアイツ!イカサマしてんじゃないの」
金田さんは本当に悔しそうだ。
それにしても後は俺が勝つだけか・・
中々難しい事を言うなぁ。相手は二人だぞ。
「まあ、いいわ、次に私が勝って、あの彼氏くんを大貧民にすればどの道私達が勝つのよ」
だから、彼氏じゃねえって・・
金田さんの怒涛の攻撃は続く。
灰村がいなくなってから、俺と遠山くんはカードが出せていなかった。
くそ。このままじゃ。一度でいい、一度でいいから俺に順番が来れば。
金田さん残す所後4枚になっていた。
「ふう、後は普通に出していけばもう勝てるわね。てか、部長。全然カード出して無いじゃん」
「ああそりゃ、金田の攻撃に反撃出来ず仕舞いだからね」
「んもー。しょうがないなぁ。弱いカード出してあげるわよ」
金田さんは『ホレ』と場に♣︎の5を出した。
「それにしても、灰村さん。残念だったわね」
「なにが?」
「あなたの彼氏弱過ぎ。完全に足手まといじゃない」
「・・・・」
「あらあら、黙っちゃって」
灰村は俺の方を見た。
「大丈夫。信じてるよ。君が勝つって」
灰村の顔はいつもの目つきの悪い表情ではなく、たまに見せる笑顔とは違うなにか優しい表情だった。
俺は手持ちのカードを確認する。
大丈夫だ。勝てるはず。
遠山くんの番。
遠山くんは♣︎7を出す。
「縛りだ。さて、間宮くん。出せるかい。出せなければ俺たちの勝ちはほぼ決定だ」
俺は机の上に出されているカードを見つめ、フウと一息入れる。
「出せるよ」
俺は♣︎の8を出す。
「8切りだ」
机のカードを切り、俺の番は続く。
「反撃開始だ」
「たくさんカード残っているけどぉ。それでも私達二人に勝てるのかしら」
金田さんが挑発的に俺に言ってくる。正直ムカついたが、これで俺が勝てるのでまあいいや。
「金田さん。俺は今回の勝負で、ほぼ活躍していないし、完全に灰村の足を引っ張った」
「そおねぇ。自覚あるんだぁ」
「でも、最後に勝てればそれでいい」
俺は場にカードを出す。
3を4枚。
「なっ!」
「革命だよ。金田さん。君がくれた3のカードのおかげで俺は革命する事ができた」
革命。
大富豪における革命とは、カードの強さが逆になる事だ。革命前は2が強く3が弱い。革命すると逆になり、3が強く、2が弱くなる。
「今この段階で革命返しは起きないし、君達二人はそこそこ強いカードを持っている事がわかる。なぜなら、俺の現在の手持ちは本来だったら勝つことの出来ない程のカードしか無いからだ」
俺の手持ちは5、7がほとんどだ。強くて10。そんなカードの中に金田さんがくれた2枚の3は本当にありがたかった。
革命をした事で形成は完全に逆転し、富豪は俺、貧民は遠山くん、大貧民は金田さんになった。

勝負は終わり、結果として俺達が4点ミス研が2点となり、三回戦の大富豪対決は俺達探偵部が勝利した。
「全試合結果は2-1で私達の勝ち。さ、権利書を渡してちょうだい」
灰村が遠山くんでは無く、金田さんに手を出す。
「く、くっそー」
金田さんが灰村に権利書を渡そうとした時、扉が開いた。
「おーい、お前ら。とっくに部活終了時刻過ぎてるぞ。さっさと帰れ」
磯川先生だ。俺は時計を見ると時刻は午後六時半を過ぎていた。ゲームに夢中になって気が付かなかったが外も陽が落ちかけていた。
「ああ、先生ちょうど良かったです。この権利書・・」
「はい先生!これ、権利書、提出しますね」
磯川先生に笑顔で渡していたのはミス研の金田さんだった。
「え、ちょ、ちょっと金田さん。勝負は俺達が勝ったよね」
「ええ~勝負ぅ~。なんの事かな~?」
金田さんは別人の様になっていた。さっきまでの性格の悪い生徒はどこに?
「おう、確かに受け取った。んで、間宮達はどうすんだ」
「どうすんだって・・」
残すは学習校舎にある狭い倉庫しかないんだろ・・
「せんせぇ~。灰村さん達部室なくて困っているなら~。この部屋の隣の倉庫とかどうですぅ?」
「ん、ああ、そこね」
「そこは、現在倉庫として使用しているのでは?」
「ああ、灰村。そこは今週末に業者が入って整理される事になった。今日の会議で決まった事だからさすがの灰村も知らないだろう」
「そ、そうですか」
灰村に新たな情報が入った。
兎に角、俺的にはそこでもいいんだけど
「灰村。どう、そこでもいい?」
灰村はハァとため息を吐き、
『まぁいいわ』と応えた。
ミス研の隣が少し気に入らないとボヤいていたが、もう時間も遅い。俺達は帰る事にした。

学校を出ると。辺り一面は真っ暗で、所々に街灯が点灯している。
俺は横に立っている灰村に声をかけた。
「灰村。家まで、送るよ」
「・・そおね。お願いするわ」

灰村を家まで送り、自宅に着く頃、灰村から、
【送ってくれて。ありがとう】とメールが届いた。
俺は【どおいたしまして】とだけ返す。
スマホ閉じ、空を見る。
灰村・・
俺は考えることをやめ、眠る事にした。
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