名探偵になりたい高校生

なむむ

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五話 一年一学期五

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元音楽準備室。
壁紙が真っ白で二、三ミリの間隔を空けポツポツと小さな穴が空いている。
それが防音の効果を発揮しているらしく、俺はその防音の効果を確かめるべく、室内を出たり入ったりし、確認した。
外に出ると、中にいる灰村達の声は全く聴こえなかった。
「確かにここならいかがわしい事をしても声は漏れないな」
ラ部の人達はそれを知っていたんだろうか?今となっては答えはわからないけど、どうでもいいので俺は教室に再び入る。
室内に入った俺は改めて目の前にいる、ミス研の人達を見た。
ここで、今からこの部室を賭けて対決をする。
灰村が何やら発言しようとしたが、それを遮るように、メガネの男の後ろにいた、ミディアムヘアーの女子が発言した。
「ちょっと、部長!なに勝手に勝負引き受けてんのよ!こんな連中無視してサッサと権利書だすわよ」
「う、う~ん、しかし」
メガネの男は目の前にいる女子の圧に少し臆しそうになっている。
ミディアムヘアーの女子、見た目は中々可愛らしいが、気の強そうな女子だ。部長はそこの男だけど、発言力はそっちの女子の方がありそうだな。
「なにより、私は、この女がこの部に入る事が気に入らないわ!」
「入らないわよ。だからさっさとこの部室をよこしなさいって言ってんの」
「元々私達がこの場所、先にいたんだからあんた達が消えなさいよ」
「権利書を提出してないなら、先にいようが関係ないわよ。そんな事も知らないのかしら」
なんだ、この二人。仲悪いのか?
俺はさりげなくメガネの男に聞いてみた。
「ね、ねえ、灰村とそこの女子って。仲悪いの?」
「ああ、金田か。そうだな、仲はよくないかもな。金田は灰村さんの事が嫌いらしい」
ミディアムヘアーの女子、名前を【金田 明】(かねだ めい)と言うらしく、金田さんは灰村をミス研に誘ったがあっさり断られた事を根に持っているらしく、それ以来、灰村の事が嫌いになったと言う。
そうか、だから灰村は負けたらミス研に入ってやるとか言ってたのか。
「大体、あんたら部員二人じゃない!二人にこの部屋は広すぎるんじゃない」
確かに、それも言えてる。ここを部室にするなら後二人くらいは欲しいな。
金田さんは俺を見た後何かを勘違いしたのか、怪しく笑った後、
「あ~、そ~言うこと。灰村さん。あなたが必死になる理由わかっちゃった♪」
「なにかしら」
「そこの、顔が三十点くらいの男が噂のカ・レ・シね」
俺と灰村は付き合ってないのだが・・
それにしても失礼な、三十点だと。平均よりは少し上の顔面はしてると思うが。
「彼氏だって、三十点の男」
灰村は少しにやけながら俺を見る。
まず、お前は俺達の関係を否定しろ。
「その彼氏君と二人っきりでこの防音の部屋で、なにかしたいんだぁ~?」
「私達が勝負に負けて、ミス研に入っても、あなたが想像してる事は起きちゃうかもよ。そしたらミス研は終わりね。良い方法浮かんだわ。間宮くんミス研に入部しましょ」
「だからあんたは入部させないわよ」
「私が入部したら一気にあなたの立場弱くなるものね。全てにおいて」
「ふざけんなよ!このくそビッチ野郎!」
「そのセリフそのまま返すわよ。くそビッチさん」
今にも殴り合いを始めそうな雰囲気な空気だ。金田さんは完全にキレてるな。一方灰村は楽しんでる気がする。
「んで、結局、勝負はするのしないの?」
俺はこのままでは埒があかないと思って発言する。
「そ、そうだな。えっとどうしようか?」
「私に勝てないならそう言えば?金田さん。言ったら引き上げてあげる。ただあなたは敗北者のままこの部室を使いなよ」
「勝てないなんて言ってないでしょ!やるわよ!勝負よ!」
金田さんは完全に灰村に乗せられている気がするが。兎に角俺達は勝負をする事になった。
「勝負内容はこちらが決めるけど。いいかな?」
メガネの部長がそう言うと、灰村は別に構わないと応えた。
それにしても、勝負か。ミス研の事だからどうせ、この学校の謎を一つでも解いた方が勝ちとか言ってくんだろ。
そうなったらもう俺達の勝ちは決まりだ。なにせこっちには灰村がいる。
灰村にちょいと調べて貰えばすぐに勝つ。
さあ来い。
「勝負は全部で三回。先に二勝した方が勝ちだ。一回戦はパズルゲームだ」
はっ?パズル?
「ミス研らしくない勝負だね」
「それはそうだ。この学校の謎を解くなどの勝負をしてもそちらには灰村さんがいるからね」
ぐっ。灰村の事を既に知っていたか。これはまずいぞ。
「間宮くん、パズル得意でしょ。よろしく」
「待て待て、俺が得意なのジグソーパズルだけだから。落ちもののパズルゲームはそんなに得意じゃないぞ」
いつの間にかに用意されているテレビの前にゲームと一回戦の相手が既に席についている。
カチャカチャとゲームのコントローラーを触りながら、ウォーミングアップをしている。
「こっちは負けるわけにはいかないからな。一回戦はうちの部のゲーマーである、佐々木に任せた。こちらの有利の勝負でやらせてもらうよ。そちらが挑んできたんだ、文句は言えまい」
確かにこちらは挑む側、相手が有利の勝負を提示されても文句は言えない。
どうする、ここは俺が行くべきか。
「一回戦は佐々木くんか。いいわ、ここは私が行く」
「灰村、お前ゲームとかした事あるの?」
「無いわよ」
し、心配だ・・まあしかしここで灰村が負けても、次で勝てば良いことだ。
でも灰村頑張れ。
灰村は席に着く。
「あら?一回戦灰村さんが出るなら私が行けばよかった」
「金田。ゲームやった事ないでしょ。ここは佐々木に任せよう」
金田さんは灰村と戦いたかったのか、悔しそうにしていた。
そんなにやりたいならこれ終わったらやればいいよ。

ゲームが始まる前に灰村は佐々木君の方を見た。
「よろしくね。佐々木くん」
灰村は笑顔で、そしていつもよりちょいと声を高めにして佐々木君に話しかける。
「あ、ああ。よ、よろしく・・」
灰村の笑顔に少しだけ顔を赤くし、返事をした佐々木くんをみて、金田さんは若干イラついたのか、
「こら!佐々木負けたら許さないわよ!」と声を荒げながら佐々木くんに言った。
佐々木くんは『はいぃ!」と背筋をピシッと伸ばすが、灰村はそんなのお構い無しに佐々木くんに話し掛ける。
「佐々木くん、このゲーム上手いんだよね。大会とか出て優勝したりしてるんでしょ?凄いな~」
「え、ま、まあね」
「私ネットで、佐々木くんが大会で優勝したやつ見た事あるよ。佐々木くん、学校で見る時とは別人みたいだった」
中々ゲームを始めないなと俺と同じく思ったのかまたもや金田さんがヤジを入れる。
「ちょっとぉ!いつまでそうしてんのよぉ!早く始めなさい!」
灰村は金田さんの方をみると、『フッ』と笑ってから再び佐々木くんの方を見る。
「そう、いつもと違って、なんか・・かっこよかったよ・・佐々木くん。一生懸命で・・」
灰村の言葉に佐々木くんは動揺する。
「えええ!!あ、ありがとう」
佐々木くんはさっきよりも更に顔を赤くする。
「いい加減にしなさいよ!」
金田さんがそろそろ本気で怒りそうなので、二人はコントローラーを握り、試合を開始した。
落ちものパズルゲーム。
それは横に一列揃えたら、消え、消えた列の分だけ相手に送る事が出来、相手の画面をいっぱいにして、動けなくさせた方が勝ちのよくあるやつだ。
この勝負、普通にやったら当然灰村は負けるだろう。でも、灰村は試合前に既に勝負を決めていた。
恐らく、佐々木くんはあまり女友達はいないだろう、灰村はそこをついた。
灰村に睨まれたらヤンキーでも怯む程目付きが悪いが、その灰村がたまに見せる笑顔が普段の目付きの悪さを帳消しに出来る程の破壊力があるらしい。
その笑顔、【灰村スマイル】をまともに喰らった人は灰村が自分だけに見せてくれた特別の笑顔だと勘違いし恋をするのだとか。
灰村は勝てない相手との勝負で、灰村スマイルをよく使う。そしてそれを喰らった人は本来の力を出せずに負ける。灰村の事に夢中になってしまう為。
佐々木くんも例外ではなく、本来の力を出せていないようだ、つまらない操作ミスを連発している。
一方、灰村は、操作に慣れてきたのか、鮮やかな操作で、佐々木くんに勝利した。
「はい、一回戦は私達の勝ちね」
灰村は立ち上がり俺も元へ戻ってきた。
「ひ、卑怯よ!」
金田さんが抗議するが、灰村は別にルール違反をしたわけじゃない。佐々木くんの操作ミスによる敗北だ。
まぁ、若干汚ねえと思うけど・・勝ちは勝ちだ。
負けた佐々木くんもそんなに悔しそうにはしてないし、別にいいよね。それよりもこの後、佐々木くんは灰村に告白するんだろうなと俺は思った。
二回戦。
メガネ部長が勝負内容を発表する。
「二回戦は【ババ抜き】だ。一引きのね」
「一引き?」
俺は素直に質問する。
「そう、一対一でババ抜きをするだけに全てのトランプを使う必要は無いだろ?だから、片方はジョーカーともう一枚、もう片方は、一枚だけ持って勝負をする。ババ抜きの最後の所だけやるってわけさ」
なるほど、時短だね。
「更に、引くのは一度だけだ。ジョーカーを持っていない方が引き、ジョーカーを引かなければ勝ち、ジョーカーを引いたら負けだ」
「え、なんで?相手にもう一度ジョーカー引かせればいいじゃん」
「試合が長引くだろ。ジョーカーを引いたらシャッフル禁止」
シャッフル禁止ね。
ハズレを引いたらその手に持っている状態のままでいるわけだから、当然相手はどっちにジョーカーを持っているか知ってる事になるから、その時点で、勝敗は決まるわけか。
「よし、二回戦は俺が行こう」
ここで俺が勝てば探偵部の勝利だ。この部室は貰うぞ。
「はぁ~あ、本当は私がこれに出て灰村さんをぶっ倒そうと思ったんだけどな。相手があれじゃいいわ」
金田さん、俺をナメてるな。まぁいいけど・・
「じゃあ俺の相手はメガネ部長?」
「いや、ここは佐藤に行ってもらう」
「えっ、俺?」
自分が出るとは思ってなかったのか、佐藤と呼ばれた、男は俺に一言『よろしく』とだけ告げ席に着く。
「さて、どっちが引く方やる?」
俺は佐藤くんに聞いた。佐藤くんはやる気が無いのか、
「どっちでもいいけど、引くの面倒だから、君、引く方やってよ」
と気だるそうに言ってきた。
俺は一枚、佐藤くんは二枚のトランプを持ち、それぞれカードを見る。
俺は引くだけだし、そんなに見る必要は無い気はしているが。

さて、佐藤くんはどっちにジョーカーを持っているんだろうか?
右か、左か・・
色々考えたが、全然わかんねぇ・・
こんなのはっきり言って運だろ。
俺は灰村をチラッと見る、もしかしたらあいつなら答えを知ってるかも知れない。これはチーム戦だ。灰村なら答えを教えてくれるだろう。などと淡い期待をしてみたが、灰村は勝負にまるで興味が無いのか、スマホを見ていた。
あの女・・
よ、よしこうなったら。
俺は右のトランプを取ろうと手を伸ばす、が、ここで俺は佐藤くんの表情が一瞬ニヤッとした事に気が付き、手を止める。
「どおしたの?君、今、俺から見て左のトランプ取ろうとしたよね。早く取りなよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれる」
俺は腕を元の位置に戻し、状況を整理することにした。
探偵は常に冷静でなくては。

佐藤くんのニヤつき、あれは俺がジョーカーを取るからだったのか?それとも演技か?なら、逆の方に手を伸ばしたらどうなる?

俺は今度は先ほどとは逆の左のトランプに手を伸ばしてみる。
さぁどうだ。
佐藤くんの表情は変わった。それは少し悲しそうな顔だ。喜怒哀楽なら、間違いなく哀だ。
間違いない。俺から見て、右がジョーカー、左が当たりだ!
この勝負貰った。
俺は左のトランプを力の強く引く。
俺は引いたトランプを確認する、俺の勝ちだ。そして、部室は俺達探偵部の物だ!

しかし、俺が手にしたトランプは。ジョーカーだった・・
「・・・あれ?」
佐藤くんは立ち上がり、残念そうな顔で元のポジションに戻っていった。
「あんた表情出過ぎ。ま、それのお陰で勝てたけど」
表情出過ぎ・・
あれ?じゃあ最初彼がニヤってしてたのって。
「最初から素直に引いてたら、俺負けて、今日はもう帰れると思ったんだけどな」
な、なんだと。あいつ負けたかったのかよ。
「おいおい、佐藤。心臓に悪いよ。僕は負けたと思ったじゃないか。あんな悲しそうな表情するんだもの」
メガネ部長も俺と同じ事を思ってたらしく、佐藤くんが勝利した事に驚いてるようだ。
「いや、正直、部室なんてどこでもいいかなって。それよりも早く帰りたかった」
「まあ、これで、一勝一敗だな。次で最後だ」
俺はトボトボと灰村の方へ戻ると灰村は『ダッサ』と冷たく言ってきた。
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