名探偵になりたい高校生

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三話 一年一学期三

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 一週間で事件を一つ解決しろ。
 そお言われてから三日が経ったが、未だ事件らしい事件は起きていなかった。
 このまま何事もなく平和に一週間が過ぎたらそれこそ俺の探偵部創設の夢が消え、この学校生活に不満を残しながら過ごすハメになる。
「しかし、事件なんて起きないな」
 俺は机に突っ伏し頭を抱えている。
 今日は木曜日、今日と明日で何事も起きなかったらどうしよう。
「自分が入る部活決めた?」
 いじらしく俺に話しかけてくるこの声はわざわざ振り向く必要もない。
 灰村だ。
「探偵部」
「ないじゃない」
「創る」
「事件起きてないけど?」
 どおしてこの女はこんな性格が悪いんだろ。こういう時って普通慰めてくれたりするもんじゃない?
「慰めて欲しいの?この私に?」
「いや、結構。どうせなら他の女子に慰めて欲しい」
「きも」
 兎に角今は事件を待つしかない。本日に何か起こる事を祈る。

 一限が終わり、休み時間、クラスの友達と喋る者、次の授業の準備をする者、黒板に板書された文字をノートに写す者、様々な人がいる、
「次は、えっと美術か、今日は絵を描くって言ってたっけ。美術室の道具を使うから筆記用具は持っていく必要はないな」
 俺は椅子から立ち上がり、教室を出た。

 美術の時間はパートナーを見つけ、お互いの顔を描く。俺は絵を描くのが苦手だが、パートナーは灰村だし、まあいいか。
 美術の授業が終わり、灰村の似顔絵を灰村に見せ、『死ね』とだけ言われた俺は次の授業体育の為更衣室に向かった。

 絵は苦手なんだ・・。

 二限、三限、四限と立て続けに移動教室などの授業により、午前中を終えた俺は五限に入りようやく自分のクラスでの授業に戻った。
 俺は自分の机に突っ伏し、だらけているとガラガラと教室の扉が開く。
「よーし、授業開始するぞー。席付け~お前ら」
 五限の授業は、担任の磯川先生による国語の授業。俺に事件を解決してみろと言ってきた張本人だ。

 授業が始まり、先生が黒板に文字を書く。スラスラと俺達生徒はその文字を板書する。
 俺は文字をノートに書きながら、後二日足らずで事件が起きるのか不安になっていく。
 平和な学校で事件など早々起こるはずがない。
 俺の憧れていた世界はしょせんドラマの中でしか起こらないんだなと半ば諦め、ため息を吐きながら、黒板を見ていると、大きな悲鳴が聞こえてきた。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
 なんだ、なんだと全員が声の方を見る。
「おい、どおした?」
 磯川先生が悲鳴を上げた女子生徒の所に駆け寄ると、その女子生徒は顔を真っ青にしながら答えた。
「わ、私の、私の消しゴムが、今日初めて使うはずだった消しゴムが、使われているんです!!」
 はっ?消しゴム?
 そんなんで悲鳴上げたのか?
「誰よ!!誰が私の消しゴムを使ったのよ!?」
 彼女の怒号のよりクラスは一気にザワつき始めた。
 辺りをキョロキョロしたり、横の友達と話したりと。
「ああ!なんという事!ああ!なんという事!」
 消しゴム使われたぐらいで、こんなに騒ぐなよと俺は思っていた。何よりちょっとうぜぇ。
 俺が若干引いていると後ろから灰村が声を掛けてきた。
「これは、事件ね」
「はっ?事件?」
 なにを言ってんだこの女。使っていたの忘れてただけだろ。
「事件よ」
 灰村がそお言うと立ち上がり発言する。
「先生。これは。事件、ですよね?」
 灰村が磯川先生に伝えると、先生は何かに気付いたのか、俺の方をチラッと見た後、
「そうだな。確かにこれは、事件だな。解決しないとなぁ」
 ニヤつきながら俺を見る。
 事件。
 この一週間でなにか一つでも事件を解決してみろ。
 磯川先生は俺に言った。
 今まさに事件が起こっている。
 それを俺に解決してみろと言っているのか?
「犯人、捕まえたい?」
 灰村が悲鳴を上げた女子に問う
「そんなの当たり前じゃない!犯人は私の初めてを奪ったのよ」
「だってさ、間宮くん。これは依頼じゃない?彼女は被害者。助けてあげないの?」
 灰村は怪しく笑う。こいつ楽しんでるな・・
 こうして俺は事件を解決する事になった。
【ファーストタッチ強奪事件】を。

 まずは被害者である生徒。
 名前を【嗚呼 愛】(ああ あい)と言う。このクラスの出席番号一番だ。
「・・・えっと」
 俺は隣に立っている灰村に聞く。
「なあ、灰村、あの女子。嗚呼さんはどんな人なんだ。今の所、彼女が日本中どこへ行っても必ず出席番号が一番になる事しかわからんぞ」
 灰村はやれやれと言った感じで嗚呼さんの事を教えてくれた。
「彼女の名前は嗚呼 愛。それは知ってるね。彼女は出席番号が一番である事を誇りに思っている。だから彼女は必ず誰よりも早く行動をする。一番初めに行動するの」
「一番初めに」
「そ。彼女は一番初めに学校へくる。一番初めに教室へ来る。一番初めに移動する。誰よりも早く行動を起こし、その日の初めてをいつも勝ち取るの」
 灰村から情報を受け取ると、
 確かに言われてみれば、彼女は必ずその日初めての授業で手を上げているし、黒板にも初めに触る。
 その日は嗚呼さんで始まっている気がするな。
「つまり嗚呼さんは、初めに行動する事で幸福感を得ているわけか」
「だから、彼女は自分が今日、初めて使う消しゴムが何者かに使用されていたことに腹を立てているわけ」
 俺は嗚呼さんに質問をしてみることにした。
「嗚呼さん、その消しゴムは一限の時には使ってないの?」
「使ってないわよ!なんなのあんた!私を疑ってるわけ?ああ!!」
 怒られてしまった・・あの人怖い。
「消しゴムは新品?」
「そうよ!!」
 言葉が荒い、相当怒ってんな。
「五限まで使ってなく、ずっと筆箱の中に閉まってあった・・か」
「ちなみに嗚呼さんは消しゴムを必ず左の角から使っていくわ」
「そんなのよく知ってんな。てかひっくり返したら右も左もわからんだろ」
「そのミスをしないよう彼女は必ずマーキングを入れる。でもその消しゴムは入っていない。誰かが使ったのは明白よ」
 クラスから「おお!!」と歓声が上がる。灰村よ事件解決は俺の仕事の筈じゃ・・
「犯人はいつ使ったのかしらね」
「そりゃ・・・」
 今日は移動教室による授業が多い。美術に体育、そして音楽とどれも筆箱を必要としない授業ばかりだ。
「一限が終わると嗚呼さんはすぐに移動していた。つまりその間筆箱は隙だらけだった。私達が移動教室で離れてた時に他のクラスの生徒による犯行も可能ってわけ」
「確かにそれは可能だけど、今回は間違いなくクラスの中に犯人はいるよ」
「どおして?」
 クラスの生徒達が全員俺をみる。
 やべぇ、楽しい。
「他のクラスの人がわざわざ嗚呼さんの消しゴムを使う必要はない。使ってどうする?なにを消す?嗚呼さん。何か消された後はあったかい?」
 嗚呼さんは自分のノートを確認すると首を横に振り、異常がない事を俺に教えてくれた。
「嗚呼さんの机に消しゴムのカスが残っていれば直ぐに嗚呼さんは気がついていたと思う。一度も使っていないのに消しゴムのカスが机に上にあったら変だってね」
 俺も一応嗚呼さんの了解を経て机を調べさせてもらったがやはり、嗚呼さんの机で消しゴムは使われていない。
「だからってなんでこのクラスの中に犯人がいると思ったわけ?」
「いたずらだ」
「はっ?」
「嗚呼さんにいたずらをしたかった」
 クラスがざわつく。
「嗚呼さんがその日の初めてを勝ち取る事に全力を注いでいることを知っているのはこのクラス以外でいるか?」
「今のところいないわね。クラスでも数人しかいないわよ」
「犯人はその数人の中にいる」
 クラスがさらにザワつき、辺りをキョロキョロとする。
 犯人はこのクラスにいる。
「灰村その数人ってだれ?」
「全部で、四人。一人目は私、二人目は嗚呼さんの友達の【海東 恵子】(かいとう よしこ)さん、三人目は、席が後ろの、【藍 照】(あい てる)君そして最後、【真田 神】(さなだ しん)君。藍君以外は嗚呼さんと同中ね」
 容疑者は全部で四人か、
 灰村。お前が犯人でない事を祈るよ。
「愛!私じゃないからね!」
 訴えたのは嗚呼さんの友達の海東さん。
 友達が犯人なんてよくあるけど、今回はどうだろうか。
「僕も違うよ」
 真田君も叫ぶ。そして当然。
「俺も違う」
 藍君も言う。
 でも、この中に確実に犯人がいる。俺の中の探偵魂がそう言っている。
「んで、間宮くん。この四人の中で誰が犯人なの?」
「お前は自分も容疑者として入れるんだな」
 しかし、灰村は犯人ではない。灰村が犯人だったらもっと上手くやるだろう。
「犯人は恐らく、一限の休み時間に犯行を行った」
 じっくり、事件を整理し、犯人を見つける。まさに探偵だ。
 俺は推理パートに入り、犯人を見つけようとしたが、ここまでずっと黙っていた磯川先生が口を開いた。
「わりぃ、間宮。今、一応授業中なんだわ。犯人わかってんなら、手短に」
 俺がこれから説明に入り犯人をビシッと言い当てようと思っていたのに・・
 まぁ、今授業中だしね・・
 さっさと解決しよう。犯人はわかっている。
「んん。じゃ、じゃあ犯人いうね」
 さっきまでざわついていたクラスがシンと静まり、俺を見る。
「犯人は。藍 照君。君だ」
 ビシッと藍君に人差し指を向ける。
 くうう。気持ちいいいい。
「は、はあ!?ふざけんなよ」
「ふざけてないよ。君が犯人だ」
「て、てめ。証拠あんのかよ」
 俺は灰村の方をみて尋ねた。
「灰村、今日の二限。最後に美術室にきたのは?」
「藍君」
「それだけで、俺が犯人かよ」
「灰村。昨日の音楽。二番目に来たのは?」
「藍君」
「ニ日前。家庭科室に二番目は?」
「藍君」
「ここニ日間。二番目に教室に入ったのは?」
「藍君ね」
 俺は藍君をみる。
「最初のニ日間は君は行動が早かった。でも、今日の君は、朝も遅刻ギリギリ、移動教室も最後にやってくる。この変化はなんだい?」
 藍君は眉間にシワをよせながら俺を睨む。怒っているんだろうな。
「そんなのたまたまだろうが。てか、なんで俺が二番目か覚えてんだよ。灰村さんは!?」
 それは、灰村の特技だ。
 灰村は、情報をたくさん持っている。彼女はすぐに調べる。人も学校の闇も。そして忘れない。灰村は絶対記憶の持ち主だ。一度覚えたことは決して忘れない。だから、嗚呼さんの事も知っているし、順番も知っている。どこからか調べてきて。灰村は忘れない。忘れたい事も忘れることができない。
 この事件灰村がその気になれば一人で解決出来ただろう。でも灰村はそれをしない。誰かが答えを見つけるのが好きだから。
「藍君。私は記憶力がいい方なの。だから覚えているの。決して君に興味があるとかじゃないから。あとで告ってこないでね」
 灰村の一言にショックを受けたのか、膝から崩れ落ちた藍君に俺はとどめの一撃を放つ。
「証拠もある。君は今日の一限の休み時間、ノートを取っていたね。その時に嗚呼さんの消しゴムを使ったんじゃないかな?」
「つ、使ってねえよ。俺の筆箱みろ。今日は一回も消しゴムは使ってねえ」
「君の消しゴムはね。でも床の消しゴムのカスはどう説明する?そして、ノートをみれば君のノートに消した後がのこっているはずだよ」
「く、くそおおおおおおおお!!」
 藍君は犯行を認めた。
 理由は。これまで出席番号がずっと一番だった彼は、高校に入りその地位を嗚呼さんによって奪われたのだ。
 嗚呼さんが何事も初めてに行動することが好きだと言うことを知った彼は、嗚呼さんより早く行動をして、その地位を奪ってやろうとしたが、嗚呼さんには何をしても敵わなかった。そして事件があった日。彼は嗚呼さんの筆箱にあった新品の消しゴムを発見し、使用した。
「返してよ!私の初めて!初めて奪われたの初めてなのに!」
 初めて、初めてと連呼する嗚呼さんに若干のウザさを感じながらも無事に事件は解決した。
 後になって灰村に聞いたところ嗚呼さんは藍君の初めてを奪ったとのことらしい。その二日後に藍君に告白されるが嗚呼さんは『二度目はいいわ』といってフったようだ。
 嗚呼さんは誰かの初めてを奪ったことで新たな悦びを見つけ、初めてを奪う女、【初狩りの嗚呼】と呼ばれるようになった。
 兎に角、俺は事件を解決した。改めて新設書を持ち、磯川先生に渡すと、受理され探偵部は出来た。そして俺の高校生探偵としての一歩が始まった。
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