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(46)止まない拍手

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僕は16人を追い越し1位になる。

しかし、その瞬間歓声などはない。


僕たちが走っている500mは競技場の外であるため、スタート位置でもありゴール地点でもある場所にはみんないるが、その他の場所にはいない。


けれども、それぞれ100m間隔に先生が立っている。


残り約300m地点、16人を抜かし1位になったはずだが、
 

「やっぱりな…」


この練習では、32チームのレースであるため、一周につき走っている人数は32人である。しかし10番目に走る組は違う、要は9番目に走る人が16位で帰ってたチームの10番目に走る人と一緒にスタートすることになっている。

そして、要はこの10本目、16位から15人を抜かし1番先頭で走っていた。

だから僕は、このチームでの練習においての順位は1位だけど、個人として見れば2位という順位にいた。

「追いかけてやるよ…」

僕はもう一段階スピードを上げて要との距離を詰める。

手には2kgの大きなボール、足は500mを10本目。

疲労の大きさは走りを見れば分かる。

100m間隔に立っている先生方も応援の声をかけてくれる。

要も楽に走っていないのを後ろから見て分かる。

一歩一歩、気持ちで動かしている。

走る姿勢は左右に大きく揺れ、息は荒い。


残り200m地点。

「太陽!!その位置でゴールしてもお前は負けだぞ!」

「全力を出せ!!」

立っていた遠藤先生が僕に叫ぶ。

僕は一度目をつぶって深呼吸をし、足の回転を上げる。



タッタッタッタッタッタッタッタ




タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタ


コンクリートと足の接地音が要を不安にする。


「うぉぉーーーー!!」

要ももう一踏ん張りと声を上げる。


もうこの時には僕は要の隣で走っていた。


残り約100m地点。

要はその瞬間もう一段階スピードを上げた。

「くっそ……温存してたのかよぉぉーーー!!」
僕は声を上げながら要の背後につく。

「ファイトーー!」
ゴールが見えた時。
色んな人が僕を見ていた。
そして応援していた。



そして僕の視界はやがて一点に集中する。



「ふぅ……」



僕は力強く地面を蹴り、要の前に出る。




ガンッ!!ゴロゴロ…


その鈍い音を聞いて僕は走りながら後ろを向いた。


要は地面に倒れ、2kgのボールは転がっていた。


「大丈夫か…」

       「あいつ血が出てるぞ。」

「おいおい…」
           「要!」

ゴールにいる選手は皆どうしたらいいか分からずただその場で立っていた。

「何してるんだ!」
ゴールにいる選手が1人そう言った時。



僕は手に持っている2kgのボールを投げ捨て、10mほど戻って要を背負った。

「すみません…」
僕の背中で要が言った。

「ずいぶん重いボールに変わっちゃったな笑」

僕はそう言って


そして残り約50mほどを色んな声援を受けながら走った。



「カッコいいぞ!」

    「それでこそ陸上競技者だ!」

「太陽ラスト!!」

     「ファイトーーー!!」




ゴールした瞬間、拍手と共に色んな人が僕に肩を貸してくれた。




右京先輩も拍手しながら僕を見ていた。




まだ練習は終わらない…



この大きく音を立てる拍手のように。



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