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(43)互いを認め、高め合う
しおりを挟む蘭との武道場での日から何日か経ち、いよいよ冬休みに入ろうとしていた。
蘭とはあれからも、武道場で手を合わせるようになった。
しかし、蘭個人のことはあまり知らないままだった。
もちろん、陸上競技部の朝練にも参加している。
右京先輩から、要が目を覚ましたと連絡をもらったが、団が僕に接触したあの日の夜に右京先輩に団が要を襲った正体だと話した。
そのため、わざわざ要に何かを聞きに行く理由がなくなり、会いたい気持ちを抑えながらも僕は今日も朝練に来ていた。
今日の朝練は個々でアップをしてすぐに200mを10本というメニューだった。
そして1本目、3本目、5本目、7本目、9本目については3キロの大きなボールを抱えて走る。
初めの頃の朝練はすぐに足が疲れてしまい、僕は周りの人に追いつくのがやっとだった。
でも今ではスタートする時僕は1番前にいて、先頭を走ることが多くなった。
チーム内の練習ではそれぞれの足の速さを把握しているため足が速い人ほどスタート位置では前に並ぶことが多い。
だから僕の足の速さを周りのチームメイトが認めてくれている証拠でもあった。
「太陽、ちょっと来い。」
遠藤先生が言う。
僕は遠藤先生の方に小走りで向かう。
「太陽、もし体力面や身体面で辛くなった時は無理して先頭でみんなを引っ張らなくてもいいんだぞ?」
遠藤先生が言う。
「はい…分かりました。」
僕はそう答え、7本目を走るために3キロの大きなボールを持ち上げた。
正直、僕はみんなを引っ張るということを考えて走っていなかったため遠藤先生が言っていることが理解できていなかった。
そして8本目に入る時、僕は呼吸が荒かった。
「太陽、俺が前で引っ張る。」
僕の後ろにいた先輩が言う。
「あ!ありがとうございます!」
僕は笑顔で答え、後ろの方に並んだ。
「さぁ!ついてこいよ!」
「8本目行きまーす!」
先頭でスタートラインに着いた先輩がそう言って走り出す。
その後、
「次は俺が前で引っ張ります!」
涼介がそう言って9本目を走り終えた。
そして10本目。
10本目は最大の質力で走るため、先程までとは走る速さが違う。
「ありがとうございます。」
僕はそう言って前に歩き、
「10本目行きます!」
スタートライン先頭に出て、そう言った。
僕はスタートから全力で足を回す。
後ろの足音は少しずつ小さく、少なくなっていく。
しかし残り60m、後ろの足音は少しずつ大きく、多くなる。
そして僕、涼介、太晟を含めた6名が先頭でゴールした。
「はぁはぁはぁはぁ…」
僕は地面に倒れ、空を見る。
他のチームメイトも地面に膝をついたり、お尻を押さえながら苦しそうにしていたり、僕と同じように地面に背をつけて空を見ていた。
でも何だかこの時間が楽しかった。
「太陽、引っ張るっていうのはこういうことだ。」
僕に向かって歩いてきた8本目を先頭で走った先輩が言う。
「練習は辛い、だからみんなで乗り越える。太陽が先頭で走ってる時、辛くても俺たちは足を動かせる。」
「だから太陽が辛くなった時は、他の誰かが動かす。それが先頭で引っ張るっていう意味だ。」
続けて先輩が言った。
そういうことだったのか…
僕は心の中で理解して、
「ありがとうございます!」
僕は笑顔でそう返した。
なんだか少し、本当の意味でのチームメイトになれた気がした。
それからまた何日か経った頃。
ついに冬休みに入り、
冬合宿が始まった。
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