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(3)周りに支配された身体

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あれは、約2年前の夏に入る頃。

「太陽、お前も陸上競技部に入部しよう!別にお試しでもいい、だから入部してみないか?」

そう涼介が言ったのは、昨日の20時頃の出来事のせいだろう。

昨日の20時頃、僕と涼介はいつも通り公園に集まり、走る練習をした。
その日、涼介は「100m、勝負しない?」と提案してきた。
今までそんな事は無かったし、後にも先にもその日だけの出来事だった。

結果は当然涼介の勝ちだったが、内容は接戦で、僕と涼介のタイムの差は約0.2秒ほどだった。

「やっぱりな…」そう涼介は言い、続けて話した。

「俺は陸上競技部だから勝つのは当たり前だ。けどな、太陽。気づいてるだろ、100m走で俺との差は0.2秒…もし50mだったら珍しい話ではない。でも100mの距離で陸上競技部の俺と0.2秒差は普通じゃない」

「陸上競技部に入部する気持ちはないか?」

いきなりそんなことを言われ、僕は黙り込んでしまった。

「今日は帰ろう」涼介の言葉に続いて、公園を後にした。

昨日の夜、涼介に言われたことを考えていた。涼介の言いたいことは分かっていた、でも今まで陸上競技部に入部するだなんて考えたことなかった。
でも…正直に嬉しかったため、
「また誘われたら、入部してみよう」
そう心に決めていた。

だから僕は「分かった、入ってみるよ陸上競技部」そう涼介に言い、当時中学2年生だった僕は放課後、陸上競技部の練習に参加させてもらう事にした。
それを聞いた、颯、豪、健太も嬉しそうにしていたのをよく覚えている。

中学の陸上競技部の練習となると、大体が長くても200mの練習だったため、毎日20時に涼介と練習していた僕にとってはそこまで練習メニューは辛くは感じず、すぐにチームの雰囲気にも慣れることができた。
それは4人のおかげであり、練習で4人と競うのはとても楽しかった。

それから2ヶ月後、初めて夏の中学陸上競技大会で100mの種目に出場することになった。

そして当日。
「太陽、調子はどう?」
いつものように笑顔で涼介はそう聞いてきた。
「緊張はしてないな、楽しんで走るよ笑」
僕はそう言って100mのスタートラインに向かった。

しかし、100mのスタートライン付近での準備中、すぐに自分の異変に気づいた…

さっきまでは緊張感など感じてなかったのに…突然身体が震え出し、息が荒くなっていた。

今まで味わった事のないこの気持ちの悪い感覚に、僕はあっという間に支配されてしまった…。

どうにか、できる範囲で身体を動かし、緊張をほぐそうとするが、スタートラインに立つように大会運営の係の人に呼ばれてしまい、僕が走る組がアナウンスされ始めた。

On Your Marks(オン・ユア・マークス)目の前はぼやけ、息が荒いまま僕は礼をし、スタートブロックに足を乗せた。

Set(セット)
涼介に言われた通り窮屈な体制を作り、お尻を上にあげた。

でも……

走る前のワクワク感や、勝つ気持ちを持った余裕な僕はどこにもいなかった。

バン!!
大きな音と同時に前傾姿勢でスタートを切った。

「よし、練習通りだ」そう思い、初速はよかった…

しかし、足が思うように動いたのは最初の50mまでだった…

50mを通過した時には足には力が上手く入らず、腕は重い。
まるで自分の身体じゃない…
100mってこんなに長かったっけ…

結局僕は自分の走りが出来なかった。

僕は甘かった、練習の時と大会とでは、全くの別人の身体の動き、足の速さだった。横に並んでいた他校の選手の背中は遠く感じ、その差は縮まらない…

その日から僕は自信を無くし、大会で走った時の感覚の全てが身体に染み付いて離れなくなった。

「太陽………お前、お疲れ様」
涼介は泣き崩れる僕の背中を見ながら、そう声を何度もかけてくれていた。

僕の速さを認めてくれた涼介には、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

最後に涼介は「俺も、そうだった」とだけ言って、僕に肩を貸してくれた。

涼介が最後に言った「俺も、そうだった」この言葉の意味が僕には理解できなかったが、今更聞こうとは思わない。


この出来事こそが、一生忘れることのない感覚。悔しさだった。
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